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イクシーの書庫・過去ログ(2004年7月〜8月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


タクラマカン (SF)
(ブルース・スターリング / ハヤカワ文庫SF 2001)

以前にも何度か言及したことですが、いわゆる“サイバーパンク”は、どうも苦手でした。ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」を読んだ時、どうもこの手の内容は肌に合わないなあ、ついていけないなあ、と思い、敬遠して来ました。従いまして、当時“サイバーパンク”の新鋭として紹介されていたスターリングも同様で、この「タクラマカン」が初読みです。
ところが、読んでみたところ、思いのほか異和感がないことに気付きました。21世紀になって社会環境や生活環境が変わり、“サイバーパンク”の電脳世界が馴染み深くなったのか、それともスターリングの作風がギブスンよりも自分の感性に合っていたのか・・・。両方の要素が合さっているような気がします。
この本は短編集で、ルーディ・ラッカーとの共作を含む7編が収められています。
日本を舞台にした「招き猫」(原題が“Maneki Neko”なんですぜ。日本のSFマガジンに掲載するために書き下ろされたのだそうです)や、北欧を舞台にテロリストの悲哀を描く(日本の某カルト宗教も出て参ります)「小さな、小さなジャッカル」、すっとぼけたアイディアとシュールな風景が秀逸の「クラゲが飛んだ日」(ラッカーとの共作)など。
特に後半の3作品「ディープ・エディ」「自転車修理人」「タクラマカン」は、世界背景やガジェット、登場人物の一部が共通しています。世界は北米経済連合NAFTA・EU・日中を主体としたアジア協力圏(なんか大東亜共栄圏みたいですが)の三大勢力が対立し、常にどこかで紛争の火種がくすぶっています。ゴーグル型の多機能情報端末“スペックス”(ネットに直結されていて、例えば目の前にいる見知らぬ人物の外見で検索をかけ、相手のプロフィールを即座に把握できる)を使いこなすNAFTA出身のハッカー、エディが「ディープ・エディ」でヨーロッパを混乱の渦に巻き込んだかと思えば、エディの留守を預かる自転車修理工ライルはチャタヌーガの自宅に政府の工作員に潜入され、その危機を救った“シティ・スパイダー”(摩天楼の壁を自由自在に上り下りし、ハーレムの秩序を守る凄腕のクライマー)のピートは、「タクラマカン」で中国奥地の砂漠地帯に作られた謎の巨大施設に潜入する・・・といった次第。
読む前の予想に比べて(「これ、何で買ったんだっけ?」とか思っていた)、けっこう楽しめました。

<収録作品>「招き猫」、「クラゲが飛んだ日」、「小さな、小さなジャッカル」、「聖なる牛」、「ディープ・エディ」、「自転車修理人」、「タクラマカン」

オススメ度:☆☆☆

2004.7.2


失楽園殺人事件 (ミステリ)
(小栗 虫太郎 / 扶桑社文庫 2001)

扶桑社から出ている『昭和ミステリ秘宝』というシリーズ、作家や作品のセレクトがかなりディープでマニアックで、ひそかに注目していましたが、そのシリーズのひとつ。
「黒死館殺人事件」で一世を風靡した探偵・法水麟太郎が活躍する短編が7編収録され、おまけに小栗虫太郎が各誌に寄せたエッセイが100ページにわたって収められています。いずれも戦前戦中に書かれたもので、今読むと時代を感じさせられます。
タイトルを冠した「失楽園殺人事件」、これは今回、例の小説や映画を連想させて出版社側が一般受けを狙ったものでしょうが、タイトルからどろどろした男女の不倫に端を発する殺人事件だと思うと、大いに期待を外されることになります。
「後光殺人事件」「聖アレキセイ寺院の惨劇」「夢殿殺人事件」など、どれも密室で発生する不可解な殺人事件を、当時の最新の医学知識や心理学を駆使して解決するという筋立てで、現代の科学知識からすれば「おいおい、そんなわけねーだろ!」というものが多いのですが、とにかく雰囲気に浸って至福のひと時を過ごすことができました。
また、巻末のエッセイでは、当時の探偵小説文壇を彩った先輩・同輩作家との意見のやり取りや、マレー半島へ滞在していた経験を元に奇怪な生物や当地の奇習を紹介したものが大変興味深く、特に後者の知識の蓄積が、あの「人外魔境」シリーズに結実したのだと再認識したのでありました。

<収録作品>「後光殺人事件」、「聖アレキセイ寺院の惨劇」、「夢殿殺人事件」、「失楽園殺人事件」、「オフェリヤ殺し」、「潜航艇『鷹の城』」、「人魚謎お岩殺し」、「千社札奇験膏薬」、「三重分身者の弁」、「他人の自叙伝」、「禿山の一夜」、「胡鉄仙人に御慶を申すの記」、「林田葩子女子に就いて」、「反暗号学」、「諸姦戒語録」、「吊し斬り色さまざま」、「野毛の牡蛎の話」、「薔薇占い」、「リリアン・ハーヴェー」、「夏と写楽」、「畸史三種」、「バーナム華やかなりし頃」、「馬来の毒」、「出逢った怪虫類」、「馬来の咒術・奇毒」、「熱帯魚の本籍地」、「「万年青」劇団」、「動物アルセーヌ・ルパン」、「秘密結社『白虎会』」、「獏力車」

オススメ度:☆☆☆

2004.7.5


ダーティペア 独裁者の遺産 (SF)
(高千穂 遙 / ハヤカワ文庫JA 2001)

おなじみ“ダーティペア”の新シリーズか? と思って買ったら、違っていました。というよりも、“ダーティペアFLASH”の第3作もまだ読んでいないうちに新シリーズを読んでいいのだろうかと思ったりして。
イラストレーターさんも安彦良和さんに戻って、どんな新展開が繰り広げられるのかと思いましたが・・・なるほど、解説を見て納得。
この作品は、もともとインターネット上で配信されるコンテンツとして製作されたものだったのですね。全然知らなかった。
時代設定としては、FLASHのしばらく後。まだ正式任官してから1年足らずの新米トラコン、ケイとユリが送り込まれたのは惑星アムニール。ここは独裁政治を敷いていた大統領が革命で倒され、新政権が樹立されたのですが、衛星軌道上のスペースコロニーには独裁政権の残党が立てこもり、抵抗を続けています。“皇帝の息子たち”を名乗るかれらが頑強に抵抗する背後には、大統領が遺した“小鬼作戦(オペレーション・ゴブリン)”というコードネームの謎の計画が潜んでいました。
到着と同時に戦闘に巻き込まれたケイとユリは惑星全土を巻き込んで事件の謎に立ち向かいます。そして明らかにされる“小鬼作戦”の正体――。
ダーティペアの頼れる相棒、クァールのムギとの馴れ初め(?)の記でもあります。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.7.5


竜魔大戦5 ―狼の帰郷― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2000)

少し間が空きました。大河ファンタジー“時の車輪”の第4シリーズの第5話です。
これまでの3シリーズは5巻で終わりでしたが、今回はまだまだ続きます。どうやら人気が出るにつれて長くなったらしいです(
1巻の解説を読むと、実際アメリカ本国ではこの「竜魔大戦」から本格的に人気が上がったそうですが)。
さて、前巻前々巻で3パーティに分かれて旅を進める旅の仲間(違います)。
本巻の前半では、<光の子>(闇の信徒と異能者を敵視する狂信者集団)と闇の妖獣トロローク軍団に蹂躙された故郷のトゥー・リバーズへ戻ったペリンの物語(だから副題が「狼の帰郷」なのです)。家族を襲った悲劇に耐え、村を救うためにペリンは立ち上がります。3人の男主人公の中ではもっとも好感の持てる(他のふたりが、考え足らずですぐに災難をおびき寄せたり、何でも自分で解決しようとして泥沼にはまるタイプだからかも知れませんが)ペリンが、久しぶりに登場するトゥー・リバーズの面々のリーダーとなって立ちます。
一転、後半ではアイール人の聖なる都ルイディーンから戻ったアル=ソア(とマット)がアイール人の間に不穏な空気を引き起こします。偶然(?)出会った旅商人たちをまじえ、全アイール部族を結集させるアル=ソアの真意は?
やきもきさせながら6巻へ続きます。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.6


竜魔大戦6 ―闇が巣くう街― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2000)

引き続いて“時の車輪”シリーズの続巻ですが、実は「書庫」に書き記すのを忘れていたようで(汗)。
過去ログを整理しながら蔵書データベースと照合していて、記載が抜けていることに気付きました。あ〜恥ずかしい。
内容について記憶をたどると、ナイニーヴやエレイン王女のパーティが、黒アジャの行方を探して訪れた、東の港町タンチコでの事件が描かれていたはずです。
とりあえず、そういうことで、
次巻へ〜(脱兎!)

