40歳~からの読書回帰

第1回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



ノルウェイの森
   上・下


村上春樹

講談社文庫  各540円

978-4-06-274868-1
978-4-06-274869-8
 実は本書を20代で読んだときは受け入れがたかった。時代背景からくる否・共感とかということではなく、主人公が都合よかったり、大事な人が何人も亡くなったり、過激な描写があったり、なぜベストセラー? 違うジャンルしか読まない偏読だったうえに違和感だらけでした。あらためて読み返すとやはり…ではあるものの、文章に対して、世界観に対して、違った捉え方をしている自分もいることに気づきました。ああこれが本を読むという楽しさなのだなあと、零れ落ちた感性をあらためて掬うような感覚です。初・春樹ならばデビュー作「風の歌を聴け」からのほうがおすすめです。なんやかやとリンクしています。

















第2回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント


夜間飛行

サン=テグジュペリ

新潮社文庫  580円

978-4-10-212201-3
 同じサンテックスのものでも、ともすれば難解な哲学書とも読める「~王子様」ではなくこちらを。航空事業の、技術的にもスピリットにおいても黎明期のお話。ライバル会社はもちろん、他の輸送機関にすら油断をするとアドバンテージの出る時代なので冒険的要素も満載、飛行機とその運航の仕方などにも自身のパイロット経験からくる目線が色濃く出ています。上司が危険な命令を下すとき、従事者以上に勇気をもってなされなければいけない、危険を伴うぎりぎりの緊張下で 研ぎ澄まされる感覚・精神の崇高さ、など“人としての成熟を描いた小説”であることに惹かれます。














第3回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント


花岡青洲の妻


有吉佐和子

新潮社文庫  452円

978-4-10-113206-8
 世界初の全身麻酔による乳がん手術の成功者 エーテルを使用する施術から40年も前にチョウセンアサガオを使用 調合が難しく副作用多し、人体実験の必要、といった医学の革新などの史実を背景とした小説 …だけではないです。 憧れの女性の息子である貧乏医師に嫁いだ、豪商の娘 かたや息子であり、かたや夫である青洲に対する二人の女性の確執など 現在ならばワイドショーか2時間ドラマが放っては置かない題材(実際にドラマ・映画・舞台化多数です。) ・的な見方をするのもありかと。そこが有吉佐和子ならではの仕立て(“笑っていいとも”に出演した回にはびっくりしましたが) でしょう。社会派といわれた著者の多くの作品に見られるのは、むしろ自立した女性の姿を描くこと。母親と自分自身、 のちには小説家の娘との関係も影響しているようです。次に読まれるならば「恍惚の人」ではなく「紀ノ川」へ。母・娘関係がよく出ています。


















第4回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



深夜プラス1


ギャビン・ライアル


早川書房文庫 882円

978-4-15-071051-4
 “読まずに死ねるか!”の名言を残した内藤陳が、自身のバーの名前に使ったことでも知られている冒険・ハードボイルド(…だど(^^)/)小説です。クライアントから依頼を受けた主人公が、訳有りの2人を目的地まで運ぶ物語。仕事はプロフェッショナルだけれど、その分プレッシャーを紛らすためにアル中になった、ガンマンの男と合わせて4人の行程が淡々とながらもハラハラします。もちろん邪魔もバンバン入ります。足手まといの2人に加え、内密に移動するには困難材料ばかり。でも本当の見どころは、凄腕の主人公と頑ななガンマンとの生き方がハードボイルドなところでしょうか。モーゼルC96が出てくる数少ない小説としてもOK.ちなみにタイトルは、約束の刻限0(深夜)1分過ぎ(プラスワン)たの意味。えっ、間に合わなかったの?…かどうかは読んで確かめてください。(^o^)

















第5回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



深夜特急
 1~6巻


沢木耕太郎


新潮社文庫 452円~

①978-4-10-123505-9
 

 ノンフィクションライター沢木耕太郎の代表作。いや沢木といえばボクシングだ、野球だ、キャパだといろいろありましょうが、ここはひとつ旅で。この本で、何かある何か起こりそうな、何もなくても過ぎてゆくここではないどこかへ旅立つことを夢想し(はたまた 行けない自分のかわりを託し)た方は多いのではないでしょうか。もう一度、今よりも ある意味安全で、やっぱり危険な 地図でしか知らない国を放浪しトラブルに見舞われて、自分の身の丈を知り違う感性と価値観にふれてください。昔は、大沢たかおに似ててねぇ…とい人もOK(_)!! 旅エッセイのジャンルはやはり人気です。ご同輩として下川裕治・たかのてるこ・蔵前仁一・高橋由佳利・などが書かれています。地域やスタイルで選んでください。いやもっと冒険だ!という方は、植村直己・田部井淳子・加曾利隆・関野吉晴へ






















