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杭州雨中 | |
~元・趙孟頫 |
江南十日九陰雨,
花柳欲開無好春。
卻憶京城二三月,
秋千風暖漲香塵。
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杭州雨中
江南 は 十日に 九の陰雨 ,
花柳 開 かんと欲 すれども好春 無し。
卻 って憶 ふ京城 の 二三月,
秋千 風 暖かにして香塵 漲 るを。
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◎ 私感註釈
※趙孟頫:〔てうもうふ(ちょうもうふ)Zhao4 Meng4fu3〕南宋~元の政治家、文人。南宋の王室の一族・趙家の出であるが、元朝に仕えた人物。1254年(寶祐二年)~1322年(至治二年)字は子昂。号して松雪道人。呉興(現・浙江省湖州)の人。
※杭州雨中:杭州の雨中での詩。 ・杭州:江南の地名。現・浙江省杭州。銭塘江の河口に位置した茶・絹の集散地・港町として栄え、五代の呉・越の都、南宋の都・臨安となる。 中唐・白居易に『杭州迴舫』「自別錢塘山水後,不多飮酒懶吟詩。欲將此意憑迴櫂,報與西湖風月知。」がある。
※江南十日九陰雨:江南では、十日の中(うち)、九日が曇って雨が降り。 ・江南:中国南部。
長江下流以南の温暖多雨の
地
。*江南(現・浙江省・江蘇省、安徽省南部、江西省北部)は詩文では豊饒の仙郷のように称えられ、その意での作品が多い。中唐・白居易の『憶江南』に「江南好,風景舊曾諳。日出江花紅勝火,春來江水綠如藍。能不憶江南!」
とあり、晩唐・杜牧の『寄揚州韓綽判官』に「靑山隱隱水遙遙,秋盡江南草木凋。二十四橋明月夜,玉人何處敎吹簫?」
とあり、唐・蜀・韋莊の『菩薩蠻』に「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 壚邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還鄕,還鄕須斷腸。」
とある。 ・十日九陰雨:十日の中(うち)、九日が曇って雨が降る。 ・陰雨:曇って雨が降ること。長雨。
※花柳欲開無好春:花が咲き、柳が芽吹こうとするが、すばらしい春とは言い難(がた)い。 ・花柳:花と柳。花の紅(くれない)と柳の緑。美しいものの喩え。 ・欲開:開こうとする意。 ・好春:すばらしい春。
※却憶京城二三月:かえって、みやこの陰暦二月や三月(=春の盛り)を思い出す。 ・却:反対に。かえって…のに。…にもかかわらず。 ・憶:思い出す。 ・京城:みやこ。国都。 ・二三月:陰暦の二月や三月。新暦の四月頃から五月頃に該り、仲春から晩春。
※秋千風暖漲香塵:(若い女性の乗る)ぶらんこに風は暖かく、塵にまで(花の)香りが満ちている。 ・秋千:〔しうせん;qiu1qian1○○〕ぶらんこ。=鞦韆。*こどもの遊具ではなく、上流の若い女性の遊びに使われた華やいだ物。唐・韓偓の『夜深』に「惻惻輕寒翦翦風,小梅飄雪杏花紅。夜深斜搭鞦韆索,樓閣朦朧煙雨中。」とあり、北宋・蘇軾の『春夜』に「春宵一刻値千金,花有淸香月有陰。歌管樓臺聲細細,鞦韆院落夜沈沈。」
とあり、北宋・欧陽脩の『蝶戀花』に「庭院深深深幾許?楊柳堆煙,簾幕無重數。玉勒雕鞍遊冶處,樓高不見章臺路。 雨橫風狂三月暮,門掩黄昏,無計留春住。涙眼問花花不語。 亂紅飛過秋千去。」
とある。 ・漲:〔ちゃう;zhang3●〕みなぎる。あふれる。 ・香塵:〔かうぢん;xiang1chen2○○〕塵に香りが移ったこと。花が散ったこと。今まで吹いていた風で花が散ってしまったことを表す。また、沈香を削った粉。石崇の家で働く歌妓が軽やかに舞えるかを試すために、床に沈香を削った粉を撒き、その上を歌妓に通らせ、足跡がつかなかった者には褒美として真珠を与え、跡がついた者には罰として食べ物を減らしてダイエットをさせたという。晩唐・杜牧『金谷園』に「繁華事散逐香塵,流水無情草自春。日暮東風怨啼鳥,落花猶似墜樓人。」
とあり、晩唐~・韋莊の『長安春』に「長安二月多香塵,六街車馬聲轔轔。家家樓上如花人,千枝萬枝紅豔新。簾間笑語自相問:何人占得長安春?長安春色本無主,古來盡屬紅樓女。如今無奈杏園人,駿馬輕車擁將去。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「春塵」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○●,
○●●○○●○。(韻)
●●○○●○●,
○○○●●○○。(韻)
2012.3.27 3.28 |
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