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處世若大夢,
胡爲勞其生。
所以終日醉,
頽然臥前楹。
覺來盼庭前,
一鳥花間鳴。
借問此何時,
春風語流鶯。
感之欲歎息,
對酒還自傾。
浩歌待明月,
曲盡已忘情。
春日 醉(ゑ)ひより起きて 志を言ふ
世に 處(を)るは 大夢の若(ごと)く,
胡爲(なんすれ)ぞ 其の生を勞する。
所以(ゆゑ)に 終日 醉ひ,
頽然として 前楹に 臥す。
覺め來りて 庭前を 盼(なが)むれば,
一鳥 花間に 鳴く。
借問す 此(こ)れ 何(いづ)れの時ぞ,
春風に 流鶯 語る。
之(これ)に感じて 歎息せんと 欲し,
酒に對して 還(ま)た 自ら傾く。
浩歌して 明月を 待つに,
曲 盡きて 已(すで)に 情を忘る。
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『古文眞寶』
◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたのに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※春日醉起言志:春の日に、酔いより起きて思いを言う。 ・春日:春。春の日。春の昼。 ・醉起:酔いより起きる。酔っぱらって。 ・言志:思いを言う。
※處世若大夢:世の中を生きてゆくことは、大いなる夢のようである。 ・處世:〔しょせい;chu3shi4●●〕世の中を生きてゆくこと。世間で暮らしを立てること。世の中で生活をしてゆくこと。「處」は動詞。上声。 ・若:…のようである。ごとし。≒如。 ・大夢:大いなる夢。夢のまた夢。『莊子・齊物論』「夢飮酒者,旦而哭泣。夢哭泣者,旦而田獵。方其夢也,不知其夢也。夢之中又占其夢焉,覺而後知其夢也。且有大覺而後知此其大夢也。而愚者自以爲覺,竊竊然知之。君乎,牧乎,固哉。丘也與女,皆夢也。予謂女夢,亦夢也。是其言也,其名爲弔詭。萬世之後而一遇大聖,知其解者,是旦暮遇之也。」に因る。
『莊子』
※胡爲勞其生:どうして、生きていくことに気苦労するのか。 ・胡爲:〔こゐ;hu1wei2○○〕どうして…なのか。なんすれぞ…(や)。 ・勞:気苦労をする。骨を折る。苦労する。労する。 ・其生:その人生。
※所以終日醉:それゆえ、朝から晩まで、酔っているのだ。 ・所以:〔しょい;suo3yi3●●〕そうだから。それゆえ。だから。 ・終日:朝から晩まで。昼間ずっと。一日中。
※頽然臥前楹:酔いつぶれれて、前のまるい柱のところで横になってしまった。 ・頽然:〔たいぜん;tui2ran2○○〕酔いつぶれるさま。くずれるさま。 ・臥:〔ぐゎ;wo4●〕ねる。よこたわる。ふす。 ・前楹:〔ぜんえい;qian2ying2○○〕前の柱。 ・楹:〔えい;ying2○〕まるい柱。
※覺來庭前:目覚めて庭先を眺めると。 ・覺來:目覚めてきて。 ・覺:目覚める。 ・−來:…てくる。動詞の後に附き、動作の趨勢を表す。 ・:〔はん;pan4●〕望む。眺める。希望する。美人が目を動かす。めづかいする。目許が美しい。ここでは、前者の意。 ・庭前:庭先。
※一鳥花間鳴:ある一羽の鳥が花の咲き乱れている中で鳴いている。 ・一鳥:一羽の鳥。とある鳥。 ・花間:花の咲き乱れているところ。花の咲いている中に。
