反物質兵器の恐怖 (SF)
(ハンス・クナイフェル&H・G・エーヴェルス / ハヤカワ文庫SF 2004)
ペリー・ローダン・シリーズの第298巻。大台まであとわずかですね。
2ヶ月待つのは長かった(繰り返しになりますが、2月と6月はローダン・シリーズの新刊が出ません)。
さて、前巻で太陽系とパラマグの意外な関係が明らかになったわけですが、銀河中枢にいるローダンが心配した通り、パラマグによる侵攻が開始されます。しかもかれらの兵器はタイトルにある通りの“反物質兵器”。作中で誰かが「反則だ・・・」とつぶやくほどの最終兵器です。ナデシコの相転移砲みたいなものですな。
でもちゃんと、納得できる形で対抗兵器が出てくるのはさすがです。歴史の彼方に埋もれた伏線が見事に生きていますね。
章立てを細かく分けて、語り手を代えて一人称で様々な視点から語っていくクナイフェルの技巧が光ります。太陽系帝国の執政官選挙もけりがついたようで、そろそろ本サイクルもまとめに入っていますね。うまく終ればよいのですが。
<収録作品と作者>「反物質兵器の恐怖」(ハンス・クナイフェル)、「ハイパー嵐のなかの小惑星」(H・G・エーヴェルス)
オススメ度:☆☆☆
2004.3.10
花図鑑1 (コミック)
(清原 なつの / ハヤカワ文庫JA 2004)
待望のハヤカワ文庫版なつのさんワールド最新刊。2分冊の1冊目です。
本作は、「ぶ〜け」連載時には“愛と性のシリーズ”と銘打たれていたそうです。
確かに扱っているネタはすごいです。この巻だけでも同性愛、妊娠検査、産婦人科検診、テレクラ、未亡人下宿、半陰陽、年の差恋愛など、扱い方を間違えればレディースコミックか三流エロに流れてしまいそうなものばかり。
でも、危ういネタをあくまでピュアに描ききる手腕はますます冴え、読み手の感性を根本から揺さぶる作品群に仕上がっています。もともと「ABCは知ってても・・・」とか「空の色 水の青」でも萌芽はあったのですが、いよいよこのシリーズで新たな清原さんワールドが花開いたという感じ。
オムニバス作品集ですが、ストーリーも学園ものあり、ファンタジーあり、ホラー風味あり、謀略サスペンスありと、ひとつとして同じような設定はなく、バラエティに富んでいます。どぎつい描写はかけらもないのに想像力に訴えておそろしくエロチックなのもあり(^^;
<収録作品>「聖笹百合学園の最期」、「ばら色の人生」、「雨のカトレア産婦人科」、「いばら姫の逆襲」、「水の器」、「菜の花電車」、「金木犀の星」、「桜守姫秘聞」、「かえで物語」、「世界爺―セコイア―」、「左手のためのワープロ花図鑑狂奏曲」
オススメ度:☆☆☆☆☆
2004.3.12
花図鑑2 (コミック)
(清原 なつの / ハヤカワ文庫JA 2004)
「花図鑑」の第2分冊。
本巻の主なネタは略奪婚、AIDS、不妊治療、避妊具、出産、去勢、準レイプ、セックス拒否症などなど。
ワイドショーや昼メロにありがちな題材が、なつのさんの手にかかると、なぜこのような高次元に昇華されるのでしょうか。
それは、客観的に突き放した冷静な視点(理系の目線と言ってもいい)と、しかも観察した事実を否定することなく、暖かくすべてを理解し受け入れる(それが男と女ってものなんですよ)包容力を併せ持っているからなのでしょう。
