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オイラは初めて見た。シャルロットが微笑むのを。
意地悪な笑みではなく、心からの…見るもの全てを和ますような…
…「美少女」にふさわしい微笑みを。
オイラはしばらく、彼女を見つめていた。
「おーいケヴィン〜!」
はっとした。デュランたちのことをすっかり忘れていたのだ。
「おや、みなしゃんおそいでちねぇ。すこしはじぶんのみぶんをわきまえるでちよ!」
……いつものシャルロットに戻ってしまった。少しだけ仲間を恨んでしまったり。
「…でもシャルロット、この森、一人じゃキケンだよ」
「うぅ…わかったでちよぉ!!」
ぷぅっとほっぺたをふくらませながら、シャルロットは森の秘密を教えてくれた。
「でも、今昼だね……どうするの?」
「よるまでおねんねすればいいんでち」
それだけ言うと、シャルロットは道端にコロンと横たわり、大きな瞳を閉じた。
「度胸あるガキだな…さっき痛い目に遭ったのをもう忘れたってのか?」
「でも、夜までどうするの? 夢見草でも使う?」
そんな仲間の会話を聞きながら、オイラはシャルロットの寝顔をちょっと覗いてみた。
「う〜ん…う〜ん……」
うなされてる!?
「……もうたべられないでち」
「………」
何故かほっとした。しかし、夜までどうしろと言うのだろうか。
ここで待つか、それとも昼間のうちに進んでみるか。でも、後者だとシャルロットはどうすればいいのだろう?
「どうしたんだってばケヴィン!」
「!? …あ、えっと」物思いに耽ってしまって、デュランの声に気付いていなかったらしい。
「さっきから様子がヘンだぞ。何か変なものでも見つけて食ったとかしなかったか?」
「う、ううん、何も食ってない!」
「ホントかねぇ…やっぱり、早くディオールに行って、ゆっくり休んだ方が良さそうだな」
「だから、大丈夫だって!!」
そう反論しかけたとき、何やら植物のようなものがオイラの顔に押し当てられた。
強烈な眠気がオイラを襲う。
「ゆ…夢見草………?」
「アンジェラ!?」
アンジェラがオイラの顔から夢見草を離すと同時に、
オイラの体はシャルロットの横へと倒れ、意識は深い闇の中へと沈んでいった。
「何でこんなことしたんだよアンジェラ!」
デュランがアンジェラの首根っこを掴んでいる。突然の彼女の行動に戸惑っているのだろう。
「おこちゃまには絶対に理解できないもの。自分のかかっている病気がね。
だったらゆっくりと寝かしつけて、病気のことを忘れさせた方が得策だと思わない?」
アンジェラは、オイラの病気を知っているというのか?
「病気って…カゼじゃないのか?」
「ふぅん…この病気を知らないってことは、まだアンタもおこちゃまなのね」
意味ありげな笑みを浮かべると、アンジェラはいきなりデュランに抱きついた。
「!!!!!!!!! な、何しやがるんだ!!!!!!!!!!!」
「特別に教えたげるわ。この病気はね、「恋の病」っていうのよ。
もっとも、ケヴィンもアンタも免疫なさそうだから、当分の間苦しむでしょうね♪」
「バ、バカ野郎!! だ、誰がだよっ!!!!!!!」
顔を真っ赤にして否定するデュラン。どうやらアンジェラに病気を進行させられてしまったらしい。
「アナタよぼ・お・やか」
それだけ言うと、アンジェラはデュランの頬に軽く口づけした。
アンジェラたちの会話など知らないオイラが目を覚ましたとき、シャルロットの姿は無かった。
「先に行っちゃったのかな…」
「あら、気になるの?」
アンジェラがやはり意味ありげな口調で訊ねてきた。
「うん…だって、また魔物に襲われたら」
「大丈夫だぜ」
デュランが少し不機嫌そうに言い放った。
「あのガキなら、殺したって死なねぇよ」
「そんなことない!!」
思わずムキになって反論してしまった。「シャルロットは……!!!」
「カオ赤いわよぉケヴィンくん。ちょっとコーフンしすぎじゃない?」
アンジェラに頬をツンツンつつかれてしまう。
「…ぅ………」
自分でもよくわからない。一体、オイラはどうなってしまったのだろう?