※借問此何時:お訊ねするが、これ(今)は一体どのような時なのか! ・借問:お訊ねするが…。 ・此:これ。 ・何時:「此何時」は感嘆の表現である。宋・蘇軾の『水調歌頭』「明月幾時有?把酒問天。不知天上宮闕,今夕是何年。我欲乘風歸去,又恐瓊樓玉宇,高處不勝寒。起舞弄C影,何似在人間! 轉朱閣,低綺戸,照無眠。不應有恨, 何事長向別時圓?人有悲歡離合,月有陰晴圓缺,此事古難全。但願人長久,千里共嬋娟。」 「戴叔倫の詩『二靈寺守歳』「守歳山房迥絶縁,燈光香共蕭然。無人更獻椒花頌,有客同參柏子禪。 已悟化城非樂界,不知今夕是何年。憂心悄悄渾忘寐,坐待扶桑日麗天。」呂巖の『憶江南』「…沈醉處,縹渺玉京山。唱徹歩虚C燕罷,不知今夕是何年。海水又桑田。」や、張孝祥の『念奴嬌』過洞庭「洞庭青草,近中秋、更無一點風色。玉鑑瓊田三萬頃,著我扁舟一葉。素月分輝,明河共影,表裏倶澄K。悠然心會,妙處難與君説。應念嶺海經年,孤光自照,肝肺皆冰雪。短髮蕭騷襟袖冷,穩泛滄浪空闊。盡吸西江,細斟北斗,萬象爲賓客。扣舷獨笑,不知今夕何夕。」 に同じ。
※春風語流鶯:春風に、木から木へと飛び移って鳴くウグイスは囀(さえず)っている。 ・語:かたる。さえずる。ここでは、(小鳥が)さえずる意で、使われている。「花間鶯語」は婉約詞 の常套表現。 ・流鶯:〔りうあう;liu2ying1○○〕木から木へと飛び移って鳴くウグイス。また、鳴き声が流麗である。 ・流:〔りう;liu2○〕あちこちと移る。劉言史『尋花』「遊春未足春將度,訪紫尋紅少在家。借問流鶯與飛蝶,更知何處有幽花。」でも「飛蝶」とともに使い、「飛び移る…」の意で使われている。
※感之欲歎息:この情景に感動して。 ・感:「花間流鶯」の春光に感じる。 ・之:これ。「花間流鶯」の春光。軽くリズムをとる働きもある。 ・欲:…しようとする。 ・歎息:〔たんそく;tan4xi1●●〕たいへん感心する。讃える。褒める。歎く。歎いて、溜息(ためいき)をつく。非常に歎く。ここでは、前者の意。 ・歎:〔たん;tan4●〕歌声に合わせて唱える。讃える。褒める。たいへん感心する。歎く。
※對酒還自傾:酒器に向かって、また、杯を重ねてしまった。 ・對酒:酒に向かって。酒を前にして。酒に対して。ここでの「酒」とは「酒壷、酒樽」のことになろう。 ・還:なお。なおもまた。 ・自傾:自分で傾ける。 *ここでの「傾」は「杯を傾ける」ことになるのか、「酒壷を傾ける」ことになるのか。
※浩歌待明月:大きな声で歌って、明るく澄みわたった月を待っていたが。 ・浩歌:〔かうか;hao4ge1●○〕大きな声でのびやかに歌う。 ・明月:澄みわたった月。
※曲盡已忘情:音曲が終われば、とっくに気持ちを忘れてしまっていた。夢の中のように…。 ・曲盡:音曲が終わる。 ・已:とっくに。すでに。後世、北宋・梅堯臣は『目昏』で「我目忽病昏,白晝若逢霧。窺驚隻物雙,書輒下筆誤。來人髣髴是,飛鳥朦朧度。紜紜孰辨別,此已忘好惡。」とする。 ・忘情:気持ちを忘れてしまう。 *邪推になるが、日本人の呑兵衛の感覚では、酔いつぶれてしまったという感じがないではないが…。「春日醉起言志」という次第が、「所以終日醉」「頽然臥前楹」という状態になっていた。更に「感之欲歎息,對酒還自傾」という訳である。明月が出る頃には、すっかりと出来上がってしまい、「曲盡已忘情」となってしまったのだろう。「流鶯與飛蝶」が李白なのか、李白が「流鶯與飛蝶」なのか。酩酊一如の境地なのだろう。「覺而後知其夢也。且有大覺而後知此其大夢也」。すなわち「春日醉起言志」になる。 ・情:おもむき。あじわい。心。感情。なさけ。
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◎ 構成について
韻式は「AAAAAA」。韻脚は「生楹鳴鶯傾情」で、平水韻下平八庚(鳴生鶯情傾)。次の平仄はこの作品のもの。「處世若大夢,胡爲勞其生」は「●●●●●,○○○○○」となっており、おもしろい。
●●●●●,
○○○○○。(韻)
●●○●●,
○○●○○。(韻)
●○●○○,
●●○○○。(韻)
●●●○○,
○○●○○。(韻)
●○●●●,
●●○●○。(韻)
●○●○●,
●●●●○。(韻)
2005.7.18 7.19 7.20 7.21 2009.4. 2版 2015.2.22 |
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