加須の家
<景観のなかでのかたち> ■ 埼玉県北東部の加須市。のどかな田園風景を構成する集落のなかでの、かつて農家だった母屋の建て替えです。 ここの集落は、北側を屋敷森に守られた民家が、東西に隣接して連なっています。標高は12メートル程で、古くは利根川の氾濫に悩まされてきました。家々は、利根川の営みで生じた帯状のわずかに高い土地(自然堤防)に連なって営まれてきたのです。そんな風景の中に、どのように新しい造形をはめ込むかが問題でした。 その鍵は屋根のかたちが握っていると考え、屋根の頂部分に、伝統を引き継ぎながら、何か新しいかたちを、とスタディーをしていきました。そんな中で、このあたりの民家によく見られる「透ける棟飾り」と「越屋根」の構成(注)が浮かんできました。 <配置計画との関連> ■ 広大な敷地でありながら、東西が狭く、他の建物との関係から、ほぼ、元の母屋が建っていた場所しか、新しく建てられるところはありませんでした。玄関も水回りもそれぞれ別々の、完全二世帯住宅というプログラムで、要求された面積は、そこに総二階を建てるという規模のものでした。単なる総二階は避けたかったので、まず東西で二世帯に分割し、吹き抜けを取った分の面積をロフトで補い、軒を低く抑えた替わりに全幅に越屋根をとって、中央部を月見台で分節する構成に至りました。越屋根にはハイサイドライトを、月見台にはトップライトをとって、光を内部に導きます。 冬の季節風を受ける北面と、隣家に相対する東西面は最低限の開口部のみの閉じた構成としました。それに対し、南に向かってはなるべく開いて、建築空間に向きを与えています。それは、北・東・西面の外壁の色を濃いグレーに、南面のみをシルバーにしたことで、強調して表現されています。北を閉じることは、北側の一間幅のエリアを、水周りや収納などの比較的小さな部屋を配置することにも現れています。そのことで裏まわりは暗くなりがちですが、次の一間幅のエリアに階段や廊下を設けて、ハイサイドライトからの光が流れ落ちてくるように考慮しています。 <内部計画> ■ それぞれの世帯において、主室上部に吹き抜けを設け、それがロフトまでつながっていく構成です。動線は回遊し、行き止まりを避けています。また、家事の中心となる台所に立つと、前庭を通って門から敷地の先まで視線がとどき、来客等に対応できます。もうひとつ、親世帯で特徴的なのは、猫や犬を多く飼われていることです。猫のための上下の動線、内外の出入り口を複数用意しています。また、犬のためのシャワーのスペースも設けました。 <設備計画> ■ 空が広く、太陽のエネルギーをふんだんに享受できるので、南に傾斜したメインの屋根面で受けた熱は、空気を循環させるソーラーシステムにまわし、越屋根上部には太陽光発電のパネルを設けました。補助暖房として、深夜電力を利用した蓄熱暖房のシステムを床下に設置しました。 <材料等> ■ 家の記憶を引き継ごうと、かつての材料を部分的に転用しています。構造材のうち、欅の梁材を玄関の上がり框に使いました。床の間の床板や違い棚は、かつてのものを使いました。神棚は、元の建具を用いて、外枠を新たにしました。書院の近くにあった飾りの建具は、新たな建具のなかに、明り取りとして嵌込みました。 所在地/埼玉県加須市構造/木造二階建て竣工/2008年 |
Photo : Yasuyuki Aoyama |