ミステリ&SF感想vol.143 |
| 2007.04.03 |
| 『『アリス・ミラー城』殺人事件』 『猫の手』 『大失敗』 『百万のマルコ』 『樹霊』 |
| 『アリス・ミラー城』殺人事件 北山猛邦 | |
| 2003年発表 (講談社ノベルス) | ネタバレ感想 |
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[紹介] [感想] A.クリスティの名作『そして誰もいなくなった』を意識した“孤島の連続殺人”というプロットに、奇怪な館を舞台にした“館もの”ミステリの要素を組み合わせた作品です。綾辻行人『十角館の殺人』をはじめ、前例はおそらくいくつかあるのでしょうが(よりによってM.スレイド『髑髏島の惨劇』を思い出してしまった私は……)、その中にあっても本書はなかなかユニークな作品だと思います。
そもそも、“孤島の連続殺人”も“館もの”も(本格)ミステリにおける“定番”であり、裏を返せばそれが採用された時点で(本格)ミステリの典型という印象が強くなるのですが、本書の場合にはさらに、孤島に集められて殺されていくのが(どこか清涼院流水の“JDC”を思わせる)探偵たちであり、また舞台となる館がL.キャロルの『不思議の国のアリス』及び『鏡の国のアリス』を意匠として取り入れたものであるなど、全体として意図的に虚構性(あるいは人工性)が強く打ち出されているのが特徴的です。 加えて、作中では探偵たちが物理トリックの限界について議論し、密室殺人が起こればトリックのみならずその使われた意味にまで踏み込んだ解明に挑み、“顔のない死体”が出現すればその“定型”と“裏”の両面をにらんで推理を行う、といった具合に、(本格)ミステリというジャンルそのものが強く意識された、パロディめいたメタミステリに仕上がっています。個人的には少々やりすぎ(“本格ミステリ”を意識しすぎ、というべきか)の感がなくもないのですが、冒頭の無茶なルールを探偵たちが平然と受け入れている点も含めて“(本格)ミステリに支配された世界”ともいうべき幻想が構築されているのが興味深いところです。 疑心暗鬼の中で一人ずつ人数が減っていくのはお約束通りとして、その果てに待ち受けるサプライズはかなり強烈。それをもたらすのは、正確にいえば真相そのものよりも、その真相にまったく気づかせなかった非常に巧妙な隠蔽であり、それを(若干気になるところはありますが)見事に成立させた作者の豪腕には脱帽せざるを得ません。犯人が密室を構成した例を見ない理由や、“狂気の論理”としかいいようのない無茶苦茶な(しかし作中では辻褄が合っているようにも思える)犯行の動機などもなかなかのものですが、やはり隠されていた真相に気づかされた瞬間の衝撃が圧巻です。 前述のように虚構性/人工性が強くかなり現実離れしていることもあり、読者を選ぶ作品であることは間違いないかと思いますが、それでもこの大胆にして巧妙な仕掛けは一読の価値があるでしょう。個人的には大いに満足させられた傑作です。 2007.03.13読了 [北山猛邦] | |
| 猫の手 Cat's Paw ロジャー・スカーレット | |
| 1931年発表 (村上和久訳 新樹社) | ネタバレ感想 |
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[紹介] [感想] 莫大な富を築いた偏屈な老人が住む豪邸を舞台に、相続人たるべき一族が集う中、遺産の行き先に影響を与える重大発表が行われた直後に事件が起こる――という、いかにもな道具立てが満載の古典的な“館もの”ミステリで、事件に至るまでの経緯が再構成された「第一部」、モーラン部長刑事による捜査を描いた「第二部」、そして謎解き役であるケイン警部が解決に乗り出す「第三部」から構成されています。
事件が起きるまでの「第一部」はかなり長いのですが、それでもさほど退屈させられることはありません。まず、一族の中心である偏屈なグリーノウ老人はもちろんのこと、四人の甥とその妻や婚約者、老人の愛人や従者らに至るまで、登場人物たちがいずれも丹念に描き込まれているのが見どころで、とりわけ立場を同じくする甥たちがしっかりと描き分けられているのは見事です。また、誕生日のパーティーから甥たちのカード勝負、そして庭で行われる花火大会といった具合にイベントも用意されていますし、その間をつなぐように配置された小さな事件、さらにはそれらを通じて登場人物たちの間に浮上してくる確執など、伏線を張りめぐらしつつきっちり組み立てられた物語は、派手さには欠けるもののなかなか魅力的です。 続く「第二部」では、休暇中のケイン警部に対抗意識を燃やすモーラン部長刑事の指揮による、抜かりのない綿密な捜査活動が目を引きます。もちろんケイン警部が謎解き役として後に控えている以上、部長刑事の捜査が暗礁に乗り上げてしまうのはお約束ですが、様々な証言や手がかりが掘り出されるとともに錯綜し、事件の様相が複雑化していく様子は見応えがあります。 そして、いよいよケイン警部が捜査に着手する「第三部」。ここで、致し方ない部分もないではないとはいえ、発見された決定的な手がかりが読者に対して伏せられるという、アンフェアの見本のような形になっているのがいただけないところ。それでも、最後の最後になって明かされる真相はなかなか意外ですし、またそれを最後まで隠しきるのに大いに貢献しているミスディレクションの巧みさが光ります。フーダニットとしては致命的に近い大きな欠陥を抱えているのは確かですが、切り捨ててしまうには惜しい作品、といったところでしょうか。 2007.03.16読了 [ロジャー・スカーレット] | |
