秘密臓器コマンド出動! (SF)
(H・G・エーヴェルス&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2005)
“ペリー・ローダン・シリーズ”の第315巻。
前巻後半でローダンの行方を追い始めたサイナック・ハンターのトリトレーア。ナウパウム銀河の有力な指導者ヘルタモシュと盟友関係を結んだローダンは、お手の物の偽装作戦を敢行して、なにかと制約の多い犯罪者ハクチュイテンの肉体から別の肉体に脳を移植することを試みます。
かつてこの銀河を支配していた種族ユーロク(トリトレーアは、その生き残りのひとり。もちろん脳だけですが)の文明圏にこそ、故郷銀河へ戻る手掛かりがあるに違いないと考えたローダンは、トカゲを先祖とする異星人ガイト・コールとともに、禁断の星とされるユーロクの故郷、惑星トレーチャーに下り立ちます。そこはどうやら無人ではなく、無気味な勢力が潜んでいるようでした。
以下、次巻。トリトレーアとローダンがどうからんでくるのかが、気になります。
<収録作品と作者>「秘密臓器コマンド出動!」(H・G・エーヴェルス)、「ユーロクの遺産」(クラーク・ダールトン)
オススメ度:☆☆☆
2005.9.10
マスカレード (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2002)
テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第21巻。
今回のテーマは「仮面」です。子供のころから、どうもお面というのは好きになれませんでした。お祭の出店で売られているヒーローたちのプラスチックのお面も買ってもらう気になれず、遊びに行った親戚の家の和室に飾られていた能面(もちろん安物のレプリカでしょうけれど)など、怖ろしくて仕方がありませんでした。とは言いつつも、学生時代、怖いもの見たさなのか、わざわざアンソールの画集を買ってしまったり(笑)。
この巻にも、実体のある能面や南洋の土俗的な仮面、あるいはデスマスクにまつわる怪異譚から、顔ばかりではなく全身を変えてしまう仮装の怪、「匿名性」という仮面、心理的なペルソナまで、バラエティに富んだ作品が収められています。
怪奇ミステリの重要な小道具である仮面を生かした「死面」(歌野 晶午)「仮面人称」(柄刀 一)「白面」(深川 拓)、仮面の二面性をモチーフとしたメタフィクション「仮面と幻夢の躍る街角」(芦辺 拓)と「カヴス・カヴス」(浅暮 三文)、某有名都市伝説を医学的アプローチで生かした「マスク」(町井 登志夫)、短いけれどもラストの印象が余韻を残す「方相氏」(速瀬 れい)、旅館の朝の和定食が食べられなくなる「牡蠣喰う客」(田中 啓文)など。←でも、この話のラストは意外というよりも我が意を得たりという感じでした。生牡蠣嫌いだし(笑)。
<収録作品と作者>「面売り Lia Fail」(物集 高音)、「呼ばれる」(飛鳥部 勝則)、「FROGGY」(石神 茉莉)、「裏面」(倉阪 鬼一郎)、「死面」(歌野 晶午)、「マスク」(町井 登志夫)、「仮面の庭」(奥田 哲也)、「スキンダンスへの階梯」(牧野 修)、「淋しい夜の情景」(五代 ゆう)、「仮面と幻夢の躍る街角」(芦辺 拓)、「假面譚」(江坂 遊)、「黄金の王国」(ひかわ 玲子)、「カヴス・カヴス」(朝暮 三文)、「屈折した人あつまれ」(鯨 統一郎)、「牡蠣喰う客」(田中 啓文)、「仮面人称」(柄刀 一)、「想夜曲」(難波 弘之)、「白面」(深川 拓)、「スズダリの鐘つき男」(高野 史緒)、「方相氏」(速瀬 れい)、「舞踏会、西へ」(井上 雅彦)、「青磁」(竹河 聖)
オススメ度:☆☆☆
2005.9.13
黒後家蜘蛛の会5 (ミステリ)
(アイザック・アシモフ / 創元推理文庫 1998)
このシリーズ、書庫に登場するのは初めてですが、昔から愛読しております。