オススメ度:☆☆☆

2004.7.7


超古代文明論 (オカルト)
(高橋 克彦&南山 宏 / 徳間文庫 2001)

オーパーツやら、ムーやアトランティスといった超古代文明、ピラミッドの謎、UFOやUMAなど、古今のオカルトネタを、小説家の高橋さんと超常現象研究家の南山さんが対談形式で語るというもの。
まあ、オカルト現象に関しては純粋無垢なビリーバー(笑)の高橋さんと、オカルトライターの中では良識派と思われる南山さん(SFマガジンの元編集長でもいらっしゃいます)ですが、出版元が出版元ですし(笑)、かなりビリーバー寄りの内容になっているんだろうな、という予想の下に読み始めました。
予想以上でした(汗)。
序盤、東北の縄文文明とか「東日流外三郡誌」とかの話題はまだ納得できるのですが、途中からはついていけなくなりました。
だって、「僕は月というのは宇宙人が中に住んでいると思っていますから」なんて真顔で言われちゃったら、どうしろって言うんですか(笑)。高橋さんは作家としては大したもので、「総門谷」シリーズとか「星封陣」とか伝奇ものは荒唐無稽な中にも説得力があって(あくまでフィクションとしての説得力)好きなんですが、それとこれとは別。南山さんも版元に配慮したのか(笑)、肯定的発言が多いですし、これはもう眉に唾をつけまくりながら読むか、トンデモ本と割り切って読むしかありません。
前半、W大学のO槻教授(例のプラズマ理論の先生)やエジプト学者のY村教授をふたりしてこき下ろしていますが(そりゃ確かにO槻さんって、変ですけど(^^;)、なんとなく●●党が●●党の政策を批判しているみたいな感じで(お好きな政党名を入れてください)、どっちもどっちという気がします。後半、UFOディレクターのY追さんやサイエンス・エンターテイナーA鳥さんの姿勢を批判しているのは、大いに納得できますが(笑)。
で、結局は何が言いたかったのか、よくわかりません。自分の著作と徳間の出版物の宣伝をしてたってことは確かなんですけど。

オススメ度:☆

2004.7.8


死へのテレポート (SF)
(ウィリアム・フォルツ&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2004)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の第301巻。今月から、早川書房さんが毎月刊行にペースアップしてくださいましたので、これで2月と6月にシリーズ新刊が出なくて悶々とすることがなくなります。バンザイ!
さて、
前巻の後半から新サイクルに入った本シリーズ。
最新の科学実験の結果、並行宇宙に飛ばされてしまったローダンと《マルコ・ポーロ》の乗組員たち。その宇宙にも地球や太陽系帝国が存在しており、もちろんローダンやその側近も揃っています。しかし、元の宇宙と大きく違っていたのは、ここの太陽系帝国は苛烈な恐怖政治を敷く独裁国家であり、ローダンたちも残忍で利己的な性格をしていたことです。当然、新来の“本当の”ローダンたちに脅威を感じたこの宇宙のローダン(ローダン2と呼ばれます)は、かれらを殲滅しようとします。
なんとか逃れたローダン一行、元の宇宙へ戻るため、協力者を探し始めますが、ここで登場するのが前サイクルでローダンの仇敵だったあの人だというのが、気が利いています。フォルツのアイディアでしょうか。
後半のエピソード「ラス・ツバイ救出作戦」(ベタなタイトルですね)も、ダールトンらしいヒューマニティあふれる一編に仕上がっていて、好感度大(笑)。
前半、怪しげな存在がちらっと出てきて気をもませますが、正体が明らかになるのは当分先でしょう。

<収録作品と作者>「死へのテレポート」(ウィリアム・フォルツ)、「ラス・ツバイ救出作戦」(クラーク・ダールトン)

オススメ度:☆☆☆☆

2004.7.9


ひとりで夜読むな (怪奇・幻想:アンソロジー)
(角川ホラー文庫 2001)

・・・いえ、そう言われましても(^^; 読んじゃいましたよ、夜、ひとりで(笑)。
戦前に探偵小説誌として一世を風靡した雑誌「新青年」に掲載された、怪奇・幻想味の強い作品を集めた傑作集。以前にご紹介した同じ角川ホラー文庫の
「爬虫館事件」以上に妖しさ大爆発です。
戦前の探偵小説というのは、海外の珍奇な生物や毒薬を扱ったり、奇病や医学ネタが謎解きのキーになったりという作品が多いので、たいへん好みに合っているのです。リアリズムなんて関係ない、エキゾチズムとロマンチシズムこそ華!
インドを舞台にした幻想綺譚「ヤトラカン・サミ博士の椅子」(牧 逸馬)、南米の謎の類人猿を扱った「マトモッソ渓谷」(橘 外男)、絶海の孤島を襲った奇病を描く「柘榴病」(瀬下 耽)、南方ものとは対照的に北極圏に近い孤島に黄金郷の幻影をつむぐ「紅毛傾城」(小栗 虫太郎)、日本国内を舞台としていても、蚊が媒介する奇病の恐怖「エル・ベチョオ」(星田 三平)、ポオの作品の翻案かと思えば意外に本格医学ミステリ「告げ口心臓」(米田 三星)、これも医院を舞台とした「痴人の復讐」(小酒井 不木)と、ある意味では他愛無いネタかも知れませんが、大いに楽しみました。

<収録作品と作者>「ヤトラカン・サミ博士の椅子」(牧 逸馬)、「死屍を食う男」(葉山 嘉樹)、「紅毛傾城」(小栗 虫太郎)、「可哀想な姉」(渡辺 温)、「鉄槌」(夢野 久作)、「痴人の復讐」(小酒井 不木)、「柘榴病」(瀬下 耽)、「告げ口心臓」(米田 三星)、「聖悪魔」(渡辺 啓助)、「本牧のヴィナス」(妹尾 アキ夫)、「エル・ベチョオ」(星田 三平)、「マトモッソ渓谷」(橘 外男)、「芋虫」(江戸川 乱歩)、「作家をつくる話 なつかしき「新青年」時代」(水谷 準)

オススメ度:☆☆☆

2004.7.11


真夜中への鍵 (ホラー)
(ディーン・クーンツ / 創元推理文庫 2001)

90年代、クーンツは初期の作品に手を入れて再刊するということを、かなりやっています。先日読んだ「デモン・シード」もそのような一編ですが、この「真夜中への鍵」も同じ。こちらはクーンツがリー・ニコルズという女流作家名義で書いた5編のうち、最初に書かれたもので、また大部分が日本を舞台にしていることでも異色の作品と言えます。
主人公ジョアンナは、イギリス生まれ。事故死した両親から受け取った遺産で異国の日本、それも京都にナイトクラブを開き、経営者であると同時に夜毎ステージに立って歌っています。しかし、ジョアンナには人に言えない悩みがありました。毎晩、鉄の義手を付けた謎の男に襲われる夢を見るのです。
休暇旅行の途中、偶然そこを訪れたのは、アメリカで警備会社兼探偵会社を経営するアレックス。ジョアンナをひと目見たアレックスは、ジョアンナの身分は偽りで、10年以上前に失踪した、アメリカの上院議員シェルグリンのひとり娘リーサなのではないかと疑いを抱き、ジョアンナに接近します。
いつしか二人は恋に落ちますが、かれらの身辺に怪しい影がちらつき始めます。アレックスは武器を持った男に尾行され、資料を持って来日したアレックスの部下は交通事故を装って殺されそうになります。
ジョアンナの過去に、それらの謎を解く鍵があると信じたアレックスは、退行催眠によって、意識下に隠されていたジョアンナの記憶を引き出しますが、それは想像を絶する怖ろしい過去なのでした。更に謎を追ってイギリスへ向かうふたり、その先に待つ運命は――。
スーパーナチュラルなホラー要素はなく、純粋サスペンスと言っていいと思いますが、京都の風情や日本料理を描くクーンツの筆は適確で、日本に来た事がないというのは不思議なくらいです。終盤になって明かされるネタは、同じニコルズ名義で書かれた別の作品(ネタバレになるのでタイトルは伏せます。両作品を読んだ人なら「ああ・・・」とうなずけるでしょう)とも通底する、一歩間違えばばからしいとさえ言えるものですが、さすがはクーンツ、リアリティの側に踏みとどまっています。
ラストはちょっと弱いような気もしますが、それは近年のクーンツ作品を読み慣れてしまっているからでしょう。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.12


スピリット・リング (ファンタジー)
(ロイス・マクマスター・ビジョルド / 創元推理文庫 2001)

“マイルズ”シリーズでおなじみのビジョルドの、初の(そして今のところ唯一の)ファンタジー作品です。
舞台はルネサンス期のイタリアの片田舎。
15歳の少女フィアメッタは、ムーア人の母(故人)と魔術師の父親の間に生まれた一人娘。生まれつき炎(炎素?)を操る能力を持っており、父に隠れて魔法の練習をしていますが、女の子ということで正式な魔法の修行は許されず、同年代の少女が婚約・結婚していくというのにそういう話もなく、いろいろと不満はあるもののそれなりに平穏な日々を過ごしていました。
ところが、隣国の領主フェランテがフィアメッタの領主モンテフォーリア公の娘との婚礼(もちろん政略結婚)の席で、モンテフォーリア公を殺害し、フェランテの部下が町を占拠してしまいます。フェランテは黒魔術師を部下に持ち、死者の魂を封印してそのパワーを操る“スピリット・リング”(死霊の指輪)を使う黒魔術の徒でした。
フィアメッタと父親プロスペロも戦いに巻き込まれ、プロスペロはフェランテの指輪を破壊することには成功しますが、逃避行の途上、持病の心臓が悪化して死亡してしまいます。
一方、モンテフォーリア公の近衛隊長ウーリの弟トゥールは、故郷の鉱山で鉱夫として働いていましたが、兄の勧めでプロスペロの徒弟となるため、町へ向かっていました。トゥールには鉱脈や水脈を探し当てる能力があり、地霊や精霊とおぼろげながら交流することができます。
偶然、宿屋で出会ったフィアメッタとトゥールは、町から避難してきた人たちがたてこもる修道院へ向かい、魔術師でもある修道院長モンレアレと協力して、町を解放するべく策を練り始めます。その間にも、フェランテと黒魔術師ヴィテルリは、プロスペロの遺体を確保しておぞましい計画を実行しようとしていたのでした。
モンレアレの命を受けたトゥールは、何も知らぬ鋳物職人を装って、町へ潜入します。そして――。
これ以上はネタバレなので、後はお読みください(笑)。
ここで扱われているのは、“魔術”という名称で呼ばれていますが、錬金術的要素が濃厚です。金属を扱うのが中心だったり、精霊と交感したり(笑)。
また、波乱万丈のストーリーの中、作品を構成するあらゆる要素が自然に絡み合い、ひとつとして無駄な部分がありません。前半にさりげなく触れられていた出来事が後半に大きな意味を持ってきたり、主人公や敵役以外のほんの端役のひとりひとり(動物や精霊も含め)に至るまで、ちゃんと見せ場が用意されています。何よりも、小説としての完成度が非常に高いのです。そして、クライマックス数十ページの燃える展開は、涙が出るほどです(自分的には、「竜の夜明け」のクライマックスか、“グイン・サーガ”のパロ解放のくだりに匹敵すると思います。泣けるぜ!)。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.7.15


