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走馬川行奉送出師西征 | |
岑參 |
君不見走馬川行雪海邊,
平沙莽莽黄入天。
輪臺九月風夜吼,
一川碎石大如斗,
隨風滿地石亂走。
匈奴草黄馬正肥,
金山西見煙塵飛,
漢家大將西出師。
將軍金甲夜不脱,
半夜軍行戈相撥,
風頭如刀面如割。
馬毛帶雪汗氣蒸,
五花連錢旋作冰,
幕中草檄硯水凝。
虜騎聞之應膽懾,
料知短兵不敢接,
車師西門佇獻捷。
******
走馬川行 出師の西征を送り奉る
君見ずや 走馬川行 雪海の邊,
平沙 莽莽として 黄天に入る。
輪臺 九月 風 夜に吼え,
一川の碎石 大なること 斗の如く,
風に隨ひて 滿地 石亂れ走る。
匈奴 草 黄にして 馬 正に肥え,
金山 西に見る 煙塵の飛ぶを,
漢家の大將 西のかた師を出だす。
將軍金甲 夜も脱がず,
半夜 軍行して 戈相撥ね,
風頭は刀の如く 面は割かるるが如し。
馬毛 雪を帶びて 汗氣 蒸し,
五花連錢 旋ち冰と作り,
幕中 檄を草すれば 硯水 凝る。
虜騎 之を聞かば 應に 膽懾るべく,
料り知る 短兵は 敢ては接せざるを,
車師 西門に 捷を 獻ずるを佇つ。
****************
◎ 私感註釈
※岑參:〔しんじん;Cen2Shen1〕盛唐の詩人。開元三年(715年)~大暦五年(770年)南陽の人。安西節度使に仕え、当時、西の地の涯までいった。ために、辺塞詩をよくする。蛇足になるが、岑參の「參」字の音は〔さん;can1〕〔しん;cen1〕〔じん;shen1〕とあるが、彼の名は〔じん;shen1〕。(『中国大百科全書・中国文学 Ⅰ』(中国大百科全書出版)。
※走馬川行奉送出師西征:「走馬川・行」と見る場合、走馬川という川の名で、輪台の西を流れる瑪納斯河(古・白楊河)に由来し、「走馬川に(封常淸が)軍勢を発するのをお見送りする歌」。「行」は「歌」の意であり「出征」の意のかけことば。或いは、「馬を走らせて平原に出征し、西方異民族の退治に行かれるのをお見送りする歌」の意。この詩作の前後に『輪臺歌奉送封大夫出師西征』や『北庭西郊候封大夫受降回軍獻上』があるので、この詩題の意も『走馬川行奉送(封大夫=封常淸)出師西征』ともする。この作品は、奇数句(十七句)構成。比較的少ない例だが、押韻の韻式を見れば「AAbbbCCCdddEEEfff」で、三句一解となっており、句読点も押韻の解に従った。
※君不見走馬川行雪海邊:あなたは 御覧になったことでしょう、馬を走らせて原野を行き 雪海の辺(あたり)の様子を。または、あなたは 御覧になったことでしょう、走馬川を行った、雪海の辺(あたり)の様子を。 ・君不見:あなた、ご覧なさい。詩をみている人(聞いている人)に対する呼びかけ。強調すべき節につける。樂府体に使われる。唐・高適の『燕歌行』「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重橫行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉羽書飛瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」や、李白に『將進酒』「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復迴。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金樽空對月。」
や、顧況「君不見古來燒水銀,變作北
山上塵。藕絲挂身在虚空,欲落不落愁殺人。」や、杜甫の『兵車行』「君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」
、我が国では高杉晋作が『囚中作』「君不見死爲忠魂菅相公,靈魂尚存天拜峰。又不見懷石投流楚屈平,至今人悲汨羅江。自古讒間害忠節,忠臣思君不懷躬。我亦貶謫幽囚士,思起二公涙沾胸。休恨空爲讒間死,自有後世議論公。」
