李煜　清平楽　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩

淸平樂
漢詩　清平楽

別來春半，
觸目愁腸斷。
砌下落梅如雪亂，
拂了一身還滿。

雁來音信無凭。
路遙歸夢難成。
離恨恰似春草，
更行更遠還生。

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淸平樂
　　　　　　　　　　　　　

別れて來（よ）り　春は　半（なか）ば，
觸目　　愁ひ　腸（はらわた）を斷つ。
砌（みぎり）の下（もと）　　落梅　雪の亂るるが如く，
拂ひ了（をへ）ど　　一身に　還（な）ほ　滿つ。

雁　來（きた）れど　　音信　凭（たよ）る無く。
路　遙かにして　　歸夢　成し難し。
離恨　　恰（あたか）も似たり　　春草に，
更に行き　　更に遠ざかれど　還（な）ほ　生ず。

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私感注釈

※淸平楽：詞牌の一。詳しくは下記「◎構成について」を参照。

※別來春半：別れてから春も半ばになって。　・別來：別れてより。來には、くるの意味はない。ある起点から続いて。…より、以降、以来、の意。　・春半：春が半ばになっている。仲春になった。

※觸目愁腸斷：目に触れる物（すべて）が、愁いではらわたが斷れるようである。　・觸目：目につくもの。目に見て感じること。　・愁腸斷：愁いではらわたが斷れるようである。　・腸斷＝斷腸：腸が断たれるほどの辛い思い。　柔腸斷とするものもある。

※砌下落梅如雪亂：石段の下の梅の花の散りゆくさまがまるで雪が乱れ飛ぶようであり。　・砌下：石段の下。　・砌：みぎり。石畳。石段。　・落梅如雪亂：梅の花の散りゆくさまがまるで雪が乱れ飛ぶようで。

※拂了一身還滿：全身（の落花）を払いのけてもまたすぐにいっぱいになった。　・拂了：（白話）はたいた。払いのけた。　・拂：（白話）はたく。払いのける。　・-了：（白話）動詞などの後に付き、動作や状態のの完成を表す。　・一身：からだ一面に。全身。　・還滿：まだいっぱい（体に）付いている。　・還：なおまた。

※雁來音信無凭：雁が届けるといわれる便りにも、頼ることはできないので。　・雁來：雁がやって來ても。　・音信：たより。消息。手紙。雁が手紙を運ぶという故事に基づいた句。　・無凭：（目的地までは遠すぎて）頼れない。　・凭：（白話）頼る。頼みとする。

※路遙歸夢難成：距離が遥かに離れているので、夢路でも成就できない。　・路遙：路が遙か。（離れている人・所と、実際に或いは感覚的に）距離が離れていることをいう。　・歸夢：故郷に帰った夢。　・難成：なしがたい。（あまりにも遠く離れているので）故郷に帰った夢がなかなか見られない。

※離恨恰似春草：別れの悲しみは、まるで春の草のようで。　・離恨：別れの悲しみ。「離恨滿蒼波」に同じ。　・恰似：まるで…にそっくりだ。まるで…のようだ。恰も似たり。「却如」とするのもある。その場合は、「どちらかといえば…のようだ」になる。李白の『襄陽歌』に「百年三萬六千日，一日須傾三百杯。遙看漢水鴨頭綠，恰似葡萄初醗。此江若變作春酒，壘麹便築糟丘臺。千金駿馬換小妾，笑坐雕鞍歌落梅。車旁側挂一壺酒，鳳笙龍管行相催。咸陽市中歎黄犬，何如月下傾金罍。君不見晉朝羊公一片石，龜頭剥落生莓苔。涙亦不能爲之墮，心亦不能爲之哀。清風朗月不用一錢買，玉山自倒非人推。舒州杓，力士鐺。李白與爾同死生，襄王雲雨今安在，江水東流猿夜聲。」や、李煜自身の『虞美人』に「春花秋月何時了，往事知多少。小樓昨夜又東風，故國不堪回首　月明中。　　　雕欄玉砌應猶在，只是朱顏改，問君能有幾多愁。恰似一江春水　向東流。」とある。　・春草：春の草。春：詞では酒、茶、女性を指す場合もある。　・更行更遠：一層離れ去って行き、ますます遠ざかっていけば。　・更：いっそう。ますます。さらに。　・還生：……する端から、すぐにまた生じてくる。　・還：…する端から。…するほどに。なおもまだ。

※更行更遠還生：（あなたが）一層離れ去って行き、ますます遠ざかって行く、その端から（春の草は、そして離愁は、）すぐにまた生じてくる。ここは「江草喚愁生」からきている。同義になる。

◎　構成について
　　
　双調。　四十六字。　　換韻。　韻式は「ａａａａ　ＢＢＢ」。韻脚は「半斷亂滿　凭成生」。「半斷亂」は、第七部去声で、「滿」は同第七部上声。「凭成生」は、第十一部平声。

　　　○●（仄韻），
　　　●○○●（仄韻）。
　　　●○○●●（仄韻）。
　　　●○●●（仄韻）。

　　　○●○○（平韻）。
　　　○●○○（平韻）。
　　　●○●，
　　　○●○○（平韻）。