失楽園殺人事件 (ミステリ)
(小栗 虫太郎 / 扶桑社文庫 2001)
扶桑社から出ている『昭和ミステリ秘宝』というシリーズ、作家や作品のセレクトがかなりディープでマニアックで、ひそかに注目していましたが、そのシリーズのひとつ。
「黒死館殺人事件」で一世を風靡した探偵・法水麟太郎が活躍する短編が7編収録され、おまけに小栗虫太郎が各誌に寄せたエッセイが100ページにわたって収められています。いずれも戦前戦中に書かれたもので、今読むと時代を感じさせられます。
タイトルを冠した「失楽園殺人事件」、これは今回、例の小説や映画を連想させて出版社側が一般受けを狙ったものでしょうが、タイトルからどろどろした男女の不倫に端を発する殺人事件だと思うと、大いに期待を外されることになります。
「後光殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」「夢殿殺人事件」など、どれも密室で発生する不可解な殺人事件を、当時の最新の医学知識や心理学を駆使して解決するという筋立てで、現代の科学知識からすれば「おいおい、そんなわけねーだろ!」というものが多いのですが、とにかく雰囲気に浸って至福のひと時を過ごすことができました。
また、巻末のエッセイでは、当時の探偵小説文壇を彩った先輩・同輩作家との意見のやり取りや、マレー半島へ滞在していた経験を元に奇怪な生物や当地の奇習を紹介したものが大変興味深く、特に後者の知識の蓄積が、あの「人外魔境」シリーズに結実したのだと再認識したのでありました。
<収録作品>「後光殺人事件」、「聖アレキセイ寺院の惨劇」、「夢殿殺人事件」、「失楽園殺人事件」、「オフェリヤ殺し」、「潜航艇『鷹の城』」、「人魚謎お岩殺し」、「千社札奇験膏薬」、「三重分身者の弁」、「他人の自叙伝」、「禿山の一夜」、「胡鉄仙人に御慶を申すの記」、「林田葩子女子に就いて」、「反暗号学」、「諸姦戒語録」、「吊し斬り色さまざま」、「野毛の牡蛎の話」、「薔薇占い」、「リリアン・ハーヴェー」、「夏と写楽」、「畸史三種」、「バーナム華やかなりし頃」、「馬来の毒」、「出逢った怪虫類」、「馬来の咒術・奇毒」、「熱帯魚の本籍地」、「「万年青」劇団」、「動物アルセーヌ・ルパン」、「秘密結社『白虎会』」、「獏力車」
オススメ度:☆☆☆
2004.7.5
死へのテレポート (SF)
(ウィリアム・フォルツ&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2004)
“ペリー・ローダン・シリーズ”の第301巻。今月から、早川書房さんが毎月刊行にペースアップしてくださいましたので、これで2月と6月にシリーズ新刊が出なくて悶々とすることがなくなります。バンザイ!
さて、前巻の後半から新サイクルに入った本シリーズ。
最新の科学実験の結果、並行宇宙に飛ばされてしまったローダンと《マルコ・ポーロ》の乗組員たち。その宇宙にも地球や太陽系帝国が存在しており、もちろんローダンやその側近も揃っています。しかし、元の宇宙と大きく違っていたのは、ここの太陽系帝国は苛烈な恐怖政治を敷く独裁国家であり、ローダンたちも残忍で利己的な性格をしていたことです。当然、新来の“本当の”ローダンたちに脅威を感じたこの宇宙のローダン(ローダン2と呼ばれます)は、かれらを殲滅しようとします。
なんとか逃れたローダン一行、元の宇宙へ戻るため、協力者を探し始めますが、ここで登場するのが前サイクルでローダンの仇敵だったあの人だというのが、気が利いています。フォルツのアイディアでしょうか。
後半のエピソード「ラス・ツバイ救出作戦」(ベタなタイトルですね)も、ダールトンらしいヒューマニティあふれる一編に仕上がっていて、好感度大(笑)。
前半、怪しげな存在がちらっと出てきて気をもませますが、正体が明らかになるのは当分先でしょう。
<収録作品と作者>「死へのテレポート」(ウィリアム・フォルツ)、「ラス・ツバイ救出作戦」(クラーク・ダールトン)
オススメ度:☆☆☆☆
2004.7.9
ひとりで夜読むな (怪奇・幻想:アンソロジー)
(角川ホラー文庫 2001)
・・・いえ、そう言われましても(^^; 読んじゃいましたよ、夜、ひとりで(笑)。
戦前に探偵小説誌として一世を風靡した雑誌「新青年」に掲載された、怪奇・幻想味の強い作品を集めた傑作集。以前にご紹介した同じ角川ホラー文庫の「爬虫館事件」以上に妖しさ大爆発です。
戦前の探偵小説というのは、海外の珍奇な生物や毒薬を扱ったり、奇病や医学ネタが謎解きのキーになったりという作品が多いので、たいへん好みに合っているのです。リアリズムなんて関係ない、エキゾチズムとロマンチシズムこそ華!
