「お、お前、今更何でこんな所に!!!!!!!俺が今日までどんな思いで暮らしてきたか………!!!」
影の男はノームの肩をつかんで激しく揺さぶりながら絶叫した。 「あ、あの、い、痛いです!!」 人知を超えた頑健さを誇るノームの肉体だが、痛いものは痛い。 今の彼女の感覚は人間のそれに非常に近かった。ノームの目にうっすらと涙が浮かぶ。 思わずノームはその場に座り込んでしまった。 「静…………じゃない………??」 「あ、あの、私は『静』っていう人のことは知りません。」 「静」などという名は日紫国のどこにでもいる。 ノームにはこの影の男がいう「静」という人物には全く心当たりがなかった。 ただ、男の豹変ぶりからこの影の男にとって「静」なる人物がとても大事な人物…… あるいは、憎むべき人物……なんだろう、とノームには思えた。 「悪いな……。あんまり似ていたもんでよ。」 影の男はそう言い捨てその場を去ろうとした。 「あ、あの、待ってください……。」 「チッ……なんだよ……その面を俺に向けるな……。」 影の男がノームを見るその視線には、とても一言では語れないほどの、 怨念めいた何かの感情が渦巻いているように思えた。 「あ、あの……冒険者の店の場所って知らないんです……よかったら案内してもらえませんか……??」 案内して欲しい、というのは単なる口実だった。 ノームは、この影の男の事が気になって仕方がなかったのだ。 「……クッ………!!ついてこい……。」 影の男はノームの事を見るのも嫌だという目で見ながらもノームについてくるように促した。 「あ、ありがとうございます。優しいんですね……。」 「……『優しい』だと?『優しさ』なんぞ犬にでも食わせておけ……。」 ノームは立ち上がると急いで影の男の後を追いかけ始めた。
「それにしても、お前が静じゃないらしい事は分かるが……クッ……!! だとしたら、お前は一体誰なんだ?奴の親族なのか……。」 影の男は「静」という名前を口にするたびに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。 「あ、あの、多分『他人の空似』だと思います……。」 ノームに血縁関係のある人間の親戚などいない……いや、全ての生物の母である 彼女にとってみればある意味全ての人間は彼女の子供だとも言えるのだが……。 だからといって全ての人間がノームそっくりな顔をしている訳ではないのは言うまでもない事だ。 「……そうか……そういえば、お前の名を聞いてなかったな。どうでもいい事だが……。」 「え?私の名前、ですか……?え、えっと、み、満月(みつき)って言います……。」 さすがに「私は土の精霊ノームです」と名乗る訳にもいかず、ノームは重樹と冒険していた頃に 使っていた偽名を名乗る事にした。 「ふうん、満月(みつき)ねぇ……いい名前をつけたな……俺は隆盛(たかもり)。 桑名隆盛(くわな たかもり)だ……。」 影の男……いや、隆盛(たかもり)はノームに若干の疑いの目線を向けながらも、自らの名を名乗った。 「あ、あの、隆盛(たかもり)さんは冒険者なんですか?」 (13) |
|
次のページは鋭意制作中!