ミステリ&SF感想vol.216

2015.03.07
『フライプレイ!』 『純喫茶「一服堂」の四季』 『人間の顔は食べづらい』 『ミンコット荘に死す』 『化石少女』



フライプレイ! 監棺館殺人事件  霞 流一
 2014年発表 (原書房 ミステリー・リーグ)ネタバレ感想

[紹介]
 ミステリ作家・神岡桐仁が、ラブホテルを買い取って改装し、様々な本格ミステリの意匠を施した別荘〈冠の館〉。そこで、今では売れなくなった神岡は起死回生を期して自らカンヅメ状態となり、編集者・竹之内里子に発破をかけられながら懸命に新作の執筆にいそしんでいた。そこへ神岡の愛人・黒井真梨亜が訪れるが、痴話喧嘩がもつれた末 のはずみで神岡は真梨亜を殺してしまう。途方に暮れる神岡だったが、「どうせ逮捕されるなら、本格ミステリ作家の名にふさわしい殺人にするべき」という里子の言葉に触発されて、現場に様々な仕掛けと装飾を施し始める。そして……。

[感想]
 帯に“『探偵スルース』+『熱海殺人事件』=名探偵{メイタンテイ}メント”*1という惹句が躍る霞流一の最新長編は、これでもかというほどネタを詰め込んでマニアックに趣向を凝らした一作。〈冠の館〉――監獄のように陰気で、大きな缶詰に見える形をしていることから、別名〈監缶館〉――だけを舞台に、これまたごく限られた登場人物たちが、どんでん返しに満ちた本格ミステリドタバタ劇を繰り広げる物語は、かなりくせが強く好みが分かれそうではありますが、サービス精神あふれる作品であることは確かでしょう。

 痴情のもつれで偶発的に起きた事件を“本格ミステリらしい事件”に仕立てる、という発端からして人を食ったものですが、そこに――個人的には綾辻行人『十角館の殺人』冒頭のエラリィの言葉*2を思い起こさせる――“アンチ・リアリズム”志向のようなものがうかがえるのが興味深いところです。結果として本書では、ある種非現実的な“ミステリのための空間”が構築されて、思う存分ミステリに淫した物語が展開されていきます。と同時に、登場人物たち自身が自覚的に“本格ミステリを体現”しようとすることで、自ずとメタミステリ風の性格を帯びることになっているのも面白いところです。

 さてこの作品、犯人が最初から明かされている点だけをみると、倒叙ミステリの一種ととらえることもできるかもしれませんが、神岡らが現場に施していく工作は――何をしているのかはおおむね示されるものの――その意味がすべて明かされるわけではないので、それを読み解くべき人物、すなわち(一部の)本格ミステリには付き物ともいえる“名探偵”の登場は必然となります。というわけで本書では、密室や見立てなどの装飾も含めた“謎”(?)が“どのように解明されるか”にも力が注がれており、ちょっとした〈見立て分類〉まで登場するなど、大きな見どころとなっています。

 未読の方の興を削いでしまうので、あまり先の展開に触れるわけにはいかないのが、感想を書く上で非常に苦しいところではあります。が、詰め込みすぎて雑然とした印象もないではないものの、とにかく最後の最後まで油断のならない展開が続き、楽しませてくれる意欲作です。第15回本格ミステリ大賞の候補作に選出されましたが、果たして結果はどうなるでしょうか。

*1: 恥ずかしながらどちらも観ていない私は、リチャード・マシスン『奇術師の密室』を連想しました。
*2: 〈館シリーズ〉の〈シリーズ紹介〉の箇所に引用してあります。

2014.10.28読了  [霞 流一]



純喫茶「一服堂」の四季  東川篤哉
 2014年発表 (講談社)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 古都・鎌倉でひっそりと営業する、一見すると古い民家としか思えない喫茶店「一服堂」。エプロンドレス姿の美人店主は、人見知りの恥ずかしがり屋で接客が大の苦手。だが、殺人事件の話を聞いた途端に人が変わり、安楽椅子探偵として鮮やかに謎を解く……。

