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登千光寺山 | ||
頼山陽 |
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磐石可坐松可據, 松翠缺處海光露。 六年重來千光寺, 山紫水明在指顧。 萬瓦半暗帆影斜, 相傳杯殘未傾去。 回首苦嘱諸少年, 記取先生曾醉處。 |
千光寺山ロープウェイから望む尾道水道 | 文学のこみち中の頼山陽詩碑横の岩割の松 |
千光寺 | 徳富蘇峰の詩碑 |
天寧寺の三重塔 | 道の奥にあった梟の館 |
磐石 坐 す可 く 松據 る可 し,
松翠 缺 くる處海光 露 はる。
六年重 ねて來 る千光寺 ,
山紫 水明 指顧 に在 り。
萬瓦 半 ば暗くして帆影 斜めなり,
相 ひ傳 ふ杯殘 未 だ傾 け去らず。
首 を回 して苦 に 諸少年に嘱 す,
記取 せよ 先生曾 て醉 ひし處と。
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◎ 私感註釈
※頼山陽:江戸時代後期の儒者、詩人、歴史家。安永九年(1780年)~天保三年(1832年)。詩集に『日本樂府』、『山陽詩鈔』などがある。
※登千光寺山:千光寺山に登る。詩題は不明(この詩は『山陽詩鈔』にはないので、千光寺山にあった看板の注記を漢文の白文に戻したもの。この作品は、平易な表現と語彙で、くだけた内容を詠み、形式も律詩ではなく、平仄も顧慮されていない。それ故、『山陽詩鈔』にも録されなかったのだろう。 ・千光寺山:広島県尾道市東土堂町の千光寺広島県尾道市東土堂町にある千光寺の所在する山。今は千光寺公園となる。
※磐石可坐松可拠:大きな岩に坐って、松の木に寄りかかるのがよかろう。 ・磐石:大きな岩石。どっしりと落ち着いてびくとも動かない譬え。 ・可:…ことができる。…べし。 ・坐:すわる。 ・拠:よる。
※松翠欠処海光露:マツの緑の欠(か)けたところから(尾道水道の)海面の輝きがあらわれている。 ・松翠:マツの緑。 ・缺処:欠(か)けたところ。 ・海光:海面の輝き。ここでは、尾道水道の海面の輝きのことになる。 ・露:あらわれる。
※六年重来千光寺:六年ぶりに、重(かさ)ねて千光寺にやって来た。 ・千光寺:広島県尾道市にある真言宗系の寺院。
※山紫水明在指顧:山や川の景色の美しいのが、すぐ目の前にあり。 ・山紫水明:山や川の景色の美しいこと。山は紫にかすみ、川の水は澄んで清らかであること。頼山陽の造語か。=「山清(/明)水秀」。 ・在:(…に)ある。 ・指顧:指さし顧みる。距離が近いこと。≒指呼。極めててきぱきした動作の譬え。「在指顧」で:すぐ目の前にあるの意。≒指呼間。
※万瓦半暗帆影斜:多くの(家の屋根)瓦には夕靄が薄暗く立ち籠めて、船の姿の影も(夕日を受けて)斜めになっている(が)。 ・万瓦:多くの(家の屋根)瓦の意。 ・帆影:船の姿の意。盛唐・李白の『黄鶴樓送孟浩然之廣陵』に「故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。孤帆遠影碧空盡,惟見長江天際流。」とある。 ・斜:ななめ。「斜月」「斜陽」「斜日」で:入りかかった…の意。「斜影」で:ななめになっているかげの意。
※相伝杯残未傾去:伝えていってほしい。(光景が移ろいゆくのにも関わらず、)飲みかけの杯は、まだ飲み乾してはいない。 ・相伝:伝えられるところによれば…とのことだ。…と伝えられている。代々受け継ぐ。ここでは、「伝えていってほしい」の意で使われていよう。 *この語の後に典故に基づく内容が展開されているのか。恐らくそうではあるまい。 ・杯:「杯…傾」は:さかづきを傾ける(酒を飲む)意。 ・-去:…ていく。「動詞+去」で持続する趨きを表す。「傾去」で:(酒を)飲み切ってしまう、の意になる。
※回首苦嘱諸少年:振り返って、(お供の)若者の皆さんに、ねんごろに頼みたいことがある。 ・回首:振り返る。 ・苦:ねんごろに。しきりに。 ・嘱:〔しょく;zhu3●〕たのむ。いいつける。 ・諸少年:若者の皆さん。ここでは頼山陽のお供をした若者を謂う。
※記取先生曽酔処:心に刻み込んでほしい、(ここが)先生(=頼山陽自身)が(風光と酒に)酔ったところであると。 ・記取:心にとめ、参考にする。心に刻み込む。銘記する。覚えておく。 ・先生: ・曽:…したことがある。かつて。
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◎ 構成について
韻式は、「aaaaa」。韻脚は、「據露顧去處」で、平水韻去声六御(據去處)、去声七遇(露顧)。この作品の平仄は、次の通り。
●●●●○●●,(韻)
○●●●●○●。(韻)
●○○○○○●,
○●○○●●●。(韻)
●●●●○●○,
○○○○●○●。(韻)
○●●●○●○,
●●○○○●●。(韻)
平成27.6.16 6.17完 6.20補 |
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