。「君不聞」では、岑参の『胡笳歌送顏真卿使赴河隴』「君不聞胡笳聲最悲,紫髯綠眼胡人吹。吹之一曲猶未了,愁殺樓蘭征戍兒。」
、白居易『新豐折臂翁』「君不聞開元宰相宋開府,不賞邊功防黷武。又不聞天寶宰相楊國忠,欲求恩幸立邊功。邊功未立生人怨,請問新豐折臂翁。」
などがある。詠われている。使用法は、七言が主となる詩では「君不見□□□□□□□」とする場合が多いものの、「君不見…」の後(青字部分)は必ずしも一定でない。 ・走馬:走馬川という川の名。輪台の西を流れる瑪納斯(マナス)河(古・白楊河)のこと(柴劍虹『岑參邊塞詩地名考辨』(『岑參集校注』陳鐵民・侯忠義校注 上海古籍出版社2004年上海 178ページ参照))。また、馬を走らせる。後者の例として、王翰の『古長城吟』(『飮馬長城窟行』)「長安少年無遠圖,一生惟羨執金吾。麒麟前殿拜天子,走馬西撃長城胡。胡沙獵獵吹人面,漢虜相逢不相見。遙聞撃鼓動地來,傳道單于夜猶戰。此時顧恩寧顧身,爲君一行摧萬人。壯士揮戈回白日,單于濺血染朱輪。歸來飲馬長城窟,長城道傍多白骨。問之耆老何代人,云事秦王築城卒。黄昏塞北無人煙,鬼哭啾啾聲沸天。無罪見誅功不賞,孤魂落魄此城邊。當昔秦王按劍起,諸侯膝行不敢視。富國強兵二十年,築怨興徭九千里。秦王築城何太愚,天實亡秦非北胡。一朝禍起蕭墻内,渭水咸陽不復都。」
や、王維の『送韋評事』「欲逐將軍取右賢,沙場走馬向居延。遙知漢使蕭關外,愁見孤城落日邊。」や、王昌齢『少年行』「走馬遠相尋,西樓下夕陰。結交期一劍,留意贈千金。高閣歌聲遠,重門柳色深。夜闌須盡飲,莫負百年心。」や、岑參の『碩中作』「走馬西來欲到天,辭家見月兩囘圓。今夜不知何處宿,平沙萬里絶人烟。」
がある。 ・川行:平原を行く。 ・川:平原。平野。必ずしも川が流れているところとは限らない。平川広野。川原(せんげん)。川は、詞では、平原、曠野の意で、取り立てて川を指さない。また、(川が流れている)平原。平野の意の用例に唐・王維の『臨高臺送黎拾遺』「相送臨高臺,川原杳何極。日暮飛鳥還,行人去不息。」
や杜甫『秦州雜詩二十首』其三「鼓角縁邊郡,川原欲夜時。秋聽殷地發,風散入雲悲。抱葉寒蝉靜,歸來獨鳥遲。萬方聲一概,吾道竟何之。」
や、南宋・張孝祥の『六州歌頭』「長淮望斷,關塞莽然平。征塵暗,霜風勁,悄邊聲。黯銷凝。追想當年事,殆天數,非人力。洙泗上,絃歌地,亦羶腥。隔水氈鄕,落日牛羊下,區脱縱橫。看名王宵獵,騎火一川明,笳鼓悲鳴,遣人驚。 念腰間箭,匣中劍,空埃蠹,竟何成!時易失,心徒壯,歳將零。渺神京,干羽方懷遠,靜烽燧,且休兵。冠蓋使,紛馳鶩,若爲情?聞道中原遺老,常南望,羽葆霓旌。使行人到此,忠憤氣填膺,有涙如傾。」
がある。 ・雪海:雪の積もった原野。岑參の同時期の詩作に『輪臺歌奉送封大夫出師西征』があり、その位置関係を解く鍵となる。ここでは「輪臺(庭州:北庭都護府:烏魯木齊(ウルムチ))城頭夜吹角,輪臺城(庭州:北庭都護府:烏魯木齊(ウルムチ))北旄頭落。羽書昨夜過渠黎(輪台西南350キロメートルのところ),單于已在金山(阿爾泰(アルタイ)山)西。戍樓西望煙塵黑,漢兵屯在輪臺北。上將擁旄西出征,平明吹笛大軍行。 四邊伐鼓雪海(ここが詩で問題としているところ)湧,三軍大呼陰山(天山の烏魯木齊(ウルムチ)以東部分)動。」とあり、『岑參集校注』陳鐵民・侯忠義校注 上海古籍出版社2004年上海 177ページでは、「輪台の北の準噶爾盆地の広々とした雪原のこと」とある。また、地名で、現・伊塞克湖以東一帯を指す。この両者の位置関係は『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)63-64ページ「唐 隴右道西部」に拠って確認すると、輪対を基準として現・準噶爾盆地(古名・沙陀磧)は、輪台のすぐ北側~北200キロメートルまでの所一帯。一方、現・伊塞克湖(古名・熱海)以東一帯は、輪台の西900キロメートルほどのところとなる。単純に輪台からの作戦行動と捉えると前者の方が自然。後者の現・伊塞克湖以東一帯の根拠は『新唐書・地理志・安西入西域道』の記述を『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)63-64ページ「唐 隴右道西部」と比べていくと、『新唐書・安西入西域道』の記述順は、安西(現・庫車(クチャ)。