春中與盧四周諒華陽觀同居 | |
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唐・ 白居易 |
性情懶慢好相親,
門巷蕭條稱作鄰。
背燭共憐深夜月,
蹋花同惜少年春。
杏壇住僻雖宜病,
芸閣官微不救貧。
文行如君尚憔悴,
不知霄漢待何人。
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春中盧 四 周諒 と華陽觀 に同じく居 る
性情懶慢 好 く相 ひ親しみ,
門巷 蕭條 鄰 を作 すに稱 ふ。
燭 を背 けては 共に憐 れむ 深夜の月,
花を蹋 みては 同じく惜 む 少年の春。
杏壇 住 僻 にして 病に宜 しと雖 も,
芸閣 官 微 にして 貧を救はず。
文行 君 の如くにして尚 ほ憔悴 す,
知らず霄漢 何人 をか待つ。****************
◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。
※春中与盧四周諒華陽観同居:春の真ん中に、盧(四)周諒と華陽観で同居して。 *青年時代に、華陽観で盧周諒と合宿して勉強した時のことを詠った詩。 ・春中:春のまんなか。中春。 ・与-:…と。 ・盧四周諒:盧周諒のこと。「四」は排行。「盧」家の「四」男の「周諒」の意。「周鯨」ともする。 ・華陽観:長安の永崇里にある道観の名で、元は代宗の第五女・華陽公主の旧宅。(皇城と曲江との中間点。『唐代的長安與洛陽地圖』上海古籍出版社(1991年上海)平岡武夫(原・日本の京都大学平岡武夫氏による出版物の中国での復刻唐代研究地図集)。
※性情懶慢好相親:気性がめんどうくさがりやなので、親しくしてゆくのにちょうどよく。 ・性情:〔せいじゃう;xing4qing2●○〕気立て。こころばえ。気性。たち。性質と心情。 ・懶慢:〔らんまん;lan3man4●●〕めんどうくさがる。なまける。怠惰。 ・好-:容易に…できる。よく…。*(動詞の前に置き、【「好」+〔動詞〕】の形で)…し易(やす)い。容易に…できる。
※門巷蕭条称作隣:門口(かどぐち)がもの寂しいので、隣づきあいするのに適切だった。 ・門巷:家の門と道路。戸口の並ぶ道。 ・蕭条:〔せうでう;xiao1tiao2○○〕 もの寂しいさま。東晉・陶潛の『挽歌詩 其三』に「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。四面無人居,高墳正嶕嶢。馬爲仰天鳴,風爲自蕭條。幽室一已閉,千年不復朝。千年不復朝,賢達無奈何。向來相送人,各自還其家。親戚或餘悲,他人亦已歌。死去何所道,託體同山阿。」とあり、盛唐・岑參の『山房春事』に「梁園日暮亂飛鴉,極目蕭條三兩家。庭樹不知人死盡,春來還發舊時花。」とあり、後世、北宋末・徽宗は『在北題壁』で「徹夜西風撼破扉,蕭條孤館一燈微。家山回首三千里,目斷天南無雁飛。」と使い、清・王士メw夜雨題寒山寺寄西樵禮吉』で「楓葉蕭條水驛空,離居千里悵難同。十年舊約江南夢,獨聽寒山半夜鐘。」と使い、同・王士モヘ『即目三首其二』で「蕭條秋雨夕,蒼茫楚江晦。時見一舟行,濛濛水雲外。」と使う。 ・称:〔しょう(?);chen4●〕かなう。適合する。合う。 ・作隣:近所づきあいする意。
※背燭共憐深夜月:(月光を味わうために)燭台を後向けて、真夜中の月を一緒にめでて。 ・背燭:(月光を味わうために)燭台を後向ける。 ・憐:心ひかれる。いつくしむ。めでる。たのしむ。また、気の毒に思う。あわれむ。ここは、前者の意。
※蹋花同惜少年春:花影を踏んで歩いて、青春時代の春をいとおしんだ。 ・蹋花:花影を踏んで歩く。なお、「踏青」で春の郊外へ出かける。「踏月」で月影を踏んで歩く。 ・蹋:〔たふ;ta4●〕ふむ。=踏。 ・惜:いとおしむ。だいじにする。たいせつにする。いたむ。かなしむ。あわれむ。残念がる。おしむ。心におしく思う。 ・少年:若者。成年期。 *日本語の「少年」とは微妙に異なり、青春時代、青年時代をを含む。以下の用例は「少年」というよりも「少年行」という用法が主であるが、「少年行」とは楽府題のことで、普通の用法とは異なる。「少年」の語には、日本語でも使われる「子ども」の意は無くて「若者」の意。盛唐・李白『少年行』「五陵年少金市東,銀鞍白馬度春風。落花踏盡遊何處,笑入胡姫酒肆中。」、盛唐・崔國輔『長樂少年行』「遺卻珊瑚鞭,白馬驕不行。章臺折楊柳,春日路傍情。」