京口瓜洲一水間,
鍾山只隔數重山。
春風又綠江南岸,
明月何時照我還。
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船を瓜洲(くゎしう)に泊す
京口(けいこう) 瓜洲(くゎしう) 一水(いっすゐ)の間,
鍾山(しょうざん) 只(た)だ 隔(へだ)つ 數重(すうちょう)の山。
春風 又(ま)た 綠にす 江南の岸,
明月 何(いづ)れの時か 我の還(かへ)るを 照らさん。
◎ 私感註釈 *****************
※王安石:北宋代の政治家、改革者。文学者。1021年(天禧五年)~1086年(元祐元年)。字は介甫。号は半山。撫州臨川(現・江西省臨川)の人。神宗のとき宰相となり、変法(制度改革)を倡え強行したが、司馬光らの反対に遭い、やがて失脚して引退するが一時復活する。これはその時のもの。散文に優れ、唐宋八大家の一人になる。
※泊船瓜洲:瓜洲に船を泊(と)める。 ・泊船:〔はくせん;bo2chuan2●○〕船をつける。船を泊(と)める。 *この詩題から、作者は京口から瓜洲に渡ったところで、それまでの京口や金陵の方をふり返ったものと分かる。 ・瓜洲:〔くゎしう;Gua1zhou1○○〕後出・京口の対岸(北岸)にあり、北からの大運河と長江のまじわる地点にある長江北岸の交通の要衝。合流点のため、砂が沈澱して多くの中州が出来、川の流れが「瓜」字のように分かれて流れていたところと云うが…。現・江蘇省儀征市(儀徴市?)、揚州市。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「唐 淮南道」にある。唐・張
の『題金陵渡』「金陵津渡小山樓,一宿行人自可愁。潮落夜江斜月裏,兩三星火是瓜州。」
と似白居易の『長相思』に「
水流,泗水流,流到瓜州古渡頭。呉山點點愁。 思悠悠,恨悠悠。恨到歸時方始休。月明人倚樓。」
ととあり、南宋・陸游の『書憤』に「早歳那知世事艱,中原北望氣如山。樓船夜雪瓜洲渡,鐵馬秋風大散關。塞上長城空自許,鏡中衰鬢已先斑。出師一表真名世,千載誰堪伯仲間。」
とある。
※京口瓜洲一水間:京口と瓜洲との間は、一すじの川の流れが隔てる(だけで)。 ・京口:〔けいこう;Jing1kou3○●〕現・長江南岸の(長江を挟んで北岸が前出・瓜洲)大都市。現・江蘇省鎮江市で、南京市の東50キロメートルの大都会。江南から都へ向かう場合、江南の道を辿って京口へ出、ここで長江を北に向かって渡る。京口の対岸が瓜州で、揚子、揚州へと続き、大運河で北方へ至る。これも前出『中国歴史地図集』第五冊にある。北宋・辛棄疾に『永遇楽』京口北固亭懷古「千古江山,英雄無覓,孫仲謀處。舞
歌臺,風流總被,雨打風吹去。斜陽草樹,尋常巷陌,人道寄奴曾住。想當年,金戈鐵馬,氣呑萬里如虎。 元嘉草草,封狼居胥,贏得倉皇北顧。四十三年,望中猶記,烽火揚州路。可堪囘首,佛狸祠下,一片神鴉社鼓。憑誰問,廉頗老矣,尚能飯否。」
がある。 ・一水間:一すじの川の流れだけの隔て。近距離の雰囲気を持った表現だが、これは作者が前途に対して積極的な意気を抱いていたのが自然と反映した表現。
※鍾山只隔數重山:(東南の方をふり返れば、金陵の)鍾山は、幾つかの山が重なって隔たっているだけだ。 ・鍾山:〔しょうざん;zhong1shan1○○〕紫金山。金陵(現・南京市)東部の山で、作者の住居のあるところ。後世、明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』に「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空
此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何祥,鐵鎖橫江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」
とあり、毛沢東も『人民解放軍領南京』「鍾山風雨起蒼黄,百萬雄師過大江。虎踞龍盤今勝昔,天翻地覆慨而慷。宜將剩勇追窮寇,不可沽名學覇王。天若有情天亦老,人間正道是滄桑。」
と使う。 ・只:ただ…だけ。これも「隔」を軽減したい作者の積極的な心情表現。 ・隔:へだてる。地図では50キロメートル~60キロメートルの距離。 ・數重山:幾重かの山並み。いくつかかさなっているだけの山々。
※春風又綠江南岸:春風も(皇帝の恩寵も)江南の地を緑色にして潤しているが。 *天恩に謝している。 ・春風:岸辺を緑色に染めていく春風の意で、天子の恩沢でもある。 ・又:またしても。(前回も有ったが今回も)また(繰り返して)。 ・綠:緑にする。緑色になる。動詞。 ・江南岸:長江下流の南岸一帯。作者の住居が江南の金陵にある。
※明月何時照我還:明月は、いつ、(わたしが失脚して)故郷へ帰る姿を照らし出すことだろうか。 *前途に、一抹の不安も表している。 ・明月:澄みわたった月。 ・何時:いつ。 ・還:帰る。帰郷する。「還郷」。ここでは失脚しての帰郷を暗に思っている。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「間山還」で、平水韻上平十五刪。平仄はこの作品のもの。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2007.6.22 |
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