古・龜茲)から始まって西の方へ真っ直ぐ道を取っていく。現・伊塞克湖の南東方向から南岸を通って、西岸を通って、西北へ抜け、また西へ向かっていく。『新唐書・地理志・安西入西域道』に「安西(現・庫車(クチャ)龜茲)西出柘厥關,渡白馬河(安西の西南部から西を通って西北に流れる河),百八十里西入倶毗羅磧(現・伊塞克湖東南東300キロメートル一帯の磧)。經苦井,百二十里至倶毗羅城(現・伊塞克湖東南東300キロメートルの地名)。又六十里至阿悉言城(現・伊塞克湖東南東250キロメートルの地名。又六十里至撥換城(現・伊塞克湖東南200キロメートルの地名),一曰威戎城,曰姑墨州(現・伊塞克湖東南200キロメートルの地名),南臨思渾河(姑墨州の東南から西北に流れ去る川)。乃西北渡撥換河(姑墨州北を流れる川)、中河,距思渾河百二十里,至小石城。又二十里至于闐境之胡蘆河(現・伊塞克湖の南20キロメートルのところを西から温粛州を通って東へ流れる河)。又六十里至大石城,一曰于祝,曰温肅州(現・伊塞克湖の東南2000キロメートルの地名)。又西北三十里至粟樓烽。又四十里度拔達嶺(地図に「勃達嶺」とある。現・伊塞克湖の東南150キロメートルの地名)。又五十里至頓多城(現・伊塞克湖の東南100キロメートルの地名),烏孫所治赤山城也。又三十里渡真珠河(現・伊塞克湖の南100キロメートルを東西に流れる河),又西北度乏驛嶺,五十里渡(ここが詩で詠われているところ。「渡」という表現から、湖沼なのか。地図では湖沼、河川に該当するものはない),又三十里至碎卜戍,傍碎卜水五十里至熱海(現・伊塞克湖のこと)。又四十里至凍城(現・伊塞克湖南岸の地名),又百一十里至賀獵城(現・伊塞克湖西南岸の地名),又三十里至葉支城(現・伊塞克湖西岸の地名),出谷至碎葉(現・伊塞克湖西北100キロメートルの町名)川口,八十里至裴羅將軍城(現・伊塞克湖西北50キロメートルの地名)。又西二十里至碎葉城(現・伊塞克湖西北50キロメートルの地名),城北有碎葉水(現・楚河。現・伊塞克湖西西北方から伊塞克湖に流れ込む),水北四十里有羯丹山伊塞克湖西北100キロメートルの山)碎葉鎮すぐ北),十姓可汗毎立君長於此。自碎葉西十里至米國城,又三十里至新城,又六十里至頓建城,又五十里至阿史不來城(現・伊塞克湖西250キロメートルの地名),又七十里至倶蘭城(現・伊塞克湖西300キロメートルの地名),又十里至税建城,又五十里至怛羅斯城(現・伊塞克湖西400キロメートルの地名)。」となっている。以上のような地名配列(安西→→柘厥關→白馬河→倶毗羅磧→苦井→倶毗羅城→阿悉言城→撥換城(威戎城)→(姑墨州/思渾河)→撥換河→中河→小石城→胡蘆河→大石城(于祝,温肅州)→粟樓烽→拔達嶺(勃達嶺)→頓多城(赤山城)→真珠河→乏驛嶺→雪海(ここが詩で詠われているところ)→碎卜戍/碎卜水→熱海→凍城→賀獵城→葉支城→碎葉川口→裴羅將軍城→碎葉城(碎葉水)→羯丹山→米國城→新城→頓建城→阿史不來城→怛羅斯城)から見て、現・伊塞克湖南東岸に出る辺りになろう。ただ、「雪海」という地名そのものは『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期(中国地図出版社)65-66ページ「東漢 西域都護府」や、『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)63-64ページ「唐 隴右道西部」など歴代の地図にはない。
※平沙莽莽黄入天:果てしなく広がっている砂原は広々として草が生え乱れて、黄砂が空に舞い上がっている。 ・平沙:〔へいさ;ping2sha1○○〕果てしなく広がっている砂原。 ・莽莽:〔ばうばう;mang3mang3●●〕草深いさま。野原が広々と続いているさま。 ・黄入天:黄砂が空に舞い上がる。