「黒後家蜘蛛の会」と呼ばれるサークルは、化学者・弁護士・数学者・画家・作家・暗号専門家の6人と、給仕のヘンリーが正会員になっており、月に一回、晩餐会を催して、誰かがゲストを連れてくることになっています。秘密厳守が条件とされ、ゲストは会員による質問には腹蔵なく答えねばなりません。
すると、ゲストは生活上の些細なエピソードから深刻な悩みまで、ミステリめいた話題を提供します。いずれも知識人で、それぞれの専門分野に一家言を持っている会員は、謎を解くために頭をひねり、侃々諤々の討論が行われるのですが、決まって謎を解くのは給仕のヘンリーというのが定番。
「水戸黄門」と同じくパターンが定まっていますので、安心して読めますし、1話が30ページほどなので、ちょっとした空き時間にも読めるのですが、つい夢中になって時間が経ってしまうのが欠点(笑)。何の役にも立たない雑学も、たっぷりと覚えられます。
未読の方は、1巻からまとめ読みするという贅沢も味わえるかも(笑)。
<収録作品>「同音異義」、「目の付けどころ」、「幸運のお守り」、「三重の悪魔」、「水上の夕映え」、「待てど暮らせど」、「ひったくり」、「静かな場所」、「四葉のクローバー」、「封筒」、「アリバイ」、「秘伝」
オススメ度:☆☆☆☆
2005.9.24
「シュピオ」傑作選 (ミステリ:アンソロジー)
(ミステリー文学資料館:編 / 光文社文庫 2002)
戦前の探偵小説雑誌の掲載作品を復刻した『幻の探偵雑誌』シリーズ第3巻。諸事情により(単に買った順番の問題だけ)第2巻は後回しです。
さて、今回の「シュピオ」は『幻』の中でも極めつけで、実はこれまで耳にしたこともありませんでした。昭和10年に同人雑誌「探偵文学」というタイトルで発刊され、後に海野十三・小栗虫太郎・木々高太郎の肝煎りで、新人作家を発掘する目的で「シュピオ」と改題されましたが、有望な新人は生まれず昭和13年には終刊を迎えてしまいました。
収められている作品も、心理ミステリ(現代ならサイコサスペンスかも)風な「柿の木」(紅生姜子)の他には見るべきものは少なく、長篇「白日鬼」(蘭郁二郎)は通俗サスペンスでそれなりに面白いですがいささか予定調和に過ぎ、合作小説「猪狩殺人事件」は素人によるリレー形式(発端を書いた小栗以外はアマチュアの同人)の欠点をさらけ出し、「街の探偵」(海野十三)も単なるアイディアメモのレベルでした。
歴史的資料として読むのが正しいのかも知れません。
<収録作品と作者>「暗闇行進曲」(伊志田 和郎)、「執念」(荻 一之介)、「猪狩殺人事件」(小栗 虫太郎/中島 親/蘭 郁二郎/大慈 宗一郎/平塚 白銀/村正 朱鳥/伴 白胤/伊志田 和郎/荻 一之介)、「白日鬼」(蘭 郁二郎)、「夜と女の死」(吉田 リ一)、「柿の木」(紅生 姜子)、「街の探偵」(海野 十三)
オススメ度:☆☆
2005.9.27
幻想の犬たち (ホラー:アンソロジー)
(ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ:編 / 扶桑社ミステリー 1999)
「魔法の猫」、「不思議な猫たち」の編者による、犬が登場する怪奇幻想譚を集めたアンソロジーです。自分は完璧な猫派(笑)ですので、こちらは読むのが遅くなりました。
20世紀後半に書かれた作品から選んでいるので、SF・ファンタジー・ホラーが程よいバランスで収録されています。全部で16篇が収められていますが、以前に読んだことがあるのは4篇だけでした。
