漢詩 失題
  

登天騎白龍,
走山跨猛虎。
叱咤風雲生,
精神四飛舞。
大人處世當與神物游,
顧彼豚犬諸兒安足伍!
不見項羽酣呼鉅鹿戰,
劉秀雷震昆陽鼓。
年約二十餘,
而能興漢楚;
殺人莫敢當,
萬世欽英武。
愧我年廿七,
於世尚無補。
空負時局憂,
無策驅胡虜。
所幸在風塵,
志氣終不腐。
毎聞鼓聲,
心思輒震怒。
其奈勢力孤,
羣才不爲助。
因之泛東海,
冀得壯士輔。


******


失題

天に 登りて  白龍に騎り,
山を走りて  猛虎に跨る。
風雲を 叱咤して  生ぜしめ,
精神  四
(あたり)に 飛舞す。
大人 世に處すこと  當に 神物と游び,
彼を顧るに 豚犬の諸兒 安んぞ伍するに 足らんや!
見ずや  項羽は 鉅鹿の戰に 酣呼し,
劉秀は 昆陽に 鼓を雷震さするを,
年 約そ  二十餘,
而して能く  漢楚を興こす;
殺人  敢へて當る莫く,
萬世  英武を 欽
(した)ふ。
愧づ 我 年 廿七,
世に於いて  尚ほ 補する 無きを。
空しく 負ふ  時局の憂ひを,
胡虜を 驅る  策 無し。
幸とする所は  風塵に 在り,
志氣  終ひに 腐らず。
の聲を 聞く 毎に,
心思  輒
(すなは)ち 震怒す。
其奈
(いかん)ぞ  勢力の孤なるを,
羣材  助を 爲さず。
之れに因りて  東海に 泛
(うか)び,
壯士の輔
(たすけ)を 得んことを  冀(こひねが)ふ。


