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イクシーの書庫・過去ログ(2005年7月〜8月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


水霊 ミズチ (ホラー)
(田中 啓文 / 角川ホラー文庫 2000)

タイトルは「水霊」と書いて「ミズチ」と読ませるということらしいです。ちなみに「みずち」とは元々「蛟」と書いて、蛇(あるいは蛇体の魔物)のことですが、ここではオリジナルの意味と、水に潜む化け物とをかけて使われています。
日本古代のシャーマニズムを研究している民俗学者・杜川己一郎は、イヅナ教という新興宗教を取材に訪れた宮崎で、教祖の家でたまたま同席したオカルト雑誌の記者・戸隠とともに、強力なポルターガイスト現象に遭遇します。亡くなった教祖の孫娘にあたる中学3年生・由美がポルターガイストの焦点になっているようでした。巫女のような神憑り状態になった由美は、「黄泉の国の入口が開き、イザナミがよみがえり、長虫が祟る」と謎めいた言葉をもらします。
翌日、教祖の故郷に当たるという飯綱村へ赴いた己一郎、戸隠、由美の3人は、再開発工事の際に発見された神社の遺跡を訪れます。掘り出された巨岩にはウロボロスを思わせる蛇の像が刻まれ、神代文字らしきものが記されていました。村興しを最優先して遺跡の存在をもみ消そうとする村長一派と言い争っている時、大きな地震が襲い、巨岩があった場所から泉が湧き出します。村長は泉の水を名水として売り出そうとしますが、地元では昔から「生水を飲むと蛇に祟られる」という言い伝えがありました。
案の定、湧水を飲んだ役場の職員は強烈な腹痛を訴えて悶え苦しみ、けろりと治った後には異常な食欲を示しながら栄養失調のようになって死亡してしまいます。ところが、検査をしても解剖をしても異常は発見できず、村長は名水の発売計画を強引に進めようとします。偶然、ペットボトルに入った湧水を目にした高名な巫女は「死に水だ」と恐怖の表情を浮かべるのでした。
己一郎は独占欲が強くわがままな恋人・まゆみに振り回されながら、由美に惹かれていく自分に気付きます。宮崎の地元は、古事記に出てくるイザナギ神が黄泉の国から戻って来た際に禊ぎをして穢れを払った場所であると言われていました。イザナギ神を怨むイザナミ神が無数に生み出し続け、人間を取り殺す黄泉醜女(ヨモツシコメ)の正体とは――?
古事記神話と蛇神伝説を融合させ、普段、何の気なしに口にしている水に潜む恐怖を描き出したサスペンスフルなホラーです。特にラスト近くで明かされる黄泉醜女の正体は秀逸(と言いますか、実に自分好み(^^;)。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.1


沈黙の教室 (ホラー)
(折原 一 / ハヤカワ文庫JA 1998)

“叙述トリックの第一人者”と呼ばれる折原一さん、実は初読みだったりします。
でも、解説の方も書いておられましたが、“叙述トリック”の名手という前評判を気にしながら読むと、どこで足をすくわれるかと注意を張り詰めながら読み進まなければならないので、かなり疲れます(笑)。一人称や代名詞で書かれている人物は、固有名詞で言うと誰に当たるのか、本当に暗示されている人物なのか、それともトリックなのか、いちいち気にしながら読み進むので、けっこうしんどい(^^; でもすいすい読めますが。
二十代のOL・由美は、車を運転中、飛び出してきた男性をはねてしまいます。男は軽傷でしたが、頭を打ったショックで記憶を失ってしまいました。彼が持っていた手帳には、とある中学校のクラスの名簿と「殺人計画」という記述が残されていました。
男は由美の協力を得て、この青葉ケ丘中学3年A組の卒業生を探しながら、記憶を取り戻そうと調査を開始します。
その現在の流れと並行して、20年前に青葉ケ丘中学3年A組で起こった怖ろしい出来事が、担任教師の回想を通して描かれていきます。クラスのメンバーには「恐怖新聞」が配達され、黒板に大きく書かれた「粛清」の文字と共に、悪戯では済ませられない悲惨な出来事が生徒を襲います。墓地の上に建てられた校舎、夜中になると段数が変わる階段、表情が変化する肖像画、笑う骸骨標本、誰もいないのに鳴り出すピアノ・・・など、定番の「学校の怪談」ネタが散りばめられ、姿なき犯人の悪意に翻弄される生徒と教師たち。
そして、20年後の同窓会で、再び悪夢は繰り返されようとしていました・・・。
叙述トリックといえば、以前、期間をおかずに読んだ
「殺戮にいたる病」(我孫子 武丸)と「殺人鬼」(綾辻 行人)の2冊で完膚なきまでに騙されましたから(笑)。この「沈黙の教室」は、身構えて読んだ分、結末のインパクトは少なかった印象がありますが、それでも十分に意外性と論理性と伏線の見事さを堪能できました。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.5


運命の剣(上・下) (ファンタジー)
(マーセデス・ラッキー / 創元推理文庫 2001)

創元推理文庫版『ヴァルデマール年代記』の4冊目。
今回の主人公は、偉大なる魔法使いケスリーの孫娘ケロウィンです。ケロウィンの母親がケスリーの娘のひとりなのですが、母親には魔法の才能はなく、魔法嫌いの父親の意向から、ケロウィンは祖母と会ったことはありませんでした。若くして母親が亡くなった後、まだ14歳のケロウィンは屋敷の切り盛りを一手に引き受けていましたが、兄の結婚式の日、悲劇は起こりました。隣国の陰謀で父は殺され、兄は重傷、花嫁はさらわれてしまいます。兵士はすべて死傷し、さらわれた花嫁を助けに行けるのは自分しかいない――そう決心したケロウィンは祖母ケスリーの城へ駆けつけ、なにか武器を与えてくれるよう求めます。そのとき、ケスリーの手元にあった魔法の剣<もとめ>が反応し、ケスリーは孫娘に運命の剣を譲り渡すことを決めます。<もとめ>が新たな持ち主を選んだのは、ケロウィンに心話の能力があったことにも関係があるのかもしれません。
単身、賊を追跡したケロウィンは、<もとめ>の力を借りて兄嫁の救出に成功、彼女の冒険は吟遊詩人の歌になって長く語り伝えられることになります。
これをきっかけに、家を出たケロウィンは、ケスリーとタルマ(かなりのばあちゃんになっていますが、相変わらず口が悪くて元気です)の元で剣と戦略の修行に励み、一人前の戦士へと鍛え上げられていきます。修行仲間のレスウェラン国(「裁きの門」の後半の舞台ですね)の第三王子ダレンとの初恋もあり(笑)。
やがて、ケロウィンは傭兵隊<天空の稲妻>に入隊し、持ち前の勇気と剣技と才覚で、次々と苦難を克服し、運命を切り拓いていきます。隊とはぐれての単独敵中突破のさなか、敵の捕虜となっていたヴァルデマール王国の<使者>(特殊能力を持ち、しばしば秘密任務に就く)を助け、レスウェラン国の元帥となったダレンと再会し、そして新たな戦いへと、ケロウィンは雄々しく立ち向かって行き、ついには師のタルマの域へ――。
前半は少女成長ものの青春小説風味、後半は本格的ミリタリー・ファンタジー(こういう呼称が存在するのかどうかわかりませんが)で、特にクライマックスの燃える展開は感涙ものです(ある意味では予定調和的ではありますが、プロットの設定がしっかりしているため、自然に読めます)。
できれば、先行する
「女神の誓い」「裁きの門」「誓いのとき」を呼んでからの方が、より楽しめるかと思います。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2005.7.8


恐怖の谷 (ミステリ)
(コナン・ドイル / 創元推理文庫 2000)

名探偵シャーロック・ホームズが活躍する4番目にして最後の長篇です。これで、創元推理文庫から出ているホームズ物はすべて制覇したことになりますか(最近出た戯曲版「まだらの紐」は未読)。
物語は2部構成。前半ではサセックス州の荘園で起きた殺人事件の顛末、後半は前半の事件の背景をなす過去の事件が描かれていおり、後半の舞台がアメリカであることなど、ホームズ長篇の第一作「緋色の研究」とよく似ています。
ホームズの元に謎の暗号文が届き、そこには怖ろしい事件がほのめかされていました。案の定、バールストンの荘園主ダグラスが猟銃で撃ち殺されたという報せが入り、ホームズはワトスンともども現場へ赴きます。アメリカ出身のダグラスの過去は謎めいていました。
ホームズの慧眼は事件の真相を見抜きますが、そこには二十数年前にアメリカの鉱山町を恐怖に陥れていた秘密結社にまつわる秘密が横たわっていました。それが第2部の内容。第2部だけで独立させた犯罪小説として読むこともできます。

オススメ度:☆☆☆

2005.7.9


ゼロ時間の橋 (SF)
(H・G・フランシス&クルト・マール / ハヤカワ文庫SF 2005)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の313巻。
引き続き、異銀河へ流されたローダン(しかも脳だけ!)の、故郷銀河へ戻るための苦闘が続きます。
前巻で、パラ脳移植の権威ドインシュトと協力関係になったローダンですが、脳を移植された現地種族ボルディンの肉体との適合がうまくいかず、早急に新たな移植を行わないと危険な状態に陥っています。ドインシュトの仇敵、闇ブローカーのハクチュイテンを罠にかけようと画策するローダンの作戦の行く末は――?
成功しなかったら物語が進まない、とか言ってしまってはいけません(笑)。
これまでずっと、執政官として大勢の部下や仲間たちと共に戦っていたローダンが、単独で戦いを続けることで、シリーズに変化を与えようとする意識は感じられます。長いシリーズ、マンネリ感を払拭するのは大変なようで(^^;

