寶刀歌

漢家宮闕斜陽裏,
五千餘年古國死。
一睡沈沈數百年,
大家不識做奴恥。
憶昔我祖名軒轅,
發祥根據在崑崙。
闢地黄河及長江,
大刀霍霍定中原。
痛哭梅山可奈何?
帝城荊棘埋銅駝
幾番囘首京華望,
亡國悲歌涙涕多。
北上聯軍八國衆,
把我江山又贈送。
白鬼西來做警鐘,
漢人驚破奴才夢。
主人贈我金錯刀
我今得此心英豪。
赤鐵主義當今日,
百萬頭顱等一毛。
沐日浴月百寶光,
輕生七尺何昂藏?
誓將死裏求生路,
世界和平賴武裝。
不觀荊軻作秦客,
圖窮匕首見盈尺。
殿前一撃雖不中,
已奪專制魔王魄。
我欲隻手援祖國,
奴種流傳禹域。
心死人人奈爾何?
援筆作此《寶刀歌》,
寶刀之歌壯肝膽。
死國靈魂喚起多,
寶刀侠骨孰與儔?
平生了了舊恩仇,
莫嫌尺鐵非英物。
救國奇功爾收,
願從茲以天地爲鑪、
陰陽爲炭兮,
鐵聚六洲。
鑄造出千柄萬柄刀兮,
澄淸神州。
上繼我祖黄帝赫赫之成名兮,
一洗數千數百年國史之奇羞!

******

寳刀歌
           けつ         うち
漢家の宮闕 斜陽の裏,

五千餘年の 古國 死す。

一睡 沈沈として 數百年,
 みな    し       やっこ  な
大家は識らず 奴と做るの恥。
         おや       けんゑん
憶へ昔 我が祖 名は軒轅,

發祥の根據は 崑崙に在り。

地を闢く 黄河及び 長江,
      くゎく くゎく
大刀 霍霍として 中原を定む。
                       いか
梅山を痛哭するを 奈何にすべき?

帝城の荊棘 銅駝を埋めたり。

幾番か首を回らして 京華を望めば,

亡国の悲歌 涙涕 多し。

北上せる聯軍 八國の衆に,

我が江山を 又も贈送す。

白鬼 西より來りて 警鐘を做し,

漢人 驚破す 奴才の夢。

主人 我に贈る 金錯刀,
                          たけだけ
我 今 此を得て 心 英豪し。

赤鐵主義にて 今日に當れば,

百萬の頭顱も 一毛に等し。

日に沐し 月に浴せば 百寳 光き,
                              たかぶら
生を輕んずるの七尺 何ぞ昂藏ん?

誓って 死裏に 生路を求め,

世界の和平は 武裝に賴る。

觀ずや荊軻を 秦客と作り,
               あらは
圖 窮って匕首 盈尺に見る。
               あた
殿前の一撃 中らずと雖も,   
すで
已に奪ふ 專制 魔王の魄。
     ひとり
我 隻手にて 祖國を援けんと欲すれど,
                          あまね
奴種 流れ傳はり 禹域にし。

心 死せる人人 爾を奈何せん?

筆を援り 此を作る 《寳刀歌》,

寳刀の歌 肝膽に 壯たり。

死國の靈魂 喚起 多く,

寶刀侠骨 孰與(いづれ)ぞ儔なる?

平生 了了たり 舊き恩仇を,

嫌ふ莫れ 尺鐵の英物に非ざると。

救國の奇功 爾に賴って收めんとせば,
         ここ よ
願はくは茲從り 天地を以って鑪と爲し、

陰陽は 炭と爲し,

鐵は 六洲より聚む。
  つく
鑄造り 出す 千柄・萬柄の刀にて,
         きよ
神州を澄清めん。
              おや          かくかく
上より 我が祖 黄帝 赫赫の成名をうけ繼ぎ,
   すす
一洗ぎす 數千數百年 國史の奇羞を!


