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柳州城西北隅種柑樹 | |
柳宗元 |
手種黄柑二百株,
春來新葉遍城隅。
方同楚客憐皇樹,
不學荊州利木奴。
幾歳開花聞噴雪,
何人摘實見垂珠。
若教坐待成林日,
滋味還堪養老夫。
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柳州城の西北隅に柑樹を種う
手づから種う 黄柑 二百株,
春 來れば 新葉 城隅に遍し。
方に楚客と同じく 皇樹を憐れみ,
學ばず 荊州の利する木奴に。
幾れの歳か 花 開きて 雪の噴くを聞き,
何人か 實を摘みて 珠の垂るるを見ん?
若し 林を成すの日を 坐待せしめんか,
滋味 還ほも 老夫を養うに 堪へん。
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◎ 私感註釈
※柳宗元:中唐の詩人。773年(大暦八年)~819年(元和十四年)。字は子厚。任地に因んで、柳河東、柳柳州とも呼ばれる。河東(現・山西省)の人。韓愈と並んで古文運動を提倡、その勃興に寄与した。政争に巻き込まれ、永州司馬、更に柳州刺史に左遷された。『江雪』「千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。」は、特に有名。
※柳州城西北隅種柑樹:柳州城の西北の隅(すみ)にミカンの樹を植えた。 ・柳州城:柳州の町。 ・西北隅:西北の角(すみ)。 ・種:〔しゅ(しょう);zhong4●〕植える。動詞。動詞の意は去声。蛇足になるが、名詞・「たね」の意は〔しゅ(しょう);zhong3●〕上声。両韻(多音字)ではあるが、去声・上声ともに仄なので、作詩時の平仄上の配慮は仄のみとなる。 ・柑樹:ミカンの樹。屈原の『楚辭・九章・橘頌』に「后皇嘉樹,橘徠服兮。受命不遷,生南國兮。深固難徙,更壹志兮。綠葉素榮,紛其可喜兮。曾枝剡棘,圓果摶兮。青黄雜糅,文章爛兮。精色内白,類可任兮。紛縕宜脩,姱而不醜兮。嗟爾幼志,有以異兮。獨立不遷,豈不可喜兮。深固難徙,廓其無求兮。蘇世獨立,橫而不流兮。閉心自慎,不終失過兮。秉德無私,參天地兮。願歳并謝,與長友兮。淑離不淫,梗其有理兮。年歳雖少,可師長兮。行比伯夷,置以為像兮。」とある。
※手種黄柑二百株:手(て)ずからミカンを二百株(かぶ)を植えた。 ・手種:手ずから植える。
※春來新葉遍城隅:春が来たら、新たな葉が城市(まち)の隅(すみ)に遍(あまね)く満ちることだろう。 ・遍:あまねし。 ・城隅:城市(まち)の隅々(すみずみ)。
※方同楚客憐皇樹:ちょうど楚の屈原と同じく、『楚辞』で屈原がいう「皇樹(こうじゅ)」のミカンの木に心を動かされたのであって。 ・方:ちょうど。まさに。 ・同:同じである。 ・楚客:戦国時代の楚国の政治家、詩人である屈原(屈平)のこと。『楚辭・九章・橘頌』の作者。楚の国から来た旅人。楚の人。盛唐・崔國輔の『九日』に「江邊楓落菊花黄,少長登高一望鄕。九日陶家雖載酒,三年楚客已霑裳。」とあり、中唐・劉禹錫の『瀟湘神』に『斑竹枝,斑竹枝,涙痕點點寄相思。楚客欲聽瑤瑟怨,瀟湘深夜月明時。」
とある。 ・憐:愛(いつく)しむ。愛(いと)おしむ。 ・皇樹:ミカンの樹を謂い、皇天后土精気を受けて、生じためでたい香気ある樹。前出・屈原の『楚辭・九章・橘頌』に「后皇嘉樹,橘徠服兮。受命不遷,生南國兮。深固難徙,更壹志兮。綠葉素榮,紛其可喜兮。曾枝剡棘,圓果摶兮。青黄雜糅,文章爛兮。精色内白,類可任兮。紛縕宜脩,姱而不醜兮。嗟爾幼志,有以異兮。獨立不遷,豈不可喜兮。深固難徙,廓其無求兮。蘇世獨立,橫而不流兮。閉心自慎,不終失過兮。秉德無私,參天地兮。願歳并謝,與長友兮。淑離不淫,梗其有理兮。年歳雖少,可師長兮。行比伯夷,置以為像兮。」とある。
※不學荊州利木奴:荊州(けいしゅう=東呉)の中の丹陽太守・李衡(りこう)の考え方である「ミカンは利益をあげる木の奴(めしつかい)」ということを真似たものではない。 ・不學:見倣わない。真似をしない。 ・荊州:古代ので九州の一で、荊山の南の地方。現・湖南省と湖北省、及び貴州、広東省北部、広西壮族自治区の東部。三国時代は東呉に属した。ここでの「荊州(けいしゅう)」とは三国時代の東呉(原・荊州)の丹陽太守・李衡(りこう)のことを指す。丹陽の太守・李衡(りこう)は、ミカンを千株植え、栽培し、その李益によって、子孫が経済的に困窮しないように図った。 ・利木奴:利益をあげる木の奴(めしつかい)。利益をあげる果樹園経営を謂う。 ・木奴:ミカンの別名。また、果物の総称。ここは、前者の意。「奴」とは、身分が卑しい使用人のことで、「木奴」であるミカンの木は本物の使用人のように衣食の世話をしてやることも必要なく、冨を生み出してくれるからとは、丹陽の太守・李衡(りこう)の言。また、果物の総称。ここは、前者の意。
※幾歳開花聞噴雪:何年かたって、花が雪の噴(ふ)き出したように咲くミカンの匂いを嗅ぎ。 ・幾歳:数年経つ。(幼児の)数歳の時。 ・聞:においをかぐ。また、噂を聞く。ここは、前者の意。 ・噴雪:雪の噴(ふ)き出したように咲くミカンの白い花の形容。
※何人摘實見垂珠:誰が実を摘(つ)もうとして、宝玉の垂れ下がるさまを見かけるのか? ・何人:だれ。 ・摘:つむ・ ・垂珠:ぶら下がった宝玉。ミカンの実の形容。
※若教坐待成林日:繁みとなる日まで、ずっと待たせたら。 ・若教:…させたら。もし…せしめんか。 ・坐待:じっと待つ。 ・成林:繁みとなる。
※滋味還堪養老夫:その味わいは、なおもまた老夫(=柳宗元)を養うのに充分なことだろう。 ・滋味:味わい。美味。 ・還:なおもまた。 ・堪:たえる。…に充分である。 ・養:(老人を)いたわり養う。 ・老夫:男性の老人。ここでは作者・柳宗元のこと。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」で、韻脚は「株隅奴珠夫」で、平水韻上平七虞。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
●●○○◎○●,
○○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2008.11.18 11.19 2012.11. 3 |
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