嵯峨道中 | ||
龍草廬 |
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雨歇京城數里西, 行人一斷艸萋萋。 野鶯亦解尋春意, 故向百花深處啼。 |
雨歇 む京城 數里の西,
行人 一たび斷 えて艸 萋萋 。
野鶯 亦 た解す 春を尋 ぬるの意を,
故 に 百花 深き處に向 いて啼く。
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◎ 私感註釈
※龍草廬:江戸後期の儒学者・漢詩人。正徳四年(1714年)〜寛政四年(1792年)は、姓は武田。名は公美。字は君玉。通称は彦次郎、後に衛門。号して草廬。京都の人。伏見で生まれ、烏丸小路に詩社を開く。漢詩の大衆化に務めた。
※嵯峨道中:嵯峨への途中で。 ・嵯峨:嵯峨野のこと。平安京西郊外に広がる地域。山城国葛野郡に属し、東は太秦、西は小倉山、北は上嵯峨の山麓、南は大堰川(桂川)を境とする一帯を謂う。現・京都市右京区の地名。 ・道中:旅路で。
※雨歇京城数里西:雨がやんだ都の数里の西の(郊外の)嵯峨野は。 ・歇:やむ。 ・京城:みやこ。王宮のある所。ここでは、平安京(現・京都市)のことになる。 ・里:1里=約3927m。≒(大雑把であるが)1時間で歩ける道程(みちのり)。
※行人一断草萋萋:道行く人が、ひとたび途絶えて、草が繁っている。 ・行人:道行く人。旅人。中唐・張籍の『秋思』に「洛陽城裏見秋風,欲作家書意萬重。復恐匆匆説不盡,行人臨發又開封。」とあり、晩唐・杜牧の『C明』に「C明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。」とあり、宋・淮上女の『減字木蘭花』に「淮山隱隱。千里雲峰千里恨。淮水悠悠。萬頃煙波萬頃愁。 山長水遠。遮住行人東望眼。恨舊愁新。有涙無言對晩春。」とある。 ・一断:ひとたびたちきれる、の意。 ・草:くさ。=艸: ・萋萋:〔せいせい;qi1qi1○○〕木や草の繁っているさま。『楚辞・招隱士』「桂樹叢生兮山之幽,偃蹇連蜷兮枝相繚。山氣巃嵸兮石嵯峨,溪谷嶄岩兮水曾波。猿狖群嘯兮虎豹嗥,攀援桂枝兮聊淹留。王孫游兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蟪蛄鳴兮啾啾。」とあり、王昭君の『昭君怨』(『怨詩』)に「秋木萋萋,其葉萎黄。有鳥處山,集于苞桑。養育猪ム,形容生光。既得升雲,上遊曲房。離宮絶曠,身體摧藏。志念抑沈,不得頡頏。雖得委食,心有徊徨。我獨伊何,來往變常。翩翩之燕,遠集西羌。高山峨峨,河水泱泱。父兮母兮,道里悠長。嗚呼哀哉,憂心惻傷。」とあり、崔の『黄鶴樓』に「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡洲。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」とあり、温庭の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草萋萋。」、唐・温庭の『菩薩蠻』に「玉樓明月長相憶。柳絲娜春無力。門外草萋萋。送君聞馬嘶。 畫羅金翡翠。香燭消成涙。花落子規啼。坂x殘夢迷。」とある。
※野鴬亦解尋春意:ウグイスも春を探す(わたしの)気持ちが分かっている(ので)。 ・亦:…もまた。 ・解:分かる。理解する。 ・尋春:春を探す。春をたずねる。北宋・戴益の『探春』に「盡日尋春不見春,杖藜踏破幾重雲。歸來試把梅梢看,春在枝頭已十分。」とある。 ・意:いみ。気持ち。
※故向百花深処啼:ことさらに、多くの花が著しく咲いているところで鳴いている。 ・故:ことさらに。わざと。 ・向:…で。…に。≒「於」。盛唐・李白の『清平調 三首之一』に「雲想衣裳花想容,春風拂檻露華濃。若非群玉山頭見,會向瑤臺月下逢。」とあり、中唐・白居易の『五年秋病後獨宿香山寺三絶句』に「經年不到龍門寺,今夜何人知我情。還向暢師房裏宿,新秋月色舊灘聲。」とある。 ・百花:多くの花。 ・-深処:(…ことが)甚だしい時とところで。 ・處:ところ。ところで。ところに。「…のところ」といった位置、場所を表し、…の点、…の折といったことも表す雰囲気もある。白居易の『靈巖寺』「館娃宮畔千年寺,水闊雲多客到稀。聞説春來更惆悵,百花深處一僧歸。」、釋靈一の『題僧院』「無限青山行欲盡,白雲深處老僧多。」、柳永の『夜半樂』「凍雲黯淡天氣,扁舟一葉,乘興離江渚。渡萬壑千巖,越溪深處。怒濤漸息,樵風乍起,更聞商旅相呼。片帆高舉。泛畫鷁、翩翩過南浦。 望中酒旆閃閃,一簇煙村,數行霜樹。殘日下,漁人鳴榔歸去。敗荷零落,衰楊掩映,岸邊兩兩三三,浣沙遊女。避行客、含羞笑相語。 到此因念,繍閣輕抛,浪萍難駐。歎後約丁寧竟何據。慘離懷,空恨歳晩歸期阻。凝涙眼、杳杳~京路。斷鴻聲遠長天暮。」、或いは、「荷花深處小船通」「漉k深處是蘇家(=蘇小小の所)」、李清照の『如夢令』「嘗記溪亭日暮,沈醉不知歸路。興盡晩回舟,誤入藕花深處。爭渡,爭渡,驚起一灘鴎鷺。」や前出・戴叔倫『夏日登鶴巖偶成』「碧雲深處共翔。」、清・袁枚の『銷夏詩』に「不著衣冠不半年,水雲深處抱花眠。平生自想無官樂,第一驕人六月天。」というように使う。我が国では、江戸時代・廣P旭莊の『夏初遊櫻祠』「花開萬人集,花盡一人無。但見雙黄鳥,緑陰深處呼。」がある。 ・啼:なく。(鳥や虫がが)なく。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「西萋啼」で、平水韻。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
●●●○○●○。(韻)
平成29.12.26 12.27 |
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