インドを舞台にした幻想綺譚「ヤトラカン・サミ博士の椅子」(牧 逸馬)、南米の謎の類人猿を扱った「マトモッソ渓谷」(橘 外男)、絶海の孤島を襲った奇病を描く「柘榴病」(瀬下 耽)、南方ものとは対照的に北極圏に近い孤島に黄金郷の幻影をつむぐ「紅毛傾城」(小栗 虫太郎)、日本国内を舞台としていても、蚊が媒介する奇病の恐怖「エル・ベチョオ」(星田 三平)、ポオの作品の翻案かと思えば意外に本格医学ミステリ「告げ口心臓」(米田 三星)、これも医院を舞台とした「痴人の復讐」(小酒井 不木)と、ある意味では他愛無いネタかも知れませんが、大いに楽しみました。
<収録作品と作者>「ヤトラカン・サミ博士の椅子」(牧 逸馬)、「死屍を食う男」(葉山 嘉樹)、「紅毛傾城」(小栗 虫太郎)、「可哀想な姉」(渡辺 温)、「鉄槌」(夢野 久作)、「痴人の復讐」(小酒井 不木)、「柘榴病」(瀬下 耽)、「告げ口心臓」(米田 三星)、「聖悪魔」(渡辺 啓助)、「本牧のヴィナス」(妹尾 アキ夫)、「エル・ベチョオ」(星田 三平)、「マトモッソ渓谷」(橘 外男)、「芋虫」(江戸川 乱歩)、「作家をつくる話 なつかしき「新青年」時代」(水谷 準)
オススメ度:☆☆☆
2004.7.11
ハッカー/13の事件 (SF:アンソロジー)
(ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ:編 / 扶桑社ミステリー 2000)
“ハッカー”――コンピュータ・ネットワークに侵入して好き放題をやる連中。
というような意味が定着しているようですが、元々はそのような犯罪的な意味に限定されていたわけではなく、とにかくコンピュータをいじるのが好きで技術のある人物(逆の意味もあるらしい)という広い意味合いで使われていたものです。
その意味では、このアンソロジーも単なるコンピュータ犯罪者・アウトローだけが主人公なわけではありません。ハイテク・サスペンスといったミステリ的な物語が多いのかと思っていましたが、ラインアップはすべてSFでした。まあ集まった顔ぶれを見ればわかりますね(笑)。
このジャンルでは古典と言える「クローム襲撃」(ウィリアム・ギブスン)、ハッキングという主題よりも前提となる設定がすごい「血をわけた姉妹」(グレッグ・イーガン)、異星人に占領された地球でささやかな抵抗を試みる男のドラマ「免罪師の物語」(ロバート・シルヴァーバーグ)、政治も企業も関係ない市井の片隅での壮絶な(どうでもいい)対決「ドッグファイト」(M・スワンウィック&W・ギブスン)、切ない幕切れが余韻を残す「マイクルとの対話」(ダニエル・マーカス)、とにかく読んでくださいとしか言いようがない「タンジェント」(グレッグ・ベア)など、13編の物語。
<収録作品と作者>「クローム襲撃」(ウィリアム・ギブスン)、「夜のスピリット」(トム・マドックス)、「血をわけた姉妹」(グレッグ・イーガン)、「ロック・オン」(パット・キャディガン)、「免罪師の物語」(ロバート・シルヴァーバーグ)、「死ぬ権利」(アレクサンダー・ジャブロコフ)、「ドッグファイト」(マイクル・スワンウィック&ウィリアム・ギブスン)、「われらが神経チェルノブイリ」(ブルース・スターリング)、「マシン・セックス〔序論〕」(キャンダス・ジェイン・ドーシイ)、「マイクルとの対話」(ダニエル・マーカス)、「遺伝子戦争」(ポール・J・マコーリイ)、「スピュー」(ニール・スティーヴンスン)、「タンジェント」(グレッグ・ベア)