 カバーイラストや設定など、何やら狙った*1ような印象を与える一冊(苦笑)ですが、扱われているのがいわゆる“日常の謎”ではなく猟奇的な殺人事件ばかりなのが一味違うところで、安楽椅子探偵をつとめる美人店主もそれにふさわしく(?)、それまでの態度から豹変してキレ気味の“自虐的ツッコミ”を皮切りに推理を披露するという、思いのほか派手な謎解きを見せてくれます。
 ミステリとしては、いずれの作品でもフーダニットよりハウダニット――トリックに重きが置かれているのが特徴ですが、肝心のトリックの出来に差があるように感じられるのが少々残念なところで、全体としてみると個人的には微妙な印象が残るのは否めません。とはいえ、そのあたりは読者によってだいぶ意見が分かれそうなところではあり、トリック好きの方ならば一読の価値はあるといっていいのではないでしょうか。
 個人的ベストは「春の十字架」

「春の十字架」
 放談社の雑誌「週刊未来」の記者・村崎蓮司は、遠い親戚の緑川静子に頼まれて、浮気の疑いのある夫が仕事と称してこもる離れの様子を、一晩見張ることに。しかし村崎が見張りの途中で眠り込んだ翌朝、夫は離れの中で十字架に磔にされた死体となって発見される。犯人は離れの天窓から出入りしたらしいのだが……。
 十字架に磔にされた異様な死体や、密室のようで密室でない奇妙な現場など、何とも魅力的な道具立てが目を引きます(語り手による監視が中途半端なのはご愛嬌)。そして、解き明かされるトリックはお見事。特に“アレ”の扱いが非常に効果的で、よく考えられていると思います。

「もっとも猟奇的な夏」
 「週刊未来」の村崎蓮司の取材に応じて、天童美幸が語る殺人事件の顛末。美幸が友人の関谷耕作を手伝って田んぼの草刈をしている間、近所の農家の老人を三人の訪問者が次々と訪ねてくるが、鍵もかけずに老人は留守にしているらしい。だが老人はその後、納屋で十字架に磔にされた無残な死体となって発見され……。
 「春」に続いてまさかの連続“十字架”事件ですが、もちろん「春」とはまったく違った形のトリックは、こちらもなかなかよくできています。ただし、本書の“ある趣向”(?)のせいでせっかくのトリックが見えやすくなっているきらいがあり、実にもったいないというのが正直なところ。本書の収録作でなければまた印象も違ったかもしれませんが……。

「切りとられた死体の秋」
 売れないミステリ作家・南田五郎は、友人の人気ミステリ作家・東山敦哉の邸を訪れる。東山と半同棲中の秘書・中原冴子が寝ていたのをその場に残し、東山と南田は呑みに出かけて朝まで盛り上がったのだが、東山邸から姿を消していた冴子は自宅の浴室で死体となっていた。しかも首と両手首を切断して持ち去られて……。
 “人気の本格ミステリ作家・東山敦哉”と“売れないユーモアミステリ作家・南田五郎”との対比にニヤリとさせられますが、しかしいくら何でもトリックがわかりやすすぎるのが大きな難点。一つには前述の“趣向”のせいもありますが、似たような前例がいくつか*2あるのがつらいところです。しかも、それら前例に比べて面白味が薄いように思われるのも残念。

「バラバラ死体と密室の冬」
 春の事件以来久々に「一服堂」を訪れた刑事・夕月茜が、店主との約束で語り始めたのは、春の事件の少し前に起きた猟奇殺人の話。とある家の一室で、その住人の首筋を切られた死体が、さらにその兄が浴室でバラバラ死体となっているのが発見された。しかしその家は、外部から出入り不可能な密室状態だったのだ……。
 四季の最後を締めるエピソードにふさわしく、“密室バラバラ殺人”という事件の様相をはじめ、色々な意味でインパクトのある作品となっています。
 とりわけ秀逸なのが、メイントリックを支える補助的なトリックで、周到なミスディレクションに脱帽せざるを得ません。一方、真打ちたるべきメイントリックはといえば……強烈な印象を残すトリックなのは間違いありませんが、読者によって好みも評価も分かれそうなところで、個人的にはとある理由で(世評とは裏腹に)かなり微妙に感じられます。
 物語の幕を閉じる結末は何とも味わい深いもので、そこでだいぶ持ち直した感はありますが……。

*1: “そちら”は未読なのでアレですが。
*2: 思いついたところで海外作品に一つ、国内作品に二つ。まだ他にもありそうです。

2014.10.31読了  [東川篤哉]



