Fortunally Encounter12ページ目
「あ、あなたは……。」

 生身の人間のはずなのに「生ける屍」と見間違える人間にも、ノームは何度か出会ったことがある。

 さっき、この影の男に一瞬のうちに倒されたチンピラ連中など、そのいい例だ。

 だが、影の男の暗い目はそんな生易しいものではなかった。さっきのチンピラがただのゾンビ

……動き回る死体……だとしたら、この影の男は「ノーライフキング」……死者の王……とも思えた。

「…………。」

 影の男は無言でその場を立ち去ろうとした。

「あ、あの。」

 ノームは恐る恐るその男に話し掛けた。

ノームほどの力があれば恐れるものなど何もないのだが……たとえ「ノーライフキング」であろうとも

ノームを傷つける事など不可能……その力と釣り合わない臆病な性格がノームを及び腰にしていた。

その態度が、影の男に、ノームが自分に怯えている、という印象を与えたようだ。

「ん??」

 影の男の身にまとう雰囲気が若干柔らかくなったようにノームには思えた。

「あ、あの……。」

「『あの』ばかり言ってても何言ってるのか分からん。何か俺に言いたいことでもあるのか。」

 ノームは何とかのどから言葉を搾り出した。

「……あ、あの、冒険者の……お店って……ここら辺になかったですか??」

「冒険者の店!?あんた、冒険者だったのか!?」

 影の男はその声に初めて感情らしいものを含ませた。

 そして、その時、ノームは、この影の男を知覚できなかった理由を悟った。この影の男は、

普段はそれこそ影のように一切の生命の気配を感じさせない。そう、まるで「生ける屍」のように。

だが、今のように感情をあらわにすると若干生命の気が彼の体に満ちる。

その時はノームでも知覚できるのだ。

「……あんたみたいな奴が冒険者としてやっていけるのか……。

冒険者の世界も敷居が低くなったもんだな……。」

「い、いえ、私は冒険者じゃないんです。」

「はぁ?冒険者の店なんぞ、庶民には縁がないじゃねえか?」

「あ、ああ、わたしが買い物をするんじゃないんです。あの、颯樹(さき)さまが、

買ってきて欲しいというものだから……。」

「颯樹(さき)?そのクソ野郎がお前を一人でこんなところに?そいつは冒険者なのか。」

「え、ええ、今日から冒険者、ということになるんじゃないか、と……。」

 この時、ノームは初めて影の男の顔をはっきりと見た。どれほどの過去を背負ってきたかが

なんとなく連想できる暗い目と、少しこけた頬がよく目立つ。

 暗い目を明るくしてもう少しいいものを食べれば、美男子、とまではいかないまでも

もう少し見られた顔になるのでは、とノームは心の中で思った。

 その時、ノームの顔を見た影の男が……この男、この時まで人の顔をろくに見ずに

話をしていたのだ。世間様に顔向けできない人生裏街道を歩む者の一般的な特徴では

あったが……突然稲妻にでも打たれたかのように目を見開き、凍りついた。

「!!!!!!!!!!静(しずか)!!!!!!!!!」

「はぁ?」

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