オススメ度:☆☆☆
2004.7.19
幽霊船 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2001)
テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第18弾。
今回のテーマはタイトル通り「幽霊船」です。
怪奇小説ジャンルの中でも、いわゆる“海洋奇談”は1ジャンルをなしており、ウィリアム・ホープ・ホジスンの連作とかコナン・ドイルとか(実はドイルはホームズもの以外にも怪奇小説もいろいろ書いていまして、新潮文庫「ドイル傑作集」1〜3のうち、2巻は海洋奇談編、3巻は恐怖編となっています。オススメ)、フレデリック・マリヤットとか一家をなしている人がいます。
また“実話”の世界でも、マリー・セレスト号とかシャルンホルスト号の呪いとか、イワン・ワッシリ号のサイコ・ヴァンパイアとか、魔の三角海域とか、枚挙にいとまがありません。
ネタは極上なわけですから、あとは各作家さんがどう料理するかということになるわけですが、さすがは腕達者揃い。どれも粒ぞろいの逸品でした。
マリー・セレスト号の謎を斬新な解釈で解く「遺棄船」(北原尚彦)、復讐のために繰り返し現れる「幽霊船」(横田順彌)、陸の上では迷信と片付けられても船上ではそうはいかない「鳩が来る家」(倉阪鬼一郎)、浦島太郎をモチーフとした異形譚「深夜、浜辺にて」(飯野文彦)、空にもいる幽霊船「死の箱舟」(石田一)、リリカルな恋愛譚と怪異が溶け合った「リジアの入り江」(竹内義和)、海洋冒険談にはつき物の海賊と幽霊船をミックスした「船の中の英吉利人」(奥田哲也)、宇宙空間を漂う生命なき船を描く「パンとワイン」(草上仁)など。
<収録作品と作者>「沈鐘」(小沢 章友)、「右大臣の船」(高瀬 美恵)、「アーネスト号」(安土 萌)、「船の中の英吉利人」(奥田 哲也)、「時化」(小中 千昭)、「リジアの入り江」(竹内 義和)、「ジルマの桟橋」(江坂 遊)、「海聲」(石神 茉莉)、「極光」(井上 雅彦)、「エイラット症候群」(薄井 ゆうじ)、「三等の幽霊」(速瀬 れい)、「Sirens」(村山 潤一)、「幽霊船」(横田 順彌)、「遺棄船」(北原 尚彦)、「舟自帰」(朝松 健)、「鳩が来る家」(倉阪 鬼一郎)、「深夜、浜辺にて」(飯野 文彦)、「スローバラード」(早見 裕司)、「死の箱舟」(石田 一)、「さまよえるオランダ人」(竹河 聖)、「パンとワイン」(草上 仁)、「渡し舟」(菊地 秀行)、「シーホークの残照(または「猫船」)」(田中 文雄)
オススメ度:☆☆☆☆
2004.7.23
タイタス・クロウの事件簿 (怪奇)
(ブライアン・ラムレイ / 創元推理文庫 2001)
不覚にも、このラムレイという作家はこれまで知りませんでした。正統派クトゥルー神話を一貫して書き続けていた人なのですね。そして、これは彼が創造したオカルティストにしてサイキック探偵のタイタス・クロウ(マーヴィン・ピークの重厚なアダルト・ファンタジー大作の主人公と名前の響きが似通っているのは偶然でしょうか?)が登場する全短編を収録したものです。
作風としては、同じクトゥルーでもダーレス風味というよりはC・A・スミスやR・E・ハワードの作品に雰囲気が似ています。タイタス出生の秘密が明かされる「誕生」に始まり、若き日のタイタスが黒魔術の徒と生命をかけて対決する「妖蛆の王」、長篇でも重要な役割を果たす(らしい)小道具を主題にした「ド・マリニーの掛け時計」、謀略小説との融合を図った「名数秘法」、シリーズの棹尾を飾る「続・黒の召喚者」まで作中の年代順に並べられているのも気が利いています。