重苦しくなりそうなテーマであっても、どこかとぼけていて読後感がさわやかなのは、類稀なセンスと才能のなせる技ですね。
「花は花自身のために咲く」(「風の娘―アネモネ―」より)
さりげないけれど、深く、心に残る言葉です。
<収録作品>「カサブランカダンディ」、「レディーズ・ベッドストロウ」、「雨のカトレア産婦人科U」、「梨花ちゃんの田園のユウウツ」、「梨花ちゃんの都会のユウウツ」、「じゃんぼらん」、「野アザミの食卓」、「風の娘―アネモネ―」、「チューリップの王様」、「ノリ・メ・タンゲレ」
オススメ度:☆☆☆☆☆
2004.3.13
乱歩の選んだベスト・ホラー (怪奇:アンソロジー)
(森 英俊・野村 宏平:編 / ちくま文庫 2000)
ちょっと異色の怪奇小説アンソロジーです(あえて“ホラー”とは言わない)。
江戸川乱歩と言えば、戦前から戦後にかけての探偵小説界最大の巨匠ですが、その作風には怪奇幻想色の濃いものも多く、純粋の怪奇幻想小説もかなり書かれています。
この本には、その乱歩が昭和23〜24年にかけて雑誌連載した「怪談入門」という随筆を冒頭に掲載し、そこで言及されている海外の怪奇小説を選りすぐって紹介するという体裁を取っています。ですからタイトルが「乱歩の選んだ・・・」になるわけです。
さて、ホラーというジャンルが確立する前の海外の“怪奇小説”を網羅的に紹介したものといえば、創元推理文庫「怪奇小説傑作集」1〜3巻の末尾に掲載されている平井呈一さんの解説がもっとも詳細でよくまとまっていると思っていましたが、この乱歩の「怪談入門」もなかなかのもの。紹介されている作品の7割以上を既に読んでいたというのも、怪奇小説ファンとしては嬉しかったです。
さて、このアンソロジーに載っている12編(乱歩自身の作品「目羅博士」を含む)、19世紀〜20世紀前半の作品だけに、古めかしい感は否めませんが、素朴で原初的な恐怖を感じさせるものばかりです。
定番の「猿の手」(W・W・ジェイコブズ)、なんと横溝正史さんが訳しているユーモア編「専売特許大統領」(A・L・アルデン)、正統派幽霊譚「廃屋の幽霊」(M・オリファント)、熱帯怪物もの「樽工場の怪」(コナン・ドイル)、少しも古さを感じさせない「猫の復讐」(B・ストーカー)、何とも言えぬ不気味な余韻を残す「歩く疫病」(E・F・ベンスン)など、秀作揃い。
真夜中に、しんとした部屋の中で手元の読書灯の明かりだけを頼りに読んだりすると、雰囲気に浸れるかも(笑)。
<収録作品と作者>「怪談入門」(江戸川 乱歩)、「猿の手」(W・W・ジェイコブズ)、「猫の復讐」(ブラム・ストーカー)、「歩く疫病」(E・F・ベンスン)、「樽工場の怪」(アーサー・コナン・ドイル)、「ふさがれた窓」(アンブローズ・ビアス)、「廃屋の霊魂」(マーガレット・オリファント)、「ザント夫人と幽霊」(ウィルキー・コリンズ)、「魔法の鏡」(ジョージ・マクドナルド)、「災いを交換する店」(ロード・ダンセイニ)、「専売特許大統領」(W・L・アルデン)、「蜘蛛」(H・H・エーヴェルス)、「目羅博士」(江戸川 乱歩)
オススメ度:☆☆☆☆
2004.3.27
旧ミュータントの帰還 (SF)
(エルンスト・ヴルチェク&ウィリアム・フォルツ / ハヤカワ文庫SF 2004)
ペリー・ローダン・シリーズの299巻。おお、来月には300巻の大台到達ですね!
