40歳~からの読書回帰

第81回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
妻を帽子とまちがえた男


オリヴァー・サックス

早川書房 950円(込)
 

978-4-15-050353-6


 

 

 脳神経科医O・サックス博士の1992年初出(原書は1985)のベストセラー文庫版。表題を含め24編の症例を収めたノンフィクション・エッセイで、デニーロ「レナードの朝」の原作でも知られた方ですね。よく売れた晶文社・サックスコレクションのほとんどが絶版なので「妻を…」ほか数点のみ入手可となってしまいました。古い本なので、現在では改善するようになった症例が有るからでしょう。“視覚系認識がおとろえた”“個別判断の欠落”、“にもかかわらず存在する抽象的態度~”要するに帽子はかぶるものということは分かっているが見えているものがなにかわからない。脳が器官である以上、感情も視覚などの五感も化学反応のはずなのに、そこには心や魂が存在するとしか思えません。興味本位スタートでも構いません 知ってください。脳の不調からくる“奇妙な症例”にもかかわらず向き合う患者と、彼・彼女らに尊厳と真摯な姿勢を崩さない830日亡くなられたO・サックス博士のために。



























第82回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
…パロディやパスティーシュとか…

アガサ・クリスティー
北森鴻

早川書房文庫 926円(込)
光文社文庫  596円(込)
 

978-4-15-130078-3
978-4-334-74853-1

 

 一席 お付き合いを「御隠居てぇへんだ!」「おいおい騒々しいね、なにを慌てているんだい」「別々の本で題名がちょっと捻ってあるだけなんスよ今騒がれているパクリでやすかい?」「おまえも慌て者だねぇ、これはパロディやパスティーシュとか言って昔から有る表現の一つだよ」「なんでぇ作者も読者も知っていてやっていると?」「謎解きや判じ物の好きなミステリーの世界じゃよくあることじゃのぅ、ニヤリとしたらしめたもの」「こりゃ元ネタが有名だからあっしでも分かるんですがね」「そう他にも沢山あるぞ霧舎巧の新本格もどきや京極夏彦のどすこいもそうかのぉ」「うへぇもとの本も読まなきゃいけねぇんですかい!?」「そんな風に繋がった読書の入り方もあるということかのぉほっほっほっ」「でご隠居落ちは?」「ない」「あぁエヴアンズに頼みゃあよかった!」























第83回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



 
岸辺のヤービ

梨木香歩

福音館書店 1,728円(込)

 

978-4-8340-8197-8
 

“異種間交流のできる個体”である人と出会った妖精の子“ヤービ”を描いたファンタジー。人の世界の横なので、生態系の変化にも直結してしまう中 ちっちゃいのがゆるやかに自然とともに一生懸命生きています。これは、妖精だって悩むし受け入れるし適応していくしといった、喜びも悲しみも希望もある豊饒な姿と関わりたかった(関わった)著者自身の世界でしょうか。妖精見たことあるんでしょうね きっと。ヤンソン先生ゴメンナサイ・トロール族デハアリマセン、ノートン先生ゴメンナサイ・床下ニイル小人デハアリマセン、佐藤センセイゴメンナサイ・コロボックルデハアリマセン、ネズビッド先生ゴメンナサイ・サミアドデハアリマセン、ノルシュテイン先生ゴメンナサイ・ハリネズミデハアリマセン、ファンタジーの鬼才NASHIKIがやりました(^_^;)




















第84回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



 
戦争小説家古山高麗雄伝

玉居子精宏

平凡社 1,944円(込)

 

978-4-582-83693-6
 

 賛否はあろうが「※人生、しょせん運不運」と名文句をはいた、芥川賞作家の評伝。山口瞳・遠藤周作・安岡章太郎などなど同時代小説家・文壇との幅広い交流が有るため、あちこちの小説・文章にモデルなり本人エピソードが登場している。その割には、知る人ぞ知るという感じのうえ いかんせん当人の小説自体絶版が多く、現在は全集にたよるしかないのが残念なところ。軍国主義も民主主義も、上から降ってくる謳い文句が昨日の価値観を裏返すように賛成否定する姿勢の“うさんくさ”さをみれば、同じものであると戦争体験作家は言う。自身の体験をふまえた小説には、戦う気のないカッコイイ自分もダメで流される自分も出てくるうえ晩年は、先立たれた妻のことで「…自分は弱虫だから(江藤淳のように)自殺もしない、病んでも延命しない~」とも言っているそうで。ほらちょっと興味がわいてきませんか?





