や、盛唐・王昌齢『少年行』「走馬遠相尋,西樓下夕陰。結交期一劍,留意贈千金。高閣歌聲遠,重門柳色深。夜闌須盡飲,莫負百年心。」や盛唐・王維も『少年行』で「新豐美酒斗十千,咸陽遊侠多少年。相逢意氣爲君飮,繋馬高樓垂柳邊。」、中唐・張籍の『哭孟寂』に「曲江院裏題名處,十九人中最少年。今日春光君不見,杏花零落寺門前。」があり、唐末・沈彬の『結客少年場行』「重義輕生一劍知,白虹貫日報讎歸。片心惆悵清平世,酒市無人問布衣。」や、南宋・辛棄疾の『醜奴兒』書博山道中壁「少年不識愁滋味,愛上層樓。愛上層樓,爲賦新詞強説愁。 而今識盡愁滋味,欲説還休。欲説還休,却道天涼好個秋。」や宋・賀鑄『六州歌頭』「少年侠氣,交結五キ雄。肝膽洞,毛髮聳。立談中,生死同,一諾千金重。推翹勇,矜豪縱,輕蓋擁,聯飛, 斗城東。轟飮酒,春色浮寒甕。吸海垂虹。闌ト鷹嗾犬,白駐E雕弓,狡穴俄空。樂怱怱。」等がある。
※杏壇住僻雖宜病:学問所は、住居としては、辺鄙ではあるというものの、病気(があれば癒すの)には適当(な所)である。 ・杏壇:学問所。講堂。孔子が学問を講じたところ。その壇のまわりに杏(あんず)の木があったことに因る。曲阜の孔子廟の前にある。 ・僻:〔へき;pi4●〕辺鄙である。かたすみ。かたいなか。いやしい。かたよる。晉・陶潛『飮酒二十首』其五「結廬在人境,而無車馬喧。問君何能爾,心遠地自偏。采菊東籬下,悠然見南山。山氣日夕佳,飛鳥相與還。此中有眞意,欲辨已忘言。」の意で、白居易自身の『晩秋闍潤xに「地僻門深少送迎,披衣闕ソ養幽情。秋庭不掃攜藤杖,蹋梧桐黄葉行。」がある。 ・宜:〔ぎ;yi2○〕都合がよい。よいとする。もっともである。適当である。ふさわしい。(…するが)よろしい。
※芸閣官微不救貧:秘書省の官員(=盧(四)周諒)は、身分や地位が低い。 ・芸閣:〔うんかく;yun2ge2○●〕秘書省(朝廷直属の図書館)の別名。蛇足になるが、「芸」〔うん;yun2○〕は(書物の虫喰いを防ぐ)香草の名で、「藝(芸)」〔げい;yi4●〕とは別字。 ・微:かすか。小さい。(身分や地位の)低い。
※文行如君尚憔悴:文学と徳行が、あなた(=盧(四)周諒)のよう(に優れていても)、なおやつれはてて。(取り立ててもらっていないが)。 ・文行:文学と徳行。「文行忠信」のことで、孔門教育の四大綱。 ・君:あなた。ここでは、盧(四)周諒を指す。 ・尚:なお。まだ。 ・憔悴:〔せうすゐ;qiao2cui4○●〕やせおとろえる。やつれはてる。『楚辭・漁父』に「屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:「子非三閭大夫與?何故至於斯?」屈原曰:「舉世皆濁我獨C,衆人皆醉我獨醒,是以見放。」漁父曰:「聖人不凝滯於物,而能與世推移。世人皆濁,何不淈其泥而揚其波?衆人皆醉,何不餔其糟而歠其釃?何故深思高舉,自令放爲?」屈原曰:「吾聞之:新沐者必彈冠,新浴者必振衣。安能以身之察察,受物之汶汶者乎?寧赴湘流,葬於江魚之腹中,安能以皓皓之白,而蒙世俗之塵埃乎?」漁父莞爾而笑,鼓竡ァ去。 乃歌曰:「滄浪之水C兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。」遂去,不復與言。」とある。
※不知霄漢待何人:高い所(=朝廷)は、一体どういう人材を待っているのか、(全然)わからない。 ・不知:わからない。 ・霄漢:〔せうかん;xiao1han4○●〕大空。蒼穹。ここでは、朝廷を譬えていう。 ・何人:〔なんぴと/なんびと;he2ren2○○〕どういう人。いかなる人。何者。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「親鄰春貧人」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
○●○○◎●○。(韻)
◎●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
●○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
○○○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2013.8.21 8.22 8.23 |
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