それと、今回初登場の訳者の方、「あとがき」ではしゃぎすぎです(汗)。故・松谷さんに倣おうとしているのかも知れませんが、松谷さんの暖かな人柄がにじみ出たしみじみとした「あとがき」の足元にも及んでいませんよ。

<収録作品と作者>「ゼロ時間の橋」(H・G・フランシス)、「ヘルタモシュ誘拐計画」(クルト・マール)

オススメ度:☆☆☆

2005.7.9


殺人は広告する (ミステリ)
(ドロシー・L・セイヤーズ / 創元推理文庫 1997)

ロンドンにある広告代理店「ピム広報社」に、新人の文案家(現代的に言えばコピーライター)が入社してきます。先日、文案家のひとりが社内の急な階段で転落死したため、その補充として急遽採用されたという触れ込みでした。
デス・ブリードンといういわくありげな名前のこの新人、入社早々、社内をあれこれとかぎまわり、特に先日の転落死事件に興味を持っているようでした。上司や先輩に嫌味を言われようが、タイピストたちにあれこれ噂されようが、どこ吹く風。さらに、死んだ文案家の妹と付き合う様子を見せたため、同僚のひとりからは逆恨みされる始末。
一方、スコットランド・ヤードのパーカー首席警部(名探偵ピーター・ウィムジイ卿の義弟にも当たる)は麻薬密売組織を追っていましたが、悪賢い組織は尻尾もつかませません。
名探偵ピーター卿が自ら渦中に飛び込んで暴いた、広告代理店にうごめく陰謀とは?
作者セイヤーズが実際に広告代理店でコピーライターをしていた経験を生かして書いた本作、当時の広告業界や代理店の実態が生き生きと活写されており、様々な(ある意味おバカな)エピソードを読んでいると、四半世紀前に一世を風靡した業界マンガ「気まぐれコンセプト」を思い浮かべてしまいました。それと、中盤に至って連想したのが、なぜかビジョルドのSF
「親愛なるクローン」だったりして(笑)。
いつも以上にユーモア度増量で、楽しく読めます。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.12


夏のレプリカ (ミステリ)
(森 博嗣 / 講談社文庫 2001)

犀川&萌絵シリーズ(そういえば、このシリーズ、S&Mシリーズと略されているんですね(^^;)第7弾です。
実は今回の事件、前作
「幻惑の死と使途」と時間的に表裏の関係になっています。同じ時期にふたつの別個の事件が並行して発生していたという次第。ですから、「幻惑の死と使途」には奇数章のみ、「夏のレプリカ」には偶数章のみが存在するのです。2冊を章のナンバーに従って交互に読んだらどうなるんでしょうね。
さて、こちらの事件ですが、萌絵の高校時代の同級生で東京の大学に通っている簑沢杜萌が那古野市へ帰省するところから始まります。実は、帰って来た杜萌が萌絵と一緒にマジックショーへ行く場面が「幻惑の死と使途」に描かれています。その後、タクシーで郊外の自宅へ帰った杜萌は、家族が在宅していないことに気付き、不審をおぼえます。実は、両親と姉は拉致されて、長野県にある簑沢家の別荘に監禁されていました。翌朝、杜萌自身も仮面の男に捕らえられてしまいます。
身代金を要求する、正体不明の3人の男女。杜萌も脅されて車で別荘へと向かいますが、別荘の中庭に停められたワゴン車の中では犯人の男女が射殺されており、残った1名(杜萌を拉致した男)は逃走します。
当初は犯人同士の仲間割れと思われましたが、長野県警の西畑刑事の粘り強い捜査で矛盾点が明らかとなります。さらに簑沢家からは、長男で盲目の詩人・素生が行方不明になっていました。
肝心の萌絵は「幻惑の死と使途」のマジシャン殺人事件にかかりきりで、あまり出番はありませんが、あまり多くない出演シーンでの存在感は相変わらず。初登場の西畑刑事が、コロンボみたいでいい味を出しています。
過去の作品のような密室トリックはなく、ポイントとなる手掛かりはクイーンの短篇のネタにされるような些細なことなのですが、それをきっかけに明かされる真相には、某作家の某作品を思わせる(これじゃ全然わかりませんな)大胆なトリックが仕掛けられています。難を言えば、素生失踪の真相が、どうもしっくり来なかったことでしょうか。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.13


トリガー(上・下) (SF)
(アーサー・C・クラーク&マイクル・P・キュービー=マクダウェル / ハヤカワ文庫SF 2001)

イギリスSF界の重鎮クラークと、アメリカ生まれのマクダウェルが初めて合作した大作です。
ノーベル賞を受賞した科学者ブロヒヤは、IT富豪ゴールドスタイン(どうやらビル・ゲイツがモデルらしい)の資金提供を受け、優秀な研究者が自由に基礎研究を行える施設として「テラバイト複合研究所」を設立します。ブロヒヤ自ら副所長にスカウトしたジェフリー・ホートンは、重力量子(ナデシコでおなじみのグラヴィトンですな)を使った“牽引ビーム”の実験をしていましたが、放射実験の際、研究所の守衛室や駐車場で謎の爆発事故が発生します。
検証の結果、ホートンのチームが製作した実験装置の放射が、周囲数百メートルに存在したあらゆる火薬を発火させたということが判明しました。『トリガー』と名付けられたこの装置は、戦争や安全保障の仕組を一変させることになると判断したブロヒヤは、熟考の末、平和主義者の上院議員ウィルマンの助言を受け入れて、時のアメリカ大統領ブリーランド(元メジャーリーグのエースという変り種です)に発明品を委ねます。
あらゆる火薬を問答無用で発火させてしまうという『トリガー』は、銃社会アメリカの社会を完全に変貌させることになりますが、『トリガー』の存在を公表すべきか否か、ブリーランドの苦悩が行き着く先は――?
ここまででも、まだ全体の1/3です。そこから先も、様々な勢力の思惑が絡み合い、たったひとつの基礎発明が世界にもたらす混乱と争い、それを克服しようとする人類の英知が描かれます。
発端はホーガン風味の純粋ハードSFで、彼の「創世記機械」を彷彿とさせますが、「創世記機械」は“発明がなされるまで”のプロセスが中心だったのに対し、こちらは“発明がされた後”の思考実験がリアルに行われます。
ある意味、クラーク&マクダウェルというコンビはニーヴン&パーネルに匹敵するコンビなのかも知れません。「アースライズ」3部作(創元SF文庫)で宇宙SFに軍事と政治をしっかりと絡めて描ききったマクダウェルが、本作のポリティカル・フィクションとしての側面をしっかりと支えていると言えます。
そして、クラークらしからぬ(?)、考えさせるラストも。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.16


グリーン・マーズ(上・下) (SF)
(キム・スタンリー・ロビンスン / 創元SF文庫 2001)

人類が植民した火星の歴史を緻密かつ重厚に描く大河SF三部作の第2作。
前作
「レッド・マーズ」では、<最初の100人>と呼ばれる植民者が火星に到着するまでと、その後のテラフォーミング計画の進展、植民者の内紛と、地球の超国家企業体・国連の思惑と陰謀、そして2061年の革命と叛乱で危機に瀕する火星が描かれます。
それから40年。2061年の叛乱を機に南極近くに隠れコロニーを建設した<最初の100人>の生き残りたちは、氷のドームの下で粘り強く生き続け、2世・3世も生まれていました(老化防止措置を取っているため、地球年齢では百歳を越えている<最初の100人>メンバーも元気に生き残っています)。
火星は国連と結託したいくつもの超国家企業体に牛耳られ、企業体同士の競争も激化していました(この状況は地球でも同様で、G11と呼ばれる先進国と企業体とが合従連衡を繰り返し、紛争が続いています)。そんな中、企業体のひとつで最もリベラルで穏健派の“プラクシス”の総帥は、火星に潜伏する<最初の100人>とのコンタクトをとって協力体制を築くべく、外交能力に長けたアート・ランドルフを火星へ送り込みます。アートは隠れコロニーから来た3世の青年ニルガルと接触し、隠れコロニーの幹部と行動を共にすることになります。
折りしも、2061年に破壊された軌道エレベーターが再建され、超国家企業体による火星の乱開発は激しさを増して行きます。地下に潜伏している開発反対の過激派や、地上で密かに活動している穏健改革派など、企業体と国連に反対する勢力は無数のグループに分かれていましたが、アートの助言で<最初の100人>の幹部連は、各勢力の大同団結を呼びかけ、対抗兵器の開発を始めます。いずれ、革命の機が熟する時のために・・・。
ニルガル、アート、初期植民者中唯一の密航者デズモンド、「レッド・マーズ」でも主役を演じたアン、サックス、マヤ、ナディアなど、章毎に別々の主人公の視点から描かれますので、各々の立場と主義によって同一の事象が複数の位相で読むことができます。だから、コクも読み応えも十二分。1100ページを読み終わるのに一週間かかりました(笑)。
第3作「ブルー・マーズ」は、現時点では未訳のようです。

