漢詩滿江紅
   
塵寰,
問幾個男兒英哲?
算只有蛾眉隊裏,
時聞傑出。
良玉勳名襟上涙,
雲英事業心頭血。
醉摩長劍作龍吟,
聲悲咽。


自由香,
常思。
家國恨,
何時雪?
勸吾儕今日,
各宜努力。
振拔須思安種類,
繁華莫但誇衣。
算弓鞋三寸太無爲,
宜改革。


******


滿江紅

たる  塵寰に,
問ふ  幾個の男兒の英哲あらん?
算ふるに  只だ 蛾眉隊裏にのみ 有り,
時に聞く  傑出せるを。
良玉の 勳名に  襟上 涙し,
雲英の 事業に  心頭 血のぼる。
醉ひて  長劍を 摩して 龍吟を作せど,
聲は  悲しく 咽
(むせ)ぶ。


自由の 香,
常に 
(もや)さんことを 思ふ。
家國の 恨,
何れの時か 雪がん?
勸
(すす)む  吾が儕(ともがら)よ 今日,
各
(おのお)の  宜(よろし)く 努力すべし。
振拔して  須
(すべか)らく 思へ  種類を 安んずを,
繁華にして  但だ 衣を誇る 莫
(なか)れ。
算
(おも)ふに  弓鞋 三寸  太(はなは)だ 爲すこと無し,
宜
(よろ)しく 改革すべし。