※輪臺九月風夜吼:西域・輪台国の晩秋・旧暦九月は、風が夜中に吼(ほ)えて吹き荒れ。 ・輪臺:〔りんだい;Lun2tai2○○〕天山山脈の北側にある天山北路の要地で、現・新疆ウイグル自治区の東部の烏魯木齊(ウルムチ)市附近。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)63-64ページ「唐 隴右道西部」にあり、(現・新疆ウイグル自治区)の金山(アルタイ山)の西南500キロメートルの所にある。注意を要するのは、現・吐魯蕃(トルファン)近くにもあったりするが、漢代、唐代…と時代によって異なることで、ここでは、前者の意の天山北路の庭州にある現・烏魯木齊(ウルムチ)市一帯を指す。 ・九月:旧暦の九月で、季秋。秋の終わり。晩秋。 ・吼:〔こう;hou3●〕(牛や虎が)ほえる。
※一川碎石大如斗:平原の砕けた石の大きことといったら斗(とます)のようであり。 ・一川:辺り一面。詞語の用法では、辺り一面。遍地、満地の意。川は、詞では、平原、曠野の意で、取り立てて川を指さない。なお、敢えて河の意と取れば、前出・走馬川という川で、輪台の西を流れる瑪納斯河(古・白楊河)を指すこととなる。平原の意の用例に、前出・南宋・張孝祥の『六州歌頭』「長淮望斷,關塞莽然平。征塵暗,霜風勁,悄邊聲。黯銷凝。追想當年事,殆天數,非人力。洙泗上,絃歌地,亦羶腥。隔水氈鄕,落日牛羊下,區脱縱橫。看名王宵獵,騎火一川明,笳鼓悲鳴,遣人驚。 念腰間箭,匣中劍,空埃蠹,竟何成!時易失,心徒壯,歳將零。渺神京,干羽方懷遠,靜烽燧,且休兵。冠蓋使,紛馳鶩,若爲情?聞道中原遺老,常南望,羽葆霓旌。使行人到此,忠憤氣填膺,有涙如傾。」
大きな地図で見るがある。 ・碎石:くだけた石。 ・斗:ます。とます。唐・曹鄴の『官倉鼠』「官倉老鼠大如斗,見人開倉亦不走。健兒無糧百姓飢,誰遣朝朝入君口。」
とある。
※隨風滿地石亂走:風に吹かれて、地面いっぱいに石が乱れ転がっている。 ・隨風:風のままに。風に随い。 ・滿地:地面いっぱい。 ・亂走:(風が強くて砂や石が)吹き飛ばされる。飛沙走石。
※匈奴草黄馬正肥:匈奴では、草が黄ばむ時に、(騎兵の)馬が正に肥えて中原進出の季節となり。 ・匈奴:北方の遊牧民族。紀元前三世紀から紀元後五世紀にかけて活躍した民族で、この詩が作られた八世紀中葉では、中国の西北を脅かしているのは匈奴(フン族)ではなく、ウイグル(回紇)や、(東西の)突厥、西南に吐蕃、(南に南詔)が漢民族を脅(おびや)かしており、ここでの「匈奴」の語は、「漢民族を脅かす西北方の(ウイグルや東突厥などの)異民族」の意として使われていよう。 ・草黄:(秋になって)草が黄ばむ。 ・馬正肥:馬がちょうど肥える。匈奴の軍馬が肥えて中原進出の時季となることを謂う。
※金山西見煙塵飛:アルタイ山の西の方に兵塵が上がるのを見て。 ・金山:アルタイ山。現・モンゴル国と現・新疆ウイグル自治区との間にある大山脈。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)42-43ページの「唐 関内道北部」(現・モンゴル国)の最西部、63-64ページ「唐 隴右道西部」(現・新疆ウイグル自治区)の最東部にある。 ・西見:西の方のウイグルを見る。 ・煙塵:戦場に巻き上がる砂塵。転じて、戦乱。戦塵。前出・唐・高適の『燕歌行』「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重橫行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉羽書飛瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」とある。
※漢家大將西出師:漢王朝の大将(=唐王朝の大将・封常淸)は西の方に出兵をした。 ・漢家:漢の王室の意。転じて、(漢民族の)中国。漢民族。蔡文姫の『胡笳十八拍』「東風應律兮暖氣多,知是漢家天子兮布陽和。羌胡蹈舞兮共謳歌,兩國交歡兮罷兵戈。忽遇漢使兮稱近詔,遣千金兮贖妾身。喜得生還兮逢聖君,嗟別稚子兮會無因。十有二拍兮哀樂均,去住兩情兮難具陳。」や、李白の『戰城南』「去年戰桑乾源,今年戰葱河道。洗兵條支海上波,放馬天山雪中草。萬里長征戰,三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作,古來唯見白骨黄沙田。秦家築城備胡處,漢家還有烽火然。烽火然不息,征戰無已時。野戰格鬪死,敗馬號鳴向天悲。烏鳶啄人腸,銜飛上挂枯樹枝。士卒塗草莽,將軍空爾爲。乃知兵者是凶器,聖人不得已而用之。」