オススメ度:☆☆☆

2005.7.22


スター・キングへの帰還 (SF)
(エドモンド・ハミルトン / 創元SF文庫 2001)

先日読んだスペース・オペラ「スター・キング」の続篇です。
「スター・キング」では、精神交換によって銀河帝国の王子ザース・アーンの肉体を得た20世紀の地球人ジョン・ゴードンが、心ならずも巻き込まれた銀河規模の戦いを勝ち抜き、中央銀河帝国に平和を取り戻した後、再び20世紀の地球に戻りました。
しかし、地球ではしがない保険会社の社員のゴードン。恋に落ちたフォマロート星系の王女リアンナを忘れられず、精神分析医にかかる毎日でした。そんな時、ザース・アーンが再び時空を超えて呼びかけてきます。精神だけでなく、肉体そのものも転移させられる技術を開発したというのです(どんな技術かは一切説明がありませんが、そこにツッコミを入れるのは野暮というもの)。
再び20万年後の銀河帝国へ赴いたゴードンは、愛するリアンナと再会を果たしますが、生身のゴードンの身体で出会うのは初めてなため、とまどいを覚えることに。しかも、リアンナは王位を狙う従兄弟ナラス・テインの攻撃を受けようとしていました。
死中に活を求めて辺境の星へ赴いたゴードンとリアンナは、お家騒動の裏に潜む銀河規模の陰謀に気付きます。数千年前に銀河に襲来し、最終兵器ディスラプターの発動でかろうじて撃退された外宇宙の敵の魔手が、再び銀河に伸びようとしていたのです。
前作でゴードンと共に戦った豪胆で有能な宇宙軍士官ハル・バーレル、リアンナの大臣でテレパシー能力を持つ鳥型の異星人コーカン、そして、前作で死んだと思われていた最大の敵の復活――。血湧き肉踊るスペース・オペラとしての道具立ては十分です。お約束の展開も多いのですが、そうでなければ面白くありません(笑)。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.23


連合艦隊 大死闘 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1999)

「新・太平洋戦記」の第7巻。そろそろ完璧に史実を離れます(笑)。
前巻でガダルカナル島を占領した日本軍は、勢いに乗って第2次ポートモレスビー攻略作戦を実行、それを阻止せんとする米艦隊との間で第2次サンゴ海海戦(もちろん史実にはありません)が勃発します。
互いに死力を尽くし、ヘマをし(笑)、結局は第1次サンゴ海海戦と同様、日本は艦隊戦では有利に終わらせたものの、ポートモレスビー攻略は諦めざるを得ず、戦術的には勝利したが戦略的に敗北するという結果になったのでありました。
その他の戦局は中だるみ状態といったところで、コロンバンガラ沖夜戦(これは史実をほぼなぞっているようです。日本が勝つし(^^;)とか、アッツ島の玉砕とキスカの撤収作戦といったアリューシャン戦域の動向が淡々と描かれます。
そして、この巻のクライマックスは、米軍の某大物が、史実での山本長官と同じような状況で戦死することでしょうか。確かに太平洋戦争での「もしも」を考える場合、ミッドウェイの爆雷交換とかレイテでの栗田艦隊の反転とかと同様、どうしても想定したくなる事態ではありますね。でも、なぜか今後の伏線が隠されているような描き方が気になりますが・・・。
そろそろ作者も疲れてきたのか、推敲不足と思われる文体と構成の崩れが目立って来ています。このままでは、志茂田作品の轍を踏む結果になってしまいそうな一抹の不安が(汗)。

オススメ度:☆☆

2005.7.24


世界の秘密の扉 (ファンタジー)
(ロバート・チャールズ・ウィルスン / 創元SF文庫 1995)

創元SF文庫から出ていますが、SFなのかダーク・ファンタジーなのかジャンル分けに困る作品です。まあ敢えてジャンルのレッテルを貼る必要もないわけですが。
カレン、ローラ、ティムの3姉弟は、子供の頃から不思議な能力を持っていました。あちこちの空間に扉を作って、そこから別世界を垣間見たり、その中に入り込んだりすることができたのです。しかし、両親、特に父親はこの能力を忌み嫌い、使ったことがわかると体罰を加えられることがしばしばでした。長女のカレンは父の意思に従って自分の能力を否定するように育ち、奔放な次女のローラは家を出て独立し、最も強い能力があった弟のティムは17歳の時に家を出たまま音信不通になっています。
カレンはやり手の弁護士ギャヴィンと結婚してひとり息子をもうけ、安定した生活を送っていましたが、ギャヴィンは愛人と家を出て行き、15歳の息子マイケルには、あの能力が芽生え始めていることが明らかになってきました。そして、ついにマイケルは「灰色の男」と邂逅します。かつてカレンたちが迷い込んだ別世界の陰鬱な町で出会い、3姉弟を怯えさせた謎の男と・・・。
どうやら、この世界を含めて無数の並行世界が存在しており、その中にノーヴァス・オールドゥと呼ばれる世界がありました。そこはこちらによく似ていますが、旧世界ではローマ教皇が支配権を握り、イスラム帝国と長きにわたる戦争を繰り広げていました。通常の科学のほか、錬金術や占星術などのオカルトも重用され、特に自由世界のアメリカでは新兵器を求めて怪しげな研究が幅広く行われていました。例の「灰色の男」はノーヴァス・オールドゥからやって来ており、3姉弟もこの世界となんらかの関係があるようでした。
マイケルを救い、平穏な生活を取り戻すため、カレンは20年ぶりにローラに会い、3人の秘密を知るために両親の許を訪れます。そこで知った、姉弟出生の秘密とは――? そして、「灰色の男」の正体とは――?
並行世界、いわゆるパラレルワールド・テーマというのは、SFにはしばしば登場しますし、特に時間テーマと関連させて描かれるケースも多いようです。最近読んだ優れた作品としてはJ・P・ホーガンの
「量子宇宙干渉機」があります。ファンタジー系の作品では“別世界”の存在は当たり前の設定と言っても良いくらいですが(キングの「ダーク・タワー」シリーズとかクライブ・バーカーの諸作品とか)、本作はSF的な並行世界の設定をファンタジーに持ち込み、独自の世界観を構築していると言えます。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.7.27


リング (ホラー)
(鈴木 光司 / 角川ホラー文庫 1999)

映像化され大ブームになった「リング」、ようやく読みました。なぜ今ごろ読んでいるのかというと、それはひねくれた性根の(笑)せい。ブームになって売れているときは「みんなが読んでいるんだから、自分くらいは読まなくってもいいよね」と考えてしまうのです。
ストーリーをご存知の方も多いと思いますが(^^;
4人の若者が、同日同時刻に変死します。いずれも急性心不全と診断されますが、全員の顔には激しい恐怖と思われる表情が刻まれていました。
死んだ少女のひとりの叔父にあたる雑誌記者・浅川は、偶然、もうひとりの若者が死んだ現場にいたという運転手のタクシーに乗ったことをきっかけに、死因に不審を抱き、独自に調査を始めます。調べていくうちに、死んだ4人は友人同士であり、夏休みの終りに箱根のリゾート施設を訪れていたことが判明、手掛かりを求めて同じ部屋に宿泊した浅川は、謎のビデオを見てしまいます。謎めいた映像が断片的に映され、最後に「この映像を見た者は1週間後に死ぬ」という無気味なメッセージで終わるのです。しかも、死を免れるための手段が映し出されるはずの部分は、故意か偶然か、テレビ番組が重ね撮りされてわからなくなっていました。
半信半疑ながらも、得体の知れぬ恐怖に襲われた浅川は、高校の同級生でオカルトに詳しい大学講師・高山の協力を得て、ビデオの謎解きを開始します。謎が解けなければ、浅川は1週間後に(ダビングしたビデオを見た高山も、1日遅れで)死んでしまうのです。
リミットを切られた登場人物が生きるために必死に奮闘するというプロットは、サスペンス小説にはよくあるパターンで(アイリッシュの「暁の死線」とか、J・ラティマーの「処刑6日前」とか。「宇宙戦艦ヤマト」もそうですな)、その設定でホラーにしたというところが新味でしょうか。それ以外にも、90年代中盤以降に隆盛を極める国産バイオ・ホラー、ハイテク・ホラーの先駆という位置づけもできるでしょう。
ただ、一大ブームになったという割には、設定に無理があったり、都合のいい偶然が続きすぎたり、小説としてのリアリティがやや希薄(説得力のないホラーほど怖くないものはありませんから、ホラー小説にはリアリティは重要なのです)で、「ここをこう直せばもっと面白くなるのに」と思う部分が何ヶ所も見受けられます。
ただ、最終評価は本書から3部作をなす
「らせん」「ループ」を読んでから下すことにしましょう。

オススメ度:☆☆☆

2005.7.28


蛇怨鬼 (ホラー)
(天沢 彰 / ハルキ・ホラー文庫 2001)

