詩詞世界　碇豊長の詩詞　李清照憶秦娥・漢詩

　
LiQingzhao liqingzhao李清照
　　　憶秦娥

臨高閣，
亂山平野煙光薄。
煙光薄，
棲鴉歸後，
暮天聞角。

斷香殘酒情懷惡，
西風催襯梧桐落。
梧桐落，
又還秋色，
又還寂寞。

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　　　　　　憶秦娥

高閣に　臨めば，
亂山　平野　　煙光　薄し。
煙光　薄し，
棲鴉　歸りし後，
暮天に　角（ふえ）を聞く。

斷香　殘酒　　情懷　惡く，
西風　催ほし襯（うなが）して　　梧桐　落つ。
梧桐　落つ，
又た　還（なほもふたた）び　　秋色，
又た　還（なほもふたた）び　　寂寞。

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◎私感訳註：

※憶秦娥：詞牌の一。詞の形式名。詳しくは「構成について」を参照。この作品は、「亂山」「煙光薄」「棲鴉」「暮天」「聞角」「斷香」「殘酒」「情懷惡」「西風」「梧桐落」「秋色」「寂寞」と重苦しい語を並べているものの、さらっとした感じがする。
※臨：高いところから望み見る。
※高閣：たかどの。
※臨高閣：たかどのから望み見る。詩詞でよくいう「倚欄干」である。高殿の欄干や窓に倚り、遠くを望み、物思いに耽ること。
※亂山：脊梁のような山脈ではなくて、入り乱れているようにみえる群山。
※平野：平地。平野。
※煙光：霧が立ちこめたようにおぼろに霞む。　・光：光景、或いは、陽光。
※亂山平野煙光薄：入り乱れた群山と（その手前の）平地は、霧が立ちこめたように薄ぼんやりしている。
※棲鴉：巣（に戻っている）カラス。
※歸後：戻っている。
※棲鴉歸後：巣に戻っているカラス。
※暮天：夕暮れの空。
※聞角：角笛の音を聞く。　・角：主として軍事用のラッパ。
※暮天聞角：夕暮れの空に、軍隊の陣営で使うラッパの音が響いてくる。
※斷香：香木が燃え尽きて途絶えてしまったこと。
※殘酒：残り酒。残してある酒ではなくて、（酒壷や盃に僅かに）残ってしまった酒。
※情懷：（白話）気持ち。心持ち。
※惡：わるい。惡は、陸游に「釵頭鳳」の「紅酥手，黄縢酒，滿城春色宮牆柳。東風惡，歡情薄。」

や、唐

に「釵頭鳳」の「世情薄，人情惡，」

がある
※斷香殘酒情懷惡：香木が燃え尽きて途切れてしまったことも、残り酒も（今一つであって、）興趣が湧かない。
※西風：秋風。凋落を暗示する語でもある。
※催：もよおさせる。促す。
※襯：引き立たせる。際だたせる。近づく。施す。下着。ここでは落葉を施し、推し進めること。落葉を促すこと。
※梧桐落：アオギリやキリの葉が落ちる。これも、凋落を暗示する語である。
※西風催襯梧桐落：秋風がキリの落ちるのを促している。夫との死別を暗示している。
※又：またもや。
※還：なおも再び。「還」には「かえる」という意味があるが、ここでは、違う。
※秋色：秋の景色。秋の気配。
※又還秋色：またも再び秋の秋の訪れ。夫は、亡くなって側には居なくなったが、秋だけはまたもや（巡ってきた）ということ。
※寂寞：さびしい。
※又還寂寞：またも再び寂寞が訪れた。独りの生活になっても、寂しさだけはふたたび（訪れてきた）ということ。

◎　構成について

　　双調。四十六字。仄韻一韻到底。「秦樓月」「碧雲深」「玉交枝」ともいう。韻式は「ａａａａ　ａａａａ」。韻脚は「閣薄薄角　惡落落莫」で、第十六部入声十藥。

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