白居易聞哭者詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩白楽天BaiJuyiBaiLetian

                     　       　　
      聞哭者
　　　　　　　　　　　　　　
      　　　　　　　　　　　　白居易　

昨日南鄰哭，
哭聲一何苦。
云是妻哭夫，
夫年二十五。
今朝北里哭，
哭聲又何切。
云是母哭兒，
兒年十七八。
四鄰尚如此，
天下多夭折。
乃知浮世人，
少得垂白髮。
余今過四十，
念彼聊自悅。
從此明鏡中，
不嫌頭似雪。

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　哭する者を聞く　　　

昨日　　南鄰に哭す，
哭聲　　一（いつ）に何ぞ苦しき。
云ふ是れ　　妻　夫を哭すと，
夫　年　　二十五。
今朝　　北里に哭す，
哭聲　　又た何ぞ切たる。
云ふ是れ　　母　兒を哭すと，
兒　年　　十七、八。
四鄰　　尚ほ此（かく）の如し，
天下　　多くは夭折す。
乃（すなは）ち知る　　浮世の人，
白髮を　垂るるを　得ること　少（まれ）なるを。
余　今　　四十を過ぐ，
彼を念ひいえ　　聊（いささ）か自れ悅ぶ。
此れ從（より）　　明鏡の中（うち），
頭の雪に似たるを　嫌はじ。

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◎　私感註釈

※白居易：中唐の詩人。７７２年（大暦七年）～８４６年（會昌六年）。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。

※聞哭者：死を悼んで声をあげてなく者（の泣き声）を聞く。

※昨日南鄰哭：きのう、南側の近くの家から、死者を悼んでいる哭声（が聞こえてきた）。　・昨日：きのう。また、先日。　・南鄰：南側の近くの家。　・哭：死者を悼んで声をあげてなく。死を悼んで儀式的に声をあげてなく。

※哭聲一何苦：なきごえは本当になんと苦しげであることか。　・哭聲：なきごえ。　・一何：本当になんと。　・一：もっぱら。ひとえに。　・何：なんと。感歎を表す。　・苦：苦しげである。

※云是妻哭夫：妻が亡くなった夫を悼んで声をあげてないているということだ。　・云是：…ということだ。（いうことには）…ということだ。　・云：いう。…ということである。伝聞を表す。　・是：これ「應是－」「正是－」「又是－」「也是－」「或是－」「疑是－」のように名詞句をとる語を造る。　　・妻哭夫：妻が亡くなった夫を悼んで声をあげてなく。

※夫年二十五：おっとの年齢は二十五歳である。　・夫年：おっとの年齢（…である）。現代語でも年齢表現では、「…歳になる」という動詞は使わない。日本語的な感覚で言えば、ぶっきらぼうな表現とも謂えるが、そういう表現をとる言語上の習慣。

※今朝北里哭：けさ、北の方の村里から、（死者を悼む）泣き声があがった。　・今朝：けさ。また、今日。　・北里：北の方の村里。

※哭聲又何切：泣き声はまたしても何と切なく深いものか。　・又：（前にも同様のことがあったが）またしても。さらに。その上。　・切：しきりに。ふかく。また、さしせまる。あわただしい。

※云是母哭兒：母親が亡くなった（男の）子どもを悼んで声をあげて哭いているということだ。　・母哭兒：母親が亡くなった（男の）子どもを悼んで声をあげてなく。

※兒年十七八：息子のとしは十七、八歳（になっている）。

※四鄰尚如此：周囲はなおもこのようである。　・四鄰：周囲。周り。四周。　・尚：なお（も）。　・如此：このようである。

※天下多夭折：世の中には、若死にが多い。　・天下：世間。世の中。国中。天の下に広がるすべての空間。　・夭折：〔えうせつ；yao1zhe2◎●〕若死に。年が若くて死ぬこと。夭逝（えうせい）。

※乃知浮世人：やっと分かったことは、はかない世の中（この世）にいる人は。　・乃：そこではじめて。そこで。かくて。それで。すなわち。　・浮世：〔ふせい（ふしゃう）；fu2sheng1○○〕はかない人生。定まりのない人の世。

※少得垂白髮：白髪を伸ばし垂らせるような長寿を得た（者）は稀である。　・少：稀である。すくない。　・得：得る。ここでは､長寿を得ることになる｡　・垂白髮：白髪を伸ばし垂らせるような長寿をいう。

※余今過四十：わたし（の年齢）は、今、四十歳を過ぎた（が）。　・余：わたし。作者・白居易を指す。

※念彼聊自悅：かれら（夭折した者たち）のことを思えば、いささか、自然と喜ばしい（感情が起こってくる）。　・念：心の中で強く思う。　・彼：夭折した前者たちを指す。　・聊：〔れう；liao2○〕いささか。しばらく。かりそめ。わずか。　・自悅：自分の心の中で、喜ぶ。

※從此明鏡中：これからは、澄みわたった鏡の中に（映る…）　・從此：これからは。これより。　・明鏡：磨きあげて曇りがない鏡。　・中：鏡に映った自分の姿を謂う。

※不嫌頭似雪：雪のように白い頭髪（を見ても）いやとは思わない。　・不嫌：いとわない。いやとは思わない。　・頭：頭髪部分を謂う。　・似雪：雪のように（真っ白である）。

◎　構成について

　韻式は「ａａｂｂｂｂｂｂ」。韻脚は「苦五　切八折髮悦雪」で、平水韻上声七、入声八黠（八）、九屑（雪折切悅）。次の平仄はこの作品のもの。

●●○○●，（a韻）
●○●○●。（a韻）
○●○●○，
○○●●●。（b韻）
○○●●●，
●○●○●。（b韻）
○●●●○，
○○●●●。（b韻）
●○●○●，
○●○◎●。（b韻）
●○○●○，
●●○●●。（b韻）
○○◎●●，
●●○●●。（b韻）
○●○●●，
●○○●●。（b韻）