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萬里辭家事鼓鼙,
金陵驛路楚雲西。
江春不肯留行客,
艸色靑靑送馬蹄。
李判官の潤州の行營に 之(ゆ)くを 送る。
萬里 家を辭して 鼓鼙(こへい)を事とす,
金陵の驛路 楚雲の西。
江春 肯(あ)へて 行客を 留めず,
草色 青青として 馬蹄を 送る。
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◎ 私感註釈
※劉長卿:中唐の詩人。(726年?~786年?)。字は文房。河間の人。左遷されて地方官で終わる。
※送李判官之潤州行營:李判官が潤州の庁舎へ行くのを見送る。 ・送:(作者が)見送る。 ・李判官:姓と官職。 ・之:行く。 ・潤州:京口。現・江蘇省の鎭江。長江の中流南岸にある都市。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「唐 淮南道」にある。 ・行營:駐屯地。キャンプ。転じて、官公署。
※万里辭家事鼓鼙:遙かに家から離れて軍事について。 ・萬里:遙かに離れたさま。長大な距離をいう。 ・辭家:家を出る。故郷を離れる。 ・事:つかえる。事(こと)とす。 ・鼓鼙:〔こへい;gu3pi2●○〕軍の進退を伝える攻め太鼓。転じて、戦争。軍事。 ・鼙:〔へい;pi2○〕せめつづみ。騎兵が馬上で鳴らすこつづみ。
※金陵駅路楚雲西:(あなたは)金陵へと続く街道を楚の雲がかかるそのまた西(にある潤州に向かおうとしている)。 ・金陵:現・南京。長江の下流に栄えた古都。 ・驛路:街道。旅路。 ・金陵驛路:作者がいた場所によって意味が異なってくるが、金陵へと続く街道。 ・楚雲:長江中流域、湖北、湖南一帯の雲。楚の地方(の空)。中唐・韋應物の『登樓寄王卿』に「踏閣攀林恨不同,楚雲滄海思無窮。數家砧杵秋山下,一郡荊榛寒雨中。」
とあり、晩唐・許渾の『秋思』に『琪樹西風枕簟秋,楚雲湘水憶同遊。高歌一曲掩明鏡,昨日少年今白頭。」
とある。 ・楚:〔そ;chu3●〕湖北、湖南から長江中流域一帯の地・洞庭湖周辺の地域のこと。かつて戦国七雄の一つとしての楚の国があった。楚の国。唐・王昌齡『芙蓉樓送辛漸』に「寒雨連江夜入呉,平明送客楚山孤。洛陽親友如相問,一片冰心在玉壺。」
、同・王昌齡『別皇甫五』「
浦潭陽隔楚山,離尊不用起愁顏。」とある。なお、「楚山」は楚地方の山なみの意で、「楚水」は、「巴山」や「蜀山」などと対に使われたりして、長江中流域一帯の地を広く指す。また、「巫山の雲雨」の故事(神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという故事。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた)。
※江春不肯留行客:川辺の春(の風光の魅力を以てしても)、旅立つ人を積極的には、引き留めておけなかった。 ・江春:川辺の春(の風光)。 ・不肯:積極的には…しない。また、承知しない。 ・肯:〔こう;ken3●〕副詞:心からすすんで。あえて。また、動詞:がえんじる(がへんず)。うなづく。よしとする。 ・留:引き留めておく。ゆるりと逗留し、停滞する。とどめる。「去」の対。 ・行客:出かけて行く旅人。ここでは、李判官のことになる。『全唐詩』では「歸客」ともする。その場合、位置関係がやや異なってくる。
※草色青青送馬蹄:(ならば、)草の青々と茂った(春の風情を以て、あなたの乗る)馬の蹄(ひづめ)の足取りを見送ろう。 *春の草の生い茂る中に続く道を旅立っていく様を謂う。 ・草色:草の色。 ・青青:青々と。青々として。『古詩十九首』之二に「青青河畔草,鬱鬱園中柳。盈盈樓上女,皎皎當窗牖。娥娥紅粉妝,纖纖出素手。昔爲倡家女,今爲蕩子婦。蕩子行不歸,空牀難獨守。」とある。 ・送:見送る。 ・馬蹄:馬の蹄(ひづめ)。馬の歩調。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「西蹄」で、平水韻上平八齊。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●○○。(韻)
2005.4.24完 2011.5.23補2013.5.11 |
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