颯樹(さき)は一瞬顔をしかめると、
「……いや、まあ、いいんだけど……。」 いくら相手が人間でないとはいえ、シルフィードに向かって 「お前は信用できない。」と面を向かっていえるほど颯樹(さき)の神経は図太くなかった。 仕方なく颯樹(さき)はシルフィードの目線が気になりつつも着替え始めた。 「わぁ!颯樹(さき)ちゃんって以外と胸大きいのね!」 「きゃっ!!って、どこ触ってるのよ!!」 相手は女の姿をしている精霊だ、と頭ではわかっているのだが、 颯樹(さき)は、まるで男に触られているような感覚が拭い去れなかった。それはもっともな話で、 シルフィードは外見こそ女だが、その性別は「無し」あるいは「中性」とでも言える存在だった。 まあ、それでもシルフィードの場合はどちらかというと女性に近い存在だったが、 完全な「女性」ではない、という事実は変えようがなかった。 「シルフィーヌ……頼むから表に出ててくれない??」 「しょうがないわねえ。」 一瞬ものすごく残念そうな表情を見せたが、シルフィードはあっさりと颯樹(さき)の 言うことを聞いて部屋の外に出た。 「やけにあっさりと引き下がったわね……。 やっぱり、私がシルフィーヌの主人だから、なのかしら??」 颯樹は手早く着替えを済ませ、表に出た。そこではシルフィードが風と戯れていた。 風の動きに合わせ、土煙が舞う。土煙の代わりに落ち葉でも舞っていれば もっと美しく見えたかもしれない。その動きはまるで踊っているようにも見えた。 「シルフィーヌ?着替え終わったわよ。」 「ああ、終わったの??」 「ねえ、シルフィーヌ。今、何してたの?」 「ああ、風に朝の挨拶を、ね。」 「へぇー。風が挨拶なんてするのね?」 「人間には聞こえないわよ。あたしが世界中の風の力をコントロールする役目を 負わされた存在だから聞こえるのよ。」 颯樹の耳元をさあっと朝の気持ちのいい風が吹き抜けていった。一瞬の沈黙がその場に落ちたが、 「……じゃ、パパのところにいきましょ。」 「そうね。重樹(しげき)が待ってるわ。」 二人はまるで昔からの友人であるかのように仲良く並んで歩き出した。
「……今日が旅立ちの日か……。」 (2) |