           **********
◎私感注釈

※滿江紅:詞牌の一。詳しくは下記「◎ 構成について」を参照。

※:きたない。穢れた。
※塵寰:俗世間。
※塵寰:穢れたこの世。けがれた俗世間。
※幾個:(白話)幾人。何にん。個:人などの量詞(助数詞)。「ひとり」は“一個人”、「なんにん」は“幾個人”という風に言う。
※英哲:人よりも優れている。
※問幾個男兒英哲:問うが、一体何人の男児が人よりも優れているのか。
※算:(白話)…だと思う。…ということになる。
※只有:(白話)ただ……より外はない。
※蛾眉隊裏:。蛾眉:美しい眉をした女性。ここでは、広く女性を指す。
※算只有蛾眉隊裏:思うに、ただ女性の隊伍の中でしか。
※時聞:時に聞く。時々耳にする。
※傑出:飛び抜けて優れた。ここでは、飛び抜けて優れた人物、と名詞として使われている。
※時聞傑出:ただ女性の中でのみ、飛び抜けて優れた人物のことをしばしば耳にする。
※良玉:明代の女性で、秦良玉(1574(
or1584)〜1648)のこと。字は貞素四川、忠州の人で、幼児より武術に励み、騎射を得意とする。詩文にも通じ、石の宣撫使馬千乗の妻となる。夫の死後、その職を継いで、後金(後の清)と勇敢に戦った人物。忠貞侯に封ぜられる。「明史・本紀」には「石宣撫使女土官秦良玉起兵討賊。」とある。
※勳名:手柄を立てて名をあげる。
※襟上涙:衣服の襟の上に涙を落とす。
※雲英:沈雲英のこと。明末の女傑。父に代わって、城を守った。良玉、雲英、ともに満洲民族と戦った女傑。
※心頭:胸中。心中。
※摩:(白話)手のひらで撫でさする。
※作龍吟:龍が鳴く龍吟虎嘯をなす。英雄が出現する様をいう。
※醉摩長劍作龍吟:酔って長劍を撫でながら龍吟。
※咽:(エツ;ye4)むせぶ。嗚咽(おえつ)。咽(エン(イン);yan1、yan4)は、のど(yan1)。のむ(yan4)。
※自由香:自由の香(こう)。香:香木、線香のような、焚くもの。
※常思:いつも思っている。
※:火をともす。焼ける。燃える。燃やす。
※常思:いつも火を点ずことを思っている。
※自由香,常思:自由の香木に、火を点じようといつも思っている。(そして、自由の香りをこの中華世界に満ち溢れさせたい。)
※家國恨:国家の恨みは。ここでは「家」は、家園・故郷=血の繋がった一族、つまり、民族の意味に使っており、「漢民族の亡国の恨み」として使っている。その対象は前出、良玉・雲英の抗女真族の英雄を出すまでもなく、満洲王朝=清である。
※雪:すすぐ。
※勸:すすめる。忠告する。
※吾儕:(古白話)われら。我々。ここでは、広く女性、同志の女性のこと。
※勸吾儕今日:我々の同志に勧告するが、こんにち……。
※各:おのおの。
※宜:(するのが)ふさわしい。よろしく……べし。
※各宜努力:(こんにちの情勢下では)おのおのよろしく努力すべきであろう。
※振拔:(古白話)抜け出す。奮起して自立する。
※須思:思う必要がある。すべからく思うべきである。
※安種類:(自)民族の安寧を謀る。民族を安んず。種類:種族、民族の意。「漢書・西域伝上・西夜国」に「西夜與胡異,其
種類羌行國,…」「北史・蛮伝」「蠻之種類,蓋盤瓠之後」。或いは、次のようにもとれる。どうして種類があろうか。どうして血筋ということがあろうか。「史記・陳渉世家」の「王侯將相寧有種乎。」に基づいてる。「いづくんぞ」と読む字は多いが、「安」と「寧」は同義。
※振拔須思安種類:奮起して、(我が)民族の安寧を謀ることに思い致すべきである。或いは、奮起して、血統や血筋ということは全くないといことに、思い致す必要がある。
※繁華:あでやか。にぎやか。
※莫但:。ただ……ばかりするな。但:…だけ。…ばかり。…のみ。≒不但。
※衣:衣服と装身具。一部が缺けている環状の佩玉。
※繁華莫但誇衣:服飾の華美を誇ることのみに走るな。
※弓鞋:纏足女性が穿いた小さな靴。纏足用の靴。鞋:くつ。鞋も靴も日本語では、「くつ」だが、「鞋」は紐で結ぶ短ぐつ・シューズ、(わらぢは草鞋)で、「靴」は匈奴の穿く履き物からきた革ぐつ。長靴・ブーツになる。
※三寸:「三寸金蓮」のことで、女性の「小さくてかわいい纏足」をいう。「金蓮」の呼称は、纏足の靴を穿いた足の外観の表現「すばらしいハスの花びらのような形と大きさ」から来ている。愛玩する男性の眼から見た表現でもある。「紅楼夢」で、尤三姐の衣裳を「底下��紅鞋,一對金蓮或翹或並,沒半刻斯文。」と表現している。漢民族女性の風習であり、秋瑾は、これは女性を束縛、隷従させるものとして、憎んだ。清代の一寸は3.2cmで、三寸は、9.6cmとなる。婦人が十センチの大きさの足でよちよちと歩く様は、漢民族男性にとっては、「別有一般滋味」ということだったのだろう。これが秋瑾にとってはたまらなく嫌だったので、彼女は、結婚後間もなく「天足」(天然の足)に戻している。そればかりではなく、彼女は「天足会」(自然の足の会=反纏足の会)を通じて、外の女性へも働きかけていった。
※太:はなはだ。(白話)あまりにも。
※無爲:意味がない。無爲≒無謂とみて、無意味。……するなかれ。
※算弓鞋三寸太無爲:女性の纏足の靴と小さい足は、あまりにも無意味だと思う。
※宜改革:改革するのがふさわしい。よろしく改革すべし。


◎ 構成について

  
滿江紅。双調。九十三字。入声一韻到底。韻式は「aaaa aaaaa」。韻脚:「哲出血咽 雪力革」は第十八部入声九屑。

   ●○○,
   ●,
   ○●。(入声韻) 
   ●+○●, 
   ●○○●。(入声韻)
   ●○○●●,
   ○●○○●。(入声韻)
   ●○+●●○○,
   ○○●。(入声韻)


   ●,
   ○●。 (入声韻)
   ●●,
   ○○● 。(入声韻)
   ●+○○●●,
   ●○○●。(入声韻)
   ●○○●●,
   ○●○○●。(入声韻)
   ●○+●●○○,
   ○○●。(入声韻)

2001.11.25
      11.26
      11.27
      11.28
      12. 1完
   

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