現在の“旧ミュータント・サイクル”もいよいよ大詰め。銀河中枢部のパラマグの故郷星系に向かったコマンド部隊は、大胆なアイディアを実行に移します。それは、旧ミュータント8人を恒久的に救済するものでした。
後半のエピソードを書いているフォルツは、他のシリーズ作家にはない長所というか悪い癖というか、それがありまして、今回はそれが如実に現れています。つまり、いわく因縁があるゲストキャラをこと細かに描写してストーリーを膨らませるのですが、深みが出る分、肝心のメインストーリーがおざなりになってしまうのです(^^;。今回も、もっと紛糾するに違いないと思った事態があっさり解決してしまいました。
さて、次巻から新ストーリーに突入です。
<収録作品と作者>「最後のかくれ場」(エルンスト・ヴルチェク)、「旧ミュータントの帰還」(ウィリアム・フォルツ)
オススメ度:☆☆☆
2004.4.11
妖魔ヶ刻 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 徳間文庫 2000)
井上雅彦さんが編者を務めるホラー・アンソロジーといえば『異形コレクション』ですが、本作はそれとは似て非なる『異形ミュージアム』。
便乗企画?とか思ったのですが、前書きを読むと、そうではありませんでした。
『コレクション』は全て書き下ろしに夜よるテーマ別アンソロジーなのに対して、この『ミュージアム』は同じテーマ別ホラー・アンソロジーでも、かつて発表された作品からピックアップして編んだもの。ですから、時代も作家もバラエティに富んでいます。
今回「妖魔ヶ刻」のテーマは“時間怪談”。『異形コレクション』の「時間怪談」と好一対ですが、多少ボリュームに欠ける気が。
寂れた田舎の宿で過去と現在が錯綜するという似たようなプロットを異なる形で処理した「ねじれた記憶」(高橋克彦)と「老人の予言」(笹沢左保)、逆に未来が現在に干渉してきて白日夢を垣間見せる「骨董屋」(皆川博子)と「時の思い」(関戸康之)、いわゆる“学校の怪談”をひとひねりした「制服」(安土萌)、沖縄を舞台にした幻想譚「サトウキビの森」(池上永一)など佳品揃い。
ただ、『異形コレクション』と双璧をなすアンソロジーにしたいという編者の意気込みの割には、このシリーズ、2巻で止まってしまっているんですけど(汗)。やっぱり出版社が出版社だからでしょうか・・・。
<収録作品と作者>「制服」(安土 萌)、「ねじれた記憶」(高橋 克彦)、「フェイマス・マスター」(井上 雅彦)、「迷宮の森」(高橋 葉介)、「骨董屋」(皆川 博子)、「骨」(小松 左京)、「時の思い」(関戸 康之)、「サトウキビの森」(池上 永一)、「時の落ち葉」(田中 文雄)、「二十三時四十四分」(江坂 遊)、「長い夢」(伊藤 潤二)、「天蓋」(中井 英夫)、「昨日の夏」(菊地 秀行)、「老人の予言」(笹沢 左保)
オススメ度:☆☆☆
2004.4.24
綺霊 (ホラー)
(井上 雅彦 / ハルキ・ホラー文庫 2000)
『異形コレクション』の編者として知られる井上雅彦さんの書き下ろしショートショート集。
井上さんの短編は、角川ホラー文庫版「異形博覧会」シリーズで堪能していましたので、楽しみに読み始めました。
ありゃりゃ・・・。どうも、前半はいつもの切れ味がありません。
ショートショートですから、アイディアと叙述トリックが命のはずなのですが、その辺がいまいち。
でも、後半に至って冴えが戻ってきました。
どうやら、本書においては、スプラッターな怪物ホラー系の話よりも、ジャック・フイニィ風の幻想味あふれる作品の方が優勢のようです。
特に「蝶番」は必読。
<収録作品>「四時間四十四分」、「水夢譚」、「蛇苺」、「禁じられた場所」、「嘯」、「さなぎ」、「中二階の顔」、「人ちがい」、「しゃぼん玉工場」、「駅」、「海盤車」、「リップティーズ」、「履惚れ」、「蘭鋳」、「蠅遊び」、「ボール箱」、「喰い屋」、「向日葵」、「ほら、蟻がいる」、「補色作用」、「暗室」、「酒樽」、「地下水道」、「蝶番」、「鼬の血」、「ロードランナー」、「アイスボックス」、「裏窓」、「廃院にて」、「パラソル」
オススメ度:☆☆☆
2004.4.30