なお、タイタスと相棒のド・マリニーを主人公とする長篇は6作書かれており、いずれもクトゥルーを下敷きとした、R・フォールコンの“ナイトハンター”シリーズもかくやという伝奇アクションだそうです。続けて文庫で紹介されると解説に書かれていましたが、まだ出ていませんね・・・(^^;
<収録作品>「誕生」、「妖蛆の王」、「黒の召喚者」、「海賊の石」、「ニトクリスの鏡」、「魔物の証明」、「縛り首の木」、「呪医の人形」、「ド・マリニーの掛け時計」、「名数秘法」、「続・黒の召喚者」
オススメ度:☆☆☆
2004.7.29
魔術師 (怪奇:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 角川ホラー文庫 2001)
古今東西の怪奇短編をテーマ別に編纂しようという野心的な試み、『異形アンソロジー・タロットボックス』の第2巻。
今回のテーマはタイトル通り“魔術師”です。
魔術師といえば、ステージ上で数々の奇跡を演出してみせる職業でもありますし、アレイスター・クロウリーのようなオカルティストをそう呼ぶこともあります(クロウリーをモデルとしたサマセット・モームの長篇で、そのものずばり「魔術師」というのもありました)。いわゆる呪い師・妖術師は今回は意図的に外してあるそうです。
本朝からは、重厚なタッチでインド魔術の真髄を描く「ハッサン・カンの妖術」(谷崎潤一郎)と、それへのオマージュともいえる「魔術」(芥川龍之介)、忍術も魔術のひとつであると認識させてくれた「忍者 明智十兵衛」(山田風太郎)、文字通り一世一代の悲しき大トリック「奇術師」(土岐到)、ペーソスあふれる「さびしい奇術師」(梶尾真治)、SFですがマッド・サイエンティストではない“魔術師”を描く「劇場」(小松左京)、ノンフィクションを装いながら恐るべきビジョンをほのめかす「超自然におけるラヴクラフト」(朝松健)など。海外からは老魔術師の悲哀を描く「魔術師」(C・ボーモント)、夢と鏡という古典的素材を使いきった「わな」(H・S・ホワイトヘッド)、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の小品も収録されています。
<収録作品と作者>「魔術」(芥川 龍之介)、「超自然におけるラヴクラフト」(朝松 健)、「わな」(ヘンリー・セントクレア・ホワイトヘッド)、「奇術師」(土岐 到)、「忍者 明智十兵衛」(山田 風太郎)、「さびしい奇術師」(梶尾 真治)、「幻戯」(中井 英夫)、「花火」(江坂 遊)、「魔術師」(チャールズ・ボーモント)、「手品師」(吉行 淳之介)、「劇場」(小松 左京)、「ハッサン・カンの妖術」(谷崎 潤一郎)、「ひまわり」(ラフカディオ・ハーン)
オススメ度:☆☆☆
2004.7.31
パルピロンの闘技会 (SF)
(H・G・エーヴェルス&エルンスト・ヴルチェク / ハヤカワ文庫SF 2004)
『ペリー・ローダン・シリーズ』の第302巻です。
実験艦の事故で並行宇宙へ飛ばされてしまったローダン一行は、その宇宙を支配する独裁者ローダン(作中ではアンティポーデ:対蹠人、つまり正反対の考え方をする人物と称されます)に追われながら、助力してくれる勢力を求めて銀河をさまよいます。
