江上望青山憶舊 | ||
清・王士禛 |
長江如練布颿輕, 千里山連建業城。 草長鶯啼花滿樹, 江村風物過清明。 |
長江 練の如く 布颿 輕く,
千里 山は連なる 建業城。
草は 長じ 鶯は 啼き 花は 樹に滿つ,
江村の風物は 清明を過ぐ。
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◎ 私感訳註:
※王士禛:清代初期の詩人、文学者。1634年(明・崇禎七年)~1711年(洪煕五十年)。現・山東省新城県の人。字は貽上、また子眞、号して漁洋。士禎と名を賜る。(王漁洋と呼ばれることも多い)。
※江上望青山憶舊:河の畔から青山を眺めて、昔(去年)のことを思い出した。 *この詩は『江上望青山憶舊二首』のその二。その一「笛聲雁影共迷離。重來三月靑山道,一片風帆萬柳絲。」は、こちら。 ・江上:〔かうじゃう;jiang1shang4○●〕川の畔。河の畔。また、川の水面。ここでは長江の畔を謂う。 ・望:ながめる。 ・青山:固有名詞で山の名。江寧(現・南京附近)にある山の名称で江蘇省儀徴県の西南にある。地名では青山汛のことで江蘇省儀徴県の西。 ・憶舊:以前のことを思い出す。昔のことを思い出す。ここでは、去年のことを思い出している。年表に拠れば、1660年(順治十七年)八月に江南の郷試の試験官として江寧(現・南京)に赴き、翌・1661年(順治十八年)三月に再び南京に行った。これは翌年度の1661年(順治十八年)三月に作られた。
※長江如練布颿輕:長江は、ねりぎぬのように(波は穏やかで)、布の帆は軽やかであり。 ・練:ねりぎぬ。 ・布颿:〔ぶはん;bu4fan2●○〕布の帆。 ・颿:〔はん;fan2○〕帆。名詞。颿=帆〔はん;fan2○〕の別体。なお蛇足になるが、動詞「帆をあげる、帆をかけて舟を走らせる」は〔はん;fan4●〕。ここは、前者・名詞の意。
※千里山連建業城:遥か彼方までの山は、建業城(現・南京市)まで連なっている。 ・千里:遙かな距離を謂う。杜牧の『江南春絶句』に「千里鶯啼綠映紅,水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺,多少樓臺烟雨中。」とある。 ・建業城:現・南京市。前王朝・明の首都であり、(明は漢民族の王朝であり、清は満洲民族のうち立てた王朝で、漢民族の)作者の王士禛としては「建業城=漢民族の王朝の首都」に心動かされるところがあったことだろう。別称で金陵。古代の金陵邑。六朝の建業(建鄴)、建康。元代の集慶のこと。この時代明初の應天、現・南京のこと。六朝の古都なので異称、別名が多い。『樂府詩集』に遺された南朝斉の謝に『入朝曲』で「江南佳麗地,金陵帝王州。逶帶水,迢遞起朱樓。飛甍夾馳道,垂楊蔭御溝。凝笳翼高蓋,疊鼓送華。獻納雲臺表,功名良可收。」と讃えられたところでもある。 ・石頭城:金陵(現・南京)市街の西にある六朝の古都の城郭。。三国東呉時代に、孫権が清涼山の天然の石壁を利用して造った軍事的な城塞。現在でも300メートルほどの石壁が残っている。その岩肌からの聯想で、「鬼臉城」とも謂われたことがあった。古来い多くの詩人が古都金陵を詠う。劉禹錫『石頭城』「山圍故國週遭在,潮打空城寂寞回。淮水東邊舊時月,夜深還過女牆來。」、唐・杜牧『泊秦淮』「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家。