この病気のせいだろうか? カゼだと思うけど、どこかそうじゃないような気もする。
アンジェラはオイラの病気の正体を知っているような素振りをしているが、
いたずら好きのアンジェラのことだ。訊いたって教えてはくれないだろう。
「とにかく、ディオールに行こうぜ。この花を辿っていけばいいんだったよな」
デュランは側に咲いている、赤いほのかな光を放つ花を不思議そうに見つめている。
「シャルロットならきっと先に行ったか、そうでなけりゃ後から来るさ。気にすんなよケヴィン」
「…う、うん………」
…ごめん、シャルロット。
心の中でそっと呟き、オイラはデュランの後に続いた。
赤い花を辿っていき、オイラたちは無事ディオールへ辿り着くことが出来た。
しかし、そこにいるエルフたちは、オイラたちの姿を見るとこそこそと逃げ出してしまう。
あまり…というか、全くいい気分はしない。
「ったく、何なんだよアイツらは。こっちが何か悪いことでもしたっちゅうのか?」
「私からしてみれば、その言動自体悪いことに思えるけど?」
「んな、何だとぉ!」
勝手にケンカを始めてしまった二人を放って、オイラは側に建っている一際大きな建物に入ることにした。
どうせ仲介に入ったって、ムダだからだ。
「お邪魔しまぁす…」
恐る恐る中にはいると、中にはエルフが三人いた。そのうちの一人は年老いた感じで、威厳を感じさせる。
「あ……あの、すいません………」
「人間と話すことは何もない。お引き取り下され」
外見通りの厳格な声だ。でも、何も話すことがないなんて……。
「!!」
「妖精王様、私たちに力をお貸し下さい!」
オイラがすっかり忘れていた助け船の存在に、妖精王も他のエルフも目を丸くしている。
…少しだけ気が晴れた。ちょっと陰険だけど、ざまあみろってヤツ?
「なんと、おぬしはフェアリーに選ばれし者だったのか!!」
妖精王の驚く声と同時に、「シャルロットちゃん!」という声が建物の外から聞こえてきた。
…シャルロット!?
後ろを振り向いたオイラの目に、赤と青と黄色の物体が飛び込んできた。
よかった、無事だったんだ!!
「やっとみなしゃんにおいついたでち。ひとがおしっこにいってるあいだに、
こんなかよわいびしょうじょをおいてけぼりにするなんて、ちもなみだもないごくあくにんでちね!!」
……やっぱり、このコはよくわからない。もっとも、オイラだって自分がよく分からないんだけど。
「シャルロット! シャルロットではないか!!」
妖精王がまたも驚いた様子で叫んだ。
「あんただーれ?」
対照的にシャルロットは不思議そうな顔だ。オイラも、どうして妖精王がシャルロットを知ってるのか不思議だった。
「覚えていないのか。無理もない、お前がこの村から引き取られていったときは、
余りに幼すぎて覚えていなかったのだろう」
この村から引き取られた…? ということは、シャルロットってまさか……!?
「ふーん、あんたしゃんがよーせーおーでちか。あ、それより、おねがいがあってきたんでち!
よーせーおーのおじーちゃん、うちのおじーちゃんをたすけて!!」
「何!?」
「光の司祭様は、ウェンデルの結界を張ったときに、禁呪の呪いで倒られてしまったそうです…」
フェアリーが沈痛な声で説明した。
「そうか…司祭殿とは二度とかかわり合いになることはないと思っていたが…
あの世でリロイとシェーラが導いているのかもしれん……」
リロイ…シェーラ……つい最近、どこかで見た名前だ………まさか、村の入り口にあったお墓!?
「ぱぱとままが!?」
シャルロットが叫んだ。あのお墓は、彼女の両親の墓だったのだ。
妖精王は、シャルロットの生い立ちについて語り始めた。
シャルロットがハーフエルフだったこと、彼女の両親の悲恋、この閉ざされた森の理由…。
彼女がオイラと同い年でありながら遥かに幼く見えるのは、ハーフエルフだったからなのだ。
「……うぅっ…ぱぱ……まま………」
美しい泉から溢れ出す湧き水のように、シャルロットの瞳はぽろぽろと涙をこぼしている。
いつもオイラが思い浮かべる顔…ヒースという名をよぶときの顔だ。
「……うわあぁぁぁぁん!!!!!」
シャルロットは外へと走り出していってしまった。
何もオイラには出来なかった。今オイラが彼女のために出来るのは、ヒースさんを見つけ出すことしかないのだ。
ドリアードの居場所を妖精王から教えてもらい、オイラたちはディオールを後にした。
「………」
オイラは視界の隅に入った二つの墓に歩み寄り、目を閉じて祈りを捧げた。
――ヒースさんは、オイラが絶対に見つけ出す。だから、どうか安心して――。
「ケヴィン……?」
「………行こう、ドリアードのところへ」