温庭筠瑤瑟怨　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Wen Tingyun

瑤瑟怨
	唐・温庭筠

冰簟銀床夢不成，
碧天如水夜雲輕。
雁聲遠過瀟湘去，
十二樓中月自明。

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瑤瑟怨

冰簟(ひょうてん)銀床(ぎんしゃう)なれども　　夢成(な)らず，
碧天(へきてん)　水の如(ごと)く　　夜雲( やうん)　輕(かろ)し。
雁聲(がんせい)　遠く過(す)ぎて　　瀟湘(せうしゃう)に去(さ)り，
十二樓(じふにろう)中(ちゅう)　　月(つき)　自(おの)づから明るし。

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◎　私感註釈

※温庭筠：晩唐の詩人。元和七年（８１２年）～咸通十三年（８７２年）。音楽に詳しく、艶麗優美な詩詞を作る。本名は岐。字は飛卿。太原の人。李商隠と共に「温李」と称される。

※瑤瑟怨：立派な瑟を奏でて（離れた地にいる男性を）うらめしく思う詩。閨怨詩。女性側の立場で詠っている。　*中唐・劉禹錫の『瀟湘神』に「斑竹枝，斑竹枝，涙痕點點寄相思。楚客欲聽瑤瑟怨，瀟湘深夜月明時。」とある。中唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等閒回，水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月，不勝淸怨卻飛來。」とあり、唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等閒回，水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月，不勝淸怨卻飛來。」とあり、両宋・李清照は『一翦梅』で、「紅藕香殘玉簟秋。輕解羅裳，獨上蘭舟。雲中誰寄錦書來，雁字回時，月滿西樓。　　　花自飄零水自流。一種相思，兩處閑愁。此情無計可消除，才下眉頭，却上心頭。」と詠う。　・瑤瑟：美しい玉（ぎょく）でもって飾りを施された瑟。　・瑟：おおごと。夫婦の「琴瑟」を指そう。「妻子好合，如鼓琴瑟」。　・怨：うらめしく思う。

※氷簟銀床夢不成：涼しげな竹で編んだ茣蓙（ござ）の立派な寝床（ねどこ）（にもかかわらず）、（独り寝の侘びしさの為、寝付けずにおり、そのため、夢を見ることもできなくて（、夢の中で愛しい男性と会いたいものと思っていたのも叶わず）。　・氷簟：〔ひょうてん；bing1dian4○●〕涼しげな竹で編んだ茣蓙（ござ）。　・銀床：立派で美しい寝床（ねどこ）。　・簟床：竹のすのこ。　・夢不成：夢が成立しない。夢の中で愛しい男性と会いたいものと思っていたが、独り寝の侘びしさの為、寝付けずにいる。そのため、夢を見ることもできない、と謂うこと。中唐・白居易の『後宮詞』に「涙盡羅巾夢不成，夜深前殿按歌聲。紅顏未老恩先斷，斜倚薰籠坐到明。」とある。このページの温庭筠の『瑤瑟怨』は、白居易の『後宮詞』との和韻しての作品と見ることができる。

※碧天如水夜雲軽：大空は空が川面のように澄みわたって、夜（空）の雲は軽やか（に流れている）。　・碧天：青空の意だが、夜空の表現なので、ここの「碧」は「碧漢」の「碧」と同じと見て、大空の意。　・如水：夜空が川面のように澄みわたっているさまを謂う。

※雁声遠過瀟湘去：カリの鳴き声が遠くに渡って行き、瀟水と湘水（の流れる湖南省（旧国名・湘））まで行くのだろう。　・雁声：カリの鳴き声。雁は秋に南国に向かう渡り鳥。　・瀟湘：〔せうしゃう；Xiao1xiang2○○〕瀟水と湘水。湖南省（旧国名・湘）を流れ、洞庭湖に注ぐ大河。遥か南方の地・湖南省（旧国名・湘）を謂う。（六朝までの詩では）湘水のこと。「清らかな湘江」の意。なお、現在、湘水は“湘江”という。前出・『瀟湘神』の「楚客欲聽瑤瑟怨，瀟湘深夜月明時。」や、後出・初唐・張若虚の『春江花月夜』「斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」にある。　・去：さる。行く。

※十二楼中月自明：女性の部屋（仙人の居住場所）は月が自然と明るく照らしている。　* 初唐・張若虚の『春江花月夜』「春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」でも、月夜の趣を詠う。　・十二楼：ここでは若い女性の美しい部屋を謂う。本来の義は、神話伝説中の仙人の居住場所。崑崙の仙宮・天墉城にある十二の楼台。十二樓臺。『史記・封禅書』に「方士有言『黄帝時爲五城十二樓』」『漢書・郊祀志下』「五城十二樓：（註：崑崙玄圃五城十二樓，仙人之所常居）」『抱朴子』…も同様。韓翃の『同題仙遊觀』に「仙台下見五城樓，風物淒淒宿雨收。山色遙連秦樹晩，砧聲近報漢宮秋。疏鬆影落空壇靜，細草香閒小洞幽。何用別尋方外去，人間亦自有丹丘」の五城樓に同じ。「十二重樓」は別の義。　・月：雁声が聞こえる時の「月」とは、秋の月のことになる。　・明：明らかである。はれわたった名月である。前出・『瀟湘神』に「楚客欲聽瑤瑟怨，瀟湘深夜月明時。」とある。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「成輕明」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。

○●○○●●○，（韻）
●○○●●○○。（韻）
●○●◎○○●，
●●○○●●○。（韻）