- 「百万のマルコ」
- 身代金を払えずに牢から出られない囚人たちが“黄金さえあれば”と嘆くのを耳にしたマルコは、黄金があふれる島ジパングを訪れた時の出来事を語り始める。黄金の谷で莫大な量の黄金を拾い集めたマルコだったが……。
マルコが最初に語るのは、おなじみ黄金の島ジパングへの旅。意表を突いたものでありながら、思いの外ロジカルな解決がよくできています。
- 「賭博に負けなし」
- 囚人たちがサイコロ勝負をしているのを見たマルコは、“それまで誰も勝ったことのない賭けに勝った”話を始める。それは、大ハーン・フビライその人との間で途方もない大金を賭けて行われた、三番勝負の競馬だった……。
話を聞くだにとても勝ち目のなさそうな賭けですが、盲点を突いた発想が見事です。
- 「色は匂へど」
- 「高い」・「低い」/「勝利」・「敗北」――反対語遊びに興じる囚人たちに、「光」と「闇」が“それほど違ったものでもない”と口を挟んだマルコは、〈常闇の国〉を訪れた異国の使者が「光」と「闇」を取り違えた顛末を披露する……。
「どこの国だよ」と突っ込みたくなるような話で、“いろは歌”の珍解釈が実に笑えます。しかし、マルコ自身の解決は鮮やかではあるものの、それが囚人たちに対して語られる(メタ)レベルでは、大きな問題をはらんでいるように思われます。
- 「能弁な猿」
- 猿は言葉をしゃべることができるか、という囚人たちの会話に引きずり込まれたマルコは、訪問したセイラン島の王位継承者たちから“あなたは猿とお話しになることができますか”と何度も尋ねられたという経験を語るのだが……。
一応伏線らしきものはあるのですが、ミスディレクションが強力すぎて、真相が明かされると思わず苦笑。
- 「山の老人」
- 金貸しの老人ととんでもない約束をしてしまい、囚人たちに助けを求めてきた看守の若者に対して、マルコが話し始めたのは、恐るべき暗殺者たちを従える〈山の老人〉の砦に単身潜入し、捕らえられた時の出来事だった……。
最終的にはよくある“アレ”ですが、うまくひねってあると思います。そして、マルコの締めの台詞が秀逸です。
- 「半分の半分」
- ささいなことで争う囚人たちの姿を目にしたマルコは、“お辞儀一つで、危うく国が滅びかけた”いきさつを話し始めた。それは、疑り深い二人の王の望みを同時に叶えるにも等しい、解決不可能とも思える難題だったのだ……。
冒頭のパンをめぐる争いの解決策はよく目にするものですが、難題に遭遇したマルコの対応は非常に面白いものになっています。
- 「掟」
- 野蛮な異教徒の国では、ただの水が葡萄酒に変わるような奇跡は起きないだろう――と問いかけられたマルコは、酒を厳しく禁じる〈砂漠の民〉の目の前で、密かに運んでいた酒が水に変わった話を始めたのだが……。
知恵というよりも説得力の勝利か。よく考えられているともいえるのですが、個人的にはやや拍子抜けの感が否めません。
- 「真を告げるものは」
- 退屈しのぎに牢の石壁に絵を描き始めた囚人たちだったが、マルコの飛びぬけて下手な絵に、笑いをこらえきれない。しかしマルコは平然と、“世界一の絵描きと作品の出来ばえを競った”時の思い出を口にする……。
とんち話でよく知られる“アレ”が出てきた時には笑いましたが、解決は少々いんちきくさい気が……。
- 「輝く月の王女」
- 故郷から届いた手紙で、かつての許婚が他の男に嫁いだことを知らされ、“あの女の鼻づらをひっつかんで、思う様に引き回してやることができたなら”と嘆く囚人に対して、マルコはその願いを叶えてみせようと……。
予想の斜め上を行くかのような解決は笑えますが、結末ではほろりとさせられる、印象深いエピソードです。
- 「雲の南」
- 囚人たちのなぞかけ遊びに次々と答えていくマルコは、“これまでに答えられなかった謎はないのですか?”と問われて、“一つだけある”と応じる。それはマルコが〈雲の南〉という土地を訪れた時のことだった……。
ついに囚人たちがマルコを打ち負かすかと思えば……本来の謎解きもさることながら、ホワイダニットとして非常にユニークな作品となっています。
- 「ナヤンの乱」
- ヴェネチアからマルコに届けられた、奇妙に雑多な品々。それは、タタールに古くから伝わるもので、大ハーン・フビライその人がそれを用いて、反乱を起こした精鋭部隊を壊滅させた秘密兵器だというのだが……。
定型を外した発端にまず興味を引かれますが、さらに意表を突いた皮肉な解決が印象的です。
- 「一番遠くの景色」
- “この世で一番遠くの景色を見たい”――他の囚人たちから、故郷ヴェネチアを離れて異郷へと旅立ったいきさつを尋ねられたマルコは、父と叔父が異郷からようやく戻ってきた十五歳の頃の思い出を語り始める……。
マルコの解決は新鮮味のあるものではありませんが、最後の味わい深い台詞が何ともいえません。
- 「騙りは牢を破る」
- 牢内にいながら“私は別に閉じ込められているわけじゃない”とうそぶき、“いつだって出ていくことができる”と豪語するマルコは、大ハーンのもとを離れてヴェネチアに帰ってくることになった顛末を語る。そして……。
マルコと囚人たちの物語は思わぬ形の結末を迎えます。そして密かなもう一つの結末もまた意外でよくできています。
2007.03.26読了