Jファクター ―臓器移植順位― (サスペンス)
(スティーヴン・カーナル / ハヤカワ文庫NV 2001)

近未来のアメリカを舞台にしたメディカル・サスペンス。作者のS・カーナルは数々の医療訴訟をこなしてきたベテラン弁護士で、この作品が処女作だそうです。
世界の臓器移植を一手に握る国際コングロマリット“国際臓器移植会社”(略称IORC)は、各国政府と条約を結び、治外法権的な特権を持って医療市場に君臨していました。国民すべては“Jファクター”と呼ばれるランク付けをされ、病気や事故などで臓器移植が必要な状況になった時は、Jファクターによる優先順位に基づいて移植の可否が決定されるのです。順位付けは公平なものとされていますが、疑惑の影がちらつき、反対運動を行う勢力もいます。
主人公の心臓外科医デイヴィッドの父親も、Jファクターの順位が低かったために移植を受けられないまま心臓疾患で死去していました。
デイヴィッドは、勤務先の国立病院で初めて行った心臓移植手術を見事な手際で成功させますが、移植した心臓がIORCから供給されたもので、法的には移植が許可されないものであったことを知ります。しかし、患者の命を救うことを第一と考えるデイヴィッドにしてみれば、違法であろうが何であろうが、関係ないことでした。
一方、IORCの医師が飲酒運転で死亡事故を起こしますが、IORCは顧問弁護士を使って警官をまるめこみ、証拠のテープを隠蔽した結果、医師は不起訴となります。事件を担当した検察官ジャネットは、この結果を不服に思い、IORCに疑惑を覚えます。
ゴルフ場でたまたま出逢ったデイヴィッドとジャネットは互い惹かれあうものを感じますが、ある日、デイヴィッドが心臓移植を行った患者マイクルがIORCの健康診断を受けた際に心不全で急死してしまいます。IORCの対応に疑問を抱いたデイヴィッドは、IORCへの就職面接を受けるのを機会に、秘密研究所を案内され、IORCの臓器供給の秘密を知ります。それは、“医は仁術”を信念とするデイヴィッドには堪えられないことでした。
マイクルの死に疑念を持つデイヴィッドとジャネットは、友人たちの協力を得て謎を解こうとしますが、IORCの壁は厚く、ふたりの周辺にも危険な影が・・・。
序盤のストーリーは、作者自身も「こんな暗合は考えられないことだが」と言うほど偶然の連続で、ちょっとできすぎの気がしますが、中盤以降の筆の運びは見事。途中でやめられなくなります。
後半に登場する“意外な味方”についても、よく読むとちゃんと序盤に自然な形で伏線が張ってありますし、脇役のひとりひとりもそれぞれに存在意義があって、無駄がありません。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.7.16


疑惑の月蝕 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 2001)

『グイン・サーガ』の第77巻です。
前巻の最後の1行、衝撃の宣言が発せられましたが、この巻を読み通しても真相は判明しません。あの人のことだから、こんなにあっさり退場するはずはないと思いつつ、次の巻あたりで(タイトルがタイトルですし(^^;)新展開があるのではないかと期待しています。
結局、この巻ではその知らせを受けた各地の反応(ニュースみたいですが)を描いて、以降への伏線をいろいろ張っているというところでしょう。例によってスカールは神出鬼没だし、イシュトヴァーンはゴーラで何やらきな臭い陰謀をめぐらしているし、ケイロニアのグインは冷静に進展を見守るも、これも例によってマリウスが事態をややこしくするし・・・。
ともあれ、次巻「ルノリアの奇跡」近日登場。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.17


竜魔大戦7 ―白い塔の叛乱― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2001)

大河ファンタジー『時の車輪』の第4シリーズ第7巻。
今回も、三つに分かれた主要パーティのふたつが描かれますが、それとは別の場所で大事件が。
異能者の都タール・ヴァロンの塔で、アミルリン位(異能者のリーダー)への反対勢力による叛乱が発生、アミルリン位のシウアン・サンチェは能力を奪われて幽閉されてしまいます。それを知ったミンはなんとか救出を画策します。
一方、港町タンチコで黒アジャの手がかりを探すナイニーヴとエレインは、知的で勇敢、腕っ節も強い女性エギアニンと親しくなりますが、実はエギアニンは絶対力を持つ女性を奴隷として使うショーンチャン人でした。また、ふたりは宿舎で謎の女性の訪問を受けます(正体は後半であっさりと明かされますが)。
さらに、アイール荒地にとどまり、アイール人の全氏族の大集会の開催を待つアル=ソアは苛立ちつつも、自らの意思を実現すべく動き始めます。
この“竜魔大戦”、次の
第8巻でひとまず終ることになっているのですが、とても決着がつきそうにありません。そのまま次のシリーズに引き継がれていくのでしょうね。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.17


ハッカー/13の事件 (SF:アンソロジー)
(ジャック・ダン&ガードナー・ドゾワ:編 / 扶桑社ミステリー 2000)

“ハッカー”――コンピュータ・ネットワークに侵入して好き放題をやる連中。
というような意味が定着しているようですが、元々はそのような犯罪的な意味に限定されていたわけではなく、とにかくコンピュータをいじるのが好きで技術のある人物(逆の意味もあるらしい)という広い意味合いで使われていたものです。
その意味では、このアンソロジーも単なるコンピュータ犯罪者・アウトローだけが主人公なわけではありません。ハイテク・サスペンスといったミステリ的な物語が多いのかと思っていましたが、ラインアップはすべてSFでした。まあ集まった顔ぶれを見ればわかりますね(笑)。
このジャンルでは古典と言える「クローム襲撃」(ウィリアム・ギブスン)、ハッキングという主題よりも前提となる設定がすごい「血をわけた姉妹」(グレッグ・イーガン)、異星人に占領された地球でささやかな抵抗を試みる男のドラマ「免罪師の物語」(ロバート・シルヴァーバーグ)、政治も企業も関係ない市井の片隅での壮絶な(どうでもいい)対決「ドッグファイト」(M・スワンウィック&W・ギブスン)、切ない幕切れが余韻を残す「マイクルとの対話」(ダニエル・マーカス)、とにかく読んでくださいとしか言いようがない「タンジェント」(グレッグ・ベア)など、13編の物語。

<収録作品と作者>「クローム襲撃」(ウィリアム・ギブスン)、「夜のスピリット」(トム・マドックス)、「血をわけた姉妹」(グレッグ・イーガン)、「ロック・オン」(パット・キャディガン)、「免罪師の物語」(ロバート・シルヴァーバーグ)、「死ぬ権利」(アレクサンダー・ジャブロコフ)、「ドッグファイト」(マイクル・スワンウィック&ウィリアム・ギブスン)、「われらが神経チェルノブイリ」(ブルース・スターリング)、「マシン・セックス〔序論〕」(キャンダス・ジェイン・ドーシイ)、「マイクルとの対話」(ダニエル・マーカス)、「遺伝子戦争」(ポール・J・マコーリイ)、「スピュー」(ニール・スティーヴンスン)、「タンジェント」(グレッグ・ベア)

オススメ度:☆☆☆

2004.7.19


エンダーの子どもたち(上・下) (SF)
(オースン・スコット・カード / ハヤカワ文庫SF 2001)