第6回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



片曲線論


中沢新一


中央公論社文庫 820円

978-4-12-201529-6
 今年二回目の大雪により、新刊商品が未入荷になってしまったので、ふと何年も前に読んだきれいな赤い表紙の本を思い出しました(“雪”ならば在所の偉人、中谷宇吉郎先生の方が良かったかもしれません)。はい,タイトルだけで選びましたすみません。
 某宗教団体の擁護以降やや道をそれてしまった感もある著者ですが、当時は浅田・吉本・柄谷・九鬼~らと並んで一度は読んでおいて
!!と言われたのでチャレンジ。ええ勿論挫折ですよ。でこれを書くために再度読み返してみました。哲学が認識してきた自然とは、科学が経験する直線・曲線だけではなくあたかも流体が拡散するように拡がる意識の状態である、微分化不可能な曲線:雪片曲線(雪の結晶が成長する様をモデル化したような感じ)などの、微小の中の無限というパラドックスを捉えることで理解できると、密教の曼荼羅を探求してきて拡げた世界観で解釈しています(ざっくりすぎて意味違えしそうですが)
 当時はやっていた思考展開の感じだということも含め、相変わらずわかりにくいなあと思いながらも寝てしまうことはなかった自分に、ああこのコーナーの趣旨“新しい感覚を得るための読書回帰“にあってるなあなんて思います。






















第7回…の1タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント








共同幻想論

吉本隆明

角川書店文庫  620

978-4-04-150101-6


 
とかげ

吉本ばなな

新潮社文庫 380

978-4-10-135912-0

 

 コーナー内企画“親子鷹”と題して、親子で文筆をされている方々を読書回帰してください。自身の親、自身が親 それぞれの立場でどうぞ 時々UPです。

 言わずと知れた戦後思想界の雄、教条主義を否定し国家・宗教・習俗などの本質である共通した約束事“幻想”からの自立を謳ったけれど、あらゆる事象を説明するにはちと無理があるかと。ただし思想そのものが色あせるという訳ではないのは、あらゆる思想家が必ずこのフレーズを共通言語として引用すること(他では-動物化-もそうですね)からも伺えます

 かたや娘様、名前がまだ漢字のころ。「人の体を直すが人と話せない女性と、心を治すカウンセラーの男性」が、どちらも単体では未熟でお互いを補完して一人前になる。普通の日常を生きていてもいいと思うことがゆるうくあたりまえの表現でされていることに、幼少時のトラウマの否日常性を際立たせます。

大きな父親の存在から受けるもの、これを他人ではうかがい知ることのできないトラウマであると捉えるなら「とかげ」はまさに父親から自立するための、自身の宣言と承認の小説だ。キッチンでデビューして5年目でたどりつけたのかも






























第8回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント







もの食う人びと

辺見

角川書店文庫  720

978-4-04-341701-8

 

97年発売、芥川賞作家のルポルタージュ。受賞作よりこの本のインパクトは、何年たっても必ず引き合いに出されます。“人”が“食べ”て“生きる”とはどういうことか、ということを世界各地(バングラディシュ・ソマリア・ウガンダ・チェルノブイリ・クロアチア・ユーゴなどの紛争地域が主体。今では絶対にいけないであろうところまで)を巡ったもの。異文化という状況では食それすらも“異”だとしながらも、被爆した食物や残飯再生、極限状態で食人に至った村のはなしまでに及んでは人であればどのような形であれ、生きる根源に必ず食があるという結論に至る。そんな人たちと一緒に食べ 飲み、受け入れるのか受け止めきれないのか。果たしてグルメ本ではないです。…が飽食啓蒙でもないスタンスに、ルポルタージュの本質を見る気がします
























第9回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント








うたかたの日々

ボリス・ヴィアン

早川書房 

早川epi文庫 672

978-4-15-120014-4

 

「右の肺が睡蓮にとりつかれているですって」のセリフが印象的なベストセラー。

文庫化される前のビニールカバー装丁のころ、よく売れた。いや、ボリス・ヴィアンといえば他にもあるのに、これしか売れなかった。ああ そのころに え―といわずに読んでおいてもよかったなあと思わせる次第。なんせ、岡崎京子が当時コミック化したものを最近になって読んでみてから原作に流れたから。果して絵のイメージはぴったりでした。睡蓮の花があらわすように儚く奇抜な少女と夢見る青年が、稚拙で残酷で精緻でグロテスクな本作品のリアル世界感のなかで、中心でさけぶのとは違う愛情の在り方を純愛というのならば、悲しくも美しさが同居する結末は大きな代償ではなく必然か?好き嫌いをこえたスタンスでいられる今だから読めたのかも。前言撤回です すみません、ああ読書回帰。(-_-;)訳者違いで同原作の、光文社文庫版「うたかたの日々」・新潮文庫版「日々の泡」もあり。入手可です。漫画は絶版です。



























第10回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント







宮本武蔵

吉川英治

新潮社文庫 620~662

978-4-10-115461-9

 

 御存知!吉川英治といえばムサシ!! いや「鳴門秘帖」だ「平家物語」だ「三国志」だという向きもありましょうが、本日放映、木村拓哉さん主演のドラマに合わせてこちらを。かつて武蔵を演じた、萬・錦や海老蔵さん、役所広司さんのような無骨なイメージに対し、どちらかと言えば“小次郎”か“清十郎”なキムさまの演じる武蔵はどんな感じでしょうか。何度も映像化されている人気作品の原作は、かように人それぞれの“キャスト”があるのが面白かったりします。ムサシに関しては井上雄彦の、現在36巻刊行中漫画「バガボンド」の影響も大きいでしょう。一度は見たであろう映像と、小説を比べてあーだこーだ読書回帰して下さい。新潮文庫版で全8巻です(>_<)。いや文字が大きい!

























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