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問余何意棲碧山,
笑而不答心自閑。
桃花流水杳然去,
別有天地非人間。
山中問答
余に問ふ 何の意ありてか 碧山に棲むと,
笑って 答へず 心 自(おのづか)ら 閑なり。
桃花 流水 杳然と 去る,
別に 天地の 人間(じんかん)に 非ざる 有り。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
『聯珠詩格』より
※山中問答:山に入って脱俗的な生活をするということに対する当時の文化人の姿勢が窺われる。陶淵明の生活に対する憧れのようなものがあるが、それがよく分かるのは、転句結句の「桃花流水杳然去」である。『山中答俗人』ともする。『聯珠詩格』では『山中答人』とする。(写真:右)
※問余何意棲碧山:わたしに「どういう訳で、緑の色濃い山奥に住んでいるのか」とのお尋ねだが。 わたしに「どうしてそのような脱俗的な生活をしているのか」との問いかけだが。わたしに「どういう訳で、(モモの花の美しい)白兆山にに住んでいるのか」とのお尋ねだが。 ・問余:わらしに問う。 ・余:われ。=予。 ・何意:どういう訳で。なぜ。 ・棲:すむ。本来は、鳥のすみか。いこうところ。「棲」は○であり、「住」は、すみ、とどまる意で、●になる。 ・碧山:緑の色濃い山奥。実在の山としては、白兆山。湖北省安陸県にあり、李白は嘗てここで過ごしたことがある。 ・棲碧山:隠遁生活をすること。具体的には、湖北の安陸にある白兆山に住む。後者の意では、おもしろみが著しく殺がれ、「隠遁生活をする」の意から変わってお国自慢の詩となるが、意外と後者の意になるかも知れない、残念ながら。 ただ、歴代の人々がこの詩を愛したのは前者の意でである。
※笑而不答心自閑:(その質問には)笑って(声に出して)返事をしないが、心は自然とのどかで(恰も武陵桃源にいるかのようで)ある。 ・笑而:笑って…(する)。「而」は主として動詞句を繋ぎ、動詞に係っていく。 ・不答:返事をしない。返事の答えはしないものの、詩の後半が答の思いとなっている。 ・自閑:自然と落ち着いている。自然とさわやかで静かである。王維の『答張五弟』「終南有茅屋,前對終南山。終年無客常閉關,終日無心長自。不妨飮酒復垂釣,君但能來相往還。」 がある。
※桃花流水杳然去:モモの花びらがはるか彼方にずうっと流れ去り。 *晋・陶淵明の『桃花源記』や『桃花源詩』を聯想させるところである。 ・桃花:モモの花。ここでは、モモの花びら。 ・流水:流れゆく川の流れ。 ・杳然:〔やうぜん;yao3ran2●○〕はるかなさま。 ・杳:くらい。深い。はるか。「然」ともする。「杳」も「」も同音同義。 ・去:さる。
※別有天地非人間:別の世界があって、それはこの俗世間とは異なるところである。 ・別有天地:別な所に世界がある。 ・非人間:俗世間とは違う。この浮き世とは違う世の中。 ・人間:〔じんかん;ren2jian1○○〕俗世間。この世の中。陶淵明前出作。この句の構成は「別有天地」と「非人間」に分かれ、「別有天地(別なところに天地がある)」で、「それは非『人間』ではない。」となる。「非」字で前半四字句と後半二字分が繋がる。
「別有・『天地』」+〔否定〕+「人間」、或いは
「別有・『天地』=『非・人間』」とでも書けようか。
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◎ 構成について
七言古詩。平仄からみて、七言絶句ではなかろう。平韻。韻式は、「AAA」。韻脚は「山閑(閨j間」で、平水韻上平十五刪。次の平仄はこの作品のもの。
●○○●○●○,(韻)
●○●●○●○。(韻)
○○○●●○●,
●●○●○○○。(韻)
2003.1.27完 2006.1.14補 2009.3.24 |
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