馮延巳鵲踏枝詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　fengyansi

　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 馮延巳

鵲踏枝

誰道閑情抛擲久，
毎到春來，
愁悵還依舊。
日日花前常病酒，
不辭鏡裡朱顏痩。

河畔青蕪堤上柳，
爲問新愁，
何事年年有？
獨立小樓風滿袖，
平林新月人歸後。

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鵲踏枝
　　　　　　　　　　　　　　　　　

誰か　道（い）ふ　　閑情　抛擲して久しと，
春來　　到る毎（ごと）に，
愁悵　　還ほ　舊に依る。
日日　　花前に　常に病酒し，
辭せず　　鏡裡に　朱顏の痩するを。

河畔の青蕪　　堤上の柳，
爲に　問はん　　新愁の，
何事ぞ　　年年有るは？
獨り　小樓に　立てば　　風　袖に滿ち，
平林の新月は　　人　歸りし後。

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◎　私感註釈

※鵲踏枝：詞牌の一。詞の形式名。蝶戀花

などともいう。

※誰道閑情抛擲久：いったい、誰が言ったのか、物思いに耽る心を投げ捨ててから久しいと。　*ここの読み下し「誰か道ふ閑情抛擲して久しと」なのか「誰か道ふ閑情抛擲して久しきと」なのか。①前に「道ふ」があるので、文末は「…と」とした。 ②「誰か」があるので、連体形が後に来るため「久しき」。①と②の双方を生かせば、後者の「誰か道ふ閑情抛擲して久しきと」になるが、「…久しきと」の表現には抵抗感がある。そのため「誰か道ふ閑情抛擲して久しと」とした。　・誰道：誰が言ったのか。　・閑情：物思いに耽る心。余情。春情。　・抛擲：投げ捨てる。　・久：ひさしい。時間が経過している。

※毎到春來：春が来るたびに。　・毎到：…になるたびに。…が来るたびに。

※愁悵還依舊：（春が訪れるたびにわたしの胸に湧き上がってくる）憂れうる気持ちは、まだなおも、昔のままである。　・愁悵：悲しみと憂い。　・還：なお。まだなお。　・依舊：昔のまま。

※日日花前常病酒：毎日、花を前にして、ずっと深酒をして（憂いを消して）いる。　・日日：日ごと。毎日。　・花前：花の前で。美しい春の情景を目の前にして。　・常：ずっと。つづけて。つねに。　・病酒：酒浸りになる。深酒をする。悪酔いする。

※不辭鏡裡朱顏痩：鏡に映る若々しかった容貌が、痩せ衰えていくこともかまわない。　・不辭：避けようとしない。かまわない。　・鏡裡：鏡に映る。鏡の中で。鏡に映る容貌では。　・朱顏：若々しい顔。　・痩：痩せ衰える。

※河畔青蕪堤上柳：河畔の青い草（よ、）堤の上のヤナギ（よ）。　・青蕪：青い草。

※爲問新愁：おたずねするが、新たな愁い（は）。

※何事年年有：どうしたことだ、（春愁は）無くなることもなく、毎年、有り続けるのは。　・何事：どうしたことだ。　・年年：毎年。

※獨立小樓風滿袖：独りで小さなたかどのに上ってたたずんでいると、（春）風がそでに入り込んで来た。　・獨立：独りでたたずむ。　・風滿袖：風がそでにたくさん入ってくる。

※平林新月人歸後：林の茂みの上に三日月が昇ったのは、人々が帰っていった後になってからだ。李白の『菩薩蠻』（平林漠漠煙如織）

に似た表現がある。　・新月：ここでは､三日月のこと。南唐後主・李煜の『虞美人』「風回小院庭蕪綠，柳眼春相續。憑闌半日獨無言，依舊竹聲新月　似當年。　　　笙歌未散尊罍在，池面冰初解。燭明香暗畫樓深，滿鬢淸霜殘雪　思難任。」