人間の顔は食べづらい  白井智之
 2014年発表 (角川書店)ネタバレ感想

[紹介]
 様々な動物に感染する新型ウイルスが爆発的に流行し、世界中でおびただしい死者をもたらした。ヒトにのみ有効な抗ウイルス薬が開発されてウイルスの脅威は一段落したものの、動物の肉を食べることが事実上不可能となったため、様々な反対を押し切って人間のクローンを食用に飼育する制度が確立された……。
 ……食用クローン人間の飼育施設〈プラナリアセンター〉で働きながら、自宅で自らのクローンを違法に育てている柴田和志は、ある日思わぬ事件に巻き込まれる。通常通り首なしの状態で出荷したはずのクローン人間のケースに、切断して廃棄したはずの生首が入っていたのだ。疑いをかけられた和志だったが、事態は予想外の方向へ……。

[感想]
 第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作となった作者のデビュー作ですが、帯に“横溝賞史上最大の問題作”とあるように、食用のクローン人間が飼育される近未来という、とんでもない舞台設定が目を引く怪作です。設定だけみるとSFといっても過言ではありませんし、ややスプラッタ風のグロテスクな描写なども盛り込まれてはいますが、力点はあくまでもミステリ部分に置かれた、特殊設定ミステリとして読むべきでしょう。

 正直なところ、本書をSFとしてみると――可能な限り工夫されているようではあるものの――設定や描写のディテールが甘いように感じられるのは否めません。以下、個人的に気になったところを挙げてみます(おそらくは大半の方が気にならないでしょうが、完全にスルーしてしまうのもアレなので一応)。
 まず問題の新型ウイルスについて、“あらゆる哺乳類、鳥類、魚類に感染する”(36頁)とありますが、爬虫類・両生類・無脊椎動物(イカ・タコ・貝・甲殻類・昆虫類など)はどうなのか……というのは単なる書き落としとしても、感染経路が“食物連鎖を通じて”(37頁)だけでは作中に記されているほど爆発的に流行するのはおそらく不可能ですし、“抗ウイルス薬はホモ・サピエンスにのみ効力を発揮し”(37頁)というのも実際には考えにくいものがあります*1
 また、感染経路が食物連鎖だけならば、牛などの草食動物の少なくとも一部は安全なはず*2で、そのような未感染の動物を食肉用に飼育する(必要ならクローン増殖も含めて)方が、わざわざ人間を食べるシステムを構築するよりも、明らかに効果的だと考えられます。
 クローン人間の飼育についても、元になる体細胞を提供した本人(あるいはせいぜいその家族くらいまで*3)だけが食べるのですから、冷凍保存などを考慮してもそれほど大量の肉は必要ないはずで、飼育施設のクローンが“ぶくぶくに太った”(48頁)状態だったり、和志のクローンが“二百キロを超える巨体”(183頁)だったりするのはやりすぎででしょう*4。それでいて、クローンのために用意されている食事(41頁)*5をみると、一応“玄米”も挙げられてはいるもののメインのようではなく*6、太らせるには炭水化物が不足しているように思われます。
 一方、加工肉の形態だけでなく、首を切り落としただけの未加工肉が発送される点は、現実で目にする肉の流通状況を考えると無理があるようにも思えますが、一つの死体に“サラリーマンの平均年収くらいの金”(22頁)がかかる超贅沢品で顧客も限られる*7ことから、“素材をそのまま直送”(?)という形態があってもおかしくはないかもしれません。いずれにしても、自然科学の方面ではない設定については、ある程度はどうとでもなり得るように思います。
 ……といったようなところを、作者がどこまで想定していたのか定かではありませんが、広範囲に影響が及ぶ人工的な設定を導入して、そこに“現実的な”説明や描写をつけようとすることで、かえって(思わぬ)突っ込みどころが生じている感があり、特殊設定の扱いの難しさが浮き彫りになっているように思われます。もっとも、このあたりは「そういう前提だ」と“丸呑み”して読み進めていくこともできるので、さしたる瑕疵というわけではないのですが……。

 実際には、本書は“食用のクローン人間が飼育されている”ことを確立された“現実”として、終始あくまでもミステリとして展開していきます。ある政治家の飛び降り自殺と目された事件が、唐突に登場する“探偵役”の推理によって殺人事件と判明する「プロローグ」からしてミステリ色濃厚ですが、やがてクローンの首なし死体とともに生首が送りつけられる事件が発生するに至って、生首混入の機会と手段をめぐるロジカルな推理合戦に突入するのが本書の大きな見どころ。突拍子もない物語世界でありながら、その中で細かい推理の構築と破棄が重ねられていく強烈なミスマッチ感が、いい意味で“頭おかしい”(失礼)印象を与えます。