、前出・唐・高適の『燕歌行』「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重橫行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉羽書飛瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」
や、無名氏の『胡笳曲』に「月明星稀霜滿野,氈車夜宿陰山下。漢家自失李將軍,單于公然來牧馬。」
と胡世將の『
江月』「秋夕興元使院作,用東坡赤壁韻」「神州沈陸,問誰是、一范一韓人物。北望長安應不見,抛卻關西半壁。塞馬晨嘶,胡笳夕引,
得頭如雪。三秦往事,只數漢家三傑。 試看百二山河,奈君門萬里,六師不發。
外何人迴首處,鐵騎千群都滅。拜將臺欹,懷賢閣杳,空指衝冠髮。欄干拍遍,獨對中天明月。」
とある。 ・大將:〔たいしゃう;da4jiang4●●〕一軍の指揮・統率をつかさどるもの。ここでの「漢家大将」は封常淸のことになる。後出「將軍」と発音上(平仄上)違いがある。「大將」〔da4jiang4●●〕の「將」は〔jiang4●〕で、「將軍」〔jiang1jun1○○〕「將」は〔jiang1○〕。(軍人の「大將」等の「將」は去声。 但し、現代語では、軍人関係はやはり去声でも、「將軍」という単語の「將」のみ、例外として平声。他は古語と同じ。)宋・陸游は『關山月』で「和戎詔下十五年,將軍不戰空臨邊。朱門沈沈按歌舞,厩馬肥死弓斷弦。戍樓刁斗催落月,三十從軍今白髮。笛裏誰知壯士心,沙頭空照征人骨。中原干戈古亦聞,豈有逆胡傳子孫!遺民忍死望恢復,幾處今宵垂涙痕。」
、唐・高適の『燕歌行』「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重橫行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉羽書飛瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」
、南宋・陸游の『山南行』「我行山南已三日,如縄大路東西出。平川沃野望不盡,麥隴靑靑桑鬱鬱。地近函秦氣俗豪,鞦韆蹴鞠分朋曹。苜蓿連雲馬蹄健,楊柳夾道車聲高。古來歴歴興亡處,擧目山川尚如故。將軍壇上冷雲低,丞相祠前春日暮。國家四紀失中原,師出江淮未易呑。會看金鼓從天下,却用關中作本根。」
。劉希夷『白頭吟』(代悲白頭翁)「公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」
と平声と見るべき用例。「大將」の用例に毛沢東の『給彭懷同志』「山高路遠坑深,大軍縱馳奔。誰敢刀立馬?惟我彭大將軍!」
があるが、不明。 ・西:西の方。西域。異民族の多いところ。 ・出師:出兵する。派兵する。戦を出(いだ)す。出師(すいし)。
※將軍金甲夜不脱:将軍は、立派なよろいを夜も脱がずに。 ・將軍:〔しゃうぐん;jiang1jun1○○〕軍隊の統率者。前出「大將」参照。 ・金甲:黄金づくりのよろい。堅固なよろい。 ・脱:ぬぐ。
※半夜軍行戈相撥:夜半に軍行して、戈(ほこ)を反り返らせて。 ・半夜:夜半。 ・戈:〔くゎ;ge1○〕ほこ。打って刺し殺す武器。 ・相撥:はじきあう。
※風頭如刀面如割:風は刀の如く吹きつけ、顔面は割(さ)かれるかのようだ。 ・風頭:風向き。 ・面如割:顔を切り裂いてくる。
※馬毛帶雪汗氣蒸:馬の毛は雪を帯びて、汗蒸(む)しており。 ・帶雪:雪を帯びる。 ・汗氣:汗の湿気。 ・蒸:蒸(む)れて湯気を出す。
