Fortunally Encounter11ページ目
  その、人間が作り上げた巨大なモノの中でノームは迷子になっていた。

ノームの目の前には二股に分かれている道が続いている。

「……(……どうしよう、どうしよう、どうしよう……)。」

  こんな時すぐにパニックに陥ってしまう自分の性癖に、ノームはつくづく嫌気が差していたのだが。

だが、ノームはもう随分前……まだ重樹(しげき)と一緒に世界を回っていた頃……

に自分の性格は治らないと諦めてしまっていた。

  のんびりマイペースが信条のノームだったが、それまでの人(?)生の大半を戦いに生きてきた

その感覚は、自分の周囲に「敵」が近づきつつあることを鋭敏に感じ取っていた。

「!?」

  大地を通してノームに瞬時に「敵」の情報が送られてくる。

「おっ、いい女じゃねえか。よう、姉ちゃん、ちょっと俺らにつきあわねえか?ゲヘヘヘ……。」

  「敵」の一体が下卑た笑い声を上げる。

  ノームの元に送られてきた情報によると、その4、5体の人間の集団はただの「チンピラ」と呼ばれる

人種らしく、たとえ、取り囲まれていたとしてもノームの敵ではなかった。

  最も、ノームがひとたび力を振るえばこの町ごと全て吹き飛ばしてしまうことになりかねなかったが。

ノームの力とは、一匹のアリを攻撃するのに攻城用の投石器を用いるようなもので、正確さに欠け、

威力の制御もできない。とても刃物を持っただけのただの人間に対して振るえるような力ではなかった。

「おお、いい体してるな、ウヒヒヒヒ……。」

「キャッ!?」

  男の1人が突然ノームの腕につかみ掛かった。嫌悪感から反射的に腕を振るいそうになるが、

ノームは懸命にこらえた。

  男達はそれがノームの敗北宣言であると勝手に勘違いし……実際にはノームに命を救われている

わけだが……ノームの服に手をかけた。

  人ならぬ身のノームにそもそも貞操観念などという人間にしか通じない感覚を押し付けること自体が

ナンセンスにも思えるが。

「い、嫌ああああっ!!」

  ノームの嫌悪感が頂点に達し、我慢の限界を越えそうになったその時、突然男達の1人が

うめき声を上げ崩れ落ちた。

「えっ!?」

  ノームは驚きの声を上げた。

  ノームは、いくら嫌悪感で自分の感覚が鈍っていたとはいえ、自分の知覚能力……大地に少しでも

触れている物ならばたとえ世界の果てにある物だろうと何だろうと全て認識できる……の裏をかくことが

できる者がそういるとは思えなかった。

「あがっ!?」

  男達が全員その場に崩れ落ちるまでには大した時間を必要としなかった。

「だ、誰なの??」

 ひとつの暗い影が倒れている男たちのそばで揺らめいて見える。

その影の男の目を見たとき、ノームの背筋に悪寒が走った。その男の目は、

まるで死んだ人間のような暗い目だった。ノームの脳裏にとっさに「Living Dead(生ける屍)」などと

いう言葉が浮かんだ。「大地」の力をつかさどると同時に「生命」の力をもつかさどる

ノームにとっては「生ける屍」……「不死者」とも呼ばれる……は、その力の及ばない苦手な相手だった。

……もちろん、目の前の男は本物の「生ける屍」ではないのだろうが。

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