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天下傷心處,
勞勞送客亭。
春風知別苦,
不遣柳條靑。
勞勞亭
天下 心を 傷ましむるの處,
勞勞 客を 送るの亭。
春風 別れの 苦なるを 知り,
柳條をして 青からしめず。
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◎ 私感註釈
※勞勞亭:建康(現・南京)郊外南南西6キロメートルの油坊橋畔(地下鉄二号線・油坊橋駅)あたりにあった労労亭のこと。=新亭。嘗て、亡国の歎を吐出していたところ。 (西)晋が胡に滅ぼされた後、江南半壁に追いやられ、皇帝を拉致(永嘉の乱)されながらも、江南の地に拠って漢民族の国家を保持し続け、長江を南渡して(遁れてきた)人士たちは、)いつも休みの日になると、長江南岸の建康(=南京附近)の新亭(労労亭)に集まって、酒を酌み交わし、郷土中原を偲び、歎いていた処。周顗は、『風景(=風と陽光)は(故国)とは異なってはいないが、目にする川の姿、全てが新たで異なったものである』と言ったので、みんなは、見つめ合って、涙を流した。ひとり、王導だけは、形を改め正して、憤りを見せ『(我々は、)一緒になって王室のために力を尽くして(建設すべきであり)、祖国の故地・神州を恢復させるべきであり、何をめそめそと亡国の民のようになっているのか、この江南に新天地があるではないか!』と言ったので、みんなは彼に謝った。『晉書・列傳・王導』「晉國既建,以(王)導爲丞相軍諮祭酒。桓彝(桓階の弟、桓温の父)初過江,見朝廷微弱,謂周顗曰:「我以中州多故,來此欲求全活,而寡弱如此,將何以濟!」憂懼不樂。往見(王)導,極談世事,還,謂(周)顗曰:『向見管夷吾,無復憂矣。』過江人士,毎至暇日,相要出新亭飮宴。周顗中坐而歎曰:『風景不殊,舉目有江河之異。」皆相視流涕。惟(王)導愀然變色曰:「當共力王室,克復神州,何至作楚囚相對泣邪!』衆收涙而謝之。」。この部分は、南宋の豪放詞には、常に出てくる部分である。民族の怨念がこもっている部分。辛棄疾の水龍吟「渡江天馬南來」 や、宋 劉克莊の『賀新郞』「北望神州路,試平章 這場公事,怎生分付? 記得太行山百萬,曾入宗爺駕馭。今把作握蛇騎虎。加去京東豪傑喜,想投戈、下拜真吾父。談笑裡,定齊魯。兩河蕭瑟惟狐兔,問當年 祖生去後,有人來否? 多少新亭揮泪客,誰夢中原塊土?算事業須由人做。」に詳しい。南宋末の汪元量に『題王導像』も「秦淮浪白蒋山靑,西望神州草木腥。江左夷吾甘半壁,只縁無涙灑新亭。」 や、陸游『追感往事』「諸公可歎善謀身,誤國當時豈一秦。不望夷吾出江左,新亭對泣亦無人。」 とある。
大きな地図で見る南京の地下鉄二号線・油坊橋駅(地铁2号线油坊桥站)あたり
※天下傷心處:(労労亭は、歴史上)国中の心をいたましめる処だ。 ・天下:天の下。この国全部。国家。国中。 ・傷心處:心をいたましめるところ。亡国の恨みのあるところ。
※勞勞送客亭:旅をする人を見送り(迎えてきた)宿である。 ・勞勞:いたわる。ねぎらう。疲れを慰める。 ・送客:旅人を見送り(旅人を迎える)。 ・亭:宿場。宿屋。街道に長亭、短亭が置かれた。ここでは前出、労労亭のこと。
※春風知別苦:春風は、(数多くの)別離の苦しみ(晉が胡に滅ぼされた後、故地中原を後にして江南に渡り流れてきた苦難など)を記憶している。 ・春風:はるかぜ。 ・知:分かっている。記憶している。 ・別苦:(西)晉が胡に滅ぼされた後、故地中原を後にして江南に渡り流れてきた苦難をいう。
※不遣柳條靑:(春風は、別れの哀しみがあまりにも深いので、送別の儀礼・折楊柳に必要な)柳を青くさせないでいる。(折楊柳をさせないで、この地に留まるようにさせている)。 ・遣:(人をつかわして)…に…させる。…をして…しむ。使役表現。 ・柳條:ヤナギの枝。シダレヤナギの枝。=柳枝。折楊柳は、漢代より人を送別する際の儀礼でもある。 ・靑:青くなる。動詞としての用法。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「亭青」で、平水韻下平九青。次の平仄はこの作品のもの。
○●○○●,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
2004.9.18 9.19 |
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