      **********
私感注釈


※寶刀歌:この詩の雰囲気は、陸游の「金錯刀行」に似ているとも感じられる。
※漢家:本来の意味は漢代の皇室。この場合は、漢民族を指す。なお、中唐の詩人白居易の長恨歌では 「漢皇」 「漢家天子」とあるが、これは、李家、唐朝と、はっきり言うのを遠慮したためのもの。
※宮闕:王宮の城門。「漢家宮闕」で、漢の王城の城門。ここでは漢民族の国家の比喩。
※斜陽:夕日、転じて、衰えていくさまをいう。
※五千餘年古國:「中国四千年の歴史」といわれる中華を指す。なお、中国人は「中華五千年的歴史」といっている。
※一睡沈沈數百年:明朝(漢民族の王朝)滅亡以後の満洲民族による清朝の時期を指している。
満州民族
※大家:(現代語)みんな。
※奴:やっこ。身分の低い使役される下僕。
※軒轅:黄帝のこと。伝説中の帝王(皇帝)・三皇五帝の一。軒轅の丘に生まれたことによってこうとも呼ばれる。中華文明黎明期の皇帝。
※發祥根據:生まれ育った場所。
※崑崙:中国西方の霊山。黄河の発する所との伝説がある。(爾雅、説文、史記)ここでは、中華、中国の意味で使われている。
※闢地:土地を開く。開墾する。
※霍霍:刀剣がきらめくさま。
※中原:黄河の中流から下流にかけての平原で、かつての周の勢力圏。現在の河南省、山東省西部と河北省、 山西省の南部一帯を指す。「中原逐鹿」とは中原に覇を争うこと、「鹿」は帝位。つまり、天下争覇をいう。
※梅山:揚州梅花嶺をいう。山上に明末の義烈の士、史可法の衣冠塚がある。史可法は、清に捕らえられたが、屈せずして死す至忠の人。或いは明の末代皇帝である崇禎帝(毅宗)が首をつって自殺した煤山(=万歳山。梅はmei2で、煤も全く同様の発音のmei2)を指すか。但し、この場合の相手は清ではなく漢人である李自成となるところに無理があろう。
※可奈何:いかにすべき。「奈何」は「いかん」。垓下歌にも「騅不逝兮可奈何」(騅の逝かざるを 奈何すべき)がある。
※帝城:宮城、みやこ。
※荊棘:イバラとトゲ。
※銅駝:宮中にある銅製の駱駝の飾り。転じて宮廷。宮城。
※荊棘埋銅駝:宮城がイバラや雑草で埋もれる。転じて家国の荒廃、亡国の状をいう。即ち 「銅駝荊棘」。晋の索靖の亡国の嘆の故事「銅駝在荊棘」からきている。これと同じ表現は「日人石井君索和即用原韻(漫云女子不英雄)」にもある。
※幾番:何回。
※京華:みやこ。
※涙涕:なみだ。
※聯軍八國衆:八國聯軍=八ヶ国連合軍。「扶淸滅洋」を主張する義和団事件に伴い、 清朝は列強に対し宣戦の上諭を発した。列強八ヶ国は連合軍を組織し、北京を始め、華北の要所を占領した。 この八ヶ国連合軍をいう。最近(’99年、香港返還に関わって)よく「八国聯軍」の言葉を聞く。
※把:(白話)。「…を」「…をもってして、××してしまう」というときの「を」。 文言、書面語で「將+名詞」の場合の「將」に当たる。「以」にも近い。
※江山:山と川。ただし、「(我が祖国の)山河」というニュアンスがある。
※又:またもや。またも(その上に)。「亦」(…も また)とは別義。
※贈送:現代語。贈る、プレゼントする。
※白鬼:白色人種を罵っていうことば。「××鬼(子)」とよくいうが、この「鬼」は「悪い(奴)」等、罵る以上に憎悪の意を込めた言葉。(「紅小鬼」や「鬼頭」という用法もあるが……)
※奴才:下郎、下僕。この場合、覚醒していない漢民族の人々を指している。
※金錯刀:黄金の象眼を施した刀。古来、天子は夷狄を征伐する将軍に対して節刀を下賜した。それをいうか。貫休の『秋夜曲』の「蛄切切風騷騷,芙蓉噴香蟾蜍高。孤燈耿耿征婦勞,更深撲落金錯刀。」や陸游の詩『金錯刀行』に「黄金錯刀白玉裝,夜穿窗扉出光芒。」とあり、おそらく本来の意味で使われている。杜甫には「金錯刀,擢擢朱絲蠅」とある。この金錯刀、注意しなければならないのは、金の錯刀(錯刀はお金)だと意味が変わってくる場合がある。
なお、馮延己などの作品で、「金錯刀」という詞牌があるが、関係がない。
※英豪:英雄と豪傑。秀でて雄々しいさま。
※赤鐵主義:暴力闘争主義。「赤」は「血」、「鉄」は「武器」。「赤鐵」は「鉄血」にやや近い。
※頭顱:されこうべ
※一毛:極めて軽いことの喩え。
※七尺:成人の身長。つまり、「一人前の人」。
※昂藏:意気が揚がる。たかぶる。
※誓將:「(以下のことを)誓う。」「誓って……」
※死裏求生路:死中に活路を求める。
※和平:これは現代語。平和。日本語で使う「和平」は、”和睦”が対応するだろう。
※荊軻:秦の刺客。秦始皇帝を暗殺せんとしたが露見、果たせず。「風蕭蕭兮易水寒,壮士一去兮不復還。」(風 蕭蕭として 易水 寒く ,壮士 一たび去りて 復た還らず。)は、日中共に人口に膾炙している。なお「不復…」は「二度と再び還ってこない」の意味。「復不…」であれば、「またもや還ってこない」となる。(荊軻については、ここをクリック。)
