はじめに | 1.武蔵 | 2.上毛野 | 3.下毛野 | 4.常陸 | 5.下総 | 6.上総 | おわりに |
5世紀は、応神・仁徳朝から雄略朝にわたり倭の五王が活躍し、倭(大和)王権が確立しだした時代である。歴史的区分では古墳時代の中期に相当する。5世紀の日本は、全てにおいて激動の時代である。畿内の倭王権と地方の豪族(首長)との関係は、それぞれの地域の首長連合と倭王権の軟らかい連合関係から、倭王権への官僚的な従属関係に移行する。対外関係も切迫し、倭王権は地方豪族の助けの下に事にあたる。倭王国の主権を中国・朝鮮半島に主張するとともに、倭王権自体が、多くの渡来人集団を内部に抱え、その政治的・軍事的・技術的知識を吸収し体制を整えた。 畿内倭王権は、前方後円墳を大王墓としてシボライズし、従来の祭祀中心の墳丘としてよりは、技術革新を背景にした政治的シンボルとして巨大化させる。一部の地方(吉備国や毛野国など)では、畿内倭王権に勝るとも劣らない巨大古墳が造営されるが、次第に倭王権の墳制規格に従った形式に変わってくる。この墳制は、墳丘規模・副葬品はもとより、前方後円墳を頂点として、帆立貝式や、円墳、方墳までの階層よりなっている。考古学的な観点からは、騎馬民族征服王朝の出現と見られるくらいに、急激な革新が起こった時代である。 5世紀に纏わる文献資料は少ない。中国の歴史書や金石文、後代に記された記紀伝承や系譜などを詮索するしかない。最も現実的な情報は、最近の進展した古墳発掘調査結果である。しかしながら、畿内の王陵は、天皇家の墳墓という特殊性から、日本の曙である5世紀の真実に迫る道が閉ざされている。ここでは、関東を六つのブロックに分け、5世紀築造の大古墳の幾つかとその周辺を探訪する。 |
5世紀前後に築造された関東の前方後円墳 | |||||
築造期 | 古墳名 | 古墳群 | 所在場所 | 墳丘長 | 考古資料棺・博物館と備考 |
武蔵 | |||||
5世紀前 | 亀甲山古墳 | 田園調布古墳群 | 南武蔵(多摩川) | 107m | 大田区立郷土博物館 |
4世紀後 | 宝来山古墳 | 田園調布古墳群 | 南武蔵(多摩川) | 115m | 大田区立郷土博物館 |
5世紀前 | 野毛大塚古墳 | 野毛・大塚古墳群 | 南武蔵(多摩川) | 82m | 世田谷区立郷土博物館、 帆立貝形古墳 |
5世紀後 | 埼玉稲荷山古墳 | 埼玉古墳群 | 北武蔵(行田市) | 120m | さきたま風土記の丘(資料館)、金錯銘鉄剣 |
6世紀前 | 埼玉二子山古墳 | 埼玉古墳群 | 北武蔵(行田市) | 140m | さきたま風土記の丘(資料館) |
6世紀前 | 野本将軍塚古墳 | 野本古墳群 | 北武蔵(里地区) | 115m | 比企丘陵 |
上毛野 | |||||
5世紀前 | 白石稲荷山古墳 | 白石古墳群 | 上毛野(藤岡市) | 175m | 藤岡歴史館、毛野国白石丘陵公園 |
6世紀 | 七輿山古墳 | 白石古墳群 | 上毛野(藤岡市) | 145m | 藤岡歴史館 |
6〜7世紀 | 綿貫観音山古墳 | 綿貫古墳群 | 上毛野(高崎市) | 97m | 群馬の森(歴史博物館)、石室 |
4〜5世紀 | 正六浅間山古墳 | 正六古墳群 | 上毛野(高崎市) | 171m | 未発掘の大古墳 |
5世紀前 | 大鶴巻古墳 | 正六古墳群 | 上毛野(高崎市) | 137m | 未発掘 |