※五花連錢旋作冰:五花連銭の青や白(濃い色や薄い色)の斑点模様の馬で、五瓣の花飾りのたてがみやも、たちまちのうちに(凍って)氷となり。 ・五花:馬のたてがみの飾りのことで、たてがみを五つの花瓣のように編んで切り揃えたもの。李白に『將進酒』「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」があり、 ・連錢:馬の毛並みのことで、青や白(濃い色や薄い色)の斑点模様のある馬。 ・旋:たちまち。 ・作:なる。
※幕中草檄硯水凝:テントの中で檄文(げきぶん)を起草していると、硯(すずり)の水が凍ってしまう。 ・幕中:テントの中。 ・草檄:通告文を起草する。檄文(げきぶん)を起草する。 ・檄:〔げき;xi4●〕ふれぶみ。めしぶみ。召集またはふれを告げるため、役所から出した木札の文書。 ・硯水:硯(すずり)の水。 ・凝:(凍って)固まる。
※虜騎聞之應膽懾:敵の騎兵がこのことを聞いたら、きっと胆(きも)を冷やして。 ・虜騎:敵軍の騎兵。胡馬。 ・聞之:このことを耳にする。 ・應:当然…であろう。まさに…べし。 ・膽:胆(きも)。 ・懾:〔せふ;she4●〕おそれる。おじける。おそれをなす。
※料知短兵不敢接:刀剣による近接戦は、敢えては、しかけてこないように考えていることだろうから。 ・料知:推量する。おしはかる。 ・短兵:近接戦。刀剣などの近接戦の武器。 ・不敢-:…する勇気がない。よう…しない。積極的には…しない。 ・接:近づく。接近する。
※車師西門佇獻捷:天山の東部にある車師後部(唐の庭州、現・烏魯木齊(ウルムチ)の西門で、勝ち戦の報告をもって凱旋してくるのを待とう。 *車師、庭州…と固有名詞が多いが岑參がいたは輪台(烏魯木齊(ウルムチ)市附近。ただし、車師前部の現・吐魯蕃(トルファン)『中国地圖集』99ページ「新疆維吾爾自治區」(中国地図出版社)では天山南路に輪台がある。そこは曾て安西都護府のあった龜茲(くじ、きゅうじ)。時代によって異なるので要注意。ここは、前者の意の天山北路の庭州で、現・烏魯木齊(ウルムチ)市を指す。 ・車師:〔しゃし;Che1shi1○○〕唐代の庭州で、北庭都護府のあったところ。現・烏魯木齊(ウルムチ)附近。漢から北魏の時代に、天山山脈東部に存在した国の名。天山の南側に車師前部(現・吐魯蕃(トルファン)附近、天山の北側に車師後部(現・烏魯木齊(ウルムチ)があった。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期(中国地図出版社)65-66ページの「東漢 西域都護府」、同・『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)63-64ページの「唐 隴右道西部」にある。なお、「車」は〔che1〕と〔ju1〕があり、後者が古音。『中国大百科全書・中国歴史Ⅰ』(中国大百科全書出版社)では〔Cheshi〕となっている。 ・西門:輪台(この詩句では「車師」)の西の方から引き上げてくるため。 ・佇:〔ちょ;zhu4●〕待つ。たたずむ。ここは、前者の意。 ・獻捷:勝ち戦の戦利品を天子に献上する儀式。
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◎ 構成について
韻式は、「AAbbbCCCdddEEEfff」。韻脚は「邊天 斗走 肥飛師 脱撥割 蒸冰凝 懾接捷」。この作品の平仄は、次の通り。
○●●●●○○●●○,(A韻)邊
○○●●○●○。(A韻)天
○○●●○●●,(b韻)吼
●○●●●○●,(b韻)斗
○○●●●●●。(b韻)走
○◎●○●●○,(C韻)肥
○○○●○○○,(C韻)飛
●○●●○●○。(C韻)師
○○○●●●●,(d韻)脱
●●○○○○●,(d韻)撥
○○○○●○●。(d韻)割
●○●●●●○,(E韻)蒸
●○○○○●○,(E韻)冰
●○●●●●○。(E韻)凝
●●○○○●●,(f韻)懾
●○●○●●●,(f韻)接
○○○○●●●。(f韻)捷
2008.8.15 8.16 8.17 8.18完 8.25補 |
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