エンダー・ウィッギンを主人公とするSFシリーズの、ええと・・・第4弾?(「エンダーズ・シャドウ」は外伝と位置づけます)
※以降、本シリーズのストーリー概略を語りますので、ネタバレが嫌な方はご注意。
「エンダーのゲーム」で、昆虫型異星人バガーの母星を殲滅し、地球を救った天才少年エンダー。しかし、後にバガーの意図を誤解していたことを知ったエンダーは、自分の行動を反省して「死者の代弁者」として宇宙を経巡ります。バガー戦争の3000年後、相対論的時差によりまだ30代のエンダーは辺境の惑星ルジタニアで、土着の異知性体ピギーが地球人の異生物学者を殺害した事件を解決します。家庭を持ち、ルジタニアに骨を埋めようとするエンダーですが、ルジタニアが人間にとって致死的なデスコラーダ・ウイルスに汚染されていることを知った銀河連合は、かつてバガーの母星を滅ぼした惑星破壊爆弾でルジタニアを殲滅すべく粛清艦隊を派遣します。ネットワーク知性ジェインや姉のヴァレンタインの協力を得て、危機を回避しようとするエンダー。中国文化を残す惑星パスの天才少女ハン・チンジャオにジェインの正体を暴かれながらも、なんとかデスコラーダ・ウイルスを無力化することに成功し、ジェインの力で超光速飛行が可能となったところで、前作「ゼノサイド」は終了。「エンダーの子どもたち」は、その直接の続編です。
未読の方は、「ゼノサイド」と本作は続けて読まれるのが吉かと。それもそのはず、もともとこの2作は1本の作品として構想されたものなのだそうです。
さて、粛清艦隊を阻止するために、エンダーは超空間に漂うアイウア(魂のようなもの)から造った自己の分身ピーター(エンダーの実兄を模倣したもの)を派遣し、ハン・チンジャオの召使で高度な知性の持ち主シー・ワンムと共に工作を開始。一方、同じく分身のヴァル(実姉のヴァレンタインを模倣したもの)は、エンダーの義理の息子ミロたちと、ルジタニア住民を疎開させる惑星を探査する途上、デスコラーダ・ウイルスのもたらした存在が住むと思われる惑星を発見します。しかし、生身のエンダーは生きることに疲れ、銀河連合による超空間通信網の切断によってジェインは消滅の危機に見舞われます。
さて、ルジタニアの運命はいかに?
確かにテンポはいいし、ストーリーは波乱万丈だし、小説としては面白いのですが、どうもキリスト教的なお説教調の会話や展開が引っかかってしまうのです。まあカードの作品に共通して言えることなんですけど。
ひとまず、結末ではみんな落ち着くところへ落ち着いて(いろんな意味で(^^;)、めでたしめでたしなのですが、まだ謎は残り、たぶん続編へ続きます。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.21


幽霊船 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2001)

テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第18弾。
今回のテーマはタイトル通り「幽霊船」です。
怪奇小説ジャンルの中でも、いわゆる“海洋奇談”は1ジャンルをなしており、ウィリアム・ホープ・ホジスンの連作とかコナン・ドイルとか(実はドイルはホームズもの以外にも怪奇小説もいろいろ書いていまして、新潮文庫「ドイル傑作集」1〜3のうち、2巻は海洋奇談編、3巻は恐怖編となっています。オススメ)、フレデリック・マリヤットとか一家をなしている人がいます。
また“実話”の世界でも、マリー・セレスト号とかシャルンホルスト号の呪いとか、イワン・ワッシリ号のサイコ・ヴァンパイアとか、魔の三角海域とか、枚挙にいとまがありません。
ネタは極上なわけですから、あとは各作家さんがどう料理するかということになるわけですが、さすがは腕達者揃い。どれも粒ぞろいの逸品でした。
マリー・セレスト号の謎を斬新な解釈で解く「遺棄船」(北原尚彦)、復讐のために繰り返し現れる「幽霊船」(横田順彌)、陸の上では迷信と片付けられても船上ではそうはいかない「鳩が来る家」(倉阪鬼一郎)、浦島太郎をモチーフとした異形譚「深夜、浜辺にて」(飯野文彦)、空にもいる幽霊船「死の箱舟」(石田一)、リリカルな恋愛譚と怪異が溶け合った「リジアの入り江」(竹内義和)、海洋冒険談にはつき物の海賊と幽霊船をミックスした「船の中の英吉利人」(奥田哲也)、宇宙空間を漂う生命なき船を描く「パンとワイン」(草上仁)など。

<収録作品と作者>「沈鐘」(小沢 章友)、「右大臣の船」(高瀬 美恵)、「アーネスト号」(安土 萌)、「船の中の英吉利人」(奥田 哲也)、「時化」(小中 千昭)、「リジアの入り江」(竹内 義和)、「ジルマの桟橋」(江坂 遊)、「海聲」(石神 茉莉)、「極光」(井上 雅彦)、「エイラット症候群」(薄井 ゆうじ)、「三等の幽霊」(速瀬 れい)、「Sirens」(村山 潤一)、「幽霊船」(横田 順彌)、「遺棄船」(北原 尚彦)、「舟自帰」(朝松 健)、「鳩が来る家」(倉阪 鬼一郎)、「深夜、浜辺にて」(飯野 文彦)、「スローバラード」(早見 裕司)、「死の箱舟」(石田 一)、「さまよえるオランダ人」(竹河 聖)、「パンとワイン」(草上 仁)、「渡し舟」(菊地 秀行)、「シーホークの残照(または「猫船」)」(田中 文雄)

オススメ度:☆☆☆☆

2004.7.23


神と悪魔の遺産(上・下) (ホラー)
(F・ポール・ウィルスン / 扶桑社ミステリー 2001)

あの“始末屋ジャック”が帰って来た!
「マンハッタンの戦慄」で初登場し、「ナイトワールド」でも魔神ラサロムとの最終決戦に参加した、裏稼業のタフでハードボイルドだけれど人情家の仕事師が、この作品では再び主役を務めます。
時代的には「マンハッタンの戦慄」の数ヶ月後で(関係ないですがラサロムは雌伏して力を蓄えている段階)、ジャックはあの事件で共に死線をくぐったジーア母娘と安らぎのひと時を過ごしつつ、相変わらず裏稼業に精を出しています。
ジーアがボランティアをしている小児エイズ病院からクリスマス・プレゼント用のおもちゃが根こそぎ盗まれた事件を解決したのが縁で、ジャックは女医アリシアと知り合います。アリシアは父親が遺した屋敷の所有権に関して腹違いの兄トーマスとトラブルになっており、彼女が雇った探偵や弁護士は次々に不審死を遂げていました。
ジャックが介入すると、トーマスの背後で暗躍する謎の組織の存在が明らかになります。さらに別の組織のエージェント(この組織、日本の組織でしかも名称からウィルスンの別のホラー小説を連想させますが・・・)も関わっており、ニューヨークを舞台に三つ巴の謀略戦が展開されます。
アリシアの父親が屋敷に隠していた謎とは・・・。
意外なことに、スーパーナチュラルな要素はひとつもありません。それでも、抜群に面白いサスペンス小説に仕上がっています。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.7.25


ルノリアの奇跡 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 2001)

“グイン・サーガ”の第78巻です。
前々巻前巻と思わせぶりに続いてきたアルド・ナリスの逃避行は、とりあえず本巻で決着をみます。 ナリスの密命で単独行動をしていたヴァレリウスも、力強い援軍(?)を連れて戻り、戦力的にはもっとも頼りになるあの二人が袂を分かったりしてしまいましたが、ともあれ、パロ王室を真っ二つにした死闘の舞台は整いました。
作者の栗本さんも「苦しかった」と述懐しておられますが、ここ3巻ほどは、確かに苦しんでる様子が構成や文章からも見て取れました。珍しい。
ともあれ、今後の怒涛の展開を楽しみに待ちたいと思います。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.26


幻視 (ホラー)
(米山 公啓 / 角川ホラー文庫 2001)

現役医師としても活躍し、メディカル・ホラー以外にも医学ノンフィクションなどを著している著者、読むのは初めてです。
都内の満員のライブハウスで、ボーカリストが出血し、頭蓋が破裂して死亡します。同様に、名古屋駅で携帯電話を使用中のビジネスマンが、また都内でインターネットを検索中の学生が、同様の症状で急死。
出血熱のようなウイルス性疾患が疑われ、疫学的分析を依頼された関東医科学研究所の研究員・若勢は、調査を続けるうちに、死者の脳細胞が異常増殖しており、ウイルスとも異なる微小な組織が生じていることに気づきます。
一方、最初のライブ会場にいて、患者の血液を浴びた黒木は幻覚に悩まされ、助けを求めて医科学研究所にコンタクトしてきます。若勢と同僚たちの調査の前に、明らかになった恐るべき真相とは――。
ネタはいいのですが、惜しむらくは200ページ強という短い作品なので書き込みが絶対的に不足しており、ただのアイディア・ストーリーに終ってしまっているところです。十分に説得力を持っているとは言いがたく、「そんなんありか?」というのが結末の印象。ロビン・クックか瀬名秀明さんが同じネタを料理すれば、壮大なメディカル・パニック・ホラーになったと思うんですけどね(笑)。

オススメ度:☆☆

2004.7.27


竜魔大戦8 ―聖都炎上!― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2001)

大河ファンタジー『時の車輪』の第4シリーズ、その完結編です。
結局、三者三様(いや、タール・ヴァロンの白い塔も含めれば四者ですか)に分かれたパーティは、それぞれ一応の結末にたどり着きます。
故郷のトゥー・リバーズの戻ったペリンは苦労と苦悩の末に闇の軍団を退けて、結婚(!)し、港町タンチコに向かったナイニーヴとエレインは、黒アジャが狙っていた品物の確保に成功しますが、謎は錯綜するばかり。そしてアイール人の伝説に語られる“夜明けとともに訪れる男”であることをなんとか証明したアル=ソアも、最後の戦い(これまでに比べると小粒ですが、意味は深そう)で●●を手ひどく破壊してしまいます。
ただ、これまでも感じていたことですが、場面転換が頻繁で、何の前振りもフォローもなくストーリーが飛び交うため、展開についていけないことがしばしば(笑)。重要な人物なのに、何巻か飛ばして現れたりするので「あれ、これ誰? なんでこんなところにいるの?」と悩むことも多いです。書きたいことが多すぎて、そこまで気が回らないんだろうなあ・・・(^^;
ともあれ、次のシリーズ
『竜王戴冠』に続きます。

オススメ度:☆☆☆

2004.7.28


タイタス・クロウの事件簿 (怪奇)
(ブライアン・ラムレイ / 創元推理文庫 2001)

