Huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye


蝶恋花

    蝶戀花 
                   答李淑一
                               一九五八年七月一日

我失驕楊君失柳,
楊柳輕颺直上重霄九。
問訊呉剛何所有,
呉剛捧出桂花酒。


寂寞嫦娥舒廣袖,
萬里長空且爲忠魂舞。
忽報人間曾伏虎,
涙飛頓作傾盆雨。

毛主席和楊開慧
                  **********

蝶戀花 
           
李淑一に答ふ

      ほこら
 我は驕らかな楊を失ひて 君は柳を失ひ,
 楊柳は 軽やかに颺がりて 重霄九に 直上す。
 問ひ訊ぬ 呉剛は何を所有すやと,
 呉剛は 捧げ出だす 桂花の酒。


 寂寞たる嫦娥は 広き袖を舒げ,
 万里の長空 且らく 忠魂の為に舞ふ。
 忽ち報せあり:人間 曾て虎を伏せりと,
 涙飛びて 頓ち盆を傾けたる雨と作る。

      **********

私感注釈

※蝶恋花 答李淑一:李淑一の詞に答えて。(『蝶恋花』は詞牌)。 *李淑一が毛沢東に亡夫・柳直荀烈士を詠った『菩薩蠻』詞を送ったことに対して、毛沢東はこの『蝶恋花』詞を作って李淑一に答えた。人間関係を簡単に謂えば、毛沢東と楊開慧とは夫婦であり、また、柳直荀と李淑一とは夫婦。(夫婦別姓)。どちらも配偶者を失っていたわけで、毛沢東が李淑一に会った時、この詞を送り、共に亡き配偶者(毛沢東にとっては楊開慧、李淑一にとっては柳直荀)を悼んだ。

この詞ができるまでの経緯を詳しく見れば、この詞が毛沢東の作品中の最高傑作であるといわれる理由がよくわかる。以下、『毛沢東詩詞百首訳注』 陳国民訳注 北京出版社 1997年 北京と『毛沢東詩詞大観』(増訂本 蔡清富・黄輝映 編著 四川人民出版社 1998年 成都)とに拠って以下詳しく見る。
  1957年2月に李淑一は毛沢東に手紙を出した。その手紙には、「(毛沢東主席は)若い頃、結婚前の楊開慧に『虞美人』詞(『虞美人』一九二〇年 「堆來枕上愁何状,江海翻波浪。夜長天色總難明,寂莫披衣起坐數寒星。   曉來百念キ灰盡,剩有離人影。一鉤殘月向西流,對此不抛眼涙也無由。」)を贈られたが、それはどうなったのでしょうか。わたし(=李淑一)は始めの二句しか覚えていません(李淑一は楊開慧の友人)が、全句をお教え願えませんか…」、更に、李淑一は亡夫・柳直荀烈士を詠った『菩薩蠻』詞を添えて、これを毛沢東に送った。それにに対して、毛沢東は「大作读毕,感慨系之。开慧所述那一首不好,不要写了罢。有《游仙》一首为赠。这种游仙,作者自己不在内,别于古之游仙诗。」(開慧のあれはよくないので、『遊仙』詞(=このページの『蝶恋花』)を贈りましょう)と、この『蝶恋花』詞を作って李淑一に贈った。そのような次第で李淑一に贈ったことを題にしたのが、『李淑一』。「答-」には多くの思いが込められている言葉。
  なお、この『蝶戀花』詞のイメージは、李清照の『漁家傲』「天接雲濤連曉霧,星河欲轉千帆舞。彷彿夢魂歸帝所。聞天語,殷勤問我歸何處。   我報路長嗟日暮,學詩謾有驚人句。九萬里風鵬正舉。風休住,蓬舟吹取三山去。」と似た雰囲気を持っており、共に天上世界を描き、「天(重霄九)・何・問・報・萬里」と同一の語が使われ、問答形式の表現が展開される。
 毛沢東の詞は豪放詞派と呼ばれる範疇に属するものが多いが、これは数少ない婉約詞。婉約系には、前出・『虞美人』の外、『七律・答友人』(一九六一年)「九嶷山上白雲飛, 帝子乘風下翠微。 斑竹一枝千滴涙, 紅霞萬朶百重衣。 洞庭波湧連天雪, 長島人歌動地詩。 我欲因之夢寥廓, 芙蓉國裏盡朝暉。」がある。 ・李淑一:女性の名。李淑一は、毛沢東の最初の妻・楊開慧の友人である。李淑一の夫・柳直荀は、一九三三年当時の中国共産党によって、スパイと誣告されたことに因り、処刑された。(しかし、名誉は回復されている)。その後、(文革終焉後)、妻の李淑一は「毛澤東の妻・楊開慧の友人」として、楊開慧関聯の事柄には顔を屡々出している。

