竇鞏南遊感興　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Dou Gong

南遊感興
	唐・竇鞏

傷心欲問南朝事，
惟見江流去不回。
日暮東風春草綠，
鷓鴣飛上越王臺。

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南遊感興

傷心(しゃうしん)　問(と)はんと欲(ほっ)す　　南朝(なんてう)の事，
惟(た)だ見る　江流(かうりう)の　　去って回(かへ)らざるを。
日暮(にちぼ )　東風(とうふう)　　春草(しゅんさう) 綠(みどり)に，
鷓鴣(しゃこ )　飛び上(のぼ)る　　越王臺(ゑつわうだい)。

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◎　私感註釈

※竇鞏：中唐の詩人。７６２年頃～８２１年。字は友封。京兆金城の人。竇庠の弟になる。若い頃から博学であった。性格は闊達であり、古今の出来事に関心がある。容貌魁偉。元和二年（８０７年）の進士。侍御史、司勳員外、刑部郎中、司勳員外刑部郎中等を歴任した。

※南遊感興：（越王台のある現・浙江省の紹興方面＝）南に旅をしての興味がわいたこと。後出・李白の『越中覽古』と同様の趣がある。　・南遊：南に旅する。　・感興：興味がわく（こと）。面白みを感じる。

※傷心欲問南朝事：心を傷（いた）めるのは、南朝の出来事を尋ねようとする。　・傷心：〔しゃうしん；shang1xin1○○〕心を傷（いた）めること。悲しく思うこと。　初唐・劉希夷（劉廷芝）の『公子行』に「天津橋下陽春水，天津橋上繁華子。馬聲廻合青雲外，人影搖動綠波裏。綠波蕩漾玉爲砂，青雲離披錦作霞。可憐楊柳傷心樹，可憐桃李斷腸花。此日遨遊邀美女，此時歌舞入娼家。娼家美女鬱金香，飛去飛來公子傍。的的珠簾白日映，娥娥玉顏紅粉妝。花際裴回雙蛺蝶，池邊顧歩兩鴛鴦。傾國傾城漢武帝，爲雲爲雨楚襄王。古來容光人所羨，況復今日遙相見。願作輕羅著細腰，願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親，與君雙棲共一身。願作貞松千歳古，誰論芳槿一朝新。百年同謝西山日，千秋萬古北邙塵。」とある。　・南朝：四二〇年～五八九年の間に、江南の地に興った漢民族による六代の王朝（＝六朝）（＝呉、東晉、宋、斉、梁、陳）。なお、北朝は異民族による王朝が主であることに対して、南朝は漢民族の王朝が続き、そのため、漢人の視点からすれば、南朝側により大きな感情の移入が見られる。

※惟見江流去不回：ただ川が流れて（行き（＝時間が流れ去り））、帰ってこないのが見えるだけだ。　・惟：ただ…だけ。「唯」ともする。詩詞では「唯」よりも「惟」の方が多いか。　・惟見：ただ…だけが見える。東晉・陶潛の『擬古・九首』其八に「少時壯且厲，撫劍獨行遊。誰言行遊近，張掖至幽州。饑食首陽薇，渇飮易水流。不見相知人，惟見古時丘。路邊兩高墳，伯牙與莊周。此士難再得，吾行欲何求。」とあり、盛唐・李白の『戰城南』に「去年戰桑乾源，今年戰葱河道。洗兵條支海上波，放馬天山雪中草。萬里長征戰，三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作，古來唯見白骨黄沙田。」とあり、同・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』に「故人西辭黄鶴樓，煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡，惟見長江天際流。」とあり、白居易の『琵琶行』に「轉軸撥絃三兩聲，未成曲調先有情。絃絃掩抑聲聲思，似訴平生不得志。低眉信手續續彈，説盡心中無限事。輕慢撚抹復挑，初爲霓裳後綠腰。大絃如急雨，小絃切切如私語，切切錯雜彈，大珠小珠落玉盤。間關鶯語花底滑，幽咽泉流氷下難。氷泉冷澀絃凝絶，凝絶不通聲暫歇。別有幽愁暗恨生，此時無聲勝有聲。銀瓶乍破水漿迸，鐵騎突出刀槍鳴。曲終收撥當心畫，四絃一聲如裂帛。東船西舫悄無言，唯見江心秋月白。」とある。また、曹操の『短歌行』に「對酒當歌，人生幾何。譬如朝露，去日苦多。慨當以慷，憂思難忘。何以解憂，唯有杜康。」とあり、唐の劉希夷『白頭吟（代悲白頭翁）』に「洛陽城東桃李花，飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色，行逢落花長歎息。今年花落顏色改，明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪，更聞桑田變成海。古人無復洛城東，今人還對落花風。年年歳歳花相似，歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子，應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐，伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下，淸歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍，將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識，三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時，須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地，惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來，奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮，朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡，莫使金尊空對月。天生我材必有用，千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂，會須一飮三百杯。岑夫子，丹丘生。將進酒，杯莫停。與君歌一曲，請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴，但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞，惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂，斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢，徑須沽取對君酌。五花馬，千金裘。呼兒將出換美酒，與爾同銷萬古愁。」とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡，隔林何處起人煙。山僧獨在山中老，唯有寒松見少年。」や、後世、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫，不思量。自難忘。千里孤墳，無處話淒涼。縱使相逢應不識，塵滿面，鬢如霜。　　　夜來幽夢忽還鄕。小軒窗，正梳妝。相顧無言，惟有涙千行。料得年年腸斷處，明月夜，短松岡。」と使い、司馬光は『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴，南山當戸轉分明。更無柳絮因風起，惟有葵花向日傾。」と使う。また、初唐・張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」とある。　・江流：（中国南方の）川が流れる。＝逝川：流れ去る川の水。歳月等の時間で一度去って再び帰らないものの譬えでもある。『論語・子罕』に「子在川上曰：逝者如斯夫！不舎昼夜。」（子　川上に在りて曰く：逝く者は斯くの如きか！　昼夜を舎かず）。　・去不回：行って、戻ってこない。燕・荊軻の『易水歌』に「風蕭蕭兮易水寒，壯士一去兮不復還。」とある。

※日暮東風春草緑：日暮れ時に、東からの春風に春の草が緑色で。　・日暮：日が暮れる。日暮れ。　・東風：春風。東から吹いてくる風。　・緑：みどり色になる。みどり色の。また、みどり色。

※鷓鴣飛上越王台：（後出・李白の『越中覽古』の表現内容である「昔、栄華を極めた越王台は、今は、ただ鷓鴣が飛んでいるだけのものとなった」に拠り）鷓鴣が越王台（の上）を飛び上がっていく。　・鷓鴣：〔しゃこ；zhe4gu1●○〕鳥の名。しゃこ。ウズラぐらいの大きさで、褐色。胸に白い斑点がある。キジ科の鳥で、雌雄が対になって居るといわれる。盛唐・李白の『越中覽古』に「越王勾踐破呉歸，義士還家盡錦衣。宮女如花滿春殿，只今惟有鷓鴣飛。」とある。　・越王台：越王が築いた宮殿。越王・勾践の越王台は、現・浙江省の紹興にある。また、前漢の南越王・趙佗が築いた宮殿・越王台は、現・広州市内の越秀山にある。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「村門昏」で、平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
○○●●●○○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）