不覚にも、このラムレイという作家はこれまで知りませんでした。正統派クトゥルー神話を一貫して書き続けていた人なのですね。そして、これは彼が創造したオカルティストにしてサイキック探偵のタイタス・クロウ(マーヴィン・ピークの重厚なアダルト・ファンタジー大作の主人公と名前の響きが似通っているのは偶然でしょうか?)が登場する全短編を収録したものです。
作風としては、同じクトゥルーでもダーレス風味というよりはC・A・スミスやR・E・ハワードの作品に雰囲気が似ています。タイタス出生の秘密が明かされる「誕生」に始まり、若き日のタイタスが黒魔術の徒と生命をかけて対決する「妖蛆の王」、長篇でも重要な役割を果たす(らしい)小道具を主題にした「ド・マリニーの掛け時計」、謀略小説との融合を図った「名数秘法」、シリーズの棹尾を飾る「続・黒の召喚者」まで作中の年代順に並べられているのも気が利いています。
なお、タイタスと相棒のド・マリニーを主人公とする長篇は6作書かれており、いずれもクトゥルーを下敷きとした、R・フォールコンの“ナイトハンター”シリーズもかくやという伝奇アクションだそうです。続けて文庫で紹介されると解説に書かれていましたが、まだ出ていませんね・・・(^^;

<収録作品>「誕生」、「妖蛆の王」、「黒の召喚者」、「海賊の石」、「ニトクリスの鏡」、「魔物の証明」、「縛り首の木」、「呪医の人形」、「ド・マリニーの掛け時計」、「名数秘法」、「続・黒の召喚者」

オススメ度:☆☆☆

2004.7.29


魔術師 (怪奇:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 角川ホラー文庫 2001)

古今東西の怪奇短編をテーマ別に編纂しようという野心的な試み、『異形アンソロジー・タロットボックス』の第2巻。
今回のテーマはタイトル通り“魔術師”です。
魔術師といえば、ステージ上で数々の奇跡を演出してみせる職業でもありますし、アレイスター・クロウリーのようなオカルティストをそう呼ぶこともあります(クロウリーをモデルとしたサマセット・モームの長篇で、そのものずばり
「魔術師」というのもありました)。いわゆる呪い師・妖術師は今回は意図的に外してあるそうです。
本朝からは、重厚なタッチでインド魔術の真髄を描く「ハッサン・カンの妖術」(谷崎潤一郎)と、それへのオマージュともいえる「魔術」(芥川龍之介)、忍術も魔術のひとつであると認識させてくれた「忍者 明智十兵衛」(山田風太郎)、文字通り一世一代の悲しき大トリック「奇術師」(土岐到)、ペーソスあふれる「さびしい奇術師」(梶尾真治)、SFですがマッド・サイエンティストではない“魔術師”を描く「劇場」(小松左京)、ノンフィクションを装いながら恐るべきビジョンをほのめかす「超自然におけるラヴクラフト」(朝松健)など。海外からは老魔術師の悲哀を描く「魔術師」(C・ボーモント)、夢と鏡という古典的素材を使いきった「わな」(H・S・ホワイトヘッド)、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の小品も収録されています。

<収録作品と作者>「魔術」(芥川 龍之介)、「超自然におけるラヴクラフト」(朝松 健)、「わな」(ヘンリー・セントクレア・ホワイトヘッド)、「奇術師」(土岐 到)、「忍者 明智十兵衛」(山田 風太郎)、「さびしい奇術師」(梶尾 真治)、「幻戯」(中井 英夫)、「花火」(江坂 遊)、「魔術師」(チャールズ・ボーモント)、「手品師」(吉行 淳之介)、「劇場」(小松 左京)、「ハッサン・カンの妖術」(谷崎 潤一郎)、「ひまわり」(ラフカディオ・ハーン)

オススメ度:☆☆☆

2004.7.31


ベラム館の亡霊 (ホラー)
(アンドリュー・クラヴァン / 角川文庫 1999)

ミステリ作家として知られる(読んだことはありませんが)クラヴァンが初めて書いたホラー作品。
いきなり冒頭から、これぞゴシック・ホラーという雰囲気の『黒衣のアニー』(スーザン・ヒルの「黒衣の女」を意識している?)という物語が始まりますが、これは話中話。ロンドンで開かれたとあるパーティの会場で、主人公のひとりリチャードが朗読している怪談話だったのですが、それを聞いた若い女性ソフィアはひどいショックを受けた様子を見せます。実は『黒衣のアニー』の内容が、幼い頃に目撃した惨劇にそっくりだったからです。
アメリカでの売れっ子映画監督という地位を捨ててイギリスへ渡り、オカルト雑誌の編集部に務めているリチャードはソフィアに一目惚れし、モーションをかけますが、画廊を営むソフィアはつれない返事。ソフィアは黒魔術に関連し、関係者が次々に死を遂げている謎の板絵と父親との関係を疑って悩んでいたのです。一方、リチャードの勤務先である雑誌『怪奇!』の編集長ハーパーも、いわくありげな過去を持っており、謎の組織から狙われています。
かつて南米のジャングルで集団死を遂げたカルト教団、ソフィアの生家“ベラム館”に残る亡霊伝説、ハーパーが追う中世から連綿と続く錬金術伝承――。これらが繋がった時、すべての謎が明らかにされます。
ロンドンを舞台にし、イギリス古来の幽霊譚の雰囲気をかもし出すと同時に伝奇的なモダンホラーの要素を持たせ、楽しめる作品に仕上がっています。女編集長ハーパーさんのキャラがいいです。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.3


ハイペリオンの没落(上・下) (SF)
(ダン・シモンズ / ハヤカワ文庫SF 2001)

『ハイペリオン』二部作の後半、「ハイペリオンの没落」いよいよ登場です。
「ハイペリオン」から更に増量(笑)、上下巻合わせて1050ページにも及ぶ大作。
辺境の惑星ハイペリオンの、そのまた辺境に位置する謎の遺跡“時間の墓標”を目指して旅してきた7人(+赤ん坊)の巡礼者たち。かれらそれぞれの数奇な運命とハイペリオンとの関わりを通じて、舞台となる28世紀の宇宙や人類文明、つまり道具立てが説明されたのが前巻でした。つまり、その段階では物語はまだ始まっていなかったとも言えるわけで、作者シモンズは900ページを費やして道具立てを整え、様々な謎を提出して、さあこれから解決篇ですよとばかりに、この「ハイペリオンの没落」を提出してきたわけです。
今回、狂言回しとして登場するのは画家のJ・セヴァーン。銀河連邦のCEOグラッドストーンの相談役として招かれた彼は、実は機械文明<コア>が復活させた詩人キーツのハイブリッド人格で、前巻で女性探偵レイミアの依頼人兼恋人だったジョニイの第二人格でした。彼はその能力により、ハイペリオンの巡礼たちの動向を夢に見ることができるのです。
そして、それぞれの目的を果たすために“時間の墓標”を探索する巡礼たちは、出没する魔神シュライクによってひとりひとりが引き離され、それぞれの運命に直面することとなります。「ひとりずつ、ばらばらになって怪物にやられるってのは、ホラー映画の定番じゃないか!」とセルフツッコミを入れる詩人のサイリーナスがいい味を出しています。
一方、銀河連邦は、ハイペリオンに迫る宇宙海賊アウスターに対抗すべく、大規模艦隊を出撃させます。「他のアウスター艦隊は、いずれも連邦惑星への到達には数十年の距離にあり、襲撃を受ける心配はありません」と自信たっぷりに説明する将軍に、“お約束”の展開を予想したら、やっぱりそうなりました(笑)。意外にも(予想通り!)、複数のアウスターが突然出現し、連邦の主要惑星に同時多発攻撃をかけてきたのです。
存亡の危機を迎えた銀河連邦に、<コア>から援助の申し出があり、CEOグラッドストーンは最後の賭けに打って出ます。その背後には、はるかなる遠未来から時を遡って続く宇宙規模の壮大な陰謀と戦いが存在していました。
ともあれ、これだけの壮大なストーリーを少しの破綻もなく纏め上げるシモンズの手腕には感服です(ホラー分野の「サマー・オブ・ナイト」「殺戮のチェス・ゲーム」で証明済みではありましたが)。しかも、壮大なビジョンとは別に、クライマックスでは人間のささやかな思いやりや優しさを優先して描く心配り。「ハイペリオン」でしつこいまでに繰り返し描かれていたレイチェルと父ソルとのやりとりが、こんな形で結実するとは思いませんでした。このシーンだけは涙なくては読めません。しかも、ロマンチシズムと感動を優先させるためにタイム・パラドックスまで無視してしまうという臆面のない確信犯(他ではあらゆる事象をちゃんと理論的に説明しているのですから、こりゃ確信犯に決まりでしょう。「パラドックス委員会」って何よ!(^^;)。
ともかく、こんな素晴らしい作品に出会えたことに感謝です。
シーユー・レイター、アリゲイター!

