「あー、よく飛ぶわねー。」
他人事(ひとごと)のように(というか、実際に他人事だが)つぶやくシルフィード。 なんというか前回の蹴りよりも威力が2倍ぐらいになっているようにも見えたが、 それでも何とか重樹(しげき)は立ち上がった。このあたりのタフネスはなかなかのものだ、 といえるかもしれない。 「親を全力で蹴るなと言っただろう……。」 「なら、全力以上のパワーだったら蹴っていいのね?」 シルフィードは重樹(しげき)の表情が一瞬凍りついたのを見逃さなかった。 「うっそよー。こんな嘘にもだまされるなんてパパって、よく人に騙されるタイプでしょ?」 「……嘘といわれてもまだ説得力がないぞ……。何せお前は前科2犯だからな……。」 重樹(しげき)は額から流れ出る血を拭いながら答えた。 「で、ほんとに何で呼んだの?」 「ああ、そうだった。ようやく思い出したよ。ついてきなさい。」 というか、その頭の傷は大丈夫なのだろうか、と一瞬シルフィードは思ったが、 次の瞬間どうでもいいな、と思い直した。 3人は寺の本堂……神像……俗にいう仏像……が安置されている部屋に向かった。
「で、パパ、何の用なの?」 「……私が昔冒険者だった、という話は覚えているか?」 「一応ね。」 颯樹(さき)は、重樹(しげき)が冒険者だったということは本人から何度か聞かされていたが、 たいした事のない平凡な冒険者だったんだろうと思い込んでいて、 「精霊使い」としての力を見せ付けられた昨日以前までは、 重樹(しげき)達が戦争をたった3人の力で止めさせた話とか、 「世紀末の悪魔」がどうこうといった話等はこれっぽっちも信じていなかった。 「……危険な冒険に出るお前へのの最後の親心だと思ってほしい。 私の使っていた道具を持っていけ。きっとお前を守ってくれるはずだ。」 珍しく真剣な口調で話す重樹(しげき)に、颯樹(さき)も真顔になった。 「パパの使っていた道具……。」 重樹(しげき)は脇に隠されていたレバーを操作した。 すると、ゴゴゴゴッという重苦しい音とともに壁の一部が動き、通路が現れた。 「隠し部屋!?この家にこんなものがあったなんて、私聞いてないわよ!」 シルフィードが横でぼそっとつぶやく。 「ま、迷宮に隠し部屋ってのは常識よねー。」 「あ、そうか。ここって、昔は魔物の巣だったんだっけ。」
(4) |