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詠菊
          
                         
         黄巣


待到秋來九月八,
我花開後百花殺。
衝天香陣透長安,
滿城盡帶黄金甲。



    **********************
       菊を 詠ず

待ち到る  秋來  九月 八,
我が花 開きし後  百花 殺
(おとろ)ふ。
衝天の 香陣  長安に 透
(とほ)り,
滿城 盡
(ことごと)く 帶ぶ  黄金の甲を。


             ******************

◎ 私感訳註:

※黄巣:唐末の叛乱の指導者。塩の闇商人で、諸矛盾のために叛乱を起こした。黄巣の乱で有名。

※詠菊:菊の花を詠い、それに借りて想いを述べる。それとともに叛乱をも詠い込んでいる。後世、毛澤東がこの影響を受けて『卜算子』「詠梅」「風雨送春歸,飛雪迎春到。已是懸崖百丈冰,犹有花枝俏。   俏也不爭春,只把春來報。待到山花爛漫時,她在叢中笑。」を作った。

※待到秋來九月八:待っていた好季の秋の重陽節の前日になって(蹶起の時期になって)。 ・待到:…になるのを待機する。待ち到る。 ・秋來:秋の季節が到来する。暗に蹶起の時期の到来もいう。 ・九月八:九月九日の重陽節、菊花の節の前日。暗に蹶起の前日。

※我花開後百花殺:わたしの(菊)花が咲いた後は、あらゆる花は衰えていく。 ・我花開後:わたしの菊花が咲いた後。 ・百花殺:あらゆる花は衰える。 ・殺:〔さい;shai4●〕衰える。減ずる。蛇足になるが、「ころす」は〔さつ;sha1●〕になる。ここでは、表面上は「衰える」の意で使われているが、「殺」字は過激で、不気味な影がある。

※衝天香陣透長安:天を衝くばかりのものすごい勢いで、素晴らしい花の香りがひとしきり長安の街に浸透していき(我が軍陣が、長安の街に浸透していき)。 ・衝天:天を衝くばかりの勢いで。ものすごい勢いで。 ・香陣:素晴らしい花の香りがひとしきり。また、我が軍陣。 ・透長安:長安の街に浸透していく。

※滿城盡帶黄金甲:街中ことごとく黄色い菊の花弁(黄金の甲冑を身につけた軍隊)で、いっぱいになる。 ・滿城:街中。 ・盡帶:ことごとく…を帯びるようになる。 ・黄金甲:黄色い(菊の)花弁。また、黄金の甲冑。黄金のヨロイを身につけた軍隊で、見ようによっては、黄(巣)のヨロイを身につけた軍隊の意。





◎ 構成について

七絶。韻式は「aaa」。入声韻を使っている。比較的少数派である。宋詞では、豪放詞によく使われる『滿江紅』などの一部の詞調に見られる。韻脚は「八殺甲」の入声韻。平水韻の韻部では、別の韻部。入声八黠(八殺)、十七洽(甲)。次の平仄はこの作品のもの。

●●○○●●●,(韻)
●○○●●○●。(韻)
○○○●●○○,
●○●●○○●。(韻)


2003.12.29完
2008. 5.22補


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