この並行宇宙という設定は決して目新しいものではありませんが、こういう大長編の中では甚だ使い勝手がいいと思います。なにしろ、新しい宇宙や世界の設定をしなくてもかなりの期間にわたってストーリーを保たせることができる(笑)。ミステリではありませんが、一人二役、いや二人一役の叙述トリックなども使おうとおもえば使えそうですし。
マンネリを防ぐためにどんな仕掛けが出てくるのか、今後を見守りましょう。
<収録作品と作者>「パルピロンの闘技会」(H・G・エーヴェルス)、「権力の勝利」(エルンスト・ヴルチェク)
オススメ度:☆☆☆
2004.8.8
物語の魔の物語 (怪奇・幻想:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 徳間文庫 2001)
テーマを決めて過去の怪奇幻想短編を集めたアンソロジー、『異形ミュージアム』の第2弾です。
今回のテーマは“物語の怪”です。わかりにくいかも知れませんが、作者が物語の中に取り込まれてしまったり、作中の怪異がいつのまにか読者の身に降りかかってきたり、作中作による入れ子構造の趣向とか、叙述トリックとか、いわゆる“メタフィクション”と呼ばれる作品群が含まれます。
代表的な長篇と言えば御大キングの「ダーク・ハーフ」とか、日本のミステリでは「匣の中の失楽」(竹本健治)とか。短編で印象に残っているのは、昔に読んだフレドリック・ブラウンの「うしろを見るな」(創元推理文庫「真っ白な嘘」所収)だったりします。
あらすじを記すだけでネタが割れてしまうような作品が多いので、個別の紹介は避けますが、女優の岸田今日子さんの作品「セニスィエンタの家」とか、短いけれど鮮烈な「丸窓の女」(三浦 衣良)とか、横溝正史さんの異色作「鈴木と河越の話」(なんと、ある外国有名ホラーと同じネタを半世紀前に使っている!)とか、バラエティに富んでいて楽しめます。
<収録作品と作者>「牛の首」(小松 左京)、「死人茶屋」(堀 晃)、「ある日突然」(赤松 秀昭)、「猟奇者ふたたび」(倉阪 鬼一郎)、「丸窓の女」(三浦 衣良)、「残されていた文字」(井上 雅彦)、「セニスィエンタの家」(岸田 今日子)、「五十間川」(都筑 道夫)、「海賊船長」(田中 文雄)、「鈴木と河越の話」(横溝 正史)、「殺人者さま」(星 新一)、「何度も雪の中に埋めた死体の話」(夢枕 獏)、「海が呑む(I)」(花輪 莞爾)
オススメ度:☆☆☆
2004.8.20
岡本綺堂集 (怪奇)
(岡本 綺堂 / ちくま文庫 2001)
『怪奇探偵小説傑作選』としてちくま文庫から連続刊行されたシリーズの第1巻です。
岡本綺堂は明治から大正、昭和初期にかけて活躍した劇作家ですが、探偵小説や時代小説(捕物帳というジャンルの創始者でもあります)でも佳品を遺しています。
また、海外のミステリや怪奇小説にも造詣が深く、彼が編纂・翻訳した『世界怪談名作集』上下巻が河出文庫から復刊されています(これはお勧めですよ)。
さて、本書は綺堂の怪奇短編25篇が収録されています。江戸期や中国の怪異譚や西洋の怪談を元ネタにしているのも多いそうなのですが、見事に換骨奪胎し、リズム感のある文体で極上の怪談噺に仕上げています。
どの話も、怪異を体験した人物かそれを聞き知った人間が語るという怪談噺の王道で、へたに因縁話のように謎解きをせず、謎は謎のままにしてしまうという手法が生きています。
現代のおどろおどろホラーに食傷した方、口直しにどうぞ(笑)。
