何景明秋日雑興　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 He jingming

秋日雜興

明・何景明

柏林楓岸迥宜看，
楊柳芙蓉不禁寒。
最愛高樓好明月，
莫敎長笛倚闌干。

******

秋日雜興

柏林(はくりん)　楓岸(ふうがん)　　迥(はる)かにして看るに宜(よろ)し，
楊柳(やうりう)　芙蓉( ふよう)　　寒(かん)に禁(た)へず。
最も愛す　高樓(かうろう)の　　好(かう)明月，
長笛(ちゃうてき)をして　闌干(らんかん)に倚(よ)ら敎(し)むる莫(なか)れ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　****************

◎　私感註釈

※何景明：明の文学者。明・成化十九年（１４８３年）～正徳十六年（１５２１年）。字は仲黙。号は大復山人。信陽（現・河南省内）の人。弘治十五年（１５０２年)の進士で、中書舎人に任じられた。生来、剛直で、気性は凛然としていた。官は陝西提学副使に至った。李夢陽（ぼうよう）らとともに「十才子」「前七子」と呼ばれ、また「唐に李杜あり、明に李何あり」ともいわれた。

※秋日雑興：秋の日のさまざまな感興。　・雑興：さまざまな事物に感じて感興を述べたもの。詩題として、しばしば使われる。

※柏林楓岸迥宜看：（遠景の常緑樹である）コノテガシワの林や（紅葉している）楓の岸辺（の光景）には、遠くからは看るべきところがある（が）。　・柏：〔はく；bo2、bai3●〕ヒノキ、コノテガシワ、シダレイトスギなどの常緑樹の総称。蛇足になるが、「ベルリン」も“柏林”〔Bo2lin2〕と表す（日本語では「伯林」となるが…）。　・楓：〔ふう；feng1○〕フウの木。マンサク科の落葉喬木また、カエデ科の植物。　・迥：〔けい；jiong3●〕遥（はる）か。遠い。年月がへだだる。＝泂。　・宜：よろしい。むべ。…したほうがいい。よろし。よろしく…べし。　・看：手をかざして見る。（物を）臨み見る。見守る。

※楊柳芙蓉不禁寒：（近景の）ヤナギやハスの花は、寒さに耐えられないでいる。　・楊柳：〔やうりう；yang2liu3○●〕ヤナギの総称。また、「楊」はカワヤナギ、ネコヤナギで、「柳」はシダレヤナギ。　・芙蓉：〔ふよう；fu2rong2○○〕ハスの花。木芙蓉（モクフヨウ）。アオイ科の落葉低木。　・不禁：〔bu4jin1●○〕…せずにはいられない。…しないではいられない。忍びがたい。（…に）たへず。　・禁：〔きん；jin1○〕こらえる。持ちこたえる。自分でおさえる。たえる。また、〔きん；jin4●〕は、とどめる。さしとめる。また、禁止する（場所）。ここは、前者の意。ただし平仄からみれば、●（仄）とすべきところ。

※最愛高樓好明月：最も愛すべきなのは、たかどのからのすばらしいくもりのない月であって。　・高樓：たかどの。　・好：すばらしい。　・明月：くもりのない月。また、（満月のように）明るい月。

※莫教長笛倚闌干：（月明かりがすばらしいからといって）遠くの方で、窓辺に寄って笛を吹かさないでほしい。　・莫教：（…に）…をさせるな。（…をして）…しむる（こと）なかれ。禁止。　・莫：…な。…なかれ。禁止・打ち消しの辞。　・教：〔けう；jiao4○〕…させる。…しむ。使役表現。使役は平声（○）。唐・金昌緒の『春怨』に「打起黄鶯兒，莫敎枝上啼。啼時驚妾夢，不得到遼西。」とある。　・長笛：横笛の長いもの。また、遠くから聞こえる笛。　・倚：よりかかる。よる。　・闌干：〔らんかん；lan2gan1○○〕（窓の）手すり。欄干。また、涙がはらはら流れるさま。縦横に入り乱れるさま。星の光が燦（きら）めくさま。ここは、前者の意。

　　　　　　　　　　　　　　***********

◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「看寒干」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。

●○○●●○○，（韻）
○●○○●◎○。（韻）
●●○○●○●，
●○○●●○○。（韻）