※秦客:出典を別とすれば、秦から来た人だが、ここは秦へ行った人・荊軻を指す。
圖窮匕首見:地図をまるめて匕首を隠していたが、開くにつれて、隠していた匕首が顕れてきたことをいう。現代語の成語のようになっている。なお、陶淵明の詩「詠荊軻」に「圖窮事自至」というくだりがある。「史記卷八十六・刺客列傳第二十六」に「於是太子豫求
天下之利匕首,得趙人徐夫人匕首」というのがその匕首。「史記」の上記の部分から10行ほど進んだ所に「遂至秦,持千金之資幣物,…秦王聞之,大喜,乃朝服,設九賓……荊軻奉樊於期頭函,而秦舞陽奉地圖,……秦王謂軻曰:『取舞陽所持地圖。』軻既取圖奏之,秦王發圖,圖窮而匕首見。因左手把秦王之袖,而右手持匕首=(zhen4:刀で刺す)之。未至身,秦王驚,自引而起,袖絶。拔劍,劍長,操其室。時惶急,劍堅,故不可立拔。荊軻逐秦王,秦王環柱而走。群臣皆愕,卒起不意,盡失其度。」というくだりがある。
※見:あらわれる。「見」(見える、会う)の現代北京語音は、普通「jian4」だが、ここような「あらわれる」という用法の場合「xian4」となる。
※盈尺:身近。少しの距離。
※中:(動詞)あたる。zhong4:「中毒」=(毒に中(あた)る)の意のときの用法。「なか」zhong1ではない。
殿前一撃雖不中:これも「史記」にある「史記」前述部の少し後に「荊軻廢,乃引其匕首以(zhi4;≒擲なげる)秦王,
不中,中桐柱。」を指す。
※魔王:この場合、秦王・秦の始皇帝を指す。
※已奪專制魔王魄:前期「史記・刺客列傳」の紫色の部分を指している。
※隻手:独力で。第一義的には、「片手」「、一本の手」であり、更に「独力で」がある。「(我)欲+」の後に来るものは名詞のような性質の語では都合が悪い。やはり「独力で、ひとりで」などがいい。
※奴種:下僕根性。
:あまねし。遍と同義の異体字。
※禹域:中国の名称。禹は堯、舜、に次いで王となった人物で、洪水を治めて九州(全中国国土)のただしたことに基づくいい方。
※人人:現代語の口頭語では、だれも、みんなの意。
※爾:なんぢ。あなたの意。
※奈爾何:爾(なんぢ)を奈何んせん。「奈何」の間に代詞「爾」が入るのは、古漢語語法の特色。
※死國:国のために死ぬこと。殉国(史記、清・呉偉業の詩)。最近の日本映画のタイトルのような意味ではない。
※侠骨:男気。
※孰與:どちらのほうが…か。いづれぞ。比較を問う。
※儔:ともがら。同志。
※了了:(詞語)(白話)はっきりしている。
※恩仇:敵、あだ。恩の方の意味は無い。「興亡」等と同じで片方の意味しかない。また、恩仇。敵と味方。恩と仇。 なお、現代中国では、「讐」字を「仇」と表すが、ここは、元々、「恩讐」ではなくて、「恩仇」のところ。
※舊恩仇:昔からの恨み。昔からの仇。
※尺鐵:刀剣などの短い武器。
※英物:優れた代物。
※兮:リズム・語調を整えるための置き字。取り立てて訳せない。上代詩に多い。
※賴爾收:武力に依って収める。「爾」はなんぢ、あなた、の意だが、ここでは刀剣に象徴される武器を指す。
※鐵聚六洲:六州鐵:「合六州四十三縣鐵,不能爲此錯也!」(「資治通鑑巻二百六十五・唐紀八十一・昭宣光帝天祐三年」 )。後、「六州鐵」という。なお、数字の具体的な内容は、資治通鑑の上掲ページによれば魏州の十四県。博州の六県。相州の六県。衛州の五県。貝州の八県。[さんずいに亶]州の四県になっている。
※神州:中国を指す。
※黄帝:前述の軒轅のこと。伝説中の皇帝・三皇五帝の一。中華文明黎明期の皇帝。
※赫赫:威勢の良いさま。
※成名:立派な名。
※一洗:すっかり洗う。さっぱりと洗いすすぐ。
※奇羞:おかしな恥辱。「上繼我祖黄帝赫赫之成名兮,一洗數千數百年國史之奇羞!」の表現は、『楚辭』にある『離騒』の末尾と似ているが、その慷慨を意識したのではなかろうか。

1999.10.28
     10.29
     10.30
     10.31
     11. 1
     11. 5
     11. 6
     11. 7
     11. 9
     11.15
     11.19
     11.20
     11.22
(2000.1.26
      1.29完
      2.22補
      4. 9
      5.15
      9.11
     12.27
2001. 1.10
      2.27
      3. 5
      5.31
     10.10
     10.11
2002. 1. 7
      4.27
2003. 1.17
      3. 8BMLQ
2005. 6. 5
2009.11. 8




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