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.8.7


パルピロンの闘技会 (SF)
(H・G・エーヴェルス&エルンスト・ヴルチェク / ハヤカワ文庫SF 2004)

『ペリー・ローダン・シリーズ』の第302巻です。
実験艦の事故で並行宇宙へ飛ばされてしまったローダン一行は、その宇宙を支配する独裁者ローダン(作中ではアンティポーデ:対蹠人、つまり正反対の考え方をする人物と称されます)に追われながら、助力してくれる勢力を求めて銀河をさまよいます。
この並行宇宙という設定は決して目新しいものではありませんが、こういう大長編の中では甚だ使い勝手がいいと思います。なにしろ、新しい宇宙や世界の設定をしなくてもかなりの期間にわたってストーリーを保たせることができる(笑)。ミステリではありませんが、一人二役、いや二人一役の叙述トリックなども使おうとおもえば使えそうですし。
マンネリを防ぐためにどんな仕掛けが出てくるのか、今後を見守りましょう。

<収録作品と作者>「パルピロンの闘技会」(H・G・エーヴェルス)、「権力の勝利」(エルンスト・ヴルチェク)

オススメ度:☆☆☆

2004.8.8


真・天狼星 ゾディアック(1〜6) (ミステリ)
(栗本 薫 / 講談社文庫 2001)

魔人・シリウスと名探偵・伊集院大介が対決する『天狼星』シリーズの第5作にして現時点での最終・最新作です。
あまりにショッキングで、ある意味露骨なヒキだった
前作「新・天狼星 ヴァンパイア」のラストから、続篇を期待していたわけですが、この「ゾディアック」は「ヴァンパイア」の続篇ではありません。数学的に言えば、「ヴァンパイア」は「ゾディアック」の対偶で真部分集合である、といえばいいでしょうか(笑)。
「ヴァンパイア」では、ニューヨークと東京で発生した連続猟奇殺人(それぞれ「ビッグアップル・ヴァンパイア」、「トーキョー・ヴァンパイア」と呼ばれた)や謎めいたゾディアック・カード、復活したシリウスと殺人鬼・刀根一太郎の脱走などという道具立ては揃っていましたが、それは背景に押しやられており、ミュージカル「炎のポセイドニア」の舞台に抜擢された竜崎晶のサクセス・ストーリーと彼が巻き込まれる東京オペラ座の女優連続殺人の謎解きがメインになっていました。ゾディアック・カードやヴァンパイア事件そのものの謎はすべて未解決のままだったわけで、それが解かれるのが続篇「ゾディアック」なのだろうと思っていたわけです。
ですが、先に述べたように、「ゾディアック」は「ヴァンパイア」と表裏一体をなすと共にそれ全体を飲み込んでしまう構成になっています。「ヴァンパイア」は竜崎晶の個人的視点から描かれていましたが、「ゾディアック」は同じ時系列で発生する同じ事件(+α)を伊集院大介をはじめとする第三者の視点から描いています。もちろん東京オペラ座の事件も描かれますが、こっちは「ヴァンパイア」で既に解決されていますので、意外なほどあっさりと真犯人のネタが明かされます。なので、まずは「ヴァンパイア」を先にお読みになることをお勧めします。
さて、6冊合わせて2000ページにも及ぼうという大作ですが、前半の山場は3巻の後半150ページを費やして描かれる「炎のポセイドニア」のフル・ストーリーでしょう。いくつもの舞台を手がけている栗本さんだけに、そのツボを押さえた描写はその場にいるような迫真性で迫ってきます。悪の王子アデルを演じる晶の姿は、あまりにもあからさまに作品全体のテーマを象徴しているといえます。そこまでやってしまう大胆さに感服。
肝心の「ゾディアック」事件の謎解きは、前振りの割には期待外れな気がしますが、作者が本当に描きたかったのは「ゾディアック」事件の真相ではないということは明らかですから、まあいいのでしょう。他にも大胆な演出が用意されていますが、ネタバレになりますのでここでは自粛。
ちなみにこの『天狼星』シリーズ、すべて講談社文庫から出ております。(「天狼星」「天狼星2」「天狼星3 蝶の墓」「新・天狼星 ヴァンパイア (上・下)」本作)

オススメ度:☆☆☆☆

2004.8.13


仮面荘の怪事件 (ミステリ)
(カーター・ディクスン / 創元推理文庫 2000)

2000年11月の復刊フェアで再版されたものです。初版が1981年ですから、ほぼ20年ぶりに再版されたわけですね。復刊フェア万歳!(笑)
さて、ロンドン郊外の“仮面荘”と呼ばれる邸宅で、大晦日を翌日に控えた雪の晩、奇怪な事件が発生します。深夜、食堂に飾られた名画を盗みに入ったと思われる覆面の男が胸を刺され、瀕死の状態で発見されるのですが、なんと盗人の正体は屋敷の当主でした。
折りしも、屋敷には当主の依頼でスコットランド・ヤードから派遣されたウッド警部が身分を隠して滞在しており、更にいわくありげな滞在客や、当主を取り巻く複雑な家庭環境、この屋敷の昔の持ち主である女優が遺したからくり仕掛け、恋の鞘当と、道具立てには事欠かきません。そして、翌日やって来たヘンリ・メリヴェル卿(H・M)の登場で、屋敷は表向きドタバタ喜劇の様相を帯びます。このあたりはカー名義で書かれた「盲目の理髪師」に雰囲気が似ているかも知れませんね。
作品としては小粒ですが、年越しのパーティでH・Mが奇術師に扮して決定的な証拠をつかむなど、ファンには堪えられない趣向は十分です。トリックも単純で小粒ながらスパイスが効いています。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.14


3001年終局への旅 (SF)
(アーサー・C・クラーク / ハヤカワ文庫SF 2001)

「2001年宇宙の旅」から始まるシリーズ、(物語の中で)1000年後に完結です。
時は3001年、海王星軌道で巨大な氷の塊りを曳航していた宇宙船ゴライアス号は、未知の漂流物を発見、収容します。
なんと、その漂流物は、2001年にディスカバリー号から狂ったコンピューターHAL9000によって宇宙空間に放り出されたフランク・プールでした。冷凍睡眠状態で漂っていたプールはこの時代の医療技術で蘇生させられ、1000年後の世界で生き直すことになります。
物語の前半は、プールが目の当たりにする31世紀の世界や技術が描かれますが、ここはクラークの独壇場。後半は、謎の(?)メッセージを受けたプールが、「2010年」の事件によって1000年に渡って禁断の地になっていたエウロパを訪れたことで事件が勃発するわけですが、この事件の顛末はちょっととってつけた感が否めません。
もしかして続篇狙い?(笑)
なお、本シリーズは以下の通りです(「2001年宇宙の旅」、「2010年宇宙の旅」、
「2061年宇宙の旅」、本書、番外で「失われた宇宙の旅2001」)。いずれもハヤカワ文庫SF。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.15


時計館の殺人 (ミステリ)
(綾辻 行人 / 講談社文庫 1998)

いわく因縁を持つ建物で事件が起こる“館”シリーズの第5作です。
「十角館」、
「水車館」「迷路館」「人形館」に続き、謎の建築家・中村青司が設計した5番目の建物は鎌倉の森にそびえる「時計館」。
亡くなった時計会社の会長が時計の文字盤と振り子を模して建てた「時計館」の中では108個のアンティーク時計が時を刻み、16歳の誕生日を目前に自殺した少女の幽霊が出るとも言われています。
その噂を聞きつけて、オカルト雑誌CHAOSがある企画を立てます。女性霊能者を「時計館」(旧館)に送り込み、幽霊の正体を明らかにしようという趣向。現場に立ち会う編集者のひとり江南は、「十角館」事件の関係者のひとりです。某大学のオカルト研究会のメンバーを含めて「時計館」に閉じこもったメンバーは9人。しかし、最初の夜に女性霊能者が行方不明になったのを皮切りに、仮面を付けた殺人鬼が跳梁、死者が続出します。合鍵が盗まれたため、3日の間は館から出ることもできず、江南らは必死に犯人探しを試みます。その中で明らかになる、10年前の少女の死の謎と学生たちとの関わりとは――。
一方、素人探偵でミステリ作家でもある鹿谷(本名:島田潔、本シリーズの探偵役)は、ひょんなことから、遅刻してきたオカルト研究会のメンバーのひとりと「時計館」にやって来て、管理人の女性から時計館の謎を解いてくれるよう依頼を受けます。もちろん、旧館内部で起こっている惨劇のことは知りません。
こうして、江南らの旧館と鹿谷らのいる新館とが交互に描かれ、謎とサスペンスが深まっていくわけですが、何と言っても小道具としての時計、舞台としての時計塔が大いに雰囲気を盛り上げています。(時計塔といえば「ルパン3世 カリオストロの城」のクライマックスシーンですが、綾辻さん、影響を受けてますかね?)
密室殺人は密室殺人ですが、本シリーズの“お約束”の設定があるので、それはメインではありません。時計といえばアリバイトリックの小道具ですが、これだけ大掛かりで大胆なトリックは類例がないでしょう。
後は読むべし。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.8.17


ブラック・オーク (ホラー)
(チャールズ・グラント / 祥伝社文庫 2001)

『X−ファイル』小説版の作者としても知られるグラントのアクション・ホラー。
本家『X−ファイル』に似通った設定、似通った展開が目立つので、やはり『X−ファイル』を意識しているのかなと思ったのですが、解説を読んで納得。
実はグラントは、作品に対する方針の違いから制作者のC・カーターと対立して『X−ファイル』の仕事を途中降板したのだそうです(だから、角川文庫版「X−ファイル」シリーズは
3作目から作者が替わっているのですね)。そして、自分なりのホラー・シリーズとして書き始めたのが本書『ブラック・オーク』シリーズとのこと。
さて、ブラック・オークというのは主人公プロクターが経営する探偵事務所の名前。通常は普通の事件を手がけているのですが、時たま超常現象にからんだ事件が舞い込むと、プロクターの勘が動き出し、事件の渦中に身を投じることになります。
今回、中西部の小さな町、ハート・ジャンクションで行方不明になった女性の捜索依頼を受けたプロクターは、別の事件のクライアントから助手(兼監視役)として送り込まれた女性ヴィヴィアンと共に現地へと向かいます。オカルト容認派のプロクターとリアリストのヴィヴィアン(この辺、もろにモルダー&スカリーを意識していますな)は、対立しながらも捜査を進め、開拓時代にタイムスリップしたかのような閉鎖的な町をおおう影の謎を解いていきます。謎のカルト集団<モーニング・スター>と、夜空に響く不気味な羽音の関係は――?
ところで本作はシリーズ2作目で、本国アメリカでは続刊が年1冊のペースで出ているそうです。でも、その後、邦訳は出ていませんね(^^;