| 大失敗 Fiasko スタニスワフ・レム |
| 1987年発表 (久山宏一訳 国書刊行会) |
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[紹介] [感想] S.レムの最後の長編にして、その集大成ともいうべき作品です。ピルクス船長(『宇宙飛行士ピルクス物語』)の名前が出てくるところがまず目を引きますが、代表作『ソラリス』をはじめとする一連の作品と同様にファーストコンタクトをテーマとしているのはもちろんのこと、『浴槽で発見された日記』などのような情報伝達の困難さに起因する不条理劇、『捜査』を思わせる手探りで不確かな情報分析がもたらす悪夢、さらに『星からの帰還』に通じる異質な環境への適応を余儀なくされる主人公、といった具合です。
そして何より、『砂漠の惑星』のようにわかりやすく比較的ストレートなプロットと、『天の声』並みにハードなディテールが過剰に詰め込まれた密度の濃い文体とが同居した結果、読みやすいのか読みにくいのかよくわからない(苦笑)、何ともいえない独特の味がかもし出されているのが本書の魅力です。 プロットがストレートな上に、結末までも題名に暗示されてはいるものの、そこへ至るプロセスには十分に力が注がれており、科学技術的な側面と登場人物の心理的な側面とにわたる丹念な描き込みでしっかりと読ませます。そして結末はもちろん客観的には(あるいは、本来の任務としては、というべきか)“大失敗”としかいいようのないものですが、なぜか陰鬱な雰囲気があまり感じられないのは、過去から切り離されたせいか淡々としたところのある主人公のキャラクターのせいでしょうか。 かなりボリュームがあるので手を出しづらいという印象もあるかもしれませんが、レムの様々な持ち味が発揮されているという点で、これからレムを読もうという方への入門書として最適な作品といえるかもしれません。 2007.03.24読了 [スタニスワフ・レム] |
| 百万のマルコ 柳 広司 | |
| 2007年発表 (創元推理文庫463-04) | ネタバレ感想 |
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[紹介と感想]
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| 樹霊 鳥飼否宇 | |
| 2006年発表 (ミステリ・フロンティア) | ネタバレ感想 |
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[紹介] [感想] 『非在』以来久々に、植物写真家・猫田夏海と“観察者”鳶山のコンビが登場する自然派(?)ミステリの最新作です。前面に出ているのは樹木の移動という、犯罪ではないながらも“日常の謎”ともいい難い独特の奇妙な謎ですが、後半には犯罪も絡んで大きな事件となっていきます。
物語の舞台は北海道の寒村で、樹木の移動事件の背景として、テーマパーク建設をめぐる地元建設業者とアイヌの対立が浮かび上がってきます。両勢力の中心人物がクローズアップされるのはもちろんですが、その周辺に村役場の(それぞれ立場を異にする)人々や環境問題専門の弁護士らが登場するという、関係者の配置がなかなかうまく考えられています。そして、樹木の写真を撮影するだけのために訪れた夏海が、事件の渦中に巻き込まれていく経緯も。 一つ一つの謎は派手とも地味ともつかない微妙なところですが、その数と種類の多さが目を引きますし、組み合わせによって大きな効果がもたらされているところも見逃せません。解決の手順は意外に(?)堅実ですが、作者らしくどこか逆説的に感じられる真相が非常に秀逸。そして、最後に明らかになる異色の動機がかなり強烈です。 個人的には、事件と物語の結末に大いに釈然としないところがある――作品内の“論理”と整合していないというか――のが残念ですが、おおむねよくできた作品といっていいのではないでしょうか。 2007.03.28読了 [鳥飼否宇] | |
| 【関連】 『中空』 『非在』 『物の怪』 / 『桃源郷の惨劇』 『密林』 | |
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