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「………!!」
そこは広い部屋だった。装飾から見ると、おそらく館の主人の部屋だったのだろう。
奥には玉座にも見える椅子が一つ設けられ、不気味な仮面を被った人間…らしきものがそれに腰かけていた。
そして、その傍らには、空色の神官衣を纏った一人の青年……
――ヒースさん!
そう思ったときにはすでに、オイラは走り出していた。
「とうとうここまで来たか、とほめてやろう…」
仮面の人物がゆっくりと語りかけてきた。………この声は!?
オイラは幽霊船の中で聞いたあの声を思い出していた。
……全く同じだ!!
「だがもう遅い…見よ! 神獣の負の力を吸収し、暗黒剣となったマナの剣を!!」
仮面が高らかに告げると同時に、奴の目の前に突然マナの剣が出現した。
しかしその刀身は黒く濁り、前にオイラが抜いたときのような輝きは一片も見られない。
「やめてっ!!」フェアリーが叫ぶ。しかし仮面はあざ笑うと…多分、あざ笑ったんだと思う………。
「とくと見よ。これがマナの剣の最期だ!!」
奴が呪文らしき言葉を一言唱えると、マナの剣は邪悪な力に包まれ…
…次の瞬間、ぱぁんと粉々に砕け散ってしまった!
「あぁっ…! マナの剣がっ!!」
フェアリーが絶望に満ちた叫びを上げた。オイラも、一瞬何が起きたのか受け入れることが出来なかった。
…マナの剣が、こうもカンタンに破壊されてしまうなんて……!!
もう仮面の道士を倒すことは出来ないのか? もう…ヒースさんを救けることは絶対に出来ないのか!?
……イヤだ! そんなの、オイラは絶対認めない…認めるもんかっ!!
「フフフ…間もなく全身に力がみなぎってくることだろう………………ん、これは…っ!?」
仮面の道士の様子がおかしくなった…? 一体、何が!?
「……光の波動がワシの邪魔をしている…これは……マナの女神!? まだ生きておったか!!」
そう憎々しげに叫ぶなり、仮面の道士は突然立ち上がった。「ちょうどいい…これからマナの聖域に行き、
キサマの息の根を止めてやろう! そして、キサマの力も吸収してやるっ!!」
そして、仮面の道士は転送の呪文を唱え出した。
「待てっ!」
オイラとデュラン、アンジェラはほぼ同時に仮面に向かって走り出していた。
何としても奴が聖域に行くのを阻止しなければいけない!!
「……!!」
オイラたちと仮面の道士の間に、空色の神官衣の青年が立ちはだかったのは、そう強く感じた次の瞬間だった。
「ヒースさんっ!」
思わずオイラは立ち止まった。青年の行動が信じられなかった…受け入れられなかったのだ。
しゅんっ!!
「しまったっ!!」
ヒースさんに気を取られているスキに、仮面の道士は呪文を完成させてしまった。
「………仮面の道士様の邪魔はさせない…。お前たちには、ここで消えてもらおう」
冷たい瞳。オイラたちを見すえる視線の奥では、暗い炎がゆらゆらと憎しみを込めて揺れていた。
…この人がヒース…。シャルロットが、いつも泣いて救けを求めている、ヒースなんだ………………………
今、氷のような瞳でオイラたちを呪縛しているこの人が………………………………――――――――――――
ウソだ。
シャルロットが泣いて求めていたのは、こんな人のはずがない!!
「ヒースさん、やめるんだっ!!!!!」
気がついたとき、オイラは叫んでいた。腹の底から絞り出したような、少しかすれた…とても大きい声だった。
「光の司祭が倒れ、シャルロットが……シャルロットがあなたを捜している……………!」
シャルロット。
その言葉を発した瞬間、オイラの目にぶわっと熱いものが込み上げてきた。
今まで知らないうちにオイラの中に溜っていた何かが、声と涙と一緒に一気に外に溢れ出したような感じだった。
そして、それの使い方を、幸いにもオイラは一つしか知らなかった。
「…オイラたちと、ウェンデルに戻ろう!!」
叫びが終わった後、オイラはヒースさんをじっと見つめた。
「……光の司祭…」
ヒースさんの瞳に動揺が走った。
「………………シャルロット………………………」
「そうだ、シャルロットが待ってるんだ! 一緒に帰ろう、シャルロットのところに!!」
ヒースさんは何かに抗うかのようにうつむいた。その体はぶるぶると小刻みに震えている。
「ヒースさん…っ!!!」
…………ヒースさんの震えが止まった。そしてゆっくりとこうべを上げ、オイラたちを見すえて…………
「………………………………………………………そんな奴らは知らない」
全身を冷たい氷が一瞬にして走り抜けたような感じだった。
視界も闇に閉ざされ、意識までもがそこに吸い込まれていくかのようだった。