この作者は初めて知りましたが、小説のほかマンガを描いたりゲームデザインをしたりしているそうです。だからなのでしょう、スピーディな場面切替と描写のビジュアルな鮮やかさが目立ちました。
ネット霊媒(コンピューターに死者の霊を降ろすという新手のオカルト商売)を自称する菅原裕子が主催する降霊会に参加した3人の男女。異変に驚き会場のマンションを逃げ出しますが、数ヵ月後、OLの柳田アキコ(夫は事故死しており、夫の霊に会うために降霊会に参加しました。夫の忘れ形見を妊娠中)は断続した頭痛に襲われた末、ビルの屋上から墜落死します。現場に居合わせた霊能力を持つ女子高生・花梨は、アキコの背後に張り付いた無気味な女の姿を目にします。
事件を担当した渋谷署の刑事・落合(世渡り下手で、上司に煙たがられる猪突猛進タイプ)は、元恋人で監察医の貴子から、アキコの子宮から胎児が消え去っており、脳が食い荒らされた形跡があると知らされます。捜査を進めるうち、なぜか無数の蛇の幻影に襲われる落合。警視庁の若手キャリアのホープ、霧島に呼び出された落合は、表に出せない奇怪な事件記録が保管されている“迷宮課”の存在を知ります。事件を追う落合は、アキコの他にも同様の変死者が出ていることを突き止めますが、意外にも政府筋から事件をもみ消そうとする圧力がかけられていることに気付きます。おぞましき事件の真相は?
確かに面白いのです。でも、その理由を考えると、内外の面白い先行作品(小説に限らない)のエッセンスを採って来て、それらをうまく組み合わせているからなのですね。
「X−ファイル」的な設定とハードボイルドな主人公(本人の口からフィリップ・マーロウの名前が出ます)に、ショーン・ハトスンの生理的スプラッター(「スラッグズ」とか)と、夢枕獏さんに代表される超能力/伝奇アクションの風味を加え、バイオ・ホラーとハイテク・ホラーの小道具を散りばめつつも、最終的には純日本的な(横溝正史趣味もあり)怨霊復讐譚に収斂してきます。で、クライマックスはゲーム
「弟切草」の某エピソードに(特にビジュアル的に、ですね)そっくり(笑)。
某ホラー作家のように露骨なパクリではなく、作者がこれらの世界が好きで、どっぷりはまり込んだ中から自然に生まれてきた物語という気がします。

オススメ度:☆☆☆

2005.7.30


闇が噛む (ホラー)
(ブリジット・オベール / ハヤカワ・ミステリ文庫 2000)

フランス女流作家によるノンストップ・スプラッター「ジャクソンヴィルの闇」の続篇です。(以降、第1作のネタバレ記述がありますのでご注意ください。特に、誰が生き残ったのかわかってしまうと第1作を読むのが面白くなくなってしまいますから)
ニューメキシコ州の田舎町ジャクソンヴィルを壊滅させた事件で生き残った6人は、それぞれ新しい生活を始め、2年が過ぎました。邪悪な闇の力によって生かされた死者たちの暴走という真相は封印され、軍が密かに開発していた幻覚性の毒ガスが漏れたために住民が錯乱し、互いに殺し合ったということになっています(生き残ったFBI捜査官サマンサとマーヴィンが、納得できる説明としてでっちあげて上に報告したもの)。
しかし、2年後の今、6人は連夜の悪夢に悩まされるようになっていました。折りしも、アルバカーキで、交通事故で死んだ幼い姉弟の遺体が安置所から消えるという事件が持ち上がり、生き残りのひとり14歳のジェレミーは夜の街でホームレスを食い殺しているふたりの子供を目撃します。ところが、別の目撃者の証言からジェレミーが容疑者とされ、アルバカーキ警察のアグネロ警部補に追跡されることになってしまいます。この警部補、白人至上主義者で陰謀論にどっぷりと浸かっており、事件の黒幕はロズウェルに潜むエイリアン(当然、FBIや合衆国政府とも内通している)だと思い込みます。まあ真相のとんでもなさはそれと五十歩百歩ですが(笑)。
同じく生き残りのローリー少年はジェレミーを助けるために家出をし、死体消失事件を重視したサマンサとマーヴィン、ジャクソンヴィルの保安官だったハービーもローリーとジェレミーの後を追います。6人目の生き残り、80歳になるルースがいるラスヴェガスで、ついに6人は再会を果たしますが、ゾンビ姉弟とその父親、愛犬(いずれもゾンビ)が襲い掛かってきます。巻き込まれてしまったゲイのミュージシャン・バディ、マシンガンや手榴弾まで持ち出して一行を殲滅しようとするアネグロ(本人は地球を守っている正義の味方のつもり)を含め、三つ巴の追跡劇が始まります。
ところが、後半に至って話は急展開。ダンテの「神曲」の悪趣味なパロディとも思える煉獄めぐりが始まり、物語はいつのまにかスラップスティックなダーク・ファンタジーへと変貌してしまうのです。
いいんですか、こんなオチで!(汗)

オススメ度:☆☆☆

2005.7.31


催眠 (ミステリ)
(松岡 圭祐 / 小学館文庫 2001)

松岡圭祐さんのデビュー作。この人、初読みです。
インチキ催眠術師・実相寺は、奇妙な女性に出会います。入江由香と名乗るその女性は、「巨大な緑の猿に催眠術をかけられている、それを解いてほしい」と頼み、からかわれていると思った実相寺が怒ると、突然、自分は宇宙人だと言い出しました。
ところが、由香には超能力としか思えない読心能力がありました。これは使えるとにらんだ実相寺(実態は雇われ芸人)は、由香を社長に売り込んで、自らマネージャーとなって原宿の<占いの城>に出店します。由香の人間離れしたチャネリングに人気は上々、そんな時、普通の客と異なる挙動不審な男が連日、店を訪れます。男の正体は、<東京カウンセリング心理センター>催眠療法課の課長・嵯峨敏也でした。
国内最大のカウンセリング機関である<東京カウンセリング心理センター>は、常時100人のカウンセラーが待機し、個人から企業・政府機関にまでコンサルティングを行っています。嵯峨はチャネラーとして名前が売れてきた入江由香は解離性同一性障害――多重人格症ではないかと懸念を持ち、上司の倉石の許可を得て由香の身辺を探り始めます。実際には、カウンセラーは依頼がなければ動けないので、嵯峨の行動は厳密にはセンターのルールに抵触することでした。由香をつけた嵯峨は、彼女を見張る太った謎の男に気付きます。男の正体は――。
非常に濃密で、いろいろと考えさせられ、しかも抜群に面白いこの物語、ジャンル分けが難しいです。端的に言ってしまえば、この物語の本筋は、ひとりの多重人格障害者を、カウンセラーが催眠療法で治癒させるという、それだけ。犯罪らしきものが起こり、警察も動きますが、ミステリと言い切ることもできません。やはり“エンタテイメント”としか言いようがないかも(笑)。カウンセラーの日常と努力が垣間見える心温まるサイドストーリー(言ってみれば人情噺)もいくつか並行して描かれていますが、これはシリーズ化を意識して登場人物紹介をしているのではないかと思われます。
本シリーズは、小学館文庫から続々刊行中です。マイペースで追いかけていきます。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.8.2


江川蘭子 (ミステリ)
(江戸川 乱歩ほか / 春陽文庫 1993)

戦前、雑誌『新青年』に連載された、6名の探偵作家によるリレー小説。
元々、一流のミステリ作家による合作リレー小説というのは欧米で前例があり、クリスティ、セイヤーズ、バークリー、チェスタトン、クロフツなどイギリスの錚々たるメンバーが揃った「漂う提督」(ハヤカワ・ミステリ文庫)、「ホワイトストーンズ荘の怪事件」(創元推理文庫)、時のアメリカ合衆国大統領F・ルーズベルトの原案をヴァン・ダインらがリレー方式で小説に仕立てた「大統領のミステリ」(ハヤカワ・ミステリ文庫)などが邦訳されています。
この「江川蘭子」は江戸川乱歩・横溝正史・甲賀三郎・大下宇陀児・夢野久作・森下雨村という、いずれも当時の一流の作家揃い(挙げた順に書いています)。
ただし、リレー小説というのは非常に難しく、よほど打合せをしっかりしておかないと、進むにつれてあさっての方向へずれて収拾がつかなくなってしまいます。特に本格的な謎解きミステリになると、伏線の張り方など、構成を緊密にしておく必要があるため、なおさら難しくなります。前述の「漂う提督」なども、メンバーが粒揃いの割には凡作に終わっています。
リレー方式での成功例といえば、世界最長の小説「ペリー・ローダン・シリーズ」ですが、こちらは“プロット作家”(初代シェール、2代目はフォルツ)と呼ばれるリーダーがあらかじめおおまかなストーリーを決めておき、メンバーがそれに沿ってオリジナルのサイドストーリーを織り交ぜていくという形をとっています。
「江川蘭子」について言えば、謎解きミステリではなく犯罪サスペンスなため、行き当たりばったりに書いていてもそれほど破綻は生じていません。一人目の乱歩は犯罪心理学的な講釈をたれながら主人公・江川蘭子(この名前は江戸川乱歩のもじり)の犯罪者的性格が醸成された事情を語り、2番手の横溝は、成長した蘭子のご乱行を描くと共にパトロンの戸川や愛人の混血児・四郎、隣人の城山一家など「出すだけ出したから後はうまくこれらの登場人物を使ってください」とバトンタッチ。3人目の甲賀は「俺は本格ものが好きなんだよ、こんな扇情的なのは書きたくないんだよ」とぼやきつつ、街を襲った疫病と謎の僧という新要素を加え・・・と、ここまで来ると後半の3人は、辻褄の合う結末に向かって書きついで行かなければならないわけで、苦労が見られます。ラス前(笑)の夢野はさすがに見事な背景の描き込みで内容に深みを与えていますが、雨村の結末はやはり予定調和に走り、某有名海外ミステリ(クリスティのアレです)のタイトルを思い出させるラストとなっています。
物語を楽しむというよりも、それぞれの巨匠特有のアイディアや文体を味わうのが、この作品の読み方かと思います。