江戸時代の『生類憐みの令』と正反対な法案が施行された近未来のニューヨークの悲劇を淡々と描く「ニューヨーク、犬残酷物語」(J・J・マンディス)、タイトルからほのぼぼのとした愛情物語を予想するとひどいしっぺ返しをくらうバイオレンス篇「少年と犬」(ハーラン・エリスン)、仏教的な因果応報譚にひねりを加えた「同類たち」(J・クリストファー)、長篇でおなじみの、日常的なドラマに無気味なきしみを加えていく「最良の友」(J・キャロル)、荒廃した未来に犬と狼と人間の存在意義を問う「悪魔の恋人」(M・S・マッケイ)、正攻法でいちばん怖かった「猛犬の支配者」(A・バドリス)、最も短いですが最もインパクトが強い「一芸の犬」(B・ボストン)、ヒロイック・ファンタジーの古典『ファファード&グレイ・マウザー・シリーズ』の1エピソード「泣き叫ぶ塔」(フリッツ・ライバー)、これも古典SF「都市」の1篇「逃亡者」(C・D・シマック)など。
ただ、猫に比べると犬は神秘的な度合が低いイメージがあります。暴力的な恐怖感はあっても、背筋がぞくりとするような無気味な感じがする作品は少ないのでした。
<収録作品と作者>「死刑宣告」(デーモン・ナイト)、「ルーグ」(フィリップ・K・ディック)、「ニューヨーク、犬残酷物語」(ジェロルド・J・マンティス)、「銀の犬」(ケイト・ウィルヘルム)、「泣き叫ぶ塔」(フリッツ・ライバー)、「悪魔の恋人」(M・サージェント・マッケイ)、「同類たち」(ジョン・クリストファー)、「ぼくと犬の物語」(マイクル・ビショップ)、「おいで、パッツィ!」(フレッチャー・プラット&L・スプレイグ・ディ・キャンプ)、「逃亡者」(クリフォード・D・シマック)、「わたしは愛するものをスペースシャトル・コロンビアに奪われた」(ダミアン・ブロデリック)、「猛犬の支配者」(アルジス・バドリス)、「一芸の犬」(ブルース・ボストン)、「最良の友」(ジョナサン・キャロル)、「守護犬」(パット・マーフィー)、「少年と犬」(ハーラン・エリスン)
オススメ度:☆☆☆
2005.9.30
天国荘奇譚 (ユーモア/ミステリ)
(山田 風太郎 / 光文社文庫 2001)
『山田風太郎ミステリー傑作選』の第6巻。今回は『ユーモア篇』です。
ユーモアとは言ってもいろいろな種類があるのはもちろんのことで、収録作品も痛快なものとブラック・ユーモアのふたつに分かれ、あと若干のほのぼの要素も。
タイトルになっている「天国荘奇譚」は、戦前の旧制中学(現代で言えば中学と高校が一緒になっている)の男子学寮を舞台に、バンカラで豪胆な上級生が教師たちに派手な悪戯を仕掛けてギャフンと言わせる痛快篇。天国荘というのは寮の屋根裏に生徒たちがひそかに作った秘密基地のことですが、天国荘を含め、学生たちが夜中に寮を抜け出して街へ出かけたり、作者の実体験に基づくエピソードが多いそうです。
もうひとつ、300ページに及ぶ「青春探偵団」は、「天国荘奇譚」の設定を戦後に置き換え、霧ヶ城高校の「殺人クラブ」(面妖な名称ですが、実は単なる探偵小説愛好会)のメンバー、男子3人、女子3人(いずれも寮生で、男子は「青雲寮」、女子は「孔雀寮」に住んでいます。そして青雲寮の屋根裏には秘密基地「天国荘」が鎮座しています)が事件に巻き込まれ、あるいは事件を引き起こし、スラップスティックな大騒ぎの中、事件を解決していくという連作短篇。ちと時代的には古風ですが、いわゆる“青春推理”の名に恥じない作品と言えましょう。クイーン張りの大トリックで舎監の先生から「天国荘」の存在を守ったり、チームワークで地回りの愚連隊を懲らしめたり、ひょんなことから押し付けられた他殺死体を処理しながら犯人を指摘したり、リーダーの名(迷?)推理で濡れ衣を着せてしまった容疑者の疑いを晴らしたり――これって、ドラマ化したらかなり面白いのではないかと思います。
他の短篇のほとんどは、シニカルな視点から皮肉などんでん返しにもって行く犯罪ドラマ。
<収録作品>「天国荘奇譚」、「露出狂奇譚」、「賭博学体系」、「極悪人」、「大無法人」、「ダニ図鑑」、「青春探偵団」(「幽霊御入来」、「書庫の無頼漢」、「泥棒御入来」、「屋根裏の城主」、「砂の嵐」、「特に名を秘す」
オススメ度:☆☆☆☆
2005.10.2
SFベスト・オブ・ザ・ベスト(上・下) (SF:アンソロジー)
(ジュディス・メリル:編 / 創元SF文庫 1998)