6世紀末 | 観音塚古墳 | 上毛野(高崎市) | 105m | 観音塚考古資料棺、副葬品、巨石使用の横穴式石室 | |
5世紀後 | 二子山古墳 | 保渡田古墳群 | 上毛野(高崎市) | 108m | はにわの里公園(博物館) |
5世紀末 | 八幡塚古墳 | 保渡田古墳群 | 上毛野(高崎市) | 102m | はにわの里公園(博物館) |
6世紀初 | 薬師塚古墳 | 保渡田古墳群 | 上毛野(高崎市) | 105m | はにわの里公園(博物館)、舟形石棺 |
6世紀初 | 下芝谷ツ古墳 | 消滅 | 上毛野(高崎市) | 20m | 箕郷町の一辺20mの積石塚・方墳、埴輪配列 |
7世紀末 | 宝塔山古墳 | 総社古墳群 | 上毛野(前橋市) | 54m | 古墳時代の終焉期の方墳、石室が豪華、家形石棺 |
4世紀後 | 前橋八幡山古墳 | 前橋朝倉古墳群 | 上毛野(前橋市) | 130m | 前橋台地北東端 前方後方墳 |
4世紀中 | 前橋天神山古墳 | 前橋朝倉古墳群 | 上毛野(前橋市) | 126m | 現状は浸食崖。出土副葬品は東京国立博物館に |
5世紀前中 | お富士山古墳 | 上毛野(伊勢崎市) | 125m | 長持形石棺 | |
5世紀前 | 別所茶臼山古墳 | 上毛野(太田市) | 165m | 十二所神社 | |
5世紀前中 | 太田天神山古墳 | 内ケ島古墳群 | 上毛野(太田市) | 210m | 東国最大の前方後円墳 |
5世紀中後 | 女体山古墳 | 内ケ島古墳群 | 上毛野(太田市) | 98m | 帆立貝式古墳 |
下毛野 | |||||
5世紀後 | 摩利支天塚古墳 | 下毛野(小山市) | 117m | しもつけ風土記の丘資料館 | |
6世紀前 | 琵琶塚古墳 | 下毛野(小山市) | 123m | しもつけ風土記の丘資料館 | |
5世紀中後 | 笹塚古墳 | 東谷古墳群 | 下毛野(宇都宮市) | 100m | 帆立貝式前方後円墳 |
4世紀末 | 上侍塚古墳 | 下毛野(湯津上村) | 114m | なす風土記の丘資料館・湯津上館、 前方後方墳 | |
5世紀初 | 下侍塚古墳 | 下侍塚古墳群 | 下毛野(湯津上村) | 83m | なす風土記の丘資料館・湯津上館、 前方後方墳 |
常陸 | |||||
6世紀初 | 三昧塚古墳 | 沖州古墳群 | 常陸(玉造町) | 85m | 茨城県立歴史博物館、馬方飾付金銅冠 |
5世紀中 | 石岡舟塚山古墳 | 舟塚山古墳群 | 常陸(石岡市) | 186m | 三段構成・外提・周堀。 関東二、県内一の規模 |
5世紀後 | 水戸愛宕山古墳 | 愛宕山古墳群 | 常陸(水戸市) | 134m | 県内最大級 |
5世紀中 | 島町梵天山古墳 | 梵天山古墳群 | 常陸(常陸太田市) | 151m | 県内二の規模 |
7世紀中 | 虎塚古墳 | 虎塚古墳群 | 常陸(ひたちなか市) | 57m | ひたちなか埋蔵文化財調査センター、装飾古墳 |
下総 | |||||
5世紀前 | 三之分目大塚山古墳 | 豊浦古墳群 | 下総(香取市) | 123m | 長持形石棺 |
(6〜7世紀) | 殿塚古墳 | 芝山古墳群 | 下総(横芝町) | 88m | 町立芝山古墳・はにわ博物館、芝山仁王尊はにわ博物館 |
(7世紀) | 岩屋古墳 | 竜角寺古墳群 | 下総(成田市) | 80m | 千葉県立房総のむら(風土記の丘資料館)、方墳 |
上総 | |||||
