張説蜀道山行　詩詞世界　碇豊長の詩詞 Zhang Yue

蜀道山行
	～盛唐・張説

我行春三月，
山中百花開。
披林入峭茜，
攀磴陟崔嵬。
白雲半峯起，
淸江出峽來。
誰知高深意，
綿邈心幽哉。

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蜀道(しょくだう)の山行

我が行(かう)　　春三月，
山中(さんちゅう)　　百花開く。
林を披(ひら)き　　峭茜(せうせん)に入(い)り，
磴(とう)に攀(よ)ぢ　　崔嵬(さいくゎい)を陟(のぼ)る。
白雲(はくうん)　　半峯(はんぽう)に起(お)こり，
淸江(せいかう)　　峽(けふ)より出(い)でて來(きた)る。
誰(たれ)か知らん　　高深(かうしん)の意，
綿邈(めんばく)　　心幽(いう)なる哉(かな)。

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◎　私感註釈

※張説：〔ちゃう（現ちょう）えつ；Zhang1 Yue4〕盛唐初めの人。６６７年（乾封二年）～７３０年（養老十八年）。玄宗の時代、中書令となり、燕国公に封ぜられる。清麗な詩風だったが、晩年は岳陽に左遷され、凄艶な詩風に転じた。

※蜀道山行：蜀の山道の旅。　・蜀道：都から蜀（四川地方）に達している道筋。漢中から成都への桟道の事を指す。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）６５-６６ページ剣南道北部。李白の『蜀道難』はこちら。　・行：旅。行旅。

※我行春三月：私の旅路は晩春にまでなろうとし。　・行：ゆきゆきて。…になろうとする。なんなんとす。　・春三月:晩春。また、春の三ヶ月の間。

※山中百花開：山の中には、多くの花が咲いている。　・百：多くの。諸々（もろもろ）の。

※披林入峭茜：林の木を手で押し広げて、高く険しい所の草の茂みに入り。　・披：〔ひ；pi1○〕開（ひら）く。手で開く。ひろげる。　・峭茜：〔せうせん；qiao4qian4●●〕：高い所の草の茂み。　・峭：〔せう；qiao4●〕けわしい。高くけわしい。　・茜：〔せん；qian4●〕草の生い茂るさま。「荐」〔せん；jian4●〕か。

※攀磴陟崔嵬：石の坂道を攀（よじのぼ）って、岩山に登った。　・攀：〔はん；pan1○〕よじる。よず。また、すがる。つかまる。　・磴：〔とう；deng4●〕石段。石の坂道。石橋。　・陟：〔ちょく；zhi4●〕のぼる。　・崔嵬：〔さいくゎいcui1wei2○○〕岩のある山。また、高く聳えるさま。広大なさま。

※白雲半峰起：白い雲が山の中腹より上り。＊この句は、東晉・陶淵明の『歸去來兮辭』の「…雲無心以出岫，鳥倦飛而知還。景翳翳以將入，撫孤松而盤桓。」の部分に拠ろう。　・白雲：白い雲。俗世間を超越したことを暗示する語でもある。唐の王維の『送別』「下馬飮君酒，問君何所之。君言不得意，歸臥南山陲。但去莫復問，白雲無盡時。」や、唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜，白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩，霜葉紅於二月花。」また、崔顥（さいかう：cui1hao4）の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去，此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返，白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹，芳草萋萋鸚鵡州。日暮鄕關何處是，煙波江上使人愁。」、漢の武帝・劉徹の樂府『秋風辭』「秋風起兮白雲飛，草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳，懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河，橫中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌，歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」「白雲」の語はなく「雲」だけになるが、晉・陶淵明の『歸去來兮辭』の「歸去來兮，田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役，奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫，知來者之可追。實迷途其未遠，覺今是而昨非。舟遙遙以輕，風飄飄而吹衣。問征夫以前路，恨晨光之熹微。乃瞻衡宇，載欣載奔。僮僕歡迎，稚子候門。三逕就荒，松菊猶存。攜幼入室，有酒盈樽。引壺觴以自酌，眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲，審容膝之易安。園日渉以成趣，門雖設而常關。策扶老以流憩，時矯首而游觀。　　　雲無心以出岫，鳥倦飛而知還。景翳翳以將入，撫孤松而盤桓。歸去來兮，請息交以絶遊。世與我以相遺，復駕言兮焉求。悅親戚之情話，樂琴書以消憂。農人告余以春及，將有事於西疇。或命巾車，或棹孤舟。既窈窕以尋壑，亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮，泉涓涓而始流。羨萬物之得時，感吾生之行休。已矣乎，寓形宇内復幾時。曷不委心任去留，胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願，帝鄕不可期。懷良辰以孤往，或植杖而耘。登東皋以舒嘯，臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡，樂夫天命復奚疑。」や唐の賈島『尋隱者不遇』「松下問童子，言師採藥去。只在此山中，雲深不知處。」があり、日本・江戸・太宰春臺の『登白雲山』に「白雲山上白雲飛，幾戸人家倚翠微。行盡白雲雲裡路，滿身還帶白雲歸。」とある。　・半峰：山のなかほど。中腹。　・起：おこる。

※清江出峡来：澄んで清らかな川が峡谷の方から流れ来る。　・出-来：…から来る。　・峡：〔けふ；xia2●〕はざま。山と山の間。谷あい。ここでは三峡のことで、現・瞿塘峡、巫峡、西陵峡を指す。長江が蜀を出て、湖北の宜昌までの間。

※誰知高深意：誰も知るまいが、高尚で深い意味あいがあるのであって。　・誰知：…とは誰が知ろうか。…とは誰も知らない。反語的表現。　・高深：高尚で深い。　・意：意味。

※綿邈心幽哉：「はるか」ということは、心の奥深いところ（に訴えかけてくるもの）だなあ、と。　・綿邈：〔めんばく；mian3miao3●●〕はるかに遠い。　・幽：奥深い。かすか。ほのか。　・哉：…であることだなあ。…かな。感嘆の助字。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡＡ」。韻脚は「開嵬來哉」で、平水韻上平十灰。この作品の平仄は、次の通り。

●○○○●，
○○●○○。（韻）
○○●●●，
○●●○○。（韻）。
●○●○●，
○○●●○。（韻）
○○○○●，
●●○○○。（韻）