初版はなんと1976年ですが、復刊フェアで入手したものです。
かつて、書店で創元推理文庫のコーナーを見ると、「年刊SF傑作選(ジュディス・メリル編)」というタイトルの本が何冊も並んでいました(第1集〜第7集まで出ていました)。ですが、当時はまだSF短篇まで手が回らず、買わないでいるうちに、いつのまにか書店から姿を消してしまいました。
この「SFベスト・オブ・ザ・ベスト」は、それら7冊の中からさらに選りすぐった作品をまとめたものかと思っていたのですが、解説を見ると、それは間違いでした。日本版の「年刊SF傑作選」は、メリル女史が編纂した12のSF傑作選のうち、後半の7冊を訳出したもので、この「ベスト・オブ・ザ・ベスト」は、日本で未訳の前半5冊の中から選ばれたベスト版なのだそうです。つまり、既刊とダブリなし。
収録作品はいずれも1950年代に書かれたもので、必ずしも1作家1作品ではありません(2作が収録されている作家が3人います)。収録作家もアシモフ、ライバー、スタージョン、シマック、シェクリー、オールディスといったビッグ・ネームから、懐かしのウォルター・ミラーやゼナ・ヘンダースン、ジャンル違いではないかと思ってしまったシャーリー・ジャクスン、本アンソロジーで初めて知った作家も何人かいます。
やはり半世紀前の作品ですから、ネタが古めかしかったり、構成がシンプル過ぎたりするものもありますが、もちろんそれは歴史的意義を感じるということで。
「方程式」とは別の精神的極限状況を描く「隔壁」(シオドア・スタージョン)、『ピープル・シリーズ』の詩情と共通する「なんでも箱」(ゼナ・ヘンダースン)、シマックらしいファースト・コンタクト「孤独な死」(クリフォード・D・シマック)、時間旅行とタイムパラドックステーマをシンプルに描く「時は金」(マック・レナルズ)、衝突進路に乗った米ソの宇宙船のチキン・ゲーム「衝突進路」(T・L・トマス)、とぼけた超能力テーマ「思考と離れた感覚」(マーク・クリフトン)、一種の集団知性テーマ?「率直にいこう」(ブライアン・W・オールディス)、キングの「バトルランナー」の先駆ともいえる「危険の報酬」(ロバート・シェクリー)、SFというよりは奇妙な味の「ゴーレム」(A・デイヴィッドスン)と「ある晴れた日に」(S・ジャクスン)など。
もっとも、メリル女史の言うSFは、『サイエンス・フィクション』であると同時に『サイエンス・ファンタジー』であり『スペキュレイティヴ・フィクション』という定義がなされていますから、広いジャンルの作品が収録されているのも当然でしょう。
<収録作品と作者>上巻:「帰郷」(ウォルター・M・ミラー・ジュニア)、「隔壁」(シオドー・スタージョン)、「なんでも箱」(ゼナ・ヘンダースン)、「闘士ケイシー」(リチャード・M・マッケナ)、「孤独な死」(クリフォード・D・シマック)、「跳躍者の時空」(フリッツ・ライバー)、「狩人」(キャロル・エムシュウィラー)、「異星人ステーション」(デーモン・ナイト)、「衝突進路」(シオドー・L・トマス)、「時は金」(マック・レナルズ)、「ジュニア」(ロバート・アバーナシイ)
下巻:「夢幻世界へ」(コードウェイナー・スミス)、「思考と離れた感覚」(マーク・クリフトン)、「マリアーナ」(フリッツ・ライバー)、「プレニチュード」(ウィル・ワーシントン)、「浜辺に行った日」(キャロル・エムシュウィラー)、「率直にいこう」(ブライアン・W・オールディス)、「驚異の馬」(ジョージ・バイラム)、「隠れ家」(アルジス・バドリス)、「危険の報酬」(ロバート・シェクリー)、「人形使い」(デーモン・ナイト)、「ゴーレム」(アヴラム・デイヴィッドスン)、「ちくたく、ちくたく、ケルアック」(リチャード・ゲーマン)、「録夢業」(アイザック・アシモフ)、「公開憎悪」(スティーヴ・アレン)、「変身」(シオドア・R・コグズウェル)、「ある晴れた日に」(シャーリー・ジャクスン)
オススメ度:☆☆☆
2005.10.30