詩詞世界　碇豊長の詩詞李清照漁家傲・漢詩

李淸照詞
LiQingzhao liqingzhao李清照
　　漁家傲

天接雲濤連曉霧，
星河欲轉千帆舞。
彷彿夢魂歸帝所。
聞天語，
殷勤問我歸何處。

我報路長嗟日暮，
學詩謾有驚人句。
九萬里風鵬正舉。
風休住，
蓬舟吹取三山去。

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　　　　　　漁家傲

天は　雲濤に接して　　曉霧に連なり，
星河　轉ぜんと欲して　　千帆　舞ふ。
彷彿たる　夢魂　　帝所に歸り。
天語を　聞くに，
殷勤　我に問ふ：　何處（いづこ）にか歸らん　と。

我は報（こた）ふ：　路　長く　日暮を　嗟（なげ）く，
詩を學ぶれど　謾（むな）しく有るは　　人を驚かすの句。
九萬里の風　　鵬　正に舉げよ。
風　　住（や）む休（なか）れ，
蓬舟　吹き取（え）て　　三山へ去らしめよ。

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◎私感訳註：

※漁家傲：詞牌の一。詞の形式名。詳しくは　「構成について」を参照。各句の節奏は、七言詩と似ているので、抵抗感は少ないが、全ての句で押韻するため、正直のところ、作詞は大変である。この詞のイメージは毛沢東の『蝶戀花』

に影響を与えたか。

※天接雲濤連曉霧：大空（を見上げると）、明け方、ぼんやりと明るくなってきた（空に、）すじ雲がまるで波を打ち寄せるように浮かんでおり。　・連曉霧：（雲の大波が）夜明け（時の今、）たちこめている霧に繋がっている。　・天接雲濤：大空（を見上げると）、雲の大波が起こり。明け方、ぼんやりと明るくなってきた空に、すじ雲がまるで波を打ち寄せるように浮かんでいる様をいう。　・連曉霧：（雲の大波が）夜明け（時の今、）たちこめている霧に繋がっている。

※星河欲轉千帆舞：銀河の流れが変わろうとするところでは、多くの船（の漁り火（いさりび）＝星の輝き）が舞うが（如くに）輝いている。　・星河欲轉：銀河の流れが変わろうとするところでは。　・星河：銀河。　・千帆舞：多くの船（星）が舞うが（如くに）輝いている。星の輝きを漁り火（いさりび）の火に見立てて表現している。　・千：多くの。　・帆：帆（ほ）。船を謂う。

※彷彿夢魂歸帝所：ぼんやりと夢を見ている魂は、天帝の天宮へ帰り。　・彷彿夢魂：ぼんやりと夢を見ている魂。　・彷彿：ぼんやりとして明らかでないさま。そっくり。ここは、前者の意。髣髴。　・夢魂：夢の中にある魂。夢を見ている魂。　・歸帝所：天宮へ帰る。　・歸：本来の居所（自宅・故郷・墓所）へもどる。　*夢魂故、空を翔け上り、天宮へ行け、天帝の話しかける声も聞こえるわけであり、そのことをこの「歸」で以て、凡骨ではないと暗示している。　・帝所：天帝の居るところ。大空（を見上げると）、雲の大波が起こり。明け方、ぼんやりと明るくなってきた空に、すじ雲がまるで波を打ち寄せるように浮かんでいる様をいう。　・連曉霧：（雲の大波が）夜明け（時の今、）たちこめている霧に繋がっている。
天宮。

※聞天語：天帝の声が聞こえ（た）。　・天語：天帝の声。

※殷勤問我歸何處：（天帝は）優しく丁寧にわたしに尋ねかけた。「どこへ帰ろうとするのか」と。　・殷勤問我：優しく丁寧にわたしに尋ねかける。　・歸何處：いづこに　かえるや。どこへもどっていくのか。ーーこれは天帝の問いかけの言葉。

