「ああ、ニンフィはそういう奴だった。いい奴ほど早死するんだ……。」
「あらら、重樹(しげき)ぃ、あんまり自分を責めるのはよしたら?わざとやったわけじゃないんだし。」 とても落ち込んでいる人を慰めているとは思えない明るい口調でシルフィードは続けた。 「どんな生き物だっていずれは死ぬのよ?どうせ死ぬんなら死んでも思い残す事がないように 最後に一発花を咲かせてやろうって思うのは誰だって一緒じゃない?」 颯樹(さき)には、そういう風に、自分の命に対して割り切った態度が出来る生物が そう多くいるとは思えなかったが。 「……もしかしたらそうだったかもしれん。だが……。」 一度は死んで指輪の精と化した今もなおニンフィのその無邪気そのものの表情には 一点の邪気も感じられなかった。ただ、颯樹には今のニンフィの顔には滲み出るような 哀しみが浮かんでいるように思えた。 「パパ、とにかく死んじゃった人はもう生き返らないのよ。あんまり自分を責めないで。 多分、それはニンフィも望んでないはずだから。」 「…………。」 颯樹(さき)には苦悩の色に染まっていた重樹(しげき)の顔に少しだけ明るさが戻ったように 思えた……少なくとも、そう思いたかった。 「そう、だな。で、その指輪の使い方は分かったか?」 「ニンフィを呼び出して……後はニンフィに命令すればいいのよね?」 「ああ。無茶な事を言い過ぎると機嫌を悪くして光らなくなるってのを忘れずにな。 それさえ守っていればその指輪は決して途絶える事のない明りとして使えるだろう。」 「うん。」 「あとは、私の使っていた魔法具なんだが……。」 重樹(しげき)は壁にぶら下がっているベルトのようなものの1つを壁から取り外した。 「これは私の使っていた魔法具の入れ物なのだが……。ちょっとこれは……。」 「な、なにそれ!?なんかもう腐ってるじゃない?」 長時間放置されていた革製のベルト型魔法具入れは既に使用には耐えられないだろうぐらい 侵食が進んでいた。 「……むむう、思わぬ誤算だ……。」 「っていうか、そのぐらいの事はちょっと考えればすぐに分かりそうなもんだけどねー。」 すかさずツッコミを入れるシルフィード。 「う、うるさい!!」 「まーたむきになっちゃって!重樹(しげき)ってほんっと昔とかわんないのよねー。」 シルフィードの軽口にむきになって言い返す重樹(しげき)。 やっぱり重樹(しげき)とシルフィードは本物の恋人同士みたいだなぁ、と颯樹(さき)はしみじみと思った。 (9) |