![]() ![]() |
![]() |
酬樂天揚州初逢席上見贈 | |
劉禹錫 |
巴山楚水淒涼地,
二十三年棄置身。
懷舊空吟聞笛賦,
到鄕翻似爛柯人。
沈舟側畔千帆過,
病樹前頭萬木春。
今日聽君歌一曲,
暫憑杯酒長精神。
******
樂天の揚州に初めて席上に逢へるときに贈らるに酬ゆ
巴山楚水 淒涼の地,
二十三年 身を棄置す。
舊を懷しみ空しく吟ず 聞笛の賦,
鄕に到りて 翻って似る 爛柯の人。
沈舟の側畔 千帆 過ぎ,
病樹の前頭 萬木の春。
今日 君より聽く 唱 一曲,
暫く杯酒に憑きて 精神を長ぜん。
****************
◎ 私感註釈
※劉禹錫:中唐の詩人。772年(大暦七年)~842年(會昌二年)。白居易や柳宗元との詩の応酬も多い。白居易とともに『竹枝詞』や『楊柳枝』
を作る等、前衛的、実験的なことに取り組む。字は夢得。監察御史、太子賓客。
※酬樂天揚州初逢席上見贈:白居易から揚州でのはじめて出逢い、その席上で詩を贈られたが、そのお返しを作った。 ・酬:こたえる。むくいる。贈られた詩歌を受けて、お返しの詩歌を作ること。 ・樂天:白居易の字(あざな)。 ・揚州:江蘇省西南部の都市。長江の北岸、大運河沿いの要衝に位置し、経済都市として栄えた。 ・初逢:はじめて出逢う。 ・見:…られる。…らる。受身表現。 ・…見贈:贈られる。詩題にも屡々使われる表現。
※巴山楚水淒涼地:(中原から遠く離れた)巴(四川省重慶地区)の山々や楚(長江中流一帯)の川のあるところはぞっとするほどものさびしい地方で。 ・巴山:四川省重慶地区の山々。 ・楚水:長江中流一帯の川。 ・淒涼:心の中や情景がものさびしい。
※二十三年棄置身:二十三年もの間、この身をうち棄てていたところだ。 ・二十三年:作者は二十三年間長安を離れていた。連州(広東省連州市)刺史に左遷され、更に朗州(湖南省常徳市)司馬に左遷されていた期間。貞元二十一年(805年 貞元二十一年/永貞元年)~太和二年(828年)の間(828-805=23)の二十三年間を指す。劉禹錫の『再遊玄都觀』に詳しい。「余貞元二十一年爲屯田員外郎時,此觀未有花。是歳出牧連州,尋貶朗州司馬。居十年,召至京師,人人皆言,有道士手植仙桃,滿觀如紅霞,遂有前篇以志一時之事。旋又出牧,今十有四年,復爲主客郞中。重遊玄都觀,蕩然無復一樹,唯兔葵燕麥動搖於春風耳。因再題二十八字,以俟後遊,時太和二年三月。」(余(よ)貞元二十一年(805年:徳宗 崩=貞元年)屯田員外郎 爲(た)るの時,此の觀 未だ花 有らず。是(こ)の歳 連州に出でて牧(=地方長官)す,尋(つ)いで 朗州の司馬に貶(へん)せらる。居ること十年(元和十一年(816年)),召されて京師に至る,人人 皆な言ふ,道士の仙桃を手植する有りて,滿觀 紅霞の如しと,遂(つひ)に 前に篇し以て一時の事を志(しる)せる有り(=『元和十一年(816年)自朗州召至京戲贈看花諸君子』「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄都観裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」)。旋(たちま)た又た牧(=地方長官)に出づ,今に 十有四年(826年:敬宗崩),復(ま)た主客郎中 爲(た)り。重ねて 玄都觀に遊び,蕩然として復(ま)た一樹も無し,唯(た)だ兔葵(いえにれ)燕麥の春風に動搖する耳(のみ)。因(よっ)て再び二十八字(七絶)を題し(=この詩),以て後遊を俟(ま)つ,時に 太和二年(828年)三月。)
。同・劉禹錫の『與歌者何戡』に「二十餘年別帝京,重聞天樂不勝情。舊人唯有何戡在,更與殷勤唱渭城。」
とある。 ・棄置:〔きち;qi4zhi4●●〕うちすてる。
※懷舊空吟聞笛賦:昔を懐(なつか)しんで、空しくいたずらに(李白の『春夜洛城聞笛』「誰家玉笛暗飛聲,散入春風滿洛城。此夜曲中聞折柳,何人不起故園情。」や、高適の『塞上聞笛』「雪淨胡天牧馬還,月明羌笛戍樓閒。借問梅花何處落,風吹一夜滿關山。」
のような)故郷を懐かしむ詩を吟じていたものの。 ・懷舊:昔を懐かしむ。 ・空吟:むなしく声に出してうたう。 ・聞:耳に入ってくる。聞こえる。 ・聞笛賦:李白の『春夜洛城聞笛』「誰家玉笛暗飛聲,散入春風滿洛城。此夜曲中聞折柳,何人不起故園情。」
や、高適の『塞上聞笛』「雪淨胡天牧馬還,月明羌笛戍樓閒。借問梅花何處落,風吹一夜滿關山。」
のような故郷を懐かしむ詩。
※到鄕翻似爛柯人:(その)故郷に帰ってみれば、反対に朽ち果てた枯れ枝のような人に似ていた。 ・到鄕:故郷に帰る。田舎に帰る。 ・翻似:反対に…に似る。かえって…のようだ。 ・爛柯:〔らんか;lan4ke1●○〕枯れ枝。朽ちた樹木。
※沈舟側畔千帆過:沈んだ小舟(わたし)の傍らを、多くの帆船(同僚)が通り過ぎ。 ・沈舟:沈んでいる小舟。作者自身を謂う。 ・側畔:傍ら。 ・千帆:多くの帆船。 ・千帆過:多くの帆船(同僚)が、沈んでいる小舟(作者)の傍を通り過ぎていく。出世から取り残された作者のさまを謂う。
※病樹前頭萬木春:病(や)んだ木(=わたし)の前にも、あらゆる木にとっての春がやってきた。 ・病樹:病気の木である作者を謂う。 ・前頭:前。前面。「-頭」が附いて名詞化する。また、場所をいう「ほとり」。ここは、前者の意。 ・萬木:多くの木々。 ・萬木春:あらゆる樹木にとっての春。健全な木にとっての麗しい春であるばかりではなく、病気の木であるわたしにとっても、恵みの春。
※今日聽君歌一曲:今日は、あなたよりの一曲の歌を耳をすまして聴(き)き入り。 ・聽:耳をすませて聴(き)く。聴き耳を立てて聴く。 *聴き取ろうという意志を以てきくこと。蛇足になるが、「聞」は「きこえる」「耳に入ってくる」の意。
※暫憑杯酒長精神:暫(しばら)くは幾杯かの酒に頼って、精神を昂揚させよう。 ・暫:しばらく。 ・憑:寄る。頼る。つく。 ・杯酒:幾杯かの酒。「杯」は助数詞(量詞)。 ・長:増す。育てる。盛んになる。 ・精神:元気。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「身人春神」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
○●◎○◎●●,
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○◎,
●●○○●●○。(韻)
○●◎○○●●,
●○○●◎○○。(韻)
2008.11.22 11.27 11.28 11.30 |
![]() ![]() ![]() ************ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() |