オススメ度:☆☆☆

2004.8.18


物語の魔の物語 (怪奇・幻想:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 徳間文庫 2001)

テーマを決めて過去の怪奇幻想短編を集めたアンソロジー、『異形ミュージアム』の第2弾です。
今回のテーマは“物語の怪”です。わかりにくいかも知れませんが、作者が物語の中に取り込まれてしまったり、作中の怪異がいつのまにか読者の身に降りかかってきたり、作中作による入れ子構造の趣向とか、叙述トリックとか、いわゆる“メタフィクション”と呼ばれる作品群が含まれます。
代表的な長篇と言えば御大キングの
「ダーク・ハーフ」とか、日本のミステリでは「匣の中の失楽」(竹本健治)とか。短編で印象に残っているのは、昔に読んだフレドリック・ブラウンの「うしろを見るな」(創元推理文庫「真っ白な嘘」所収)だったりします。
あらすじを記すだけでネタが割れてしまうような作品が多いので、個別の紹介は避けますが、女優の岸田今日子さんの作品「セニスィエンタの家」とか、短いけれど鮮烈な「丸窓の女」(三浦 衣良)とか、横溝正史さんの異色作「鈴木と河越の話」(なんと、ある外国有名ホラーと同じネタを半世紀前に使っている!)とか、バラエティに富んでいて楽しめます。

<収録作品と作者>「牛の首」(小松 左京)、「死人茶屋」(堀 晃)、「ある日突然」(赤松 秀昭)、「猟奇者ふたたび」(倉阪 鬼一郎)、「丸窓の女」(三浦 衣良)、「残されていた文字」(井上 雅彦)、「セニスィエンタの家」(岸田 今日子)、「五十間川」(都筑 道夫)、「海賊船長」(田中 文雄)、「鈴木と河越の話」(横溝 正史)、「殺人者さま」(星 新一)、「何度も雪の中に埋めた死体の話」(夢枕 獏)、「海が呑む(I)」(花輪 莞爾)

オススメ度:☆☆☆

2004.8.20


星界の戦旗3 ―家族の食卓― (SF)
(森岡 浩之 / ハヤカワ文庫JA 2001)

スペース・オペラ『星界シリーズ』の第2シリーズ「星界の戦旗」の第3巻。前の「星界の紋章」が3巻で完結だったので、こちらもこれで終りかと思っていましたが、作者あとがきによると、まだまだ続くそうです(物語の一応の区切りは本巻でついていますが)。
さて、主人公ジントは帝国領主として故郷のハイド星系を統治するべく、帝国の宇宙艦<ボークビルシュ>で帰還の途についています。相方(?)の帝国王女ラフィールも同行しますが、惑星マーティン政府は帝国への帰属を頑強に拒んでおり、軌道上の<ボークビルシュ>が攻撃(蚊に刺された程度の被害ですが)を受けます。
一方、新たに編成された帝国の戦闘艦隊<第一蹂躙戦隊>はハイド星系で戦闘演習を行うべく、現場へ向かっていました。艦隊司令はもちろんマーティンの政情など知らず、ジントはやきもきしながら演習の様子を見守りますが・・・。
副題からも想像されますように、今回はシリーズ中でも一番のほのぼの編。とにかく、宇宙戦争SFなのに死人がひとりも出ません(笑)。
現時点で、少なくとも文庫版では続きが出ていないようですが、楽しみに続編を待つことにしましょう。
※追記:2004年12月、ハヤカワ文庫JAから第4巻「軋む時空」が出ました。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.20


岡本綺堂集 (怪奇)
(岡本 綺堂 / ちくま文庫 2001)

『怪奇探偵小説傑作選』としてちくま文庫から連続刊行されたシリーズの第1巻です。
岡本綺堂は明治から大正、昭和初期にかけて活躍した劇作家ですが、探偵小説や時代小説(捕物帳というジャンルの創始者でもあります)でも佳品を遺しています。
また、海外のミステリや怪奇小説にも造詣が深く、彼が編纂・翻訳した『世界怪談名作集』上下巻が河出文庫から復刊されています(これはお勧めですよ)。
さて、本書は綺堂の怪奇短編25篇が収録されています。江戸期や中国の怪異譚や西洋の怪談を元ネタにしているのも多いそうなのですが、見事に換骨奪胎し、リズム感のある文体で極上の怪談噺に仕上げています。
どの話も、怪異を体験した人物かそれを聞き知った人間が語るという怪談噺の王道で、へたに因縁話のように謎解きをせず、謎は謎のままにしてしまうという手法が生きています。
現代のおどろおどろホラーに食傷した方、口直しにどうぞ(笑)。

<収録作品>「青蛙神」、「利根の渡」、「兄妹の魂」、「猿の眼」、「蛇精」、「清水の井」、「窯変」、「蟹」、「一本足の女」、「黄いろい紙」、「笛塚」、「竜馬の池」、「木曾の旅人」、「水鬼」、「鰻に呪われた男」、「蛔虫」、「河鹿」、「麻畑の一夜」、「経帷子の秘密」、「慈悲心鳥」、「鴛鴦鏡」、「月の夜がたり」、「西瓜」、「影を踏まれた女」、「白髪鬼」

オススメ度:☆☆☆☆

2004.8.22


新・SFハンドブック (ガイド)
(ハヤカワ文庫SF 2001)

1990年に同文庫から発刊された「SFハンドブック」の改訂新版。
SFの歴史からジャンル解説、用語集、編集部お勧めの作品紹介、日本人作家による自分のお気に入りベスト5の紹介(ハヤカワ文庫限定なのはご愛嬌)、海外SF賞の受賞作品一覧など、盛り沢山。巻末のハヤカワ文庫SF既刊リストはたいへん役に立ちます。
ちなみに、既刊リストで自分がどのくらい読んでいるか調べてみると、こんな結果になりました。
 読了済み:716冊
 同じものを他社本で読了済み:25冊(創元、サンリオなど)
 入手済み未読:206冊
 未入手:419冊
これを見て、「ずいぶん読んでるな」と思うか「まだこんなに読んでないのがあるのか」と思うかは気分次第(笑)。
SFに興味があって、これからいろいろ読んでみたいという人には格好の入門書、ベテランには自分の読書遍歴を再確認する手がかりになると思います。

参考までに、自分のSFベスト5(ハヤカワ文庫限定)を挙げると、こうなります。
 ・
ハイペリオン(ダン・シモンズ)
 ・夏への扉(ロバート・A・ハインライン)
 ・知性化戦争(デイヴィッド・ブリン)
 ・飛翔せよ、閃光の虚空へ!(キャサリン・アサロ)
 ・竜の夜明け(アン・マキャフリイ)
ついでに創元版限定では・・・
 ・サンティアゴ(マイク・レズニック)
 ・創世記機械(ジェイムズ・P・ホーガン)
 ・自由軌道(ロイス・マクマスター・ビジョルド)
 ・歌う船(アン・マキャフリイ)
 ・アースライズ(マイクル・P・キュービー=マクダウェル)
(太字は、さらにベスト5を絞り込んだ場合)

オススメ度:☆☆☆☆

2004.8.23


聖少女バフィー (ホラー)
(リッチー・タンカスレイ・クジック / ハヤカワ文庫FT 2001)

アメリカの人気テレビドラマ(日本でもスカパー等で放映されたそうです)をノヴェライズした、美少女ヒロイン青春学園ホラー――というとベタですが、まさにそんな感じです。
カリフォルニア州サニーデイル高校に転校してきた少女バフィー。前にいた学校で体育館を全焼させたという前科(?)のある彼女は、実は世にはびこる魔性の者を退治する役割を課された“選ばれし者”、ヴァンパイア・スレイヤーでした。
転校を機に平穏な生活を願うバフィーですが、学校のロッカーからは血を吸い尽くされた少年の死体が発見され、エンジェルと名乗る男はバフィーに謎めいた言葉を残します。
司書のジャイルズ、パソコン少女のウィローらと町の歴史を調べていくうちに、過去に謎めいた殺人事件が頻発していることが判明、闇の胎動に否応無しに巻き込まれていくことになります。
“普通の女の子”でいたいのに戦わざるを得ないバフィー(時々ボケもかましますが強いです)、敵か味方かわからない謎の男エンジェル、おとなしいけれど賢いウィロー、お調子者で気のいい少年ザンダー、高飛車な令嬢コーデリアなど、キャラクターもいかにもありがちなのですが、テンポが早く、けっこう楽しめます。挿絵がいかにもなアニメ顔なのも影響しているのかも知れません(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.24


竜王戴冠1 ―選ばれし者たち― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2001)

『時の車輪』、第5シリーズの開幕です。こちらも全8巻の長丁場。
前シリーズ「竜魔大戦」(という割には大戦なんてなかったような・・・)で世界各地に散ったメンバーのうち、この巻で出てくるのはアイール荒地に落ち着いたアル=ソアらと、異能者の本拠地である“白い塔”を追放されたシウアン・サンチェの御一行。更に伏線なのでしょう、アンドール王国での幕間劇も描かれます。
“白い塔”の奪回を誓ってゼロからスタートするシウアンと心ならずも付き従うミン、何を企むのか同行する偽の竜王ロゲイン。そして前巻のラストで闇セダーイと盟約を交わしたアル=ソアは光と闇の狭間(更に女性たちの狭間)で葛藤します・・・けど、感情移入できないんですよね(^^;
陰があり、苦悩するヒーローが人間的でいい、という意見が多いようですけれど、脇役ならともかく、主人公は暗すぎない(能天気ならいいというものでもありません)方がいいなあ(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.25


