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月夜歩禁垣外 | ||
柴野栗山 |
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上苑西風送桂香, 承明門外月如霜。 何人今夜淸涼殿, 一曲霓裳奉御觴。 |
上苑 西風 桂香 を送り,
承明門 外 月 霜の如し。
何人 か今夜 清涼殿 ,
一曲の霓裳 御觴 を奉 ずる。
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◎ 私感註釈
※柴野栗山:江戸中・後期の儒者。朱子学派。元文元年(1736年)~文化四年(1807年)。名は邦彦。通称は彦輔。讚岐の人。郷里で後藤芝山に学び、江戸に出て昌平黌の教官となり、更に徳島藩に仕官。更に、老中松平定信に登用された。寛政異学の禁は柴野栗山の建議に因る。詩書も能くし、尾藤二洲・古賀精里と共に寛政の三博士といわれた。
※月夜歩禁垣外上苑:月夜に、内裏の塀の外側の宮中の庭園を歩いて。 *この詩、菅原道眞の『梅花』「宣風坊北新栽處,仁壽殿西内宴時。人是同人梅異樹,知花獨笑我多悲。」や同・菅原道眞の『九月十日』「去年今夜侍清涼,秋思詩篇獨斷腸。恩賜御衣今在此,捧持毎日拜餘香。」
の影響を受けたか。 ・禁垣:宮中の塀。
※上苑西風送桂香:宮中の庭園の西から吹いてくる秋風は、香りを運んでくる。 ・上苑:天子の庭園。宮中の庭園。 ・西風:秋風。西から吹いてくる風。 ・桂:カツラ。クスノキ科の常緑高木。秋に花が咲き、香りを放つ。モクセイ(木犀)。ゲッケイジュ(月桂樹)。
※承明門外月如霜:(内裏の)承明門の外側は、月光が辺り一面を霜が降りたかのように明るく照らし出しており。 ・承明門:平安京の内裏内郭門の一で、内郭の南正面にあり、外郭の建礼門と相対し、紫宸殿の南正面にあたる門。 ・月如霜:月光が辺り一面を霜が降りたかのように明るく照らし出しているさまを謂う。
※何人今夜清涼殿:どういう人なのだろうか、今夜、清涼殿で。 ・何人:どういう人。いかなる人。何者。なにびと。なんびと、なんぴと。 ・清涼殿:平安京の内裏の中にある天皇の日中の御座所。南東に紫宸殿、南に校書殿(けうしょでん(きょうしょでん))殿、東に仁寿殿((じじうでん(じじゅうでん))がある。前出・菅原道眞の『九月十日』に「去年今夜侍清涼,秋思詩篇獨斷腸。恩賜御衣今在此,捧持毎日拜餘香。」とある。
※一曲霓裳奉御觴:一曲の『霓裳羽衣(げいしょううい)の曲』(にあわせて、天子に)杯を奉(たてまつ)っているのは。 ・霓裳:(げいしゃう;ni2chang2○○)『霓裳羽衣曲』のこと。唐・玄宗が楊貴妃(=楊玉環)のために作った曲。玄宗が月宮に遊び、仙女の舞を見たが、玄宗はその音調を覚えて帰って、これを作ったという。「霓裳」は:虹のように美しい裳(もすそ;chang2)の意。なお、「羽衣」は:鳥の羽で作った空を飛ぶための衣。天(あま)の羽衣(はごろも)。天人や仙女が着て空を飛ぶもの。白居易の『長恨歌』「…忽聞海上有仙山,山在虚無縹緲間。樓閣玲瓏五雲起,其中綽約多仙子。中有一人字太真,雪膚花貌參差是。金闕西廂叩玉*,轉敎小玉報雙成。聞道漢家天子使,九華帳裡夢魂驚。攬衣推枕起徘徊,珠箔銀屏**開。雲鬢半偏新睡覺,花冠不整下堂來。風吹仙袂飄飄舉,猶似霓裳羽衣舞。玉容寂寞涙闌干,梨花一枝春帶雨。含情凝睇謝君王,一別音容兩渺茫。昭陽殿裡恩愛絶,蓬莱宮中日月長。回頭下望人寰處,不見長安見塵霧。唯將舊物表深情,鈿合金釵寄將去。釵留一股合一扇,釵擘黄金合分鈿。但敎心似金鈿堅,天上人間會相見。臨別殷勤重寄詞,詞中有誓兩心知。七月七日長生殿,夜半無人私語時。在天願作比翼鳥,在地願爲連理枝。天長地久有時盡,此恨綿綿無絶期。」とある。 ・奉:すすめる。供える。献上する。たてまつる。神や天子に対する動作のうやうやしさを表す言葉。 ・御觴:天子の杯。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「香霜觴」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
平成30.1.17 |
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