(3世紀中頃) | 神門5号墳 | 神門古墳群 | 上総(市原市) | 39m | 出現期古墳、神門4号墳・神門3号墳が続く |
(4世紀初頭) | 今富塚山古墳 | 上総(市原市) | 110m | 姉ヶ崎沖積地、大型前方後円墳、天神山に先行 | |
(4世紀中頃) | 姉崎天神山古墳 | 姉崎古墳群 | 上総(市原市) | 119m | 上海上国の首長墓の古墳群 |
5世紀前 | 姉崎二子塚古墳 | 姉崎古墳群 | 上総(市原市) | 103m | 上海上国の首長墓の古墳群 石枕 |
5世紀中 | 稲荷台1号墳 | 稲荷台古墳群 | 上総(市原市) | 27m | 王賜名鉄剣出土記念広場(埋蔵文化財センター) |
6世紀後 | 金鈴塚古墳 | 浜長須賀古墳群 | 上総(木更津市) | 95m | 終焉期古墳、副葬品豪華(金鈴塚古墳遺物保存館) |
5世紀中 | 内裏塚古墳 | 内裏塚古墳群 | 上総(富津市) | 144m | 房総で最大。 須恵国の首長墓 |
6世紀後 | 三条塚古墳 | 内裏塚古墳群 | 上総(富津市) | 122m | 須恵国の首長墓 |
6世紀前 | 九条塚古墳 | 内裏塚古墳群 | 上総(富津市) | 105m | 須恵国の首長墓 |
6世紀中 | 稲荷山古墳 | 内裏塚古墳群 | 上総(富津市) | 106m | 須恵国の首長墓 |
福島 | |||||
(3〜4世紀) | 1号周溝墓 | 舘ノ内遺跡 | 福島県塩川町 | 10m | 東北の四隅突出型周溝墓 (列石や張石はない) |
古代の関東の国と古墳の所在地 | ||
現在の県境を紫色で、律令国名称と古墳時代の首長(国造)を緑色字で、注目する古墳の所在位置を赤丸(赤色字)で示した。 |
古墳探訪についての記事は、原島礼二 「古代東国の風景」、吉川弘文館、1993 をガイドとして、次の書籍、資料館展示目録などを参考にして記した。 原島礼二他 「巨大古墳と倭の五王」、青木書店、1981 原島礼二・金井塚良一編 「東国と大和王権」、吉川弘文館 歴史と文化研究会 「日本の古代遺跡を歩く」、メイツ出版、2005 近藤義郎編 「前方後円墳集成 東北・関東編」、山川出版、1994 太田区立郷土館 「古墳ガイドブック」、大田区土木部公園課、1992 世田谷区立郷土資料館 「畿内王権と古代の東国」、2000 かみつけの里博物館 「よみがえる5世紀の世界」、1999 高崎市観音塚考古資料館 「観音塚古墳の世界」、2006 藤岡市教育委員会文化財課 「藤岡の文化財探訪」、1999 しもつけ風土記の丘資料館 「古代下野国の歴史」、1987 しもつけ風土記の丘資料館 「横穴式石室の世界」、1989 なす風土記の丘資料館 「那須の歴史と文化」、1993 なす風土記の丘資料館 「前方後方墳の世界」、1993 小川町教育委員会 「那須小川古墳群」、2003 茨城県立博物館 ひたちなか埋蔵文化財調査センター 芝山古墳・はにわ博物館 「房総の古墳を歩く(改訂版)」、2006 芝山はにわ博物館 「Shibayama Haniwa Catalogue」、2004 千葉県立房総のむら 「房総風土記の丘ガイドブック」、1999 小見川文化財保存館 (財)市原市埋蔵文化財調査センター 木更津市教育委員会 金鈴塚古墳発掘50周年記念展「金鈴塚の輝き」、2000 |
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