奈落に落ちるってデュランたちが前言ってたけど、このことを言っていたのかもしれない。
「……ヒースさん………………………」
ヒースさんはオイラを冷たく凝視していた。そして、何やら呪文を唱えると、突然部屋の様子が変わり始めた。
転送の魔術かなんかだったのだろう。
「……ここがお前たちの死に場所だ………………」
ミラージュパレスの一室だろうか。オイラたちは広々とした部屋にいた。だが、出入口がない………。
「永遠にここに閉じ込めておくつもりなのか。けっ、ふざけんじゃねぇ!!」
「ちょっとカッコいいからって調子に乗らないでよね、この若白髪!!」
デュランとアンジェラが、もうガマン出来ないとばかりに武器を構えて前に進み出る。
ヒースさんも目を閉じて、何かの呪文を唱え始めている。
どうやら戦闘が始まってしまったらしかった。でも、オイラは………
「どうしたケヴィン! もう説得は不可能だってわかったじゃねぇか!!」
「そうよ! とっととコイツをぶっ殺して、ここから脱出しないと!!」
説得はムリだってことは、オイラにも分かっていた。でも、それでもオイラはヒースさんと闘うことが出来なかった。
「…ちぃっ、仕方ねぇ。アンジェラ! 俺たちだけでコイツを殺すぞ!」
「分かったわ!!」
デュランとアンジェラがヒースさんに向かって突撃した。ヒースさんは不死生物を召喚し、彼らを襲わせている。
………それでも、やっぱりオイラは動くことが出来なかった。
「…どうして………」
口だけがかすれた声を出す。
「……どうして……………」
デュランの剣がヒースさんの右腕を切り裂いた。どす黒い液体が噴き出し、空色の神官衣を染めていく。
言葉と共にアンジェラの杖から炎がほとばしり、空色の神官衣を焼け焦がせていく。
ヒースさんも呪文と共に魔力のつぶてをデュランたちに容赦なくぶつけていった。
……どうして?
どうして、どうしてオイラたち、闘わなければならないんだ!?
「やめてくれっ……!!!」
オイラは叫んだ。自分でも分かるほど、大きく重く、悲しい声だった。
「轟く雷鳴よ、我が敵を貫け!!」
アンジェラの召喚した稲妻がヒースさんを撃った。そして、そのスキにデュランがヒースさんの背後に回り込み、
大きく剣を振りかぶった。
「もらったぜ!!」
しかしヒースさんは全く動じた様子を見せずに、呪文を唱え続けた。
「…戦場を駆け巡る古の女神よ、ここにありし魂をそなたに捧げよう!!」
突然辺りをまばゆいばかりの光が満たし、青い猫に引かれる車に乗った、鎧姿の女神が降臨した。
「召喚魔法……っ」アンジェラの声は馬車(猫車?)の駆ける音にかき消され、最後まで届かなかった。
女神は馬車を駆り、物凄い勢いでオイラたちに襲いかかってきたのだ。
「……っ!!」
威圧感だけで体が潰されそうだ。初めて受けたけど、召喚魔法ってこんなに凄かったなんて…!
「うわぁっ!!!!!!」
オイラは女神の攻撃をまともにくらい、部屋の隅まですっ飛ばされてしまった。
………意識まですっ飛ばされたみたいだ。視界がぼんやりと滲んできた。
(シャルロット…)
オイラは小さく呟いた。
(…ごめん、ヒースさんを救けることが出来なくて………)
“……ケヴィン君…”
――!?
突然どこかから声が聞こえた気がした。
“…ケヴィン君、私を……私を、殺して……………”
――ヒースさんっ!?
オイラははっと目を開いた。
“私がこれ以上罪を重ねてしまう前に………頼む!”
――そうだ。
以前にもヒースさんは、オイラに救けを求めてきたじゃないか。
呪われた船の中で、仮面の道士の邪念に混じりながらも、その声をオイラに伝えてくれたじゃないか!
(…シャルロット)
オイラは立ち上がった。体中に鈍く鋭い痛みが走ったが、気にしなかった。
(ヒースさんを連れて戻ることは出来そうにないけど、だったら………………)
クローを右手にはめ、オイラはヒースさんに向かって駆け出した。
「だったら、せめてオイラの手で、ヒースさんを解放させてくれ!!」
「ケヴィン!?」
デュランとアンジェラの声が同時に聞こえた。彼らも先ほどの女神の攻撃にかなり参っているようだった。
「…聖なる光よ、闇を貫け!」
ヒースさんがオイラに向かって攻撃魔法を唱えた。だが、オイラはそれをものともせずに走り続け、
ヒースさんの前に素早く飛び込んだ。
「お前…」ヒースさんの瞳が大きく開かれる。暗い闇の向こうに、かすかに光が見えた気がした。
「ヒースさん…シャルロットには、オイラから謝っておくから…―――」
オイラは躊躇う間も置かず、ヒースさんの体を思い切りクローで引き裂いた…。
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