Fortunally Encounter4ページ目
「あー、よく飛ぶわねー。」

 他人事(ひとごと)のように(というか、実際に他人事だが)つぶやくシルフィード。

 なんというか前回の蹴りよりも威力が2倍ぐらいになっているようにも見えたが、

それでも何とか重樹(しげき)は立ち上がった。このあたりのタフネスはなかなかのものだ、

といえるかもしれない。

「親を全力で蹴るなと言っただろう……。」

「なら、全力以上のパワーだったら蹴っていいのね?」

 シルフィードは重樹(しげき)の表情が一瞬凍りついたのを見逃さなかった。

「うっそよー。こんな嘘にもだまされるなんてパパって、よく人に騙されるタイプでしょ?」

「……嘘といわれてもまだ説得力がないぞ……。何せお前は前科2犯だからな……。」

 重樹(しげき)は額から流れ出る血を拭いながら答えた。

「で、ほんとに何で呼んだの?」

「ああ、そうだった。ようやく思い出したよ。ついてきなさい。」

 というか、その頭の傷は大丈夫なのだろうか、と一瞬シルフィードは思ったが、

次の瞬間どうでもいいな、と思い直した。

 3人は寺の本堂……神像……俗にいう仏像……が安置されている部屋に向かった。
 

「で、パパ、何の用なの?」

「……私が昔冒険者だった、という話は覚えているか?」

「一応ね。」

 颯樹(さき)は、重樹(しげき)が冒険者だったということは本人から何度か聞かされていたが、

たいした事のない平凡な冒険者だったんだろうと思い込んでいて、

「精霊使い」としての力を見せ付けられた昨日以前までは、

重樹(しげき)達が戦争をたった3人の力で止めさせた話とか、

「世紀末の悪魔」がどうこうといった話等はこれっぽっちも信じていなかった。

「……危険な冒険に出るお前へのの最後の親心だと思ってほしい。

私の使っていた道具を持っていけ。きっとお前を守ってくれるはずだ。」

 珍しく真剣な口調で話す重樹(しげき)に、颯樹(さき)も真顔になった。

「パパの使っていた道具……。」

 重樹(しげき)は脇に隠されていたレバーを操作した。

 すると、ゴゴゴゴッという重苦しい音とともに壁の一部が動き、通路が現れた。

「隠し部屋!?この家にこんなものがあったなんて、私聞いてないわよ!」

 シルフィードが横でぼそっとつぶやく。

「ま、迷宮に隠し部屋ってのは常識よねー。」

「あ、そうか。ここって、昔は魔物の巣だったんだっけ。」
 
 

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