第85回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



 
ブルーダイブ

ゆうき りん

双葉社文庫 710円(込)

 

978-4-575-51808-5
 

 珍し、ダイビング小説である。深海探査ものやリヴァイアサン系はよくあれど、フリーダイブによる実験がらみのプチミステリだった。すわ東洋のJ・マイヨールかっ!?と思っていたらチト違いましたね。ミステリーといっても事故・事件の真相追及が深く静かに潜んでいた水底から、潜水病にかからないようゆるく密かに上昇するように解決へと向かいます。水と陸、潜航と浮上、垣間見る幻影などなどが隠喩するものに思いを巡らせながら読んで下さい。沿岸部で素潜りしかやったことはないですが、水に揺蕩う雰囲気は感じ取れます。逆にスパン!と来ないのが難点でしょうか。ああ青春小説ではありませんね


















第86回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント



 
日本百名山

深田久弥

新潮社文庫
 810円現在(込)

 

978-4-10-122002-4
 

 深田久弥の名著「日本百名山」と百以降も勿論登りつづけ、漏れた分を収録した「山頂の憩い」。秋山がぎりぎりのうえ噴火・土砂崩れなど自然相手は自由にはならないのなら、せめて本で。今では一般的となった百の山の「品格・歴史・個性を兼ね備えた、原則標高1,500 メートル以上の山」という選択基準も自身が定めたもの。自然描写も含め冒険譚というより抒情的な文章が、登山家でもある小説家の“山岳随筆”といわれるところでしょう。本誌は今でも新潮文庫定番ラインナップなので手に入りますが、「山頂の憩い」は脱稿後、著者が茅ヶ岳で急逝され遺作・絶版になってしまいました。ではなぜここに?両方とも11/11()まで当店で開催中の、文庫古書フェアから見つけた一冊だから。同じ内容ですが改訂前で,字が小さいため薄いです。


















第87回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント


 
館もの

篠田真由美
綾辻行人

講談社
 1,728円(込)
講談社 810円(込)
 

978-4-06-299048-6
978-4-06-275857-4
 

 ミステリーの世界ではおなじみ、孤島・複雑な相続・村の因習・霊媒師…そして怪しい洋館!!いわゆる館(やかた)ものというのが確立されています。どんな財産持ちなら建てられるねん!というような建物が登場し続けます。乱歩のほか代表格の2人、綾辻行人の“建築家中村青司の建てた館で起こる事件”シリーズ、篠田真由美の“建築探偵 桜井恭介”シリーズ(画像は最新刊)。いずれもシリーズ初出「十角館の殺人」と「未明の家:絶版なので古書にて」からがおすすめです。耐震偽装に沸く?今ならば、増改築を繰り返す温泉旅館や沢田マンションよりもスゴイのが舞台の小説を。ほら、読書するきっかけはこんなところにも有りますよということで。


















第88回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント


 
桐野夏生の…



新潮社
 1,620円(込)

 

978-4-10-466704-8
 

 

「これ 三太夫!三太夫はおらぬか?」「殿何事で御座りまする」「桐野なる者に褒美をつかわせたいと思うが、いかがじゃ」「恐れながら、本日付けにて紫綬褒章を賜っております」「それはすごいのか」「…殿()、これまでは浅田次郎氏・北方健三氏・高樹のぶ子氏などが陛下に拝謁せられておるようで」「もしやどらま“だから荒野”の者か?」「どらま?好き嫌いは別れましょうが女性はーどぼいるどや、自活する者 逆に翻弄される主人公を描かせたら頭ひとつ抜けておりますな。絵は自伝的最新作“抱く女”にて御座ります」「ほう、余も読んでみてもよいのか」「なりませぬ、他の戯作が読めなくなりまする…」「これ三太夫、どこかで聞いた“下げ”ぞ、ネタ切れか」





















第89回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント

 
宇江佐真理の…

宇江佐真理

文藝春秋 562円(込)
 

978-4-16-790272-8
 

 11/6、宇江佐真理氏が亡くなられた。今年始め頃、闘病中であったのは知っていました。とはいえ早すぎる訃報に驚きを隠せません。数々の人気シリーズが、完結する前にもう読めなくなるかと思うと、いや正確には老後!の楽しみにとっておいたのにどうしようかと悩んでいるところです。今年に入ってからも、白川道・佐木隆三・オリバーサックス他、作家の訃報が多々ありました。ともすれば絶版になってしまうので出会う機会すら途絶えてしまいます。油断めさるな、お上の威光で紙の書物が消えてなくなる前に、かたっぱしから読んでおくべきですね。写真はシリーズ20年目“髪結い伊佐次”の文庫版最新刊です。ハードカバー版はあと3作。



















第90回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント

 
闘う君の唄を

中山七里

朝日新聞出版 
1,620円(込)
 

978-4-02-251312-0
 

 タイトルにピンと来た方、その通り!!。中島みゆき氏“ファイト!”の歌詞からです。各章の冠も歌詞の一部で構成されています。イメージに合っているのでこの世代には良い切り口かもしれません。幼稚園の新任教師が織りなす、モンスターペアレントとのやり取りが本文の主体なので、何と闘うかは明白…かと思ったら“私の敵は私”なんですよ、「どんでん返しの帝王」の名は伊達ではありませんね。同著者 初読でしたがラストのひっくり返しにびっくりです。別シリーズ某警部も特別出演にて、他作品とリンクしていますね。



















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