 さらに一息つく間もなく不可解な事件が続き、大変な事態になっていくのですが、終盤の怒涛の展開の中でもしっかりと推理が積み重ねられるのがユニーク。真相にはやむを得ず見えてしまう部分もあるのですが、しっかりと驚かされる部分もあり、その強烈なインパクトも含めて実に印象的です。細部には辻褄の合わないところもありますし、最後には密かに(犯人の視点で考えると)大きな破綻が生じてしまっているのも残念ですが、それでも大筋ではよくできた作品で、一読の価値はあるのではないでしょうか。内容が内容だけに、かなり好みが分かれそうではありますが……。

*1: ウイルスの活動に直接作用する抗ウイルス薬――逆転写酵素などを阻害する酵素阻害剤や、細胞への侵入を防ぐ侵入阻害剤――の場合には、その原理からみてヒト以外でも有効な可能性が高いでしょう。
*2: 飼料に動物性原料が使われている場合もあるので、(加熱でウイルスが失活しないとすれば(←ここはプリオンとごっちゃになっているようにも思われます))すべての家畜が安全というわけではないかもしれませんが、特に牛などは植物性原料だけで飼育している例も多いでしょう……と思いましたが、哺乳期の人工乳(代用乳)が危険になるかもしれません(感染していない母牛の牛乳はもちろん安全です)。
*3: この点は作中では明示されていませんが、“本人のクローンを食べる”理由が“倫理上の問題”(39頁)だけならば、食事をともにする家族くらいまでは許容されなければ、あまりにも不合理に過ぎるのではないでしょうか。
*4: 和志の場合は、偶然機会が得られた非合法の飼育であって、次の機会はまずないと思われるので、できるだけ太らせたい――冷凍や加工などによる保存も念頭に置いて――と考えるのもわからなくはないですが……。
*5: これは柴田和志が自分のクローンに与えているものですが、“和志には栄養管理のノウハウがないので、仕方なくプラナリアセンターのやり方を真似ている”(42頁)とあるので、飼育施設でも同様の食糧が用意されていると考えられます。
*6: さらにいえば、作中には“買ったばかりの食糧をボールにあけると(中略)成長促進剤を水で薄め、食糧によくまぶす。食事の準備はこれだけだ。”(42頁)とありますが、米は炊かないと消化率がかなり低くなってしまうのではないでしょうか。
*7: といいつつ、作中の描写では感覚的に“多すぎる”ような気が……。

2014.11.07読了  [白井智之]



ミンコット荘に死す Dead for a Ducat  レオ・ブルース
 1956年発表 (小林 晋訳 扶桑社文庫 フ42-1)ネタバレ感想

[紹介]
 深夜、歴史教師キャロラス・ディーンのもとに、ミンコット荘の女主人マーガレット・ピップフォードから電話がかかってくる。娘婿のダリル・モンタコードが銃で自殺したらしいというのだ。早速駆けつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルの遺体と対面するが、いくつかの不可解な点に気づいた。警察が自殺と判断したのをよそに、密かに疑念を抱えるキャロラスは独自に調査を続けるが、いくら関係者への聞き込みを続けても、ただただ無能で無気力だったダリルを殺すような動機のある人物は、一向に浮かび上がってこない。だが、やがて第二の事件が発生して……。

[感想]
 歴史教師キャロラス・ディーンを探偵役に据えたシリーズの第三作*1で、探偵小説研究会・編著「2015本格ミステリ・ベスト10」(原書房)の海外本格ミステリ・ランキングで第3位にランクインした佳作です。一見すると自殺のようでいて不自然な点の残る事件を皮切りに、レディ・ピップフォードの屋敷・ミンコット荘で相次ぐ不可解な事件を描いた“お屋敷ものミステリ”で、コージー・ミステリとはまた違うかもしれませんが、そこはかとなくユーモラスな雰囲気というか、一種独特の緊迫感のなさが目を引きます。

 発端、死体を発見したレディ・ピップフォードがまず旧知のキャロラスに電話してきた理由が、“警察が嫌いだから”というところからしてふるっていますが、死んだダリルが決して惜しまれるような人物ではなく、事件があまり重大事ととらえられていないのも印象的で、(作中でもすでに)“現実”と無縁な探偵小説の出来事であるかのような空気が漂うことで、キャロラスの素人探偵趣味がすんなりとはまっている感があります。そして、そんなダリルが殺されるに至るほどの動機の不在が、犯人探しを難しくしているところが面白いと思います。