スタンド・バイ・ミー (ホラー)
(スティーヴン・キング / 新潮文庫 1999)

映画にもなった、キング初期の小説を収めた中篇集「恐怖の四季」の後半『秋冬編』です(前半『春夏編』は「ゴールデン・ボーイ」)。ちなみに「スタンド・バイ・ミー」は映画のタイトルで、原題は“The Body”(死体)という身も蓋もないもの。
かなり昔の作品(新潮文庫版の初版は1987年)なのに、これまで読んでいなかったのは、「これはホラーではなく、キングの普通小説だ」と聞いていたからです。だから後回しにしていたというわけで。同じような理由から「アトランティスのこころ」もまだ買っていません(^^;
でも、読んでみるとやっぱりキングです。舞台はキング作品でおなじみのキャッスル・ロック。そこで夏休みを過ごす12歳の少年4人が、森の奥に行方不明の少年の死体があるという噂を聞きつけて、それを見に行くという2日間の小さな冒険行が描かれます。4人は少年ながらそれぞれに悩みやトラウマを抱えており、時には反目したり時には助け合ったりしながら、目的地に向かいます。メンバーのひとり、ゴーディが成長して作家になり、その時のことを回想するという設定で書かれていますが、これは実際にキング本人と重なり合う部分があるとのことです。作中作として収録されているふたつの短編も(実際、あまりいい出来ではありません)キングが実際に習作として書いたものだそうです。
少年たちの夏の日の冒険が苦く、楽しく、生き生きと描かれており、この少年たちのドラマの延長線上にあの「IT」があることは間違いないでしょう。
本書には、もう1篇「マンハッタンの奇譚クラブ」という短編が収められています。
マンハッタンの一角にある静かなクラブで、会員が奇妙な話を順番に語るというダーク・ファンタジー風味の作品なのですが、メインとなる、マッキャロン医師が語るエピソードは、すべてのキング作品の中で、いちばん怖いです。夢に見そう。

<収録作品>「スタンド・バイ・ミー」、「マンハッタンの奇譚クラブ」

オススメ度:☆☆☆☆

2004.8.26


地を継ぐ者 (SF)
(ブライアン・ステイブルフォード / ハヤカワ文庫SF 2001)

この作者ステイブルフォードは、たいへん懐かしい名前です。
かつて(70年代後半〜80年代前半)サンリオSF文庫で、彼の作品がたくさん刊行されていました。『宇宙飛行士グレンジャー』シリーズは、そのうち読もうと思っているうちに書店から姿を消してしまい(復刊しませんか、早川さん? 創元さんでも可)、『タルタロスの世界』三部作も第3巻の「無限の煌き」が未読。でも『タルタロスの世界』を読んだ限りでは、重厚でコクのある、そしてちょっと暗い(笑)作風でした。
さて、20年ぶりに邦訳されたステイブルフォードのこの作品も、テーマは重いです。
舞台は22世紀。21世紀に世界を襲った疫病で人類全体が不妊症になり、人類の存続は危ぶまれましたが、科学者コンラッド・ヘリアーが開発した人工子宮のおかげで、バースコントロールも確実となり人口問題は解決されています。また、ナノテクの進歩で肉体的な老化を阻止し病気やけがを迅速に回復させられるようになり、平均寿命も150歳近くに延びています。そして、人類の夢である不老不死すら、近い将来に実現されるだろうと期待されています。
そんな中、テロ集団“エリミネーター”は、既に死んでいるはずのヘリアーが実はまだ生きており、人類の敵であると名指しして活動を開始しました。ヘリアーの息子デーモンは、父の遺産や血筋、名誉に背を向け、VE(仮想環境)デザイナーとして独力で生活していましたが、否応なく陰謀の渦中に巻き込まれていきます。
父の協力者だった科学者らは、実際には何をやったのか? ナノテクを独占する巨大企業は、本当は不老不死の技術を既に確立し、それを隠蔽しているのではないのか? そして、父ヘリアーは本当に死んだのか?
仮想現実が現実以上のリアリティを持ち、目に入るすべてが信用できない社会で、デーモンは何を見出すのか・・・。
舞台設定のスケールは大きいはずなのに、なぜか地味に感じるのは、やはり淡々と抑えた筆致で語られるからなのでしょうか。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.28


死霊の王 (ホラー)
(クリストファー・ゴールデン&ナンシー・ホールダー / ハヤカワ文庫FT 2001)

「聖少女バフィー」に続く『ヴァンパイア・スレイヤー』シリーズの第2弾。
著者も変わり、今回はテレビ番組のノヴェライズではなく、小説版オリジナルのストーリーだそうです。
前作の事件以降、魔性のものたちの動きは影を潜め、バフィーの夜毎のパトロールも空振りに終っています。しかし、“スレイヤー”を助けて助言を与える“ウォッチャー”のジャイルズが古の伝説を調べたところ、ハロウィーンの晩に強大な死霊の王がよみがえるという記述が見つかります。半信半疑のままハロウィーン・パーティに出かけるバフィーと友人たち。案の定、パーティ会場にはヴァンパイアの群れが入り込んでいました。しかし、墓地ではさらに怖ろしい事態が・・・。
17世紀にバフィーと同じような“スレイヤー”を倒した、ケルトの昔から息づく恐るべき魔王という前ふりはいいのですが、後半のストーリーはありきたりの二流アクション・ホラーの域を出ません。パーティでバフィーの級友ザンダーとウィローがモルダー&スカリーの仮装をしているのはご愛嬌としても、肝心のバフィーの行動にキレがなく、“死霊の王”も期待外れ。そりゃ●●●ャ●●じゃあ迫力に欠けますわね。ジャイルズをアクションに巻き込んでしまっているのも、役割分担を逸脱していて、あまりいい印象を与えません。
以降、続篇は出ていないようです。

オススメ度:☆☆

2004.8.29


屍食回廊 (ホラー)
(朝松 健 / ハルキ文庫 2000)

西洋魔術に関しては日本の第一人者である朝松 健さんの本格オカルト・ホラー。
実はこの「屍食回廊」は、同じ世界設定で、オカルト記者の田外竜介を主人公としたシリーズの第3作なのです。知らなかった(^^; 第1作「凶獣幻野」、第2作「天外魔艦」もいずれ登場(いつになることか・・・)。
時代は現代ですが、自衛隊内部に「民族遺産監理室」なる魔術を信奉する秘密結社が存在しており、黒魔術を使って日本を霊的に支配しようと画策しています。まさに平成版「帝都物語」という感じですね。
首都圏では行方不明になるアベックが続出し、小銃を手にした自衛隊員が闊歩しています。その謎の中心には“洗礼者ヨハネ派”の教会と、第二次大戦中に建設された地下壕がありました。夜な夜な聞こえる不気味な声、戦時中に隠された高射砲を発掘しようとする老人(元砲兵隊員たち)・・・それらを取材する田外は美女の留美子と出会い、事件の渦中に巻き込まれていきます(実はまあ、1巻、2巻でも同じような事件に遭遇しているので、本人はあまり驚きはしません。「ああ、またかよ」って感じ)。 黒魔術を駆使する秘密教団の幹部は、太古から息づく大悪魔を召喚するわけですが、それに対抗する兵器が●●●だというのは最高でした。
一歩間違えれば荒唐無稽なアクション・ホラーに終ってしまいそうなのに、膨大な背景知識に裏打ちされた説得力のあるきめ細かな描写が積み重ねられているためでしょう。フィクションとしてのリアリティにあふれた佳作と言えます。

オススメ度:☆☆☆

2004.8.30


人獣怪婚 (怪奇:アンソロジー)
(七北 数人:編 / ちくま文庫 2000)

先日ご紹介した“猟奇文学館”の残りの第2巻です。(1巻「監禁淫楽」3巻「人肉嗜食」
今回はタイトルの通り、人と人ならざるものとの交婚にまつわる怪異・幻想を描いた短編が集められています。
怪奇小説の世界でなくとも、このテーマは神話やおとぎ話の中に沢山見られますよね。「鶴女房」とか「信太狐」とか、童話の「人魚姫」もそうですし、SFの世界になると異星人と××なんてのは「恋人たち」(フィリップ・ホセ・ファーマー)以来いろいろと書かれています。
この本にも、リリカルで幻想的なものからそのものずばりのエログロな作品まで、バラエティに富んだものが収められています(一部18禁)。お相手(?)も豚や狸といった獣類からインコ、鶴、ヘビ、魚、昆虫、エイリアンまでいろいろ(いったいどうやって・・・? というのは読んでのお楽しみかも)。

<収録作品と作者>「透明魚」(阿刀田 高)、「幻鯨」(赤江 瀑)、「わがパキーネ」(眉村 卓)、「鱗の休暇」(岩川 隆)、「白い少女」(村田 基)、「美女と赤蟻」(香山 滋)、「心中狸」(宇能 鴻一郎)、「獏園」(澁澤 龍彦)、「ゆめ」(中 勘助)、「鶴」(椿 實)、「青い鳥のエレジー」(勝目 梓)、「獣舎のスキャット」(皆川 博子)

オススメ度:☆☆

2004.8.31


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