※我報路長嗟日暮：わたしは、「道が長いのに、日暮れが迫っていることを嘆いている」とこたえた。（＝人生の道のりは遥かで（大変であるが）、もう人生のたそがれが近づいているのを歎いている」とこたえた）。　・我報：わたしは　こたえて。　・報：こたえる。　・路長嗟日暮：道が長いのに、日暮れが迫っていることを嘆く。人生の道のりは遥かで（大変であるが）、もう人生のたそがれが近づいている。　・嗟：〔さ；jie1○〕歎息する。嘆く。また、ああ。ここは、前者の意。

※學詩謾有驚人句：詩を勉強して、（それなりの成果を挙げたが、人に評価されずに）空しく警抜な句のみが（残されて）ある。　*作者の鬱屈した心情を述べている。才能が有るのに、生かしてもらっていない、ということ。　・學詩：詩を学ぶ。詩を勉強して。　・謾有：空しく（人を驚かすような秀逸な作品だけが）ある。李清照は、詩作には、自信があるが、そのことについては、報われていない、ということを訴えている。　・謾：あざむく、いつわる。あなどる。しまりがない。とりとめがない。　・驚人句：人を驚かすような秀逸な作品。

※九萬里風鵬正舉：雄大な風を、鵬よ挙げてくれ。（わたしは、それに乗って、高く大きく飛翔したい）。ここは、作者の願望を述べている。　・九萬里風：雄大な風。『莊子・内篇逍遙遊第一』のトップに「北冥有魚其名爲鯤，鯤之大不知其幾千里也。化而爲鳥，其名爲鵬，鵬之背不知其幾千里也。…鵬之徙於南冥也。水撃三千里。搏扶搖而上者九万里。」とある。　・鵬正舉：鵬よ、正に挙げてくれ。

※風休住：風よ、やまないで（吹き続けて、李清照の夢魂の乗っている蓬舟に風を吹きかけ、神仙の住むといわれている蓬莱・方丈・瀛州の三神山へ行かせてほしい）。　・休住：やむな。　・休：…をやめよ。…するな。　・風住：風がやむ。　・住：やむ、停止する。

※蓬舟吹取三山去：（李清照の夢魂の乗っている）蓬舟に（風を）吹きかけ、神仙の住むといわれている蓬莱、方丈、瀛州の三神山へ去らしめよ。　・蓬舟：さすらう小舟。粗末な舟。スピードの速い小舟。蓬舟に乗っているのが、李清照（の夢魂）。蓬は次の表のような多くの意味がある。ここは、さすらう」等が相応しいか…。

蓬	「粗末な」	蓬門、蓬館、蓬戸、蓬庭、蓬室、蓬庵…
	「さすらう、流転する」	蓬転、転蓬、飛蓬、蓬飄、蓬征→蓬（よもぎ）が根ごと地面から離れ、風で吹き飛ばされ、圓く団子状になってあちらこちらへ転がっていくこと。
	乱れる	蓬頭、蓬髪、蓬乱、蓬首、蓬鬆…
	盛んである	蓬勃

なお、「蓬」と似た字で、発音も全く同じの「篷」があるが、この意味は、「とま」（舟の覆い）。転じて「小舟」という意味があり、魅力的だが、文字を換えるべきではないので…。　・吹取-：吹いた結果。＝吹得-。　・三山：渤海にある神仙の住む蓬莱・方丈・瀛州の三神山のこと。『史記・封禅書』にある。

◎　構成について

双調。六十二字。仄韻一韻到底。上片と下片は同一。韻式は「ａａａaａ　ａaａａａ」。韻脚は「霧舞所語處　暮句舉住去」で、第四部の去声と上声。去声：「霧處暮句住去」　上声：「舞所語舉」。「處」は、上去の両韻で、上声は動詞（処す）で、去声は名詞（処）。ここは、名詞で去声。

　　　　