 キャロラスの探偵活動の中心となるのは例によって地道な聞き取り調査で、物語がどうも地味な印象になってしまう大きな要因ではありますが、個性豊かな登場人物たちとのゆったりしたやり取りはユーモラスで、楽しく読むことができます。本書の場合、登場人物の多さ*2に抵抗を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、重要な人物はある程度限られてくることになりますし、第二の事件が起きた後の中盤にはそれら関係者たち一人一人を強く印象づけるように、ある意味ニヤリとさせられる愉快な趣向も用意されています。

 先に“緊迫感のなさ”と書きましたが、ミンコット荘で第二の事件が起きるとさすがに少しずつ雰囲気が変わり始め、関係者たちが一堂に会する終盤の一幕は(表面上はともかく)疑心暗鬼に満ちたスリリングなものになっています。そして思わぬ形のクライマックスを経て、いよいよキャロラスによる謎解きとなるわけですが、手がかりを吟味しつつ犯人の条件を列挙していった末に解き明かされるのは、いかにもレオ・ブルースらしいひねりを加えた鮮やかな真相。それ自体がよくできているのももちろんですが、その隠し方がなかなか巧妙でうならされます。

 もっとも、“いかにもレオ・ブルースらしい”というのが難しいところでもあって、これまでに紹介されたあれやこれやの作品を読んでいると、何となく真相の見当をつけやすくなっているきらいがあるようにも思います。が、まあそこはそれ。クラシックミステリのファンならもちろん、そうでなくても十分に楽しめる作品だと思います。

*1: 第一作は『死の扉』で第二作は未訳。あまり順番を気にする必要はないと思います。
*2: 巻頭の「登場人物」には、キャロラス・ディーンらレギュラーも含めて総勢26人の名前が挙げられています。

2014.11.19読了  [レオ・ブルース]
【関連】 『死の扉』 『ハイキャッスル屋敷の死』 『ジャックは絞首台に!』 『骨と髪』



化石少女  麻耶雄嵩
 2014年発表 (徳間書店)ネタバレ感想

[紹介]
 京都の名門高校・私立ペルム学園で、相次いで発生する殺人事件。古生物部の部長にして、化石オタクの奇人変人として学内でも有名な少女・神舞まりあは、お守り役でたった一人の部員・桑原彰を相手に、次々と奇天烈な推理を披露するのだが……。

「古生物部、推理する」
 部長のまりあに命じられて新入部員を勧誘しようと部室を出た彰だったが、そこで外套姿の半魚人と出くわす。廊下の奥へ去っていった半魚人はどうやら、古生物部に先輩が残していったシーラカンスのかぶり物を盗み出してかぶっていたらしい。そしてそのシーラカンス男は、新聞部の部室で部長を殺害していたのだ……。

「真実の壁」
 クラブ棟のすぐ隣に建つ体育館の白壁には、日が暮れるとしばしばクラブ棟の明かりで生徒たちの姿が映し出され、いつしか“真実の壁”と呼ばれるようになっていた。そしてある宵、“真実の壁”に映し出されたのは、男が女子生徒の首を絞めているような姿だった。はたして、後に絞殺された女子生徒の死体が発見され……。

「移行殺人」
 クラスメイトの彰を勧誘していた叡電部の部員が、部室で何者かに襲撃され、そのまま命を落としてしまう。しかも、彼が文化祭のために製作していた叡電の模型まで、無残に破壊されていた。現場付近で目撃された不審な人物が嵐電の運転士の制服を着ていたことから、叡電部と競合する嵐電部の部員が疑われるが……。

「自動車墓場」
 古生物部の合宿で、石川県にある学園の宿泊施設を訪れたまりあと彰は、部の存続をめぐって反目する生徒会の面々と鉢合わせになって閉口する。気を取り直して化石掘りに精を出すまりあと、それに付き合わされて苦労する彰だったが、その帰り道の途中、停まっていた白い乗用車の中に他殺死体を発見してしまい……。

「幽霊クラブ」
 放置されていた旧クラブ棟の取り壊しが決定し、そこに巣食っている“幽霊クラブ”――廃部にされた後も密かに活動を続けるクラブ――の調査を、生徒会が行うことに。成り行きで立ち会う羽目になった彰だったが、屋上から飛び降りた女子生徒の幽霊が出るという噂のせいか、不気味な雰囲気が漂う中、思わぬ事件が……。