<収録作品>「青蛙神」、「利根の渡」、「兄妹の魂」、「猿の眼」、「蛇精」、「清水の井」、「窯変」、「蟹」、「一本足の女」、「黄いろい紙」、「笛塚」、「竜馬の池」、「木曾の旅人」、「水鬼」、「鰻に呪われた男」、「蛔虫」、「河鹿」、「麻畑の一夜」、「経帷子の秘密」、「慈悲心鳥」、「鴛鴦鏡」、「月の夜がたり」、「西瓜」、「影を踏まれた女」、「白髪鬼」
オススメ度:☆☆☆☆
2004.8.22
新・SFハンドブック (ガイド)
(ハヤカワ文庫SF 2001)
1990年に同文庫から発刊された「SFハンドブック」の改訂新版。
SFの歴史からジャンル解説、用語集、編集部お勧めの作品紹介、日本人作家による自分のお気に入りベスト5の紹介(ハヤカワ文庫限定なのはご愛嬌)、海外SF賞の受賞作品一覧など、盛り沢山。巻末のハヤカワ文庫SF既刊リストはたいへん役に立ちます。
ちなみに、既刊リストで自分がどのくらい読んでいるか調べてみると、こんな結果になりました。
読了済み:716冊
同じものを他社本で読了済み:25冊(創元、サンリオなど)
入手済み未読:206冊
未入手:419冊
これを見て、「ずいぶん読んでるな」と思うか「まだこんなに読んでないのがあるのか」と思うかは気分次第(笑)。
SFに興味があって、これからいろいろ読んでみたいという人には格好の入門書、ベテランには自分の読書遍歴を再確認する手がかりになると思います。
参考までに、自分のSFベスト5(ハヤカワ文庫限定)を挙げると、こうなります。
・ハイペリオン(ダン・シモンズ)
・夏への扉(ロバート・A・ハインライン)
・知性化戦争(デイヴィッド・ブリン)
・飛翔せよ、閃光の虚空へ!(キャサリン・アサロ)
・竜の夜明け(アン・マキャフリイ)
ついでに創元版限定では・・・
・サンティアゴ(マイク・レズニック)
・創世記機械(ジェイムズ・P・ホーガン)
・自由軌道(ロイス・マクマスター・ビジョルド)
・歌う船(アン・マキャフリイ)
・アースライズ(マイクル・P・キュービー=マクダウェル)
(太字は、さらにベスト5を絞り込んだ場合)
オススメ度:☆☆☆☆
2004.8.23
人獣怪婚 (怪奇:アンソロジー)
(七北 数人:編 / ちくま文庫 2000)
先日ご紹介した“猟奇文学館”の残りの第2巻です。(1巻「監禁淫楽」、3巻「人肉嗜食」)
今回はタイトルの通り、人と人ならざるものとの交婚にまつわる怪異・幻想を描いた短編が集められています。
怪奇小説の世界でなくとも、このテーマは神話やおとぎ話の中に沢山見られますよね。「鶴女房」とか「信太狐」とか、童話の「人魚姫」もそうですし、SFの世界になると異星人と××なんてのは「恋人たち」(フィリップ・ホセ・ファーマー)以来いろいろと書かれています。
この本にも、リリカルで幻想的なものからそのものずばりのエログロな作品まで、バラエティに富んだものが収められています(一部18禁)。お相手(?)も豚や狸といった獣類からインコ、鶴、ヘビ、魚、昆虫、エイリアンまでいろいろ(いったいどうやって・・・? というのは読んでのお楽しみかも)。
<収録作品と作者>「透明魚」(阿刀田 高)、「幻鯨」(赤江 瀑)、「わがパキーネ」(眉村 卓)、「鱗の休暇」(岩川 隆)、「白い少女」(村田 基)、「美女と赤蟻」(香山 滋)、「心中狸」(宇能 鴻一郎)、「獏園」(澁澤 龍彦)、「ゆめ」(中 勘助)、「鶴」(椿 實)、「青い鳥のエレジー」(勝目 梓)、「獣舎のスキャット」(皆川 博子)
オススメ度:☆☆
2004.8.31