※我失驕楊君失柳:わたし(=毛沢東)は、ほこらかな(妻の)楊(開慧)を失って、あなた(=李淑一)は、(夫の) 柳(直荀)を失った。 *「驕楊」と句中の対を構成している。 ・我:わたし。毛沢東自身を指す。 ・驕楊:ほこらかな楊(開慧)。楊開慧を指す。近代的な婚姻概念による毛沢東の最初の妻である。楊開慧は当局に捕まった後、転向を迫られ、夫・毛沢東と離婚すれば釈放されるこ とになったが、夫に忠節と貞節を守ったがために、処刑された。その時、毛沢東は既に次の妻・賀子貞(賀子珍) (どちらの発音も:He4 Zi3zhen1)と共にあって、山岳で革命闘争を推し進めていた。そのための気持ちの後ろめたさがあったのだろうか、「驕(ほこ)らかな楊」と表現している。
  文革期の『毛主席詩詞三十七首』には、楊開慧は“毛沢東の妻”とは、注記しないで、 “李淑一の友人”とだけ記されている。その注記だけでは「我失驕楊」の部分の理解ができない。同『毛主席詩詞三十七首』が編纂された当時は、 江青が毛沢東の妻であったため、彼女に遠慮して「楊開慧とは毛沢東の妻である」とは、書けなかったものと思われる。早期の毛主席詩詞の注釈本類は、そのところを余り触れないため、この詞を巡る四人の関係が不明瞭なことに因るわかりにくさがあるが…。なお、毛沢東を巡る女性については『毛沢東和他的女人們』に詳しい。
  第1次天安門事件の際は、反江青の感情をバネにして、歴史の裏に隠されかかった楊開慧に同情が集まり、彼女を讃える詩が張り出された。 ・君:あなた。李淑一を指す。 ・柳:柳直荀のこと。毛沢東に詞を贈った李淑一の夫。彼は一九三三年当時の中国共産党 (王明極左日和見主義路線と謂われる)に因って、スパイと誣告され、処刑された。ただし、 『毛主席詩詞三十七首』では、柳直荀も “一九三二年、湖北洪湖戦役中に陣没した”者として記され、「烈士」の称号が付けられている。 (「烈士」とは、革命事業のために命を落とした者としての位置づけを表す称号)。

※楊柳輕颺直上重霄九:「楊・柳」は軽(かろ)やかに舞い上がって、天の極みにまで真っ直ぐに上がった。 ・楊柳:〔やうりう;yang2liu3○●〕ヤナギの総称。また、「楊」はカワヤナギ、ネコヤナギで、「柳」はシダレヤナギ。この場合は二人の姓「(開慧)」「(直荀)」をかけている。 ・輕颺:軽(かろ)やかに舞い上がるさま。 ・颺:〔やう;yang2○〕風で舞い上がる。風が物を吹き上げる。飛び上がる。あげる。あがる。柳絮の舞い上がるさまをも聯想させる表現。 ・直上:真っ直ぐにあがる。 ・重霄九:九霄。天の一番上。天の極み。

※問訊呉剛何所有:(「楊・柳」の二人は、月世界の住人である)呉剛に、何を持っているのと尋ねたら。 ・問訊:あいさつをする。ご機嫌をうかがう。また、たずねる。問う。 ・呉剛:月世界の住人。元、漢代の西河の人。仙人になろうとしたが、過ちを犯して月に流される。そこで、月世界に生えるといわれる五百丈にもなる桂(想像上の植物。「かつら」ではない。)を伐ることをさせられる。しかし、この桂は、すぐに生長するので、呉剛は永遠に桂を伐ることになった。中国版シジフォスの神話。 ・何所有:(持って)いる物は何か。寒山に『重巖我卜居,鳥道絶人跡。庭際何所有,白雲抱幽石。住茲凡幾年,屡見春冬易。寄語鐘鼎家,虚名定無益。」とある。 ・有:もつ。所有する。中国語学の言い方では「存在」を表す。日本語の「ある」に当たる漢語は基本的には「有」と「在」の二種があり、「もっている」「所有している」という意味の「(…が)ある」は「有」であり、場所を表す「(…に)ある」は「在」を使う。この二種の混用はない。