           **********
◎私感注釈

※この作品は秋瑾が捕まったとき、革命の暴乱を起こす証拠の一とされた曰く付きのものである。
※登天騎白龍:天に登り、白龍に騎乗し
※走山跨猛虎:山を行けば、猛虎に跨り。
※叱咤風雲生:叱咤して、風雲を生ぜしめ
※精神四飛舞:精神は四方に飛ばし舞う。
※大人處世:大人物が世を送るには。
※當與:まさに…と
※神物游:神遊する。精神が遊離する。
※顧彼豚犬諸兒:かの(我が民族の)豚児どもをふり返って見るに。 ・豚犬:自分の子どもに対する謙譲の表現。愚息。豚児。
※安足伍:どうして同列に並べようか。 ・安:いづくんぞ。なんぞ。 ・足:…にたる。…に充分である。 ・伍:伍する。並ぶ。
※不見:見ずや
※項羽酣呼鉅鹿戰:項羽が大声に叫んで、秦を討ち滅ぼした鉅鹿の戰。 ・項羽:劉邦と天下の覇権を争った秦末の英雄。項籍。西楚覇王。『垓下歌』「力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可奈何,虞兮虞兮若何!」は有名。 ・酣呼:大声で叫ぶ。 ・鉅鹿戰:項羽が秦軍を撃ち破った戦場の名。現・河北省平郷の南西。鉅鹿の戦は『史記・巻七』の「項羽本紀第七」に「項羽曰:『吾聞秦軍圍趙王鉅鹿,疾引兵渡河,楚撃其外,趙應其内,破秦軍必矣。』……項羽已殺卿子冠軍,威震楚國,名聞諸侯。乃遣當陽君、蒲將軍將卒二萬渡河,救鉅鹿。戰少利,陳餘復請兵。項羽乃悉引兵渡河,皆沈船,破釜甑,燒廬舍,持三日糧,以示士卒必死,無一還心。於是至則圍王離,與秦軍遇,九戰,絶其甬道,大破之,殺蘇角,虜王離。渉間不降楚,自燒殺。
當是時,楚兵冠諸侯。諸侯軍救鉅鹿下者十餘壁,莫敢縱兵。及楚撃秦,諸將皆從壁上觀。楚戰士無不一以當十,楚兵呼聲動天,諸侯軍無不人人惴恐。於是已破秦軍,項羽召見諸侯將,入轅門,無不膝行而前,莫敢仰視。項羽由是始爲諸侯上將軍,諸侯皆屬焉。」 と項羽の絶対的な権力が打ち立てられた。
※劉秀:後漢の光武帝のこと。漢の高祖の九世の孫(第十代め)ということで、王莽などの兵乱の後、河北省高邑で自立。建武と年号を定めた。「光武の中興」その人。
※雷震:戦乱が起こること。
※昆陽鼓:昆陽での戦闘の兵鼓。劉秀(後の光武帝)による昆陽での戦闘を謂う。『後漢書・卷一・光武帝紀・第一上』によると、ひとつ前の元帝~王莽の時代は、天災が連続して起こり、荊州の綠林軍や青州の赤眉軍と、各地で武装蜂起があった。劉と劉秀の兄弟は、舂陵(湖北省棗陽県)で蹶起した。王莽は、四十万の兵を以て、劉秀が守っている昆陽を包囲した。劉秀は、死守していたが、陥落しそうになった。そこで、劉秀は、夜陰に乗じて昆陽城を抜け出して、近くの城邑で、 三千余名の兵士を徴募して、王莽の包囲軍を内外から挟撃した。結果、王莽軍は潰乱し、劉秀と王莽のそれぞれの運命を決定づけた。ここでは、その戦闘をいっている。『後漢書・卷一 光武帝紀第一上』のトップあたりの原文では「光武別與諸將徇昆陽、定陵、,皆下之。……光武將數千兵,徼之於陽關。諸將見尋、邑兵盛,反走,馳入昆陽,皆惶怖,憂念妻孥,欲散歸諸城。光武議曰:『今兵穀既少,而外寇彊大,并力禦之,功庶可立;如欲分散,勢無倶全。且宛城未拔,不能相救,昆陽即破,一日之閒,諸部亦滅矣。……時城中唯有八九千人,…夜自與驃騎大將軍宗佻、五威將軍李軼等十三騎,出城南門,於外收兵。……光武曰:『今若破敵,珍寶萬倍,大功可成;如爲所敗,首領無餘,何財物之有!』衆乃從。…遂圍之數十重,列營百數,……鉦鼓之聲聞數百里。……積弩亂髮,矢下如雨,城中負戸而汲。……尋、邑亦遣兵數千合戰。光武奔之,斬首數十級。諸部喜曰:『劉將軍平生見小敵怯,今見大敵勇,甚可怪也,且復居前。請助將軍!』光武復進、尋、邑兵卻,諸部共乘之,斬首數百千級。……城中亦
鼓噪而出,中外合勢,震呼動天地,莽兵大潰,走者相騰踐,奔殪百餘里閒。……會大,屋瓦皆飛,雨下如注,…」とある。
※年約二十餘:秦の全国統一から漢の建国までの年数、紀元前221年~202年を指す。秋瑾は、その一連の作品から見て、秦を非とし、漢を是としている。秦の出自からしても、秦は倒すべき相手、清と重ねていることがよく分かる。
※而能:(二十年という短期間で)よく成し遂げられたもので。
※興漢楚:成皋の戦い等、楚漢両国の興亡をいう。漢の高帝二年(紀元前205年)五月からの西楚霸王である項羽と漢王である後の漢の高祖・劉邦の争闘をいう。
※殺人莫敢當:人を殺すことも敢えてする。人を殺すことも辞さない。 ・敢當:引き受ける勇気がある。
※萬世:永久。よろずよ。
※欽:慕う。うらやむ。おそれうやまう。
※英武:すぐれていて強い。武勇、武略にすぐれていること。
※愧:はずかしく思う。
※我年廿七:この詩を作ったときの秋瑾の年齢で、秦を亡ぼして漢をうち立てるまでの約二十年と比較して、自分の功の無さを嘆いている。
※於世:世の中で。世間に対して。
※尚無:まだ…することがない。
※補:官職に就く。助けることをする。
※空負:むなしく請け負っている。
※時局憂:時局の憂い(を言っている)。
※無策:方策が無い。
※驅胡虜:異民族を駆逐する。えびすを追っ払う。ここでは、満州民族の王朝である清朝を打倒することを指す。
※所幸:幸いとするところは。
※風塵:兵乱。世間の騒ぎ。
※志氣:雄々しいこころざし。志気。
※終:ついに。
※不腐:だめにならない。くさらない。
※毎聞:…を聞くたびにいつも。
聲:進軍の太鼓の響き。兵鼓の音。
※心思:こころ。思い。
※輒:そのたびごとに。(進軍の太鼓の響きを聞く)ごとに。「すなわち」と訓む。
※震怒:ふるえいかる。
※其奈勢力孤,羣才不爲助:秋瑾の革命勢力は弱小であるが、それを中国の人々は、助けてくれようとしない。孤立無援で、孤軍奮闘を余儀なくされていることをいう。
※其奈:いったい…をどうしようというのか。其奈…何。 ・其:いったい。
※勢力孤:勢力が孤立して小さい。
※羣材:みんな。みなさん。諸賢。各位。
※不爲:…をしようとしない。
※因之泛東海,冀得壯士輔:(中国の中国人は助けてくれない)ため、東海にある日本に来て壮士の輔弼、支援者を得たいと願った。
※因之:それ故。そのため。
※泛東海:日本に来て。東海に浮かび。日本に遊学して。
※冀得:…を得ることを願い。 ・冀:こいねがう。
※壯士輔:壮士の輔弼。壮士の助け。革命(家)の支援者。秋瑾は、日本で中国人の革命家や民族主義の運動家に会うことができた。



◎ 構成について

  仄韻一韻到底。韻式は「aaaaaaaaaaaa」。 韻脚は「虎舞伍鼓楚武補虜腐怒助輔」で、主として平水韻上声七。以下の平仄はこの作品のもの。

○○○●○,
●○○●●。(韻)
●●○○○,
○○●○●。(韻)
●○●●○○○●○,
●●○○●○○●●。(韻)
●●●●○○●●●,
○●○●○●。(韻)
○●●●○,
○○○●●;(韻)
●○●●○,
●●○○●。(韻)
●●○●●,
○●●○●。(韻)
○●○●○,
○●○○●。(韻)
●●●○○,
●●○●●。(韻)
●○●●○,
○○●●●。(韻)
○●●●○,
○○●○●。(韻)
○○●○●,
●●●●●。(韻)
  
2002.11.28
     11.30
     12. 1
2003. 8.24
      8.25完
2012. 4. 2補




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