「赤と黒」
 古生物部に待望の新入部員が加入することになった。学内の大理石の壁に埋もれた化石を眺めているところを、まりあがスカウトしてきたという二年生の馬場は、テストでも学年二位の逸材。ようやく部員が増えたことで、古生物部も安泰かと思われたのも束の間、またしても発生した事件――密室殺人に巻き込まれて……。

[感想]
 麻耶雄嵩の新作は、京都の名門高校を舞台にした異色の学園ミステリで、テストでは赤点だらけの“化石少女”神舞まりあを探偵役に、そして不本意ながらもまりあのお供をつとめる桑原彰をワトソン役に据えて、学内を中心に相次ぐ事件の顛末を描いた連作短編集のような構成*1の一冊です。生徒会をめぐる派閥争いが繰り広げられているあたりは『あいにくの雨で』を髣髴とさせるものがありますが、まりあと彰の掛け合いのせいもあって全体的に軽くユーモラスな味わいとなっています。

 ミステリとしても、ある意味で“ゆるい”ところがあるのですが、それは麻耶雄嵩らしいひねくれた趣向――最初の「古生物部、推理する」を読んだところで明らかになる――ゆえのことで、とりあえずは探偵役・まりあが推理する奇想天外なトリックを素直に楽しみながら読み進めるのが吉でしょう。

 最初の「古生物部、推理する」では、派手ではないながらも意表を突いたトリックに驚かされる一方、その推理がハルキゲニア*2をきっかけにして出てくる(ことになっている*3)のが無茶すぎるというか何というか。
 続く「真実の壁」はまず、部室内の様子を映し出す“真実の壁”の設定と、それをうまく使った事件の様相が目を引きますが、最大の見どころはやはりとんでもないトリックで、驚きを通り越して笑いを禁じ得ません。
 「移行殺人」では、叡電部と嵐電部*4のマニアぶりもさることながら、自身は興味のない古生物部と勧誘された叡電部との間で揺れ動く彰の心境が印象的。そして、やや不可解な題名の意味が明らかになるまりあの推理は鮮やかです。
 次の「自動車墓場」は、学園を離れた遠方での合宿の様子が描かれたエピソードで、学園ミステリらしい(?)展開もあったりなかったりしますが、ここでも発生した殺人事件での豪快すぎるトリックが全部持っていっている感があります。本書の中での個人的ベスト。
 「幽霊クラブ」では、まりあと生徒会との間で彰が板挟みになる中、呉越同舟の“ガサ入れ”の最中に不可解な転落死が起きることに。一見すると自殺か事故としか思えないような状況ですが、それをひっくり返すまりあの推理はお見事。動機に関する伏線も印象的です。
 最後の「赤と黒」では、ついに古生物部に新入部員が加入することになったものの、やはり事件が起きてしまうのはお約束。ポイントをずらした密室トリックはよくできていますし、犯人を特定する推理も面白いと思います。

 さて、前述した本書の趣向については、何ともいえない居心地の悪さを覚えつつも苦笑せざるを得ません。実のところ、同じ作者の『さよなら神様』とかなり近いことをやってあるところがあるのですが、それゆえに(ある意味で)『さよなら神様』とは対極ともいえる状態になるのがユニーク。もっとも、とある理由でその趣向の効果は限定的にならざるを得ないところがあり、そのために本書の結末が見えやすくなっているきらいもあるのですが、まあそこはそれ。

 いずれにしても、本書は間違いなく探偵役とワトソン役との関係に一石を投じるものであり*5、かなり異色の雰囲気ではあるものの、デビュー作『翼ある闇』以来“探偵”(と“ワトソン”)のあり方を追究してきた麻耶雄嵩ならではの作品といえるのではないでしょうか。

*1: 各エピソードが「第一章」「第二章」……とされているところをみると、長編ととらえる方が適切なのかもしれませんが。
*2: カンブリア紀に生息していた生物(「ハルキゲニア - Wikipedia」を参照)。
*3: 各エピソードでは、まりあが古生物の知識を推理のヒントにするのがお約束となっています。
*4: いうまでもないかもしれませんが、どちらも京都の私鉄です。
*5: いきなりこれだけ書いても何のことだかさっぱりわからないと思いますが、お察しください。

2014.11.26読了  [麻耶雄嵩]


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