北來人 | |
南宋・劉克莊 |
十口同離仳,
今成獨雁飛。
饑鋤荒寺菜,
貧著陷蕃衣。
甲第歌鐘沸,
沙場探騎稀。
老身閩地死,
不見翠鑾歸。
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北來 の人
十口 同じく離仳 せしに,
今は獨雁 と成りて飛ぶ。
饑 ゑて荒寺 の菜 を鋤 き,
貧しうして蕃 に陷 りしときの衣を著 く。
甲第 に歌鐘 沸 けども,
沙場 に探騎 稀 なり。
老身 閩地 に死せん,
翠鑾 の歸るを見じ。
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◎ 私感註釈
※劉克荘:南宋末期の江湖派の詞人。淳煕十四年(1187年)〜咸淳五年(1269年)。字は潜夫。号は後村居士。福建・田の人。建陽の県尉となり、その才で、進士待遇となる。
※北来人:北方から来た人。金国(=華北、華中にできた異民族の国)の方から、南の方に位置する南宋(=漢民族の王朝)に遁れてきた人。この詩は、北方から遁れてきた人の表白を詩にした。そのため、対句部分が未成熟。
※十口同離仳:(家族の)十人が、同時に別れ別れに逃げ出して。 ・十口:十人。「口」:(家族などの)人数を数える。 ・離仳:わかれる。「仳離」:〔ひり;pi3li2●○〕別れる。夫婦が別れる。妻が離婚される。「仳」:分かれる。離別する。
※今成独雁飛:今は、ぽつんとひとつだけで飛ぶカリの身の上となってしまった。 ・独雁:ぽつんとひとつだけで飛ぶカリ。老いて子や家族のないガン。幼いときに親をなくしたガンは「孤雁」。(?)
※饑鋤荒寺菜:飢えて、荒れ寺で鋤(すき)で耕して野菜を作り。 ・饑:(う)飢える。 ・鋤…菜:鋤(すき)で耕して野菜を作る意。「鋤」:〔じょ(しょ);chu2○〕すきで耕す。動詞。
※貧著陥蕃衣:貧しくて、異民族(=金国)に占領された時の衣服を着たままだ。 ・著:着(き)る。 ・陥蕃:〔かんばん(-はん);xian4fan1●○〕異民族に占領される意。ここでの「異民族」とは、金国のことになる。
※甲第歌鐘沸:貴顕の邸宅では、打楽器(の音)が騒がしく。=貴顕は豊かな生活をしており。 ・甲第:〔かふだい;jia3di4●●〕りっぱな邸宅。身分ある人士の邸宅。 ・歌鐘:銅製の打楽器。 ・沸:騒がしい。本来の意は、(湯が)沸(わ)く。ここは、前者の意。
※沙場探騎稀:戦場では斥候の騎馬もまれだ(と云う)。=我が軍には戦意がないようだ。 ・沙場:〔さぢゃう;sha1chang3○●〕戦場。本来の義は広くて平坦な砂地。砂漠。砂原。転じて、戦場。 ・探騎:偵察に出す騎兵。騎兵の斥候。=探馬。 ・稀:まれである。
※老身閩地死:我が身は、閩(びん)の地(=福建の地)で死んでいく(ことになろうがため)。 ・老身:(老婦人の)自称。ここでは、詩題の「北来人」のことになる。 ・閩地:福建の地。「閩」:〔びん;min3●〕現・福建省。
※不見翠鑾帰:天子の御車が(北宋の都・汴京=開封に)帰るところを見ることもない(だろう)。 ・不見:会わない。見あたらない。顔を見ない。 ・翠鑾:〔すゐらん;cui4luan2●○〕カワセミの羽で飾った天子の車。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「飛衣稀歸」で、平水韻上平五微。なお、詩中の「饑」は冒韻。「仳」は韻脚ではない。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
●●○○●,
○◎●◎○。(韻)
●○●●●,
●●●○○。(韻)
2017.7.31 8. 2 |
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