雨中與李先生期垂釣先後相失 |
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晩唐・温庭筠 |
隔石覓屐迹,
西溪迷鷄啼。
小鳥擾曉沼,
犂泥齊低畦。
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雨中 李先生と垂釣を期すも 先後相ひ失ひ 因て疊韻を作る
石を隔 てて屐迹 を覓 め,
西溪 にて鷄 の啼 くに迷ふ。
小鳥は曉沼 に擾 がしく,
犂 かれし泥は 低き畦 に齊 し。
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◎ 私感註釈
※温庭筠:晩唐の詩人。元和七年(812年)〜咸通七年?(866年?)。音楽に詳しく、艶麗優美な詩詞を作る。本名は岐。字は飛卿。太原の人。李商隠と共に「温李」と称される。
※雨中与李先生期垂釣先後相失因作畳韻:雨の中、李さんと釣りをする約束をしていたが、時間や場所があとさきになり、見失った。そこで、繋がった詩を作る。 ・与-:…と。 ・期:約束する。ちぎる。 ・垂釣:魚釣りをする。 ・先後:〔せんこう/ぜんご〕時間や場所のさきとあと。 ・畳韻:二字の漢語(=熟語)で、同じ韻母(=母音)の漢字を二つ組みあわせて作った熟語。「馥郁」「艱難」「滅裂」等。また、人との詩の応酬で、相手の詩と同じ韻部を使って詩を作ること。形式等によって和韻、次韻、用韻などという。
※隔石覓屐迹:石を隔てて、履き物の跡形を探し求めたが。 ・覓:もとめる。さがしもとめる。 ・屐迹:履き物の跡形。
※西渓迷鶏啼:西の谷川で、迷ったニワトリの鳴き声がした。 ・西渓:西の谷川。 ・鶏啼:ニワトリの鳴き声。
※小鳥擾暁沼:小鳥が朝方の沼で騒ぎ。 ・擾:〔ぜう;rao3●〕みだる。うるさい。騒がしい。 ・暁沼:あかつきの沼。
※犂泥斉低畦:スキに附いた泥は、低地のアゼの色と同じだ。 ・犂:〔れい/り/りう〕すき。すく。 ・斉:ひとしい。 ・畦:あぜ。うね。くろ。
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なお、この詩の読みは:
※隔石覓屐迹:「かく せき べき げき せき」(入声十一陌)
「ge2k shi2k mi4k ji1k ji1k」
※西渓迷鶏啼:「せい けい めい けい てい」(上平声八齊)
「xi1 xi1 mi2 ji1 ti2」
※小鳥擾暁沼:「せう てう ぜう せう せう」(上声十七篠)
「xiao3 niao3 rao3 xiao3 zhao3」
※犂泥斉低畦:「れい でい せい てい けい」(上平声八齊)
「liu2 ni2 qi2 di1 qi2」
(第一句(起句)を除いた各句の二行目は、現代漢語(中国語)・普通話(≒北京語・共通語)の音。)
歴史的仮名遣いで顕された古代日本語の中に摂取された古代の漢字音、現・中国・普通話での拼音で見ていくと、色々と楽しめる。また、その間の中古の中国語音や、その前後の音については、『学研漢和大字典』(藤堂明保編・学習研究社)で、手軽に見ることが出来る。乞参照。
◎ 構成について
韻式は、「(a)aa」。とも謂える。韻脚は「(迹)啼畦」で、平水韻上平八齊等。 迹:tsie(e←180°回転)i(入声韻は消えて平声等に移っていった) 啼:dai t‘ie(e←180°回転)i 畦:(「斉」に同じ)。各句、韻母(音節の母音部分)をそろえた。この作品の平仄は、平水韻では次の通り。
●●●●●,(作詩当時の作者(晩唐〜)の口頭の韻では、平声の発音)。
○○○○○。(平声韻)
●●●●●,
○○○○○。(平声韻)
なお、「入声が(主として)平声に移行する」のは漢語の大きな流れ。現代(中国)語の普通話では、入声が無く、(主として)平声に移行している。
2021.8.1 8.2 8.3 8.4 |
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