<各章タイトルと作者>「発端」(江戸川 乱歩)、「絞首台」(横溝 正史)、「波に踊る魔女」(甲賀 三郎)、「砂丘の怪人」(大下 宇陀児)、「悪魔以上」(夢野 久作)、「天翔ける魔女」(森下 雨村)

オススメ度:☆☆

2005.8.2


カルパチアの城 (伝奇)
(ジュール・ヴェルヌ / 集英社文庫 1994)

ヴェルヌ後期の作品で、彼にしてはちょっと異色な雰囲気のある小説です。
トランシルヴァニアの片田舎に“カルパチアの城”と呼ばれる古城がありました。当主だったゴルツ男爵が失踪を遂げて以来20年、城は住む人もなく荒れ果てていました。
そんなある日、旅の商人から買った遠眼鏡で城をながめていた羊飼いフリックが、城から煙が立ち昇っているのに気付きます。ふもとにあるヴェルスト村の迷信深い住人たちは、城に悪魔が住みついたのだと恐れおののきますが、勇敢な森番の若者ニックは医師パタクを伴って、“カルパチアの城”の内部を探索に出かけて行きます。
しかし、村の宿屋に響き渡る脅しの声、真夜中に城から放射される無気味な光など、怪奇な出来事が続き、ようやく城壁にたどり着いたニックは何もない場所で衝撃を受け昏倒してしまいます。結局ふたりはなすすべなく帰還するのでした。
そんな時、旅の途中で村を訪れた若き伯爵テレクは、城の持ち主がゴルツ男爵と聞いて、色めき立ちます。かつて自分が愛した歌姫を悲惨な運命に追いやった仇敵こそ、ゴルツだったのです。
ここまで書いてきた内容でおわかりのように、ストーリーは「オトラント城」以来連綿と続く正統なゴシック・ロマンスです。しかし、そこはそこ、クライマックスに至ってヴェルヌらしさが発揮されるわけですが、そのまま最後までゴシック路線で行ってほしかった気もします。

オススメ度:☆☆

2005.8.4


エラリー・クイーンの事件簿2 (ミステリ)
(エラリー・クイーン / 創元推理文庫 1998)

クイーンの代表作はほとんど十代の頃に読んでしまい、今は落穂拾い(笑)をしているところです。今になって読み返せば、また新たな感じ方ができるのでしょうけれど、読み返している時間はなく(汗)。
さて、この本には、クイーンがラジオ・ドラマや映画の脚本として書いたものを、後に小説化した作品が3篇、収められています。「エラリー・クイーンの事件簿1」収録の2篇にも登場する押しかけ秘書(笑)、ニッキー・ポーターとエラリーのスチャラカなコンビぶりが見ものですが、ミステリとしての勘所も押さえられています。
エラリーとニッキーの目前でひき逃げされて死亡した男性が遺した「クラブのみんなが、殺される」という警告めいた言葉から、20年前に設立された<生き残りクラブ>(基金を運用し、20年目に生きていた会員だけが山分けできる)の存在が明らかとなり、その会合で出された酒の瓶から大量の青酸が検出されるという事件の謎を解く「<生き残りクラブ>の冒険」(でも、ここで使われているトリックは日本では通用しませんな(^^;)。
遺産の全額を慈善団体に寄贈するという遺言書を書いた百万長者が殺され、彼の死によって利益を得る者はいないはずという“動機なき殺人”を描く「殺された億万長者の冒険」。
そして、ピストル自殺をしたと思われた山師が、実は他殺だったということから始まる、いかにも映画的でスピーディな場面展開がなされる(もともと映画の脚本ですから)「完全犯罪」。特に、序盤でエラリーの気が狂ったと思い込んだニッキーが、古書競売の会場へ乗り込んで起こるドタバタが出色です。
ふと気付きましたが、このニッキーのキャラクター、S&Mシリーズの西之園萌絵と共通点が多いような気がします。探偵役に気があって、自信満々で事件に首を突っ込んで混乱させるものの、何気なく口にした言葉が事件解決の大きなポイントとなるところとか(もちろん萌絵の方が桁違いに聡明で桁違いに世間知らずですが)。森博嗣さんは意識していたのでしょうか。

<収録作品>「<生き残りクラブ>の冒険」、「殺された億万長者の冒険」、「完全犯罪」

オススメ度:☆☆☆

2005.8.5


琥珀の城の殺人 (ミステリ)
(篠田 真由美 / 講談社文庫 1998)

建築探偵・桜井京介シリーズ(未読・待ち行列中)で知られる篠田真由美さんのデビュー長篇です。『異形コレクション』で、彼女の描く中世・近世ヨーロッパを舞台とするファンタジック・ホラー短篇は読んでいましたが、長篇は初読み。
18世紀の後半、カルパチア山脈にそびえる城館ベルンシュタインブルクが舞台です。
城主ブリーセンエック伯爵が、鍵のかけられた書庫で背中を短剣で刺された死体となって発見されます。城館には、伯爵の一族――嫡子アンドレアスと弟妹、非嫡子イザーク、伯爵の後妻ソフィーとその子シュテファン、ソフィーの弟ジョルジュ、養女ベアトリーチェ、伯爵の姉に弟夫婦のほか、伯爵の客分プレラッツィと従者などが滞在していました。
アンドレアスの依頼で犯人探しを務めることになったのは、サンジェルマン伯爵かカリオストロを思わせる謎の人物プレラッツィでした。ジョルジュの目を通して、探偵にしては謎めいた行動をするプレラッツィと、確執と愛憎が渦巻く人間模様が露わになっていきます。
そして、通夜の晩に殺された伯爵の遺体が棺から消え去り、城内には伯爵の先妻(アンドレアスらの母)ユリアーナの血まみれの幽霊が出没します。そして第2、第3の死が――。
舞台が舞台だけに、科学捜査や警察機構といった細かな部分を描く必要がなく、ゴシック・ロマンス風味の横溢したエキゾチック・ミステリに仕上がっています。時代考証については、「深くツッコまないでください」とあとがきで作者も言っておりますので、とやかく言うのは野暮というものでしょう。

オススメ度:☆☆☆

2005.8.7


アシェンデン (エスピオナージュ)
(サマセット・モーム / ちくま文庫 1994)

モームを読むのは「魔術師」以来、2冊目です。本来は守備範囲外の作家さんなのですが(笑)。
副題が「英国秘密情報部員の手記」。モーム本人が第一次大戦中、作家という職業を隠れ蓑にイギリスのスパイとしてスイスのジュネーブを中心に活動した、実際の経験を元に書かれた実録小説・私小説的なスパイ小説なのです。ちなみに創元推理文庫から出ている「秘密諜報部員」は同一作品(翻訳者は異なりますが)。
とあるパーティで同席したR大佐という人物にスカウトされ、イギリスのスパイとして働くことになった作家アシェンデン。小説の題材探しという名目でジュネーブにやって来たアシェンデンは、現地警察に疑われて家宅捜索を受けたり、メキシコ人の革命家と協力して敵国スパイを監視したり、パリで女スパイを利用したり、ドイツに寝返ったイギリス人スパイを罠にはめたり、ロシアと協力するためにシベリア鉄道に乗ったり、せっかくたどりついたペトログラードでロシア革命に巻き込まれたり・・・といった経験をします。
007シリーズのような派手な銃撃戦やアクションもなく、ジョン・ル・カレの小説のような大規模な国家謀略もなく、時にはお堅いイギリス大使の過去の熱烈な恋愛エピソードやアシェンデン自身の恋の思い出も盛り込まれて、ある意味では非常にリアルなスパイ小説と言えます。

<収録作品>「R大佐」、「家宅捜索」、「ミス・キング」、「毛無しのメキシコ人」、「黒髪の美人」、「ギリシア人」、「パリ行き」、「踊り子ジューリア・ラッツァーリ」、「スパイ・グスターフ」、「売国奴」、「舞台裏」、「大使閣下」、「丁か半か」、「シベリア鉄道」、「恋とロシア文字」、「ハリントン氏の洗濯物」

オススメ度:☆☆☆

2005.8.10


「ぷろふいる」傑作選 (ミステリ:アンソロジー)
(ミステリー文学資料館:編 / 光文社文庫 2000)

大正末期から昭和20年の終戦までに発行されていた探偵小説雑誌に掲載された短篇を、雑誌ごとに編纂した『幻の探偵雑誌』シリーズの第1巻。
「ぷろふいる」は、京都在住の愛好家が編集・出版を手がけた、いわば出発点は素人の趣味だったという雑誌なのだそうです。新人の発掘にも積極的だった一方、一線級の作家の作品も掲載されています。
この本には11編が収録されていますが、うち4作(「蛇男」角田喜久雄、「不思議なる空間断層」海野十三、「花束の虫」大阪圭吉、「絶景万国博覧会」小栗虫太郎)は既に読んだことがあり、逆に初めて知った作家も3人います。
本格謎解きの「血液型殺人事件」(甲賀三郎)と「狂燥曲殺人事件」(蒼井雄)、フロイトの精神分析を探偵法に応用した「就眠儀式」(木々高太郎)、現代ならサイコ・ホラーに分類されそうな「木魂」(夢野久作)、ドッペルゲンガーをモチーフにしているのは共通するのに料理法が対照的な「陳情書」(西尾正)と「両面競牡丹」(酒井嘉七)など。