商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」、孫光憲の『後庭花』其二「石城依舊空江國,故宮春色。七尺靑絲芳草碧,絶世難得。」、唐・韋莊『金陵圖』「江雨霏霏江草齊,六朝如夢鳥空啼。無情最是臺城柳,依舊烟籠十里堤。」、欧陽炯『江城子』「晩日金陵岸草平,落霞明,水無情。六代繁華,暗逐逝波聲,空有姑蘇臺上月,如西子鏡,照江城。」、南唐後主李煜の『浪淘沙』「往事只堪哀,對景難排。秋風庭院蘚侵階。一任珠簾閑不卷,終日誰來。 金鎖已沈埋,壯氣蒿莱。晩涼天靜月華開。想得玉樓瑤殿影,空照秦淮。」、朱敦儒の『相見歡』「金陵城上西樓,倚清秋,萬里夕陽垂地、大江流。 中原亂,簪纓散,幾時收?試倩悲風吹涙、過揚州。」、宋・王安石『桂枝香』「金陵懷古」「登臨送目,正故國晩秋,天氣初肅。千里澄江似練,翠峰如簇。歸帆去棹殘陽裡,背西風酒旗斜矗。彩舟雲淡,星河鷺起,畫圖難足。念往昔,繁華競逐。嘆門外樓頭,悲恨相續。千古憑高,對此漫嗟榮辱。六朝舊事隨流水,但寒煙衰草凝綠。至今商女,時時猶唱,後庭遺曲。」、辛棄疾の『念奴嬌』「登建康賞心亭,呈史留守致道」「我來弔古,上危樓、贏得閒愁千斛。虎踞龍蟠何處是?只有興亡滿目。柳外斜陽,水邊歸鳥,隴上吹喬木。片帆西去,一聲誰噴霜竹?却憶安石風流,東山歳晩,涙落哀箏曲。兒輩功名都付與,長日惟消棋局。寶鏡難尋,碧雲將暮,誰勸杯中綠?江頭風怒,朝來波浪翻屋。」、現代では『知靑之歌』「藍藍的天上,白雲在飛翔,美麗的揚子江畔是可愛的南京古城,我的家鄕。,彩虹般的大橋,直上雲霄,橫斷了長江,雄偉的鍾山脚下是我可愛的家鄕 告別了媽媽,再見家鄕,金色的學生時代已轉入了靑春史册,一去不復返。,未來的道路多麼艱難,曲折又漫長,生活的脚印深淺在偏僻的異鄕。」などがある。
※草長鶯啼花滿樹:草は伸びウグイスは鳴いて、花は木に満ちている。 *この「草長鶯啼花滿樹」のフレーズは、後出・唐・張繼の『楓橋夜泊』に「月落烏啼霜滿天,江楓(江村)漁火對愁眠。姑蘇城外寒山寺,夜半鐘聲到客船。」や、前出・杜牧の『江南春絶句』に「千里鶯啼綠映紅,水村山郭酒旗風。南朝四百八十寺,多少樓臺烟雨中。」と似通うところがある。 ・草長:草の丈が伸びる。 ・長:〔ちゃう;zhang3●〕生長する。伸びる。大きくなる。動詞。なお、形容詞「ながい」は〔ちゃう;chang2○〕で、ここは、前者の意。 ・鶯啼:ウグイスが鳴く。
※江村風物過清明:(「草長鶯啼花滿樹」といった)川沿いの村の景色は、清明節の時期が過ぎた(趣(おもむき)である)。 ・江村:川沿いの村。中唐・司空曙の『江村即事』に「釣罷歸來不繋船,江村月落正堪眠。縱然一夜風吹去,只在蘆花淺水邊。」とある。唐・張繼の『楓橋夜泊』に「月落烏啼霜滿天,江村(江楓)漁火對愁眠。姑蘇城外寒山寺,夜半鐘聲到客船。」とある。 ・風物:けしき。景物・風景。 *ここでの「江村風物」とは「草長鶯啼花滿樹」という情景のことになる。 ・過:すぎる。この地一帯はもはや清明節以降の気候になっていることを謂う。 ・清明:清明節のこと。春分後十五日で、旧暦三月三日(新暦四月五日頃)の三月節。二十四節気の一。万物が清々しくなる時期(『暦書』)とされる。唐・杜牧に『清明』「清明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有?牧童遙指杏花村。」がある。
◎ 構成について
2009.6.12 |
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