ミステリ&SF感想vol.237

2019.06.11
『刀と傘』 『千年図書館』 『早朝始発の殺風景』 『あやかしの裏通り』 『お前の彼女は二階で茹で死に』



千年図書館  北山猛邦
 2019年発表 (講談社ノベルス)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 帯に“ラスト1行まで何がおこるか分からない!”“『私たちが星座を盗んだ理由』の衝撃、再び!”と謳われているように、以前の『私たちが星座を盗んだ理由』の姉妹作のような印象の、ファンタジー/童話的な雰囲気の中で“最後の一撃”が繰り出される作品集です。
 ミステリの“フィニッシング・ストローク”というよりはショート・ショート風の“オチ”といった感じで、『私たちが星座を盗んだ理由』に比べると結末の衝撃が若干弱まっている感もありますが、それは各篇の結末がややマイルドになっているためでもあり、後味という点では本書の方に軍配が上がるかもしれません。が、いずれにしても『私たちが星座を盗んだ理由』が気に入った方にはおすすめです。

[注意]
 ある作品のオチがうっかり目に入ってしまうおそれがあるので、くれぐれも本書のページをぱらぱらめくらないようご注意ください。

「見返り谷から呼ぶ声」
 冥界の入り口に通じるため、帰る時には決して振り返ってはならない――という言い伝えの残る見返り谷。クラスメイトの少女クロネは、一年前の夏にみんなで見返り谷を訪れてから、死後の世界と見返り谷に心を囚われている様子で、他のクラスメイトたちは次第に不審を抱くようになっていく。そしてついにある日……。
 怪談めいた不気味な言い伝えのある谷をめぐって、少年と少女の密やかな心の交流を描いたエピソード。問題の“何が起きたのか”が少しずつ明かされていくのがうまいところで、それが現在進行する出来事に重なってくるのがスリリングです。そして、最後の一行よりもその直前が印象に残る幕切れが鮮やか。

「千年図書館」
 このところ凶兆が続いている村では、いつものように、西の果ての島にある図書館に“司書”を捧げることになった。くじ引きで選ばれたペル少年が図書館にたどり着くと、二年前に司書に選ばれた少女ヴィサスと再会することに。彼女に司書の仕事を教えられながら、図書館での日々を過ごすペルだったが……。
 『私たちが星座を盗んだ理由』収録の「妖精の学校」を思い起こさせる作品。凶兆に人身御供を捧げるほど文明が発達していない様子の村に対して、場違いといっても過言ではない“千年図書館”の存在が、何とも不穏な空気を漂わせます。そして結末では、(一応伏せ字)登場人物が理解し得ない(ここまで)真相の見せ方がお見事。

「今夜の月はしましま模様?」
 月に落ちた謎の隕石が、月の表面にしましま模様を描き出していく怪現象が始まってしばらくたった頃、大学生の佳月は突然、ラジオからの声――異星人に話しかけられた。目に見える形のない音楽生命体だという異星人は、現在進行しつつある地球侵略計画を佳月に打ち明けるのだが……。
 不可解な怪現象で幕を開ける、どこか調子の外れたようなSFミステリ、といったところでしょうか。岩明均の漫画『寄生獣』のパロディらしい*1主人公と異星人とのやり取りが愉快ですが、全体としてどこへ落ちるのかまったく予想もつかない展開に終始するのが最大の見どころで、発端から結末に至る“飛距離”が圧巻です。

「終末硝子{ストームグラス}
 エドワードが十年ぶりに故郷の村に戻ってみると、村のあちこちに得体の知れない塔が立っていた。村に住み着いたストークス男爵が、かつてビーグル号で旅していた際に知ったという、棺を塔の上に安置する“塔葬”の風習を持ち込んだらしい。男爵に会ってみると、むしろ科学を重視する人物のようだったが……。
 英国の小さな村を舞台にした、歴史伝奇ミステリ風の一篇。村中にそびえる無数の塔の奇怪なイメージを背景に、隠されていた狂気が次第ににじみ出てくるような展開からは目が離せませんし、ついに“終末”が訪れる中で炸裂する“最後の一行”が秀逸。切れ味という点では本書の中でベストではないでしょうか。

「さかさま少女のためのピアノソナタ」
 聖が古書店で手に入れたピアノ曲の楽譜には、“絶対に弾いてはならない!”と書き込まれていた。どうやら“呪われた曲”らしいのだが、大学受験に失敗して絶望した聖がその曲を弾いてみると、周囲に異変が。そして、卒業式をさぼった聖が音楽室で再びその曲を演奏しようとした時、窓の外に少女が現れて……。
 フジテレビ系列「世にも奇妙な物語'19 雨の特別編」の一本としてドラマ化された*2作品です。状況からして(一応伏せ字)できることが限られている(ここまで)ので、オチを予想するのはさほど難しくないとは思いますが、その見せ方が――(“現実的”ではなく)実際的に考えてみると若干気になるところはあるものの――実に鮮やかです。

*1: あからさまにそれを示す記述(102頁)には、さすがに苦笑を禁じ得ません。
*2: 2019年6月8日放送(→「世にも奇妙な物語」公式のツイートを参照;その後の放送時のツイートはネタバレ気味なのでご注意ください)。ちなみにドラマは見逃してしまいました。

2019.01.18読了  [北山猛邦]
【関連】 『私たちが星座を盗んだ理由』


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