<収録作品と作者>「血液型殺人事件」(甲賀 三郎)、「蛇男」(角田 喜久雄)、「木魂」(夢野 久作)、「不思議なる断層空間」(海野 十三)、「狂燥曲殺人事件」(蒼井 雄)、「陳情書」(西尾 正)、「鉄も銅も鉛もない国」(西嶋 亮)、「花束の虫」(大阪 圭吉)、「両面競牡丹」(酒井 嘉七)、「絶景万国博覧会」(小栗 虫太郎)、「就眠儀式」(木々 高太郎)

オススメ度:☆☆☆

2005.8.11


マクツァドシュの地獄 (SF)
(エルンスト・ヴルチェク&ウィリアム・フォルツ / ハヤカワ文庫SF 2005)

『ペリー・ローダン・シリーズ』の第314巻。
引き続き、罠に落ちて異銀河(ナウパウム銀河)に脳だけ送られてしまったローダンの苦闘が描かれます。
前巻でコンタクトをつけたナウパウム銀河の有力者ヘルタモシュと共に惑星レイトに下り立ったローダン(悪名高い闇商人ハクチュイテンの肉体に宿っています)、いきなり政争に巻き込まれて首都マクツァドシュのスラムをうろつく羽目に。
一方、脳移植市場の中心地ヤアンツァルでは、政府首脳がサイナック・ハンターを目覚めさせ、逃亡したローダンの追跡を命じます。ハンターは、遥かな過去にナウパウム銀河を支配していたユーロク人の生き残り(もちろん脳だけ)のひとり。こうした孤独で異質な存在がアイデンティティを求めて暗躍するという設定はフォルツのお得意で(デビュー作「戦慄」からしてそうでした)、このユーロク人という存在が今後どうストーリーに絡んでくるのか興味深いところです。

<収録作品と作者>「マクツァドシュの地獄」(エルンスト・ヴルチェク)、「サイナック・ハンター」(ウィリアム・フォルツ)

オススメ度:☆☆☆

2005.8.13


暗闇の教室1 百物語の夜 (ホラー)
(折原 一 / ハヤカワ文庫JA 2001)

「沈黙の教室」に続き、『学校の怪談』や都市伝説のモチーフをふんだんに盛り込んだサスペンス・ホラー。
戦後のダム建設によって水没した、長野県と群馬県(作中では“N県”“G県”とぼかされていますが)の境界の山中の緑山村。渇水によってダムの水が干上がり、水没していた村の家並みが姿を現しました。その中には、緑山中学校の旧校舎も。
山のふもとに移転している現在の緑山中学校の生徒4人――ガキ大将の満男、クールな弘明、パシリの裕介、学級委員長の“私”は、夏休みのある日、干上がったダム湖の底へ下りて、旧校舎に泊まって肝試しをやろうと計画します。台風が接近し、天気が荒れ始める中、恐怖を感じながらも校舎へたどり着いた少年たちは、ロウソクの灯りの中で百物語を始めます。
同じ日、現在の緑山中学の音楽教師・高倉千春(「沈黙の教室」に登場した女性です)は、ふたりの女生徒を連れて、結核のためサナトリウムで療養中の生徒・真知子を見舞いますが、その帰り、台風で嵐となった山道で迷ってしまいます。千春の運転する車は、緑山村の廃墟へと近付いて行くのでした。
一方、この地域には、ふたりの危険人物が潜伏していました。連続婦女暴行殺人鬼の浦田清(もちろんモデルは大久保清でしょう)と、何人もの同志を粛清した残虐な過激派のリーダー、那珂川映子(これもモデルは連合赤軍の永田洋子でしょう)。
また、物語の合間合間に、かつて緑山中学の教師で校長まで務めた片岡雄三郎(軍人上がりのスパルタ暴力教師)の講義が挿入されます。
少年たち、千春と女生徒、殺人鬼に過激派、片岡校長の行動と運命はどのようにからみあって行くのか。台風に直撃された緑山中学での一夜を、恐怖と戦慄が支配します。
叙述トリックがあちこちに仕掛けられているため、固有名詞で語られない登場人物(私、彼、少女、男、彼女、女性etc.)が具体的に誰のことなのかいちいち考えながら読み進まなければならないので、けっこう集中力を要します。でもやっぱり騙されるんですけど(笑)。
とりあえず、結末で事件は一応の解決を見るのですが、諸々の謎は残されたまま、「暗闇の教室2 悪夢、ふたたび」へと続きます。特にラストに掲げられた新聞記事の意味深長な1行がとても気になります。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.8.13


暗闇の教室2 悪夢、ふたたび (ホラー)
(折原 一 / ハヤカワ文庫JA 2001)

「暗闇の教室1 百物語の夜」の続きです。
「百物語の夜」から20年後、女教師の高倉千春は事故で頭を打ったショックで、事件の夜の記憶を呼び覚まされます。あの時に頭を打ったためか恐怖を忘れるためか、彼女は20年間、当時の記憶だけを無くして普通に生活していたのです。
あの時、実際に何があったのかを確認するため、千春は今や成人してそれぞれに暮らしているかつての生徒たちを訪ね歩きます。内装屋の社長になった満男、父が経営していたラブホテルを引き継いだ裕介、これも父と同じ個人タクシーの運転手になった弘明、売れないライターになった学級委員長、結婚して宿屋の若女将になったゆきえに、離婚して出戻った厚子、キャリアウーマンになった真知子・・・。
折りしも、20年ぶりの旱魃で緑山ダムが干上がり、事件の舞台となった緑山中学の校舎が姿を現します。千春の気まぐれで、荒れ果てた校舎で同窓会をすることになった当事者たちの許に無気味な脅迫状や脅迫電話がかかり始め、那珂川映子らしき女性が出没します。浦田清も生死不明のままでした。
謎の復讐者が恐怖をもたらすというプロットは「沈黙の教室」を踏襲していますが、仕掛けの破天荒さははるかに上。中盤で明かされる大きな叙述トリック(綾辻行人さんも、ある作品で効果的に使っています)には、その50ページほど手前で気付いて愕然としました。そうなると、1での流れや描写がまったく別の様相を呈してしまうのです。
もうひとつ、終盤近いところで「もしかしたら真犯人はあの人物か?」と思いましたが、「いや、いくらなんでもそんなバカバカしい真相を設定するわけがない」と捨てました。
・・・でも、その推測が当たってました(汗)。文中の言葉によれば、その段階で真犯人を当てられるのは天才かよほどのひねくれ者だそうです。後者だな(笑)。
八方破れなようでいて、後から振り返ると論理に破綻がなく、すべての辻褄があってしまうところがすごいです。かなり無理やりな部分はありますけれど、納得させられてしまいます。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.8.15


キラシャンドラ (SF)
(アン・マキャフリイ / ハヤカワ文庫SF 2000)

「クリスタル・シンガー」の続篇です。
・・・とは言っても、前作「クリスタル・シンガー」を読んだのは20年も昔のこと。マキャフリイの作品は、シリーズであればほとんど間をおかずに買ってたのに、これだけはずっと放ってありました。
理由はおそらく、主人公キラシャンドラ・リーの性格設定にあったものと思われます。マキャフリイが描くヒロインの多くは、けなげで聡明、前向きに自分の道を切り拓いて行くタイプです。『パーン』のレサ、メノリ、モレタしかり、『歌う船』シリーズの主人公たちしかり、
『キャテン』シリーズのクリスしかり。でも一方、癇癪持ちで自信家で、ある意味鼻持ちならないタイプもいます。『九星系連盟シリーズ』のローワンダミアは後者でしょう。そして、キラシャンドラも、まさにそのタイプ。感情移入が難しいキャラクターでしたので、「クリスタル・シンガー」の続篇が出たのを知った際も、まあ読まなくてもいいかと思ってしまったわけで。
さて、物語ですが、声楽家としての道に挫折したキラシャンドラが、自分の持つ絶対音感を生かせる唯一の職業としてクリスタル・シンガーの道を選び、恋をしながらのし上がっていくというサクセス・ストーリーが前作。クリスタルというのは、宇宙船の推進機関など、ありとあらゆる場所に使われる貴重な鉱物で、絶対音感の持ち主であるクリスタル・シンガーがカッターを同調させなければ切り出せないという資源。
本作では、冒頭、惑星ボーリィブランでクリスタル・シンガーとして成功したキラシャンドラが、嵐で自分の鉱山が破壊されクリスタル鉱脈を失ってしまいます。収入の道を絶たれたキラシャンドラは、遠く離れた惑星オプセリアでのクリスタル・オルガン修復の仕事を請け負い、出かけていくことになります。それは、恋人との永遠の別れをも意味していました。
キラシャンドラにはオルガン修復という表向きの任務の他に、観光客は受け入れるけれども惑星住民は一切宇宙に出さないというオプセリア政府の意図を調査する極秘任務もありました。到着したキラシャンドラは、一癖も二癖もあるオプセリアの長老たちと腹の探りあいを始めますが、いきなり投擲武器を投げつけられ、うまい酒を求めて散歩に出たとたんに誘拐されてしまいます。
離れ小島に置き去りにされたキラシャンドラは、持ち前の意地とバイタリティで自力脱出を果たしますが、ようやくたどりついた島で、自分を誘拐した若者の姿を目にします。どうやら、クリスタル・オルガンの破壊やキラシャンドラの誘拐の裏には、オプセリア政府と島の住民たちの軋轢があるようでした。
キラシャンドラは、謎を解き、自分を誘拐した黒幕に復讐すべく行動を開始します。
前作に比べると、マキャフリイらしいストレートな冒険SFになっており、ロマンス色も豊かです。ただし、前作を先に読まないと、細かな設定がわかりにくいかも。