※呉剛捧出桂花酒:呉剛は、(月世界に生えるという桂で作った仙人酒である)桂花酒を捧げ出した。 ・捧出:(両手をそろえ、掌(てのひら)を上に向けて)捧げ出す。後出・清・顧炎武の『海上』では「海上雪深時,長空無一雁。平生李少卿,持酒來相勸。」では「持酒」とある。 ・桂花酒:月世界に生えるという桂で作った仙人酒。現在、中国で飲める「桂花珍酒」は関係がない。中国には「桂花陳酒」や「桂花茶」があるが、これは、木犀(モクセイ)などのもの。
毛主席和楊開慧
左:楊開慧  右:嫦娥

※寂寞嫦娥舒廣袖:ひっそりとしてものさびしげにしていた(月世界の仙女の)嫦娥(じゃうが)は、幅広い袖をひろげて。 ・寂寞:〔せきばく、じゃくまく;ji4mo4●●〕ひっそりとしてものさびしいさま。 ・嫦娥:〔こうが(じゃうが);Chang2'e2,Heng2'e2○○〕月に住むという伝説上の仙女。伝説では、夏の時代、十個の太陽があり、あまりにも熱かったので、その内、九つを射落としたという弓の名人の羿(げい)の妻。彼が西王母より貰った不死の仙薬を妻である姮娥(後、いみなを避けて嫦娥)が偸んでのみ、月に逃げた『嫦娥奔月』の故事がある。「嫦娥」、「姮娥」同一でどちらも「じゃうが」と読む。(「姮」の俗字が「嫦」)。ただし、「嫦娥」は〔じゃうが;Chang2'e2〕、「姮娥」は〔こうが;Heng2'e2〕と読み分けるのを多く見る。(右図:右側が嫦娥で、左が楊開慧=北京で買ったポスターの部分) ・舒:ひろげる。

※萬里長空且爲忠魂舞:果てしない大空で、しばし烈士のために舞った。 ・長空:大空。清・顧炎武の『海上』に「海上雪深時,長空無一雁。平生李少卿,持酒來相勸。」とある。 ・且:しばし。しばらく。短い時間表す。 ・爲:ため(に)。 ・忠魂:革命烈士、とりわけここでは楊開慧・柳直荀らの霊魂を指す。

※忽報人間曾伏虎:突然、人間世界から、虎を退治(=革命が成功)したことを伝えてきた。 ・忽:〔こつ;hu1●〕思いがけず。にわかに。突然。 ・報:しらせ。「報」の内容は「人間曾伏虎」。 ・人間:〔じんかん;ren2jian1○○〕人の世。浮き世。 ・曾:かつて。以前に。 ・伏虎:とらを退治する。革命が成功したことの喩え。

※涙飛頓作傾盆雨:涙が飛ぶように流れて、急に盆を傾けたような激しい雨となった。 ・涙飛:涙が飛ぶように流れること。主語が楊開慧なのか、嫦娥なのか中国でも意見が分かれているところ。それに因って味わいが変わる。 ・頓:〔とん;dun4●〕頓(とみ)に。にわかに。 ・作:…となる。 ・傾盆雨:盆を傾けたような激しい雨。=「傾盆大雨」。なお、「盆」〔ぼん;pen2○〕はボウル・洗面器・植木鉢・丼鉢のような深く大きい物を指し、日本のお茶を運ぶ「お盆」のような浅いものではない。






◎ 構成について:
蝶恋花 六十字 双調 仄韻の一韻到底。 鵲踏枝 一金ともいう。韻式は「aaaa aaaa」韻脚は、詞韻第十二部上声が柳liu3、九jiu3、有you3、酒jiu3。同部去声が袖xiu4。 また、第四部上声舞wu3、虎hu3、雨yu3。

○○●●(仄韻),
●○○+●○○●(仄韻)。
○○●●(仄韻),
●●○●(仄韻)。(五字目「桂」はになるべき所)

○○●●(仄韻),
●○○+●○○●(仄韻)。
○○●●(仄韻),
●○○●(仄韻)。(一字目はの方がベター)
                 
(1999.11.10)
(1999.11.11)
(1999.11.12
(1999.11.17)
(2000. 1.10)完
(2000. 6.30)補
(2001. 4.28)
(2001. 6. 6)
(2002. 6.15)
(2002. 6.19)
(2007. 3.14)
(2013. 3. 2)
(2013. 3. 3)

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