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唐・沈佺期 |
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唐・沈佺期 |
盧家少婦鬱金堂，
海燕雙棲玳瑁梁。
九月寒砧催木葉，
十年征戍憶遼陽。
白狼河北音書斷，
丹鳳城南秋夜長。
誰謂含愁獨不見，
更敎明月照流黄。
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古意
盧家 の少婦 鬱金堂 ，
海燕 雙棲 す玳瑁 の梁 。
九月寒砧 木葉 を催 し，
十年征戍 遼陽 を憶 ふ。
白狼 河北音書 斷 え，
丹鳳 城南秋夜 長し。
誰謂 ぞ愁 ひを含む獨不見 ，
更に 明月をして流黄 を照らさしむる。
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◎ 私感註釈
※沈佺期：初唐の詩人。顕慶元年頃（６５６年頃）～開元二年（７１４年）。字は雲卿。相州内黄（現・河南省内黄県）の人。上元二年（６７５年）の進士。一時、驩州へ流されるが、やがて中央に召される。官は、中書舎人、太子少詹事などを歴任した。七言詩に長じる。
※古意：詩題の名。『擬古』に同じく、前代のことを述べて現代を諷刺し、または、新体を用いて内容は昔の精神を歌ったもの。 ＊『古意呈補闕喬知之』（古意 補闕・喬知之に呈す）/『獨不見』ともする。 ・補闕：唐代の官名。天子のあやまちを諫める。 ・喬知之：姓名。
※盧家少婦鬱金堂：盧家の若妻の（香料の）鬱金香を塗り込めた部屋は。 ・盧家：盧（ろ（ルー））家。南朝の楽府民歌『河中之水歌』中にうたわれた名前。「河中之水向東流，洛陽女兒名莫愁。莫愁十三能織綺，十四採桑南陌頭。十五嫁爲盧家婦，十六生兒字阿侯。盧家蘭室桂爲梁，中有鬱金蘇合香。」とある。これらから、後世、「盧家少婦」で、「若妻」の意を持つようになった。 ・少婦：若い妻。若い女。「盧家少婦」は、名は「莫愁」となる。蛇足になるが、「小婦」は、めかけ。 ・鬱金堂：香料の鬱金香を塗り込めた女性の部屋。
※海燕双棲玳瑁梁：ウミツバメが梁（はり）で、つがいになって棲みついており。 ・海燕：ウミツバメ。 ・双棲：つがいになって棲みついている。「少婦」（若い妻）は独り暮らしであることを意識づける働きをしている。 ・玳瑁：〔たいまい；dai4mao4●●〕タイマイ。熱帯に棲むウミガメの一種。甲羅は半透明黄褐色で黒い斑点があり、鼈甲(べっこう)と呼ばれ、装飾品に用いられる。 ・梁：はり。うつばり。家の棟を支える大きな横木。
※九月寒砧催木葉：（晩秋の）陰暦・九月の寒中に響いて来る（寂しげな）きぬたの音は、木の葉の散るのをせきたてて。 ・九月：陰暦・九月は晩秋。陽暦の十月後半頃か。 ・寒砧：寒中に響いて来る寂しげなきぬたの音。冬支度のきぬたの音。冬の衣服のしたくを夜なべをして作っていることをいう。後世、南唐後主・李煜は『搗練子』で「深院靜，小庭空，斷續寒砧斷續風。無奈夜長人不寐，數聲和月到簾。」と使う。 ・砧：〔ちん；zhen1○〕きぬた。布や洗った着物を柔らげたり、つやを出したりするときの石の台。 ・催：せきたてる。うながす。もよおす。 ・木葉：このは。
※十年征戍憶遼陽：十年征戍憶遼陽：十年前から遼陽（＝現・遼陽市：北方の要衝）方面に国境の守備に行っている（夫を）なつかしく思わせる。 ・征戍：〔せいじゅ；zheng1shu4○●〕国境の守備に行く。 ・憶：心にこめて思う。なつかしむ。心の中におもって忘れない。 ・遼陽：北（東）方にある要衝の安東都護府。現・遼寧省遼陽市。ここでは､祖国防衛の北方最前線の意で、この詩の主人公である廬少婦（廬莫愁）の夫の任地として使われている｡『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５０－５１ページ「唐 河北道北部」にある。
大きな地図で見る東端に遼陽（辽阳）があり、西端に白狼水（大凌河）がある。
大きな地図で見る中央、西南西（左下）から東北東に流れる河が白狼水（大凌河）。
※白狼河北音書断：（北方の遼陽近くを流れる）白狼水（＝現・遼寧省の大凌河）の方面（＝北方にいる夫の任地の方）からの音信は、絶えてしまっている。 ・白狼河：白狼水のこと。ここでは､北方の川の意で使われている｡前出・遼陽からそれほど離れてはいない。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５０－５１ページ「唐 河北道北部」にあり、奚王牙帳から東流し、営州を通って渤海に注ぐ川。現・遼寧省の大凌河。 ・音書：〔いんしょ；yin1shu1○○〕音信。便り。
※丹鳳城南秋夜長：首都・長安城の南の方（＝この詩の主人公である妻の廬少婦のいるところ）では秋の夜が長い。 ・丹鳳：普通名詞として、天子の宮殿。「丹鳳城」は首都・長安のことになり、少婦（若い妻）のいるところ。なお、大明宮（長安城の北東の宮殿）の正門は丹鳳門。（『唐代的長安與洛陽地圖』上海古籍出版社（1991年上海）平岡武夫（原・日本の京都大学平岡武夫氏による出版の中国での復刻唐代研究地図集））にある。）
※誰謂含愁独不見：一体誰がどうして愁いを帯びた『独不見』という詩（うた）のように、会うことができない哀しさ（をうたっているのだろうか）。 ・誰謂：だれが…と思ったろうか。だれがというのか。だれがどうして。たれかおもはん。たれか…といふ。なんすれぞ。 ・謂：（述べて）いう。語る。のべる。思う。考える。また、疑問・反語を示す助字。 ・含愁：〔がんしう；han2chou2○○〕うれいをいだく。 ・独不見：「会うことができない哀しさ」の含意がある楽府題。楽府『雑曲歌辞』旧題。多く、離別や閨怨をうたう。『樂府詩集』の解題に「獨不見，傷思而不得見也。」とある。（『楽府詩三百首』劉筑琴編注 三秦出版社1999年西安 ２７１ページ
※更教明月照流黄：その上、更にまた、澄んだ月の光が緑色（の絹で作られた寝台にはりめぐらす帳（とばり）での独り寝）を照らし出させているのだろうか。 ・教：〔けう；jiao4○〕（…に）…をさせる。（…をして）…しむ。使役表現。 ・流黄：黄緑色の絹。黄緑色。＝留黄。また、いおう（硫黄）。＝硫磺。ここでは､黄緑色の絹で作られた寝台にはりめぐらす帳（とばり）。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「堂梁陽長黄」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，
○●○○○●○。（韻）
○●○○●●●，
●○○●●○○。（韻）
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