オススメ度:☆☆☆

2005.8.18


彼岸花 (ホラー)
(長坂 秀佳 / 角川ホラー文庫 2001)

「弟切草」に続く、長坂さんの書き下ろしホラー第2弾。
京都旅行に出かける3人の女子大生。代々医師の良家のお嬢様・有沙、ちょっとレズっ気のあるデザイナー志望の美大生・融、ボーイッシュな霊感少女・菜つみ。同い年の3人は、たまたま乗り合わせた新幹線の車中で知り合い、すっかり意気投合して、京都で一緒に過ごそうと決めます。3人とも先祖は京都の人で、1年前には変態趣味のある恋人が不可解な状況で死んでいる(または失踪して生死不明)という共通点までありました。
初日は菜つみの発案で怪奇スポットを回ることに決めた一行は、タクシーをチャーターすると、順番に怨霊や因縁に彩られた寺社めぐりの旅に出ます。最終目的地は菜つみが図書館の古文書で発見した、地元の人も知らず地図にも載っていない「鬼谷寺」という謎の寺。
ところが、行く先々で舞妓姿をした謎の女性(幽霊?)が出没し、年老いた行者は3人を見ると不吉な予言を残して姿を消します。さらに、警視庁から来たという青年刑事・柚木からは、1年前に長野で起こった首無し殺人事件の容疑者である若い女性が周辺を立ち回っているので注意するよう警告されます。情報を集めるうちに、舞妓姿の女性は京都に古くから言い伝えられる怨霊“お篠さま”だと判明、幽霊やオカルトを信じる融・菜つみと懐疑的な合理主義者・有沙の間で本物か何者かのトリックかで論争が起こります。しかし、否応なく3人は謎の寺・鬼谷寺へ導かれて行くのでした。
彼岸花が怪奇のモチーフとして多用され、恐怖をもたらす中心テーマが“復讐”であるところも、「弟切草」と共通しています。また、「弟切草」の登場人物についての言及がちらっとあるところからも、同じ世界だと推測できます。共通点はそればかりではなく、不安なままたどり着いた屋敷(この場合は寺)で怪異に襲われる点、ミイラの代わりに鬼と幽霊が出て、浴室(この場合は露天風呂)でエロチックな事件が起きる点、主人公らが互いに疑心暗鬼に陥る点など、作者が意識して「弟切草」の発展的な再話を目指していることがうかがえます。違っているのは、舞台にたどり着くまでの不安をあおる過程に全体の半分を費やし、たっぷりと伏線を張っているところ。
クライマックスは「弟切草」の某シナリオを思い起こさせる展開で、ゲームのプレイヤーに対するサービスも十分です。プレイしていなくても、問題なく楽しめますが。
もしかすると、長坂さんはこのシリーズで、ゲーム「弟切草」の全シナリオを再構成し、小説としてのコンプリートを目論んでいるのではないかと感じます。続刊を読めばわかるでしょう(^^;

オススメ度:☆☆☆☆

2005.8.19


 (ミステリ)
(麻耶 雄嵩 / 幻冬舎文庫 2000)

講談社以外から出ている、今のところ唯一の麻耶雄嵩作品。
珂允(カイン)は、殺された弟・襾鈴(アベル)の死の謎を解くために、襾鈴が半年前に滞在していた山村・埜土を訪れます。地図にすら記載されていない埜土にたどりついた珂允は、突然現れた鴉の大群に襲われ、倒れているところを村人に助けられます。
埜土の人々を精神的に支配しているのは、村の北にある社に住まう“大鏡”と呼ばれる現人神でした。側近の持統院や複数の近衛にかしずかれ、異世界までを見通すという“大鏡”の陰陽五行思想に似た教えの許、村人は外界を知らずに自給自足の生活を送っています。
村の東西にはそれぞれ長が屋敷を構え、その下には何軒かの小長、さらに多くの小作人がいるというヒエラルキー構造ができており、東西の長、藤ノ宮家と菅平家は南部の土地開墾を巡って対立していました。珂允が滞在することになったのは、西の小長の一軒・千本家でした。
よそ者には敵対的で口が重い村人ですが、なんとか珂允は、弟の襾鈴が“庚”という名前で“大鏡”の近衛に取り立てられていたことを聞き出します。そして、珂允の前に現れる、タキシードとシルクハット姿のメルカトルと名乗る怪しい(笑)男。
さらに情報を求めて菅平家の当主に面会する珂允ですが、“大鏡”も参列する祭事の夕刻に鴉の大群が村を襲い、その夜、菅平家の跡取りで近衛の座を襾鈴と争って敗れていた遠臣が殺されます。村人の珂允への猜疑と敵意は強まり、襾鈴の死の謎を解こうとする珂允は徐々に追い詰められていきます。そして、村には第2の殺人が――。
カリスマ的な独自の宗教を奉じる閉鎖的な村で発生する連続殺人と、外界から訪れた探偵という設定ですが、日本の土俗的な横溝正史ものというよりは、クイーンの「第八の日」を思い出させます。主人公の、現実にはまずありえないネーミングがあからさまに象徴するのは事件の真相なのか、それともそこになんらかの落とし穴があるのか・・・。
作中の犯人が仕掛けるトリック以外にも作者が仕掛ける二重三重の叙述トリックが張り巡らしてあり、前作
「夏と冬の奏鳴曲」と同様、結局真相は何だったのか、よくわからなくなってしまいます(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2005.8.21


アクセプタブル・リスク (サスペンス)
(ロビン・クック / ハヤカワ文庫NV 1996)

メディカル・サスペンスの巨匠ロビン・クックの15作目。
今回は、17世紀にアメリカで起こった“セイラムの魔女”事件を下敷きにしている異色篇です。(この事件に関する詳細は、原書房「魔女と魔術の事典」などをご参照ください)
マサチューセッツ総合病院の看護婦キム・スチュアートは、恋人と別れた直後でしたが、従兄弟のベンチャー企業家スタントンからエドワードという神経科学者を紹介されます。
ふたりは交際を始めますが、キムはエドワードから“セイラムの魔女”事件を引き起こした原因はライ麦に生えるカビが原因の麦角中毒(幻覚症状や精神錯乱を起こす)ではないかと聞かされます。実は、キムの祖先にあたるエリザベス・スチュアートという女性が悪魔と契約したという明白な証拠に基づいて処刑されていたのです(ちなみにエリザベス・スチュワートは“セイラムの魔女”事件の史実には登場しない架空の人物)。
興味を引かれたキムは、先祖代々受け継がれてきたセイラムの古い屋敷を調査し、当時の文書や手紙から、エリザベスの死の真相を解き明かそうとします。折りしも、屋敷の水道工事のために掘削した穴から古い棺が見つかり、中にはエリザベスの遺体がミイラ化して残されていました。
遺体の一部を採取し培養した結果、麦角中毒を起こすカビの近縁種が発見され、幻覚症状や多幸症状を引き起こすアルカロイドが含まれていることが判明します。画期的な向精神薬になるかも知れないと考えたエドワードはスタントンに資金を出させ、各分野の一流の学者をスカウトして、新薬の研究を開始します。
一方、キムは古文書の調査を続けますが、エリザベスを魔女と確定した“明白な証拠”の正体がわかりません。
製品化を急ぐスタントンに急かされたエドワード以下のスタッフは、新薬開発のルールを逸脱して、自ら薬品を摂取して人体実験することにします。
やがて、キムはエドワードらの性格が微妙に変化していることに気付き、不安をおぼえます。また、セイラム近郊ではゴミ捨て場が荒らされたり犬や猫などの動物がかみ殺される事件が頻発するようになります。
新薬開発のストーリーの方は予想通りの展開ですが、冒頭に提示されて最後に謎が解かれることになる、エリザベスを魔女と断定した“明白な証拠”が興味津々です。明かされてみれば、いかにもクックらしい、納得できるものでした。

オススメ度:☆☆☆

2005.8.24


ギャラクティックの攻防(上・下) (SF)
(デイヴィッド・ファインタック / ハヤカワ文庫SF 2000)

ミリタリーSF『銀河の荒鷲シーフォート』のシリーズ第6作。
前作
「突入!炎の叛乱地帯」事件の後、国連事務総長に返り咲いたニコラス・ユーイング・シーフォート。デビュー作「大いなる旅立ち」では、十代で宇宙軍最年少艦長を務めていたシーフォートも、既に還暦を迎えています。息子のP・Tは24歳になっていましたが、環境保護運動に身を投じて絶縁状態。
シーフォートが考案したトラップのおかげで、太陽系や植民星系への異星生物“魚”の脅威は解消されていました。しかし、地球温暖化による海面上昇や地表へ到達する紫外線の増加などで地球の生活環境は悪化し、環境保護運動が激化しています。一方、植民星系との関係も微妙なものとなっており、地球の権威を示すために超弩級戦艦“ギャラクティック”級の建造に膨大な予算が注ぎ込まれていました。
シーフォートを擁する国連与党は過度の環境保護反対の立場を取っていましたが、野党の攻勢は厳しく、また世界の人々が信奉する唯一の宗教キリスト教(そんな世界に住むのは願い下げという気がしますが。いえ、キリスト教がどうこうではなく、『唯一』という点がね)の最高機関である教皇会議も、政教分離の建前の陰で露骨に圧力をかけてきていました。
宇宙軍士官学校を視察に訪れたシーフォートの目の前で毒ガスによるテロが起こり、見習生が何人も死亡してしまいます。さらに空港ではシーフォートの搭乗した飛行機が銃撃され、国連ビル構内では仕掛け爆弾が破裂し古い付き合いの士官(あえて名は伏せます)が死亡し、シーフォート自身も下半身麻痺の重傷を負います。環境保護団体内部の過激派が犯行声明を出し、自分のスタッフ内部にまで過激派が浸透していたことを悟ったシーフォートは、愛妻アーリーン(元・宇宙軍士官だけあって、今回は頼りないシーフォートなど及びもつかない大活躍を見せます)、旧友デレク・カー、和解したP・T、ほんの偶然から補佐官を務めることになったアンセルム士官候補生や見習生ダニル、旧友タマロフの息子ミハエルらと共に、犯人探しを開始します(アンセルム以下の3人は未熟で足手まといに近いですが、それぞれ見せ場が用意されています)。
宇宙軍内部にもきなくさい動きがあると警告されたシーフォートですが、例によって融通が利かず思い立ったら猪突猛進のため、手遅れとなってとんでもない事態が発生。月面で脊髄手術を受けていたシーフォートは、数少ない味方をかき集め、コンピュータ制御の車椅子を駆って絶望的な戦いに身を投じることになります。「大いなる旅立ち」などで、艦載のメイン・コンピュータとシーフォートとのユーモラスなやり取りが、作品の暗さを救ってくれていましたが、今回は“しゃべる車椅子”との会話が陰鬱で殺伐としたストーリーにユーモアの彩りを与えてくれています。
ただ、解説にも書かれている通り、今回は「シリーズ中でもっとも厳しく暗く、凄絶」なもので、クライマックスのやりきれなさは「決戦!太陽系戦域」以上です(でも最後まで読むのをやめられない)。暗い気分の時に読むと、そのまま泥沼にはまりこんで浮き上がって来られなくなりますので、ご注意を。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.8.25


ジェヴォーダンの獣 (伝奇)
(ピエール・ペロー / ヴィレッジブックス 2002)

18世紀後半、フランス南部のジェヴォーダン地方に出没し、羊飼いや少年少女を何人も襲って食い殺し、人々を恐怖のどん底に叩き込んだという怪物――現代風に言えばUMAでしょうか――にまつわる物語。2002年2月に日本でも公開された(もちろん見てません)映画の原作(もしかしたらノヴェライゼーションかも)です。
ジェヴォーダン地方に出没する謎の獣を調査するべく国王ルイ15世に命じられた博物学者で騎士のフロンサックは、不思議な能力を持つ義兄弟マニと共に現地を訪れます。領主のダプシェ侯爵に歓待されたフロンサックは、夕食の席で出会ったモランジアス伯爵の娘マリアンヌに一目惚れします。マリアンヌは封建的な当時の社会には珍しい、活発で聡明な娘でした。
騎士隊と共に山狩りを何度も行いますが、退治されるのは狼ばかり。地元の民の目撃証言や死体の痕跡からは、獣は狼とは比べ物にならない身体の大きさや鉤爪をしていると推測されました。狼をトーテムとするネイティブ・アメリカンであるマニは、動物や大自然と交感できる不思議な能力を駆使して、獣を追跡します。
パリ革命の直前、王室と人民との政治的対立もはらむ中で、ジェヴォーダンの獣の正体が次第に解き明かされていきます。
この獣については、多くの年代記や文献に記録が残されており、少なくともなんらかの事件がこの時代にジェヴォーダン地方に起こっていたことは確かのようです。超自然の怪物説から、住民の集団ヒステリー、狂犬病、悪意ある人間による捏造、なんらかの理由でさまよい込んだ異国の猛獣説など、様々な説が提出されています。ジャン・ジャック・バルロワ「幻の動物たち」下巻(ハヤカワ文庫NF)に、未知動物学という観点から“ジェヴォーダンの獣”を客観的に論考した記事が載っています。
この小説でも、獣の正体については明確に断定せず、暗示するにとどめているのは好感が持てます。しかも現実的で納得できる説明ですし。クライマックスの展開はいかにも某CMのようですが(「どんでん返しですよね!」)、それはそれで吉かと。

オススメ度:☆☆☆

2005.8.26


世界史を揺るがした悪党たち (ノンフィクション)
(桐生 操 / 徳間文庫 2002)

例によって、先行する様々な文献から孫引きした自身の著作の内容を焼きなおし、それらしく仕上げた粗製濫造本(言い過ぎ?)。同じ著者の「美しき〜」シリーズ(角川ホラー文庫)などとの重複が目立ちます。
内容もツッコミどころはかなり多いです。フランケンシュタイン博士やファウスト博士といった小説や戯曲の登場人物を「実は実在のモデルがあったのだ」と採り上げていますが、実在するモデルがいたことと、その人物が小説に書かれた通りのことをしたかどうかはまったく別だと思うんですけど。それから、マリリン・モンローはどう考えても悪党じゃないでしょ? しかもケネディ一族が次々に暗殺・事故死したのはマリリン・モンローの怨念によるものかも知れないって(笑)。
ともかく、暇つぶし以外には役に立たない本です。しかし、どうせ暇つぶしなら、もっとましな本はいくらでもあります。

オススメ度:☆

2005.8.27


暗闇の囁き (ミステリ)
(綾辻 行人 / 講談社文庫 2001)

ホラーかダーク・ファンタジー風味のサスペンス・ミステリ、『囁き』シリーズの第2弾。
夏休みを利用して北関東にある高原の別荘地を訪れた大学生、拓也は、途中、道路に飛び出してきたふたりの男の子を轢きそうになり、その子たち――10歳前後の実矢と麻堵の兄弟を、かれらの住む別荘に送り届けます。
ふたりの家庭教師を務める看護学生の遙佳に惹かれる拓也ですが、一方、子供たちが漏らした“あっちゃん”という別の子供の名前が気にかかります。10年前、まだ子供だった自分がこの地を訪れた際のおぼろげな記憶に、その名前が関係しているような気がするのですが、定かでありません。
拓也は、親しくなった遙佳から、彼女の前任の家庭教師が近くの森で変死し、長い黒髪が切り取られていたことを聞かされます(事故死として処理されていました)。
有力な実業家である父親の命令で、世間から隔離されたように暮らしている兄弟。1年前から精神を病んで放心状態の母親、“あっちゃん”という名前を聞いて取り乱す管理人夫妻、さらに前年に起こった双葉山の連続猟奇殺人(あの
「殺人鬼」の事件です)との関係まで取り沙汰されます。
“あっちゃん”とは誰なのか、兄弟との関係は・・・?
やがて、第2、第3の変死が起こります。目玉をくりぬかれ、爪を剥がされた死体は、何を意味するのか。時が満ちたとき、悲劇のクライマックスが訪れます。
大人たちの思惑に翻弄された子供たちが育んだ自分たちの世界が、はからずも“恐るべき子供たち”となって皮肉な運命をもたらす姿を、叙情に満ちた語り口で描いた作品に仕上がっています。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.8.28


ロンギヌスの槍 (オカルト)
(トレヴァ・レヴンズクロフト / 学研M文庫 2002)

ゴルゴタの丘で十字架にかけられたイエス・キリストの身体を貫いたという、聖遺物のひとつとして知られる『ロンギヌスの槍』。聖杯や聖櫃と同様、これを手にした者は世界を支配できる力が与えられるという伝説に彩られているため、西洋のオカルト政治史では有名なアイテムです。
特にヒトラーとの関係で語られることが多く、これをネタにしたホラーには、その名もずばり「聖槍」(ジェームズ・ハーバート)があります。漫画「孔雀王」にも出てきましたね。
さて、本書はその『ロンギヌスの槍』に象徴されるナチスのオカルト的側面、ヒトラーとの関係を歴史学的に論じた本――と思って読み始めたところ、ありゃりゃ(汗)。第1章こそ、若き日のヒトラーと『槍』との出会いを時代考証を重ねて描いているのですが、中盤を過ぎると、ただの妄想オカルト本と化してしまいます。
この著者、歴史ジャーナリストという肩書きですが、どうも唯物論を否定して神秘主義を信奉するオカルティストのようです。魔術やら転生やら高次元の霊やら悪魔やらアトランティス文明やらドッペルゲンガーやらをすべて信じているらしく、途中からはまったく話についていけなくなります。しかも、小難しく書いているものですから、トンデモ本としても面白くないという・・・。
よくもまあ、こんな本が翻訳出版されたものだと思いましたが、やはり「ムー」を出している学研